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ご近所防衛隊16 MOTTAINAI

●フードバンク

 愛知県知立市。

 ハムの運営する数楽塾に一人のジョーカーが尋ねてきた。まだ顔に幾分幼さを残したその青年は、小規模ながらスーパーの主と言う表の顔を持っている。

「凄いですわ。そのお年で……一国一城の主ですか。流石に貫禄ありますね」

 応対する女性職員は、お茶を淹れながら感心してみせる。

「いえいえ。実は親の七光りと言う奴でして……。パートのおばちゃんになめられまいと虚勢を張っているだけです」

 照れたそう言う顔は年相応。

「で、今回はうちに何か……」

 ハムは訝しそうに聞いた。

「実は、フードバンクを作ろうと思いまして」

 店長は黒板を借りて説明する。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 フードバンクとは


 例えば、賞味期限3日前の牛乳の1リットルパックがあるとする。

 コンビニの中心客は一人暮らしの学生や単身赴任者が多い。

 一人では飲みきれないので売れ難い。

 食の安全が叫ばれる昨今だからこそ、売る側も少し神経質になっており、

 賞味期限をかなり残して陳列から下げ、廃棄処理にまわす。

 これには処理料金が発生する。


 本来こうしてゴミと為っていた物ではあるが、

 賞味期限が残っており食用として充分に通用する。

 保管方法を間違えなければ、衛生的にも問題ない。

 これを、廃棄処理をする業者の代わりに無料で引き取り、

 非常な低価格(場合によっては無償)で必要な人に供給する。


 店は従来廃棄処理業者に支払っていた料金を浮かせ得をする。


 賞味期限以外にも、農家で普通には市場に出せない規格外形状品など、

 安全面でなんの問題も無い食品を活かす。食のアウトレットモール。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「それはそれとして、裏のお話を伺いましょう」

 ハムが促すと、店長は

「実は知立進出も考えていましたね」

 詳細を語り始めた。そして小一時間。

「平たく言えば、地場のスーパーの本筋商品である生鮮食料品を価格破壊する訳ですか」

「資本力で制圧と言うほど大手じゃありませんからね。フードパンクで開拓するルートは、趣旨上只みたいな値段で入手できますから……」

「で、何を私どもに?」

 ハムの問いに店長は

「フードバンクと言うビジネスに、子供のボランティアと言う善意の糖衣を被せて頂きたい。勿論、コンビニ弁当などについては、本来のボランティア目的に活用して貰います。ちゃんと子供達の純真な善意を裏切ったりはしませんよ。私としては、それをカモフラージュに規格外野菜を惣菜加工して利潤を増やすだけです。既にジョーカーネットワークで有志を募っていますが、ハム先生方にも助力をお願いしたい」


 さて、ジョーカー達が活動を開始すると、まもなくそれはジャスティス達の情報網に引っかかった。

 暫くした土管下の秘密基地。

「ほう。フードバンク。さような物をジョーカーどもは企んで居るのでござるな。しかし、物を大切にするという意味で、これのどこが問題なのでありましょうか?」

 指令代行は思わず感心。

「しかし、問題は別のところにあります」

 ペルソナのケイは概要を説明する。

「結局、善意のボランティアを出汁に使って、不正競争を企んでいることには間違いありません。最近では子供達まで善意の名を借りた悪事の片棒を担がされています」

「うむ。どうすれば良いものか……」

 聞けば、安価な食料のために助かっている人達も多いと言う。だから単純に叩き潰しては拙い。しかし、放置するのは危険だ。

 ジョーカーの表向き有益な行動を邪魔せずに、野望だけを阻止する方法は無いものだろうか?


●正論攻勢

 知立会館の一室。

 残暑厳しい愛知の9月。三つ揃えのスーツにレジメンのネクタイ。本格的なビジネスフォームの如月・達哉。

「日本の食糧輸入量、そしてゴミとして廃棄される食糧。生産調整の名の下に闇に葬られる食料。これらを冷徹な数値として比較する時。『もったいない』。今こそ日本伝統のこの言葉を考え直さねばならないだろう」

 会議を主催する達哉は、寧ろ盗聴したければするが良いとばかりに声を強める。

「『もったいない』とても良い言葉ですね。日本人らしい言葉と申しましょうか。昨今では海外でもちょっとしたお話になっているそうですね」

 氷室葉月は目を細めた。彼女は生粋のお嬢様育ちであり、いたって質素で厳格に躾けられている。

 ハムはさもあらんと一言添えた。

「なんでも、葉月さんが3歳のみぎりの海外旅行。子供のこととて、一般車両でゴミを通路にポイ捨てする真似をしたら、次の列車はわざわざ一等車を取ったそうですよ。塵一つ無い清潔な床に圧倒されて先ほどのようなポイ捨て出来ない葉月さんに向かい。お爺様が『葉月、捨てろ。なぜ捨てんのか!』と叱り付けたそうです」

