ご近所防衛隊06 はしるのだいすき
夜になれば涼しい風。少しどこか小寒いものに変わって行く。
夏がどこかへ過ぎて行く頃。運動会が近づいて来る。
そんなある日の土管下の秘密基地。
「へー。そう言うギャンブルがあるんだ」
関心顔の女子高生。
「子供の場合、ちょっとしたトレーニングで足が速くなったりしますし、八百長仕掛けるのは無理です。それに、子供に怪我をさせるとか言うような妨害は幾らなんても恥を知る大人はやりません」
小学校の運動会のかけっこがギャンブル対象で、かなりな大金が掛けられる。こんな話を聞いたって、普通誰も信じない。冗談だろと聞き流すのが関の山。
「どうも、それがジョーカーの資金源の一つらしいです」
「うそだろ。担ぐなよケイ」
パネルに映るAIに向かって笑う男子高校生。
「でも、本当なら捨て置けないわね。大損させちゃわない?」
「それも面白いかもな。ところでケイ。分析してもらっていた敵の弱点はどうなった?」
「はい。これを見て下さい。必殺技を放った次の瞬間です」
生物兵器の有様を記録しようと、刑事さんが仕掛けたカメラが、その詳細を記録していたのだ。
「……あ!」
倒される美少女戦士の姿と同時に、少しよろける敵の姿が映されていた。
「必殺技を放つと、かなりな消耗をするようです。恐らく敵は、とどめを刺さなかったのではなく、刺せなかった可能性があります」
その頃ジョーカーのアジトでは。
「ねーねー。ハムちゃん。これでいい?」
ノアがギャンブルのオッズを映し出す。名前と去年の成績。知立小学校の記録会の物だ。
「この子にトレーニングしたら、劇的に変わりますね」
「1位にできたら、うん。物凄い大穴」
「素質が有るし、例の薬で強化されているから。訓練すれば確実に早くなります。でも、本人が駄目だと思いこんでる。この要素を入れて200倍では?」
「うん。いいかもー。隼人君が×200。でも、本命はやっばり真吾君ね。背が高くて、足も凄く速いもん。ミンメイちゃんが居なかったら、ノア、彼女に立候補しちゃう」
AIを彼女にするのは無理があるかも。
「念のためにトレーナー着けますか?」
「そうね。頑張って貰わないと。有志を召集しなきゃ」
「お兄ちゃん」
ジャスティスの秘密基地に突然転移してきたのは。今も出入りしているしんちゃんだ。一緒に来たのは、以前ここで巨大化の中和までの間隠れていた隼人君。
「ぼく、かけっこで勝ちたいの。なんかいいこと教えて」
「そうですね」
ケイは小さな子供でも無理なく出来るやり方を紹介した。
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・ネコとネズミ
二人組みになります。
ネコとネズミに分かれ3m置いて対峙
審判がネコと言ったら ネコが鬼でネズミが逃げます。
ネズミと言ったら ネズミが鬼でネコが逃げます。
追っかけ側が追いついてタッチしたら勝ち。
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「こんなので、早く走れるの?」
しんちゃんの疑問に、
「はい。間違いなく」
と、ケイは答えた。
「そんなわないよ。いくら頑張っても勝てないんだ」
隼人は憂鬱そうに否定した。
●セレブ現る
「やっぱさー、ご褒美とかの方がいいんじゃないかな?」
自分には少し高い大人用の椅子に座り、南風極楽丸は足をぱたぱたさせながら言った。
ジョーカーネットワークの端末である大型モニターを前に、相変わらずのんびりとお茶会が行われている。本日のお茶はこの辺りでは取扱店も少ない高級種の紅茶。持ち込んだのは「金で人生を変えた男」として敵にも味方にも名の知れた存在、小金沢満だ。
「ハッハッハ、そうかそうか。宜しい、それでは私がご褒美とやらの出資をさせていただこう。なぁに私はセレブだからね、多少のご褒美なぞ痛くも痒くもないぞ」
