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ご近所防衛隊07 宝はどこだ(前編)

 夕空にぽっかり浮かぶ鱗雲。それぞれの窓へ帰って行くランドセル。

「ただいまぁ」

「どうしたの? 何か自慢したそうね。テストで100点でも取った?」

 おやつを用意しながらお母さんは言った。

「明日オーディションがあるの」

 学芸会の劇を学年混成でやると言う。

「でね。劇に参加する人は、全員セリフが有るんだよ」

 オムニバス形式にして、1時間の舞台を1場面5分で繋げる。登場人物は100人を超えるため、全員にセリフが回るそうだ。その全てに関わる主役的な子も居るが、先生はこういったそうだ。

「主役は出番が多くて目立つけど、本当に面白いのは脇役です。例えば、NHKの大河ドラマの主役はアイドルや新人を起用します。しかし、脇役は必ず大御所と呼ばれるような名俳優・名女優にお願いします。そうしないとお芝居が成功しないからです」

 実際そうである。

「ふーん。どんなの?」

「廊下から教室の戸を開けて中にはいるの。自分のイメージする役になってやるんだよ」

「例えば?」

「忍者とか、狼男とか、お爺さんとか、風の精とか」

 いったいどんな劇に成るんだろう?


 同じ頃。数楽塾の休み時間。

「なぁおい。今度の劇どう思う?」

 子供達はプリントを開きながら話は弾む。


 題して「たからはどこだ」。大まかなあらすじは、銀河パトロール隊の宇宙人がやって来て、知立の子供にこういうところから始まる。

「地球には、とても素晴らしい宝物があるそうです。それを私たち銀河パトロールに見せて下さい」

 宇宙人から万能タイムマシンを借りた子供達は、いろいろな所へ行って宝を探す。と言うお話だ。あちこちの有志の大人達の協力もあって、かなり大がかりな物になると言う。

 オムニバス進行なので、途中のストーリーを子供達が作成できる、自由度の高い物だ。


「72ページ。問い3」

 その声にはっと気付く。

「あ、ハム先生。ごめんなさい」

 夢中になっている間に休み時間は終わっていた。授業の終わりにハムは言った。

「この数楽塾も学校行事に協賛しています。劇もお勉強です。きっちりやりましょう」



 その夜。ジョーカーのアジトでハムは演説した。

「私たちの目的は、より多くの才能有る人材を発掘し、私たちの陣営に組み込むことです。私たちは長年に渡ってこの地域に浸透し、子供達に影ながら影響を与えてきました。PTAによる提唱の形を取り、学校行事に組み込むことが出来た事実上の自主制作劇。今までも地区の子供が文字通り大化けして来た行事です。今年も優れたジョーカーを生み出す方向性で、誘導したいと思います」


 さて、毎年あまりにもおおっぴらにやっているので、事がジャスティスに漏れていない訳がなかった。AIのケイは警告を発しこう告げる。

「年毎に、物語は洗練しされてきました。しかし、格好良さが強調された悪事など、問題のある内容も増えて来ています。どこかのテロリストの主張をオブラートに包んで格好良く演出された年もありました。なんとしてもこれに歯止めを掛けなければ成りません」


 元から地元にいる者。丁度小学生の年の者。書類を偽造し、見掛けの幼さや変身能力やコスチュームの特殊能力等を使い年齢を変えてまで転校生として侵入する者。様々な者達が知立に集い、学芸会の劇を巡って、しのぎが削られる。


●宝はなぁに

「問題はどんなテーマを選ぶかだよね」

 つららは塾で知り合った友達を前に、持ちかける。

「場面は未来ね。昔の時代と違って、未来ならハイテク忍者とか遺伝子操作狼男とか、何の役でも取り込めるわ。それに、未来なら凄い宝物があってもおかしくないじゃない」

 話上手なつららに賛成の声が上がる。

「それでね。未来人は政府による超管理社会の下、平和でも夢も希望も無い生活を送っているの」

 極楽丸も含め皆、話に夢中。ざっとあらすじを言うだけでも壮大なドラマがそこにあった。

 政府が秘匿している芸術品を奪い返す。初め彼等を嫌う民衆も破天荒な魅力に惹かれて立ち上がり、最後は管理社会を覆す。世界は崩れる、でも人々の瞳に生気が戻った。この瞳が沢山の宝物を生み出すんだ。自由な心こそ真の宝なんだ。

