いざ、契約へ
長文です。
すみません
空が白み始め、どこからか鳥のさえずりが聞こえてくる。
まだ生活音が聞こえるには早いが、動物たちは動き出す時間だ。
気づけば窓の外が明るくなっていて愕然とした。
「え、もう朝⁉︎」
寝つけなかったんですけど!
ロードに告白されたのがかなり衝撃的で、ベッドには入ったものの、頭を整理していたら朝になってしまった。
一体いつからそんな風に見ていたのか…
というか断ったけどあの言い方で合っていたのか、そもそもこれまで好意を寄せてくれていたのなら、知らずに非常に無神経なことをしていたのではないか…
これまでのフィルを助けられるか、という不安を抜けたと思ったらそんなことを考えてしまった。
「…あ。」
もやもやを抱えたまま身支度して食堂へ向かうと、すでにロードが来ており、蕩けるような微笑みで挨拶してくる。
「おはようございます、ティア」
今回はお忍びの移動なので人前では不用意に姫様と呼ばないようにしたのだが、そんな呼び方ひとつのちょっとした違和感にまでドギマギしてしまう。
「…おはよう、ございます。」
こら!向こうは普通なのに私が気まずい顔してどうする!
平常心平常心。いや、むしろ無心で。
そう思って顔をあげるも、キラキラした笑顔で見られていて、撃沈。
無理に決まってるじゃん、無心とか。
こちとら恋愛偏差値ゼロなんだからね!
馬の準備をしていたシュウも合流して軽く朝食をとり、東の神殿に向かう道へと急ぐ。
…実は馬に乗るときにも一悶着(私的には)あったんだけど。
よく考えたら、馬に2人乗りするのが抱きしめられてるような体勢なことに今更気づいてしまったのだ。
護衛のためとはいえ好意を寄せてくれている男性に対してそういうのっていいのか?
と馬に乗るときに躊躇した私を見て気を利かせたシュウが「その馬も疲れるだろうから、たまにはこっちに乗るかい?」と言ってくれた。
それは助かる!と返事をしようとしたら、ロードが「大丈夫です、この馬も鍛えてますから。」と、さっさと私を抱き上げて乗馬。
そのまま出発してしまった。
うぅ…気まずい…
「姫様、そんなに緊張せずとも何も致しませんよ…今は」
ほぅ⁉︎み、耳に息かかってますから!
てか今はって何⁉︎
耳元で聞こえるテノールに腰が砕けそうになりながら耐える。
く…っロードめ、微笑みだけでなく低音ボイステロまで仕掛けてくるとは…!
心の中でそんなことを突っ込みつつ馬を走らせると、魔物にも出会うことなく無事に東の神殿がある丘の麓に到着する。
……昔ここまで来た時も思ったけど、この辺りに来ただけでも神殿からプレッシャーを感じる。
魔力に耐性がない、そもそも魔力を持たない一般人はここでは立つこともままならないかもしれない。
これが精霊王の存在感。
馬が圧力に怯えているのか、さかんに引き返そうと頭を翻すのをロードとシュウがなんとか制している。
私は1人馬を降り、2人に話しかけた。
「ロード、シュウ。ここからは私1人で行く。」
そう言われると思わなかったのか、2人は一瞬虚をつかれた顔をする。
「な…、危険です!」
「姫さん、俺らがついていくと契約に不利かい?」
「2人を必要ないと思ってるわけじゃなくて…試練に挑むのは結局自分自身だから。1人で行くしかないの。」
私が真っ直ぐに見据えて決定事項であることを伝えると、2人は黙り込んだ。
「……心配しないで、ヤエムあたりで待ってて!すぐ終わらせるから」
ジロリとシュウがこっちを睨む。
「…何言ってんの、姫さん。野営テントでも組んでここにいるよ。」
「え、でも魔物とか来たら危ないかもよ?」
「そんな心配こそ無用です。あなたがお帰りになるのをずっとお待ちしております。…どうかご無理をせずに。わかりましたね?」
心配しきった顔で言い聞かせる姿は、まるでお母さんみたいだ、と思ったのは言わないでおく。
しっかり頷いて、笑って手を振る。
「了解!じゃあ、いってきます!」
そうして、私は1人で一歩を踏み出した。
読んでくださりありがとうございます。
何気に酷い、オカン発言(笑)