なんだかとっても太っ腹。眼を輝かせながら何をお願いしようか考えている極楽丸に、後ろからティーセットの乗ったトレイが差し出される。
「ご褒美もいいですけど、高価なものはいけませんよ? わたくし達は塾の講師でしかなく、親御さんも困ってしまうでしょう」
ミルクとレモン、シュガーポットを並べながら烏鳩が指摘する。親や親類との約束ならともかく、他人からの過剰な期待はかえって逆効果にもなり得る。
「一位になる事が最大のご褒美でしょうしねぇ」
最高級が泣くほどの音を立てて、紅茶をすするのはハム博士。ミルクも砂糖もたっぷり入った紅茶はどうやらお気に召されたようだ。
「ですが、スポンサーの申し出はありがたいですわ。特訓の際の食事や差し入れ、意外とかかるんですもの。とりあえずは、これ」
烏鳩から差し出されたメモ帳はそのままセレブレディ達に渡されて、近所のスーパーへ。
「そう言えば、蘭先生は?」
「明日塾で配る為のプリントを刷ってますわ。足を早くするコツと秘密特訓のお知らせ」
どうやら塾に通う子供達全体の底上げを狙っている模様。
モニターに映し出されたAI少女ノアが楽しげに話しかける。
「真吾君が勝たないと、満も損しちゃうもんね。皆、満の為にも頑張ってねー☆」
ぶふっ。
満の紅茶が極楽丸の顔に勢い良く噴出された。
●呼びかけ
運動会一週間前。
塾の授業が終わる時間に、講師・鈴生蘭は生徒達にプリントを配り始めた。一つはインターネットや本からの抜粋であろう『一週間で早くなる! 徒競走必勝法』と書かれたもの。もう一つには次週の塾の休講のお知らせと『特別講座・運動会へ向けて』という一週間のスケジュール表。
「先生も体育は苦手でした。運動会は楽しみだけど走るのはいやだ、と言う人はいませんか? 皆で特訓して、少しでも楽しい運動会になればいいなと先生は思います」
特別講師として烏鳩先生も来ますよ、と告げると、生徒達はなんだかひそひそ話。どうやら蘭先生だけでは頼りなかった模様。パンパンと手を叩くとお喋りは止み、皆の視線が蘭に集中した。
「もちろんこれは自由参加です。参加する人もしない人も、楽しい運動会になるように頑張りましょうね」
授業終了のチャイムが鳴る。
「特訓は明後日からか。よーし今日は自主練だ、空き地行こうぜ!」
極楽丸の呼びかけで数人の男子が教室から駆け出した。廊下は走っちゃ駄目だよと言う藤堂緋色の言葉は、少年達には聞き取れなかったようだ。
●平和な街
土管下の秘密基地。犬飼八彦の提案した運動会賭博に対し捜査の手が延びている噂に対し、しんちゃんが真っ先に反応した。
「えー。運動会、中止になるよ」
「そうか。ここはまだ平和なご近所だったな」
八彦は改めて認識した。
●勧誘
学校裏手。国道1号線を行く自動車が見える。
樹影で髪の長い少女の膝に頭を預ける少年に
「おまえが3年の真吾か。お熱いね」
極楽丸はからかうように声を掛けた。
「なんだよ。馬鹿にするのか」
「おっと、ケンカ売ってるんじゃねーぜ。おまえ、速いんだってな」
「ああ。誰にも負けないぜ」
身体を起こしながら真吾は宣う。
足の速さに対して後ろからスタートしゴール手前10mで大体並ぶようにハンデを着ける。ハンデは混成の場合、学年によって決まっているが、後方から追い抜いて行くほど格好いいものはない。足に自身のある子はさらに後ろからスタートするのも自由だ。
「俺と勝負してみるか?」
「そう言う話か。いいぞ」
草を倒して線引き。近くにいた奴に声を掛けた。
「お前ら今ヒマ? ちょっと計ってみたいんで手貸してくれよ」
ストップウオッチを手渡した。
終わった後に真吾が訊いた。
「おまえ、何年だ?」
「6年だぜ」
「なら、あんまり威張れないな」
負け惜しみ。100mのタイムが極楽丸13秒88・真吾14秒06の僅差。
「よかったら、俺達と一緒に練習しないか?」
極楽丸が右手を伸ばした。
●ネコとネズミ
足下は、転けても怪我しない草。