 1時間ほどしゃべりまくり。漸く終わって余韻に浸っていると。

「でも、入りきらないね」

 残念そうな声。持ち時間5分では、表現できることに限界がある。

「じゃあさ」

 極楽丸が口を開いた。

「俺達が、宝はどこだとか言われたらなんて返して何を探しにいくだろう? 先ずここから考えてみないか?」

「うーん。宝石?」

 と、つらら。

「やだな。宇宙にはダイヤモンドで出来た星だってあるんだぜ。地球で貴重な宝石だって、銀河パトロール隊の宇宙人に見せたら、なんだこんな物かって馬鹿にされるかも知れないじゃん。そんなの格好悪いじゃんか」

「それもそうね」

「大体さ。宝って誰の? 俺のだったらやれないぞ、まだ見つけてもいないけど」

「どうせ。ぴーちゃんなら自転車とか、ビー玉とか、そんなもんじゃない?」

 クラスメイトの女の子が突っ込む。

「ちげーよ。自分が持ってないヒトのモノはなんだって良く見えるし、今手に持ってるもんなんてアテになんないじゃん」

「あんた良く無くすからね」

 バコ。口の悪い女の子を打つ極楽丸。だが相手もかなり凶暴だ。加えて上背もある。上から押さえつけるように肩を掴むや、膝で正中線に沿ってローブロウ。

「あぎゃ! どこ狙ってやがる。変態女」

「変態と言うのはこの口かぁ」

 口に親指を入れ横に引く。

「い。っぃぃぃぃ」

 極楽丸もお返しとばかりに鷲掴み。回りの子は、慣れたもので又始まったかと静観してる。

「や・め・な・さい! って」

 割って入り二人を分けるつらら。先ず極楽丸に向かい、耳元でぼそり。

「男の子って、好きな女の子に乱暴するもんなのよね~」

「だ、だれが」

 慌てて手を引いたので、今度は女の子に向かい。耳元でぼそり。

「‥‥先輩。ガッカリするだろうな~」

「え?」

 小声でお相手の名をぼそり。勿論既に調査済み。

「お。お願い。このことは黙ってて」

 懇願するように手を引いた。


●秘密基地

 何時からここは学童保育になったんだろう。

 漆原祐が学校帰りに立ち寄ると、しんちゃんを初め隼人や詩音までいる。今までここに関わった子供達が総出でやって来ているのだ。

「祐お兄ちゃん」

 藤堂緋色がにっこり笑う。

「ぴーちゃんとかも誘ったけど、なんか照れくさそうに断ってきたんだよね」

 緋色はちょっと残念そう。

「ま、いいけどよ。今年もみんなノリノリだな」

 祐も覚えがある。一場面の持ち時間はたったの5分だ。どんなに工夫を凝らしても、5分間で表現できることは限りがある。内容を詰め込みすぎて半分が説明のナレーションになったり、早口言葉大会になったりして、これじゃ駄目だと最初から作り直した覚えがある。

 子供達から少し離れた端末の前で、難しい顔をして本と首っ引きになっているのはR・L・ジーン。

「省略とデフォルメが決め手か‥‥」

 ぶつくさ言っている所を、のぞき込みに気付いた彼女が、

「わっ!」

 と言って隠す。

「隠すなよ」

 祐が突っ込むと

「わたしだってこんな事をするのは初めてなんだ。笑わないでくれ」

 ちょっとしょんぼり。

「それにしても、直接参加出来ないのが残念だね」

 緋色はジーンの顔を覗き込んだ。失礼だけど、とても二十歳には見えない。クラスでも大きな子は彼女くらい背があるし、大人っぽい上級生なら彼女と変わらない気もする。

「一応、全員分の偽装書類は作っておきましたよ」

 AIのケイの報告に、ジーンは

「そんなに‥‥幼く見えるか‥‥」

 どんよりどよんと落ち込んだ。

「コスチューム[蕾]を用意しました。宜しければ使って下さい」

「そう言うことか。今回は気分じゃないが有り難く貰っておく」

 少しは持ち直したジーンであった。


「みんなぁ! お話の方針だけど、ヒロから提案があるそうだ」

 祐に促されて緋色は前に出てくる。

「えっとね。一方的に悪い役を作ると、駄目だと思うんだ」

 考え抜いて緋色は言った。

「最後は改心していい人になってめでたしめでたし! っていうのを提案するね! それに死者が出るような殺伐とした内容はどうかなって思うんだ。ほら。低学年の子とか、現実とお芝居の区別が着かなく成っちゃう子も居るでしょ? だから悪は滅びましたじゃだめだと思うんだよね」