 昔のことを持ち出されて頬を赤らめる葉月。列車が綺麗だろうが汚かろうが、祖父は他と同ずることを戒めた訳である。

「ひえー。やり方が物凄くノーブルだね」

 記者として密着取材に来ている形になっている比良賀・ソラが感心したように声を漏らした。


「問題は不逞の輩だな?」

 寒来・玲那は心の底から、ジョーカーをボランティアやエコロジーまでする立派な人達。ジャスティスを嫌がらせや利益を奪おうとするヤクザまがいの極悪な所業を企んでいる犯罪結社。と信じている。

 そして地域浸透を目的とする諸作戦において、真の目的のための方便を見る限り、必ずしも間違いではないのだ。この地区がジャスティス達にとって厄介な理由がここにある。

 平たく言えば、体良く地域のためを標榜して虎視眈々とジョーカー達が活動しているのが知立なのである。捨て置けばいずれ大変なことになるだろうと予測される。しかし下手に手を出すとジャスティスが悪者になってしまう。故に知恵を絞りジョーカーの企みを封じてしまう。そう言う戦いであった。


 殆どNGO設立のような内容の話し合いが続けられる。

「俺は事前の宣伝や交渉メインかな」

 司葵はマダム達の井戸端会議への参加や、住宅地へのビラの配布。その他、宣伝用のポスター等の計画を述べる。

「駅前ビラ配りに交通課に許可を申請中だよ。近日中には降りる見込み」

 手回しが良い。

「二つに分かれて活動するのが順当でしょう」

 と烏鳩。広報のためのボランティア団体と、利益を追求する企業の謂いである。そして、企業側も最低限の運営費用捻出という形にした方が良い。少なくとも帳簿上は。

「企業側が販売目的で余剰食糧(廃棄予定品)を集め、調理済み惣菜など加工の難しいものはボランティアの主体である数楽塾側に寄付、その他は惣菜加工して販売。企業側が好意で数楽塾側へ食料寄付、輸送や衛生管理を支援しているという体裁ね」

 烏鳩の解説に

「それで、数楽塾としてですが」

 ハムが促すと暫く休職していた鈴生蘭が具体案を提示した。

「それですが、さし当たって数楽塾主催・フードバンク協賛のフリーマーケット開催が良いのではないかと思います」

 保健所や警察など様々な所から色々と許可を取りつけ。市民広報やフリーペーパーなどに情報を流し参加者を広く募る。蘭は続ける。

「塾に通う子達にチラシを配り、興味のある子に手伝ってもらいましょう。フードバンクから野菜や牛乳・小麦粉などを安価で購入し、その際に賞味・消費期限などのお勉強を少々入れます」

「ふむふむ」

 ソラはメモを取りつつ記事を纏める。盗聴されていたとしても、注意深く含みを持たせて話す会話は、どこも怪しく聞こえない。

「総合学習の一環として子供達への食育も兼ね、地域に密着できるかどうかが、肝になりそうだな」

 達哉の一言に、頷く一同。ソラのインタビュー形式に一人一人がコメントして行く。

 有料販売についての質問に、

「世の中には、只で入手したものを有料領布すると、収集コストや移送コストも考えずに不当と考えるお目出度い人が居ります。経費も出ないボランティアは長続きしませんわ。それとも、善意の子供達に過大な負担を掛けろとでもおっしゃるのでしょうか」

 現実主義の烏鳩は容赦ない。


 後は、これらをフラットに編集して、ジャスティスの妨害行動を封じるのみだ。

 その夜。他のメンバーがそれぞれの持ち場で活動を開始する頃。ソラは見えざるジャスティス達に筆誅を下す勢いで記事を編集するのであった。


●借刀殺人

 土管下の秘密基地。ジャスティスの有志達が卓を囲んで作戦会議。

「そいつは無理な相談だぜ。だってよ……」

「いや、あそこが蘭殿の職場なれば……」

 ジャグルス・ディセンバーと房陰・嘉和の言葉に

「なんか面倒」

 組んだ腕の、肘を卓に乗せるマリアベル・ロマネコンティ。

「つまり、敵は鮮やかにこの知立の街に浸透しているのですね」

 紫藤・紫がキリリとした顔でオレンジジュースを口にする。

「勤め先に通うのは当たり前なんだな」

 一人ソファーに横たわる塩澤白兎。どう見ても酷い怪我だ。瀕死の重傷と思って間違いない。

「あのう……」

 丁度スカートに来る視線に気が着いて椅子をずらす紫。

「自分で治せるのですから、さっさと治して下さい」

「にゃはは。この格好も捨てがたいんだなぁ」

「……とどめ、刺して良いですか」

 紫は傍らの鳳凰院烈火に聞いた。

「殺したところで死なないよ。この人」

 棒読みで答える烈火。しかし流石の紫も、死に掛けの白兎に問答無用のジャイアントスウィングを食らわせる訳には行かない。

「謀りましたね……」

 わなわなと震える拳。仕方が無いので烈火と席を替わってもらった。


 さて、怪我人の立場に旨みが無くなった白兎は自らの念動治療で全快。体を起こして会議に参加。

「ヴァカメ! ジョーカーが一部良いことしてるからと言って、手を出しかねているのはナンセンスなんだな。ジョーカーがそこにちょちょいと手を加えれば、恐ろしい作戦が可能になってしまう。今奴等がやっている作戦はその土台部分に過ぎないんだな」