「ねー、ねー、ねーーーこ!」
わざと漆原祐はこういう言い方。猫役の子は猫なら追っかけなきゃならないし、ネズミなら急いで逃げなきゃならない。その辺のキモを祐は伝授されて来ているのだ。
「意外と楽しいじゃん」
極楽丸は汗を拭う。特訓と言うより遊びだ。追いかけっこは5秒後に笛が鳴るまで。
「休憩にしよう」
祐は差し入れのレモネードを配る。
「どうだ?」
隼人を引き寄せ訊ねる。
「楽しいよ。でも、本当に速くなるの?」
「絶対に速くなる。隼人は嫌いな魚や牛乳にだって立ち向かったんだろ? だから大丈夫。お前は『昨日までの自分』よりも大きくなれたんだから。速くだって、なれる筈だぜ」
実際祐は驚いている。走る事に親しませるのが狙いかと思っていたが、スタートが格段に良くなっているのだ。
「少しづつ速くなってるぜ。なぁヒロ」
「うん。最初は簡単に逃げられたし捕まえられたけど、今は3回に1回は負けちゃうでしょ」
相手をする緋色は、祐よりも確かな事実として成長を感じていた。
「よう。どうだ?」
「お兄ちゃん」
緋色が様子を見に来た八彦を出迎える。手招きでやって来た隼人に八彦はそっと耳打ち。
「良い顔だ。この分だと、好きな女の子にイイ所を見せれそうだな」
照れくさそうに隼人は笑った。
●あんた誰?
「この辺りで『足の速い小学生』と言ったら誰でしょうか」
黒髪のウィッグに黒のカラーコンタクト。普段はコンプレックスの外見も、この時ばかりは役に立った。あまり嬉しくはないが。
と、R・L・ジーンは思っていた。
中学の陸上部なら足の速い小学生を探していても問題はない。そう思っていた。
「あら、中学でもスカウトなんてあるのねぇ。今度運動会があるから、自分の目で確かめた方がいいんじゃないかしら」
「ところであなた、どこの生徒さん? うちの息子も中学なんだけど、あなたこの辺の子じゃないわよねぇ」
「そうよね。うちの娘もまだ授業中の筈だけど、学校は大丈夫なの?」
『藪をつついて蛇を出す』という言葉を、彼女は知らない。
「あ、あの、本当は、警察のお手伝いをしてて……」
ちらりとその光景を目に入れながら。
河畔の公園への道を急ぐジャージ姿の蘭が、ジーンの横を通り抜けた。河に沿った一帯は、練習コースとしても丁度良い。
午後4時。
「あ、早紀。俺だ俺……切れた」
携帯電話を片手にスーツ姿の男がため息。リダイヤル。
「何で切る。おとうさんだ。オレオレ詐欺だと思ったって? あのな、名刺入れ忘れたんだ。開けて一番上の人の電話番号、なんて書いてある? っておい。サキぃ?『校長先生に聞いて下さい』ってどういう意味だ……切れた」
諦めて歩き出す父。近道をしようと河畔に出る。不意に呼び止める壮年の男。この先で、子供達が運動会の練習をしていると話す。
「可愛い物です。頑張ってる子供というのは。なるべくなら、満足行くまで彼等だけで頑張って貰いたい」
挙動がいかにも変な外国人。ジョン・フォスターの姿に男はぶつぶつ言いながら回り道。これで協力して貰ったのは10人目。
暫くして若い女性がバスケットを持ってやって来た。
「ここから先は子供達の秘密特訓場だ。大人が顔を出して良い場所ではないよ」
事情を説明しても、無視して行こうとする女性の前に立ちはだかる。
「せんせーがどうしたのー」
後ろから声がした。
「先生?」
思わず道を譲るジョン。
「先生、早く行こうぜー」
極楽丸の声に、子供達が唱和する。
「お疲れさまです。お爺さん」
烏鳩は丁寧にお辞儀をした。
巡査が二人やって来た。誰かが通報したらしい。
「お爺さん。ここで何をして居られるのですか?」
丁寧な物言い。しかし
「お疲れになったでしょう。交番でお休みに成りませんか? お相手しますよ」
どう見ても不審者扱い。少なくとも末端に於いて、宇宙刑事と日本の警察は連携していないようだ。
二人の不審者が保護者・八彦に引き取られたのは、今日の子供達の特訓が終わる少し前の話である。