「怪獣とかも改心するの?」

 しんちゃんの発言に、

「怪獣退治したいの?」

「うん」

 緋色は固まった。


 小一時間後。皆が気の済むまで自分の意見を述べた後。

「自由にやるって言うのは、デタラメにやっても構わないって事じゃない。基本を踏まえた上でやるって事だ。いいか。注意すべきとこは3つある」

 祐はホワイトボードに列挙した。

――――――――――――――――――――――

1.本筋は『宝探し』。宝にまつわるお話。

2.持ち時間は5分。5分で完結するお話。

3.タイムマシンでやって来て、帰って行く。

――――――――――――――――――――――

「ここにどういう物を詰め込むかを考えようぜ。細かいことは後にして、何時の時代のどこで何をやるかを考えるんだ」

 流石経験者。ズバリ成すべき事を特定した。

「そう言えば、たった5分なんだ」

 隼人はしみじみと言う。

「5分って、変身してから怪人倒すまでに時間でしょ」

 とは、しんちゃんの言葉。

 皆、5分と言う時間に対する認識が、少しづつ違う様な気がした。

「じゃあ。計ってみよう」

 ジーンはストップウオッチを持って来て

「みんな目をつぶって。合図してから5分経ったと思ったら、手を挙げて。はい!」

 2分を過ぎた辺りから手が上がり初め、最後の子が手を挙げたのは4分をちょっと過ぎた辺りであった。

「「うーん」」

 皆、5分と言う時間を判っていた積もりであった。全知全解がたった今、半知半解になって仕舞い、熱のこもった話し合いが行われる。あっという間に時は過ぎた。


「そう言えば、会館のよみきかせで、『もりのへなそうる』の1話分が10分と少しだったよ」

 しんちゃんが言った。

「へなそうるって、あの『しょっぴる』の?」

 と隼人。

「うん。『どうつぶ』の」

「しょっぴる? どうつぶ?」

 二人の会話が見えない祐を後目に、緋色は自然に会話に入って行く。

「みつやくんの言葉が面白いのよね。お兄ちゃんへなそうるはね。てつたくんとみつやくんが、森で変な『たがも』を見つけてね‥‥。絵は『ぐりとぐら』の人だよ」

 絵本にも世代と言うのがあるのだろう。祐は何やら自分が急に年を取ったような気がして来た。

「ぼか、おいしかった。でも、おにぎりなんて、一つしかたべたことないな」

 何か、独自の世界を創って盛り上がっているその様に、祐は寂しさを覚えた。


●正義ってなあに?

「え? アイディアですか?」

 この時期の子供の身近な大人の例に漏れず、蘭も意見を聞かれた。元々子供のためのお話とは、毒を持ったものである。賢い人・正しい人は報われ、愚かな人・悪い人は報いを受ける。少し考え、蘭は二つの例を示した。

「お爺さんやおばあさんにも喜んで貰えるものと言ったら、『忠臣蔵』とか『新撰組』とか。でもね‥‥」

 蘭は軽く解説した。史実を紐解けば、吉良義央の受けた仕打ちはとんでもない物である。通り魔に襲われて犯人が処罰されたと思ったら、逆恨みの残党に殺されてしまった。

 事実、鸚鵡籠中記によれば当時の武士達は非常に醒めたもので、浪士を賛美した者など殆ど居ない。ワイロも当時の常識で言えば、海外のホテルでボーイさんにチップを渡すのと同様の常識。いわば社会公認の役職手当。国会議員が議員パスで只で公共交通機関を使うような物である。まことしやかな勤王説も眉唾物で、後西天皇譲位事件の直後に治天の君たる後水尾法王によって、義央が従四位上に昇進されている顛末から見て、朝廷の意向に合わせたものであることは明白。また、腐女子の皆様には真に以て残念だが、事件当時義央は還暦を迎えている。人間五十年の時代である。衆道恋慕説も先ずあり得ない。当時の常識で判断すれば長矩乱心と言うほか無い。

