ENG@GE ; GOD SPEED.
願う者、闘う者
魂を持たない機巧。けれど、そこには確かに自我と呼べるものがある。
アインスは笑顔を崩さず、城の残骸の上に座っている。23基の砲塔を天に突き出した亡骸の玉座に座る人類の天敵はゆっくりと腰を上げて玉座に立った。
〈それは、できない/speak〉
彼は笑顔がそう告げた。左手で砲塔の一つをパージさせ、こちらに向かって構える。
「……どうして」
《code-K@REHA》を防御形態で構える。
〈だって、人類は僕らがこうやって多くの損害を、犠牲を与えてもなお、互いに殺し合い、傷つけあい、憎しみ合っている。そんな君たち人類が僕らと手を結び、ともに存在し続けるなんて出来やしない。僕らは君たちと闘い、傷つけ合うことで君たちを知り、自ら学習し、一つの種として君たちに追いついき、そして、追い越した/talk〉
「そして、追い越した先に見たのが、人類の醜さだったとでも?」
〈いや、そういうレヴェルじゃあない。そもそも人類は生物として高い知能を獲得し、その結果、『ココロ』と呼ばれる概念を手にした。そして、同時に種としての不完全性を増大させた。進化や変異では手にすることのできない膨大なイレギュラーを。この不確定要素は僕らが持ちうる『自我』とは相容れない/speak〉
「だったら、貴方達にはその不確定要素がないっていうの?」
彼らは機巧であるとはいえ、自我を持った存在なのだ。自我を持った機械、そこに『ココロ』があるのなら、『魂』と呼べるだけのものが存在するのなら、まだ希望はある。
〈………ない。僕は、君たち人類が《LIFE-LESS》と呼ぶ種は一つの総体として『アインス』という人格を形成している。だから、君たちのように互いに殺し合うことはない。/speak〉
刹那、砲塔が火を噴き、弾が盾に当たって弾け飛ぶ。衝撃波までは吸収しきれなかったため、身体ごと押し戻される。周囲の城壁は吹き飛び、暴力の爪痕がその場をかき乱す。
〈だから、僕ら《LIFE-LESS》改め《SOUL-LESS》は、今ここで人類に対し、戦線布告する。/speak〉
取り返しのつかないことをしてしまった。後戻りのできない最悪の選択。私の目の前の少年は満面の笑みでそう告げた。
アインスが右手で城に触れると先程まで沈黙していた城が唸りを上げ、そして金切り声をあげた。
〈マスターコントロール権限譲渡。マスタークラスタ《log-type human 01》/call〉
〈これでこの戦場は僕のモノだ。さあ、人類最強、引き金は引かれたよ/speak〉
楽しそうに人類の終末を語る彼は左手で指を鳴らす。
〈order.《type-vajura》、おいで/speak〉
彼がそう言うと突然、地面が揺れ、二つの巨大な影が到来する。
《type-vajura》、爬虫類に羽を生やし、両の腕に金剛杵のごとき武器を持った上位クラスの怪物。
これまで、12の戦場で確認され、いずれも圧倒的な火力を持ち、まだ一体たりとも撃破に至らない最強種。伝説に語られるドラゴンや龍などに類似した特徴を持った暴虐。
「………これはまずい」
〈そうだね。まだ今の君では互角には持ち込めない。さようなら、《創造の仔》/speak〉
眼前には2体の暴虐と1体の未知、《code-K@REHA》でも同時に相手取るのほ難しい。
アインスが砲塔をこちらに向けて引き金を引く。
その瞬間、砲塔が横からパッキリと不吹き飛ばされて行き場をなくした弾頭のエネルギーが空中で爆散する。
「ようやくマニュアル操作での射撃が間に合った」
「モタモタするからギリギリだったじゃない。これじゃ姉さんとのハッピータイムがメチャクチャだよ」
一瞬何が起こったのかわからず、頭がフリーズする。振り帰って見ると、横槍を入れたのは枯葉に塗れたポールマンと一人の少女だった。
「………ぇ、誰?」
「遅れてすみません。マニュアル設定の方法がわからなくて遅くなりました。こっちの美少女はイザヤ=ヴァイオレットさん、カレハ嬢の妹さんって本人は言ってます」
「………初耳、私って妹いたの?」
「顔合わせは初めてだから、ここは初めまして、だね。カレハ姉さん、悪いけどギリギリだったから感動的な再会は後で」
「カレハ嬢、ヴァジュラはこの娘と俺で対処します。カレハ嬢はあのチャラ男を」
「アインス」
「…?」
「彼の名前」
「…彼、ねぇ…嫉妬しますね」
「おじさん、姉さんが引いてるんだけど」
「俺はまだ26だ」
そんな茶番をひと通りやってから彼の方を向く。
〈驚いた。まさか、3人目が来ていたなんて。データが少なかったせいで追跡できてなかったんだ/speak〉
「それはどうも、アインスさん」
〈さて、感動的な再会は終わったかな?/speak〉
「まだだから、ここで貴方を倒してからやる」
〈できるといいね/speak〉
私達は互いを見つめ合い、銃を、拳を、杵を、盾を構えた。
「姉さん、これ」
イザヤが何かを渡してくる。
「このデバイスはもう姉さんしか使えない。これがあれば姉さんは完全になれる、これを使って、彼の形見を」
渡されたのは《code-K@REHA》と同じ白亜の銃だった。銘は《code-TESTAMENT》。
握った瞬間デバイスのデータが頭に流れ込んでくる。
(カレハ、ようやく私達は完全になれる)
私が話かけてくる。
(人工人格構築型試作モジュール、カレハ。これで私達はようやく一つになれる。おかえり、カレハ)
(ただいま、私)
辺りを白い輝きが充してゆく。暖かく眩い光の中で私達はようやく出会えた。
ゆっくりと目を開ける。
「ありがとう、イザヤ、そしてトオリ」
〈まだ強くなるのか。馬鹿な、モジュールは成長しないはず、そんなッ/speak〉
「私は強くなる、そして人類は一つの思いになれる。だって、少なくともこの戦場にいる全ての思いは紛れもなく、今日よりも明日をいい日にしたいと願ってるんだから」
〈それでも人類は僕には勝てない。/speak〉
「いいや、私達は希望を示すために生まれてきた《創造の仔》。だからきっと貴方に勝って希望と未来を示してみせる」
イザヤとポールマンが二手に分かれてヴァジュラを引きつけてゆく。
「神の御加護を」
「貴方もね、ポールマン」
そう言って、少年を見据える。
「ここから始めるの」
次の瞬間、両者を互いの間合いで激突した。
出来れば次回第1部を終わらせて、第2部を書きたいと思ってます。