八彦は、激戦地から転任してきた二人に対し切々と
「一般人の立場としてみた場合に『おかしい』。その事に気づかないのか?」
「すまんな。荒事には慣れているのだが俺は」
「こちらの事情を確かめなかった私が悪い」
二人は当惑していた。
「この辺りはずいぶんと平和なんでな。二人のやる事を入れ替えて欲しかった」
恐らく問題になって無かっただろう。
●ばかぁ
日を重ねるに連れ、隼人はめきめき速くなった。もう、緋色だと掴まってばかり。真吾とやっても5回に1回は勝てるようになった。
「おまえ、意外と速かったんだな」
足が自慢の真吾に言われ、悪い気はしない隼人。
「さぁ。ヒロと並んでタイムを計ってみよう」
祐がストップウオッチを取り出した。
ぐんと飛び出したのは勿論隼人。でも、あらら。途中で失速して緋色が先にゴール。
「ねー。ぼく勝てた?」
抜かれたことに気が着いてない。
「おい。おまえどこを見てた?」
真吾の呆れ声。
「しっかり顔を上げて真っ直ぐ前をみる。顔を下げるとスピード落ちるし、どちらが勝ったのかも判らないぞ」
得意になっていた分しゅんとしたが
「たったそれだけだけで、確実に速く成るってうらやましいぜ」
極楽丸の指摘に隼人は気を取り直した。
「はーい。皆さん」
蘭がお湯割り蜂蜜レモンの差し入れ。名前を書いた紙コップに注がれる。真吾のコップには密かに、ケルベロス計画で使った物が仕込んである。造血細胞にワニの遺伝子の力を付与し、赤血球の酸素供給能力を強化する物だ。
「それにしても、せんせー速いな」
真吾がフォーム等の模範指導するを見せる烏鳩に尊敬の眼差し。
「でも練習しないと駄目ね、早い時は今の倍ぐらいの速さで走れたのですけれど」
と残念そう。
「すげー」
と素直に感心する真吾。
(「変身すれば倍ぐらいで走れますもの、嘘ではありませんわよ?」)
すくりと笑い、烏鳩は
「個人レッスンしても宜しいですわよ」
「頼める? 綺麗なお姉さん」
正に手取り足取り。真吾のフォームをチェックして行く。上機嫌な烏鳩と真吾。だが、その傍らでミンメイが次第に不機嫌になって行くのに誰も気が着かなかった。
「はい、これは隼人君のね」
差し出された名前つきの紙コップ。隼人は素直に
「ありがとう」
とヒロに告げる。
「身体冷やすと駄目だからね。汗も拭いた方がいいよ」
先生達の受け売りではあるが、ヒロなりのサポートだ。隅に小さくキャラクターのプリントされたタオルを差し出した。
「お、何だ隼人、彼女か? 結構かわいーじゃん。ねーねー彼女、俺が勝ったら一日デートしてよ」
二人の様子を冷かす真吾。見るに見かねたのかその姿を見た祐が割って入る。
「からかうのもいい加減にしておけよ?」
少々マジな台詞にも、真吾は悪びれもせず。上から下まで一通り祐を眺めた後、にやりと笑ってヒロに言う。
「なんだ、こっちが彼氏か。結構カッコいいんじゃね?」
……『彼氏』。その言葉に、祐の顔はぽんと真っ赤に染まった。いくらなんでも小学生は犯罪だとかヒロは友達であり仲間であってうんぬんとか頭の中をぐるぐると回る。ヒロの反応もほぼ同じ。その様子を見て、真吾はまた楽しげに笑うのだ。
「……疲れた。あたしもう帰る」
ふと投げつけられた言葉。見ればミンメイが荷物を片付けさっさと帰ろうとしている。
「ちょ、ちょっと待てよ。まだ今日のメニューは終わってないだろ?」
「あたしがいる必要ないじゃない。真吾は綺麗な先生と可愛い女の子に面倒見てもらえばいいでしょ」
バッグで一撃、ぷうと膨れた顔のままミンメイは踵を返す。勢いで吹っ飛んだ真吾にヒロが手を差し伸べるも、真吾はその手を軽く払いのけた。
「なんだよ……分かってねぇなあ。俺の本命は一人しかいないのに」
パンパンと砂を払い立ち上がると、もう立ち去ってしまった彼女の背に向かって誓いの言葉を告げる。
「俺の勝利を、ミンメイ。お前に捧げる」
……今時の子供って皆こんなんなんですか?