「結局。正義って何だろう」

 極楽丸の問いに、蘭は考える。

「難しいわね。ヒットラーだって正義を唱えて酷いことやったんだし‥‥」

「簡単よ」

 自信満々に立ち上がったのはつららであった。

「どんな立派なお題目唱えたって、人間の自由を奪う奴が悪い奴だわ」

 造反有理、革命に罪無しとつららは断言する。その言葉を受けて蘭はしみじみと言った。

「そうね。そいつが自由を奪い、悲しみに突き落とすから、その暴挙に対して戦うのが正義なのでしょう」

 その言葉に、皆しーんとなって仕舞った。


●集合

 準備が3時間で、練習が5時間。学校でやるのはこれだけである。今日はグループ毎に打ち合わせした内容を付け合わせる最初の日だ。

 グループ毎に出てきて、簡単に決まったことや全体提案を発表する。

「えと。国語の教科書に載っているお話を、普通に朗読すると15分程度になります。つまり、だいたい教科書の単元の1/3位の内容が5分に収まります」

 緋色の発表に拍手が起きた。

「最終的な宝を何にするかですが、私たちは『私たちの未来』を提案します」

 これはグループでの結論であって、全体の物ではない。その他に5分パートで扱うお宝を持ってくるのだ。

「舞台は原始時代。宝物はどんな堅い毛皮も貫き抜き通す魔法の槍。狩りに失敗して仲間から除け者にされた子が、魔法の槍を手にして悪魔のような野牛をやっつけるの」

 あらすじを言うのはしんちゃん。詳細を緋色が説明する。

「魔法の槍は、良くできた黒曜石の槍で、タイムマシンでやって来た主人公達が作り方を教えるんです。タイムマシンのコンピューターに作り方があって、力を合わせて槍を作り、その槍で野牛をやっつけます。その槍を友達の印として貰うんです。宝物は勇気にしました」


 発表は続く。いろいろな演出が提案され、タイムマシンで出会う人との物語が綴られる。そして、それぞれの宝物を巡るドラマがあった。順番は進み、極楽丸達の番。暴行女があらすじを発表。

「場所は人間が機械に管理された未来都市。みんなコンピュータが管理してて、住民はコンピュータ操作は出来るけど、私たちみたいに手計算のやり方を知らないわけ。タイムマシンが到着したときの事故でコンピュータが故障して未来都市は大パニック。結局、4年生くらいの算数で解決しちゃうの。宝物は私たちが使っている教科書よ」

 へー。と言う声がしきり。

「結局、全体のお話の宝をどうするか、いろいろ考えたけど、もしかしたら宇宙の覇者となるかもしれない俺が最有力候補ってことで一つ」

「いいぞぴーちゃん」

 回りから声援が起こった。意外と愛されているらしい。

「物見遊山で見るならもう無くなった物。たとえばドードー鳥のいる島とか。埋め立てる前の東京湾の鯨とか。ヒトが知るもので今は無い物って、大体ヒトが壊してきてる物だから。ぶっちゃけさ。今、俺達が宇宙人に誇れる物ってあるのかな? 過去の物は俺達が作った物じゃない。だから、宝物は何だろう? って終わり方のほうがクールだと思うんだ」

「南風君」

 指導の先生が呼んだ。

「なんです?」

「君が最初の主役候補です」

「俺でいいのかよ」

「「異議なーし!」」

 賛同の声。ジョークでの指名とも思えない雰囲気だ。


 発表の後。内容を元に主役候補が指名された。そして、

「皆さんにお知らせがあります。ジーンさん」

 ジーンが酷く気まずそうな感じで、緋色に付き添われて入ってきた。

「この度、交換留学でいらしたR・L・ジーンさんです」

「さすがあっちの人は違うな」

 同じくらいの背の子はいるが、どことなく落ち着いて大人っぽい。ケイの手回しで交換留学の名目で潜り込ませたのだ。書類上の年齢はなんと11歳。おいおいケイやりすぎじゃないか?

「よろしく‥‥お願いする」

 たどたどしい挨拶が、それっぽい。

「へいジーン! ジーンは正義ってなんたと思う?」

 極楽丸が訊ねると。

「難しいものではないのだと思う。例えば隣で困っている人がいたら助けてあげたい、程度で良い。誰かの力になりたい、という心を忘れなければ、後はそれを押し通すだけの勇気があれば良いと思う」

「おまえ。日本語上手いな。一緒に御芝居しようぜ」

 かくしてジーンを主役候補に加え、方針は決定した。


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