二人の塾講師が理解できない顔でその光景を見ていたのは、想像に難くない事だろう。
●とべ隼人
運動会当日。
……保護者席の一角に、謎の煌びやかな集団が陣取っていた。まるでアメフトの試合会場であるかのような華やかな集団。
「ははははは! さあ応援するのだ、子供達が精一杯実力を発揮できるように!」
……私設応援団、である。もっと端的にいうと、『きれーなおねーちゃんたちがちあがーるのかっこでやってきた』である。並んだ美脚に鼻の下を伸ばしたおとーさんが奥様にお尻をつねられたり、女性慣れしていない新任の男性教員が鼻血を出したりと少々ハプニングはあったものの、特に問題なく開会式は執り行われた。
知り合いらしく、子供達が手を振ったり声を掛けていたので追い出されはしなかったが、流石に『他の保護者の邪魔になる』とテーブルセットは撤去されたが、それでも満はご満悦。蘭や烏鳩とともにビニルシートに腰を下ろし、グレープジュースの入ったグラスを回していた。二人の塾講師がやや恥ずかしげにしていたのは、きっと気のせいではあるまい。
低学年の徒競走は、一番最初の競技である。
ピストルが鳴った。身体がゴムの様に弾む。顔を上げて真っ直ぐ前、肩に余分な力が入らないよう手の中に見えない卵を握り込む。そっとそうっと、勝利の卵だ潰しちゃならない。音が消える。風が流れる。我ながらいい感じ。後ろから風が抜けて、誰か並んだ。
「やったな! 隼人」
捜査のため漸く間に合った八彦がネットの向こうから声を掛けた。2位の旗を持つ緋色が隼人の方に。僅差で負けたが自分が2位。隼人を抱擁して祝福する1位の真吾。
●アイドル市場
パネルの中ではノアが札束の勘定をしていた。なんとも人間臭いグラフィックを仕込まれたものである。
「とりあえず隼人君のせいで予定通りとはいかなかったけどォ。皆が他の子達も鍛えてくれたおかげで一応黒字って感じかな。満もいっぱい賭けてくれたし」
語尾にハートマークが見えそうな勢いで四人に労いの言葉をかける。一番精神ダメージが大きいのは、懐にも大打撃を食らった満だろうか。
「それに運動会の後が予想以上に良かったの! だから問題なし♪」
『後』? 何事か、と頭を捻ったジョーカー達の前に、プリンターから写真が数枚吐き出された。
「……あはははは、流石ノア。しっかりしてるわ」
極楽丸が爆笑、蘭と烏鳩も釣られて笑う。写っていたのはジャスティスのヒロと、真吾・隼人の抱擁シーン。そしてチアガール姿のセレブレディ達。どれも運動会での姿を隠し撮りした物らしい。
「購買層が違うから、ヒロちゃんだけより良く売れたの。真吾と隼人、どっちが受けかしら? あ、セレブレディ達の方の売上は満にも還元するね」