「へー。初めて見た」

 マリアベルは興味深げ。とても珍しい真顔の白兎だ。

「話を戻しましょう。フードバンクをなんとかするって事ですね」

 紫が話を本筋に戻す。

「不正を潰す、ね……んな事言われてもどうすりゃいいんだよ? んな事が簡単に出来るなら今頃もっと住み良い世の中になってるっての……」

 ジャグルスの言に、

「はぁ~。なんかめんどぃ。先ずは実態調査よね。状況把握しないとぉ、てんで見当外れの手を打つことになるしぃ」

 単純にぶっ潰すのは簡単だけど、住民にジャスティスこそ悪の権現とミスリードさせるジョーカーのやり口にアドバンテージを与えるのも癪だ。

「なんで私は、新規参入企業のフードバンクの実態調査をさせてもらうわ」

 マリアベルの立候補に異議はなかった。設営から現在に至る状況を調べなければ、必要経費の算定も不可能なのだ。

「拙者の腹案でありますが。今回のフードバンク利用と、知立のジョーカー地域浸透策への対抗案として、知立近辺の農家よりの、規格外野菜の買い上げを提案申す。肝要なのは、利潤元をより手早く他方に流し、ジョーカー側に渡らせぬ事でありますれば」

 嘉和の下調べに拠ると、知立の農家はおよそ500戸。周辺も含めるとかなりな数になる。

「簡単なのは、こっちでフードバンクを立ち上げちまうってことか?」

 白兎はポンと手を打つ。

 嘉和のプランは、ジョーカーが地域が受け入れ易い形で浸透を試みる以上、方便としての良い行動をそっくり頂いてこちらで運営すると言う方法だ。

「それ、赤字になったらどーするの? それだったら、カツカツ状態にさせて敵の財布を減らすよう仕向けるのも一興じゃん」

 マリアベルはジャスティス運営のリスクを示唆。

「邪魔するだけ成敗するだけが戦いだけじゃあないということを実感するこの頃だな」

 策略派のジョーカーは面倒だ。白兎は、野球の試合で投手攻略のアドバイスに従い、普段の自分とは異なるやり方で芯を食ってボールを場外まで運んだような、なんだか気持ちの悪い感触に襲われるのであった。


●実態調査

 マリアベルはフードバンクの実態を調べ始めた。

 先ず、農作物の仕入れが不定期かつ不安定。農家の収穫にあわせて規格外の余り物を回収して回るが、大量に出る時もあれば1個2個の時もある。こればかりは自然任せの部分である。

 大体数字上のことを掴んだ後で、実地調査。きっちりとセーラー服を着込み女子高生姿。学校の宿題の体裁をとる。

 マリアベルが事実上の無農薬野菜を扱っている農家を訪れると、

 ビニールハウスやネットハウスに案内された。ネットは大根やキャベツなど、アブラナ科の作物を蝶から守るためである。

「何ゆえネット……」

 思わずマリアベルが発した独り言にも、農家の人は丁寧に教えてくれた。

「これが無いと、蝶が卵を産み付けてね。直ぐに青虫だらけになるんだよ。農薬を使ってないからね」

 雑草対策は微生物処置で低減しているそうだ。

 その他、なにやら薄赤い液体を噴霧している場所にも出会った。

「これ、農薬でしょ?」

「生産調整の牛乳を、水で薄めたものだよ。アブラムシに効くのさ」

 乾くと薄いたんぱく質の膜を創り、アブラムシを殺すそうだ。食品利用なだけに安全性は高い。


 別の農家では、

「あ、美味しい」

 ひび割れたトマトをご馳走になる。

「メロンと同じでね。一旦おがった物が、再び成長する時に硬い皮部分を裂いちまうんだ。固まっては再成長を繰り返すと、身は硬いがとてつもなく甘い実が出来るんだよ」

 しかし、これは成長管理の失敗。売り物にはならない。

 あるいは、ひび割れを上手くコントロールできるようになったら、メロントマトとでも名付けてファミレスで扱えるようになるかもしれないが、現状こいつの見栄えは最悪だ。

 だから意図的にこんな風に栽培するのは、ごく一部の食通達か生産者の自家用。実際、その濃厚で甘い味わいは癖になる。

「どうも。お世話様です」

 件の業者らしき人物と遭遇。取引の開始に当たり菓子折りを下げて居る。

 存外に若造だ。このくそ暑いのに三つ揃えのスーツを着込み、名刺を渡して交渉を始めた。流石に口は上手いものだ。

「只で仕入れたものを、お金とって売るなんて。信じらんない。っていうかぁ。ズルイじゃん」

 マリアベルの突っ込みにその営業、達哉は間で含めるように答える。

「相手は捨てるためのお金がいらない、こちらはお金を払わず貰える。これはお互いが納得おり、地域の皆も文句がない事もあり法律上の不正には当たりません。知っていますか? 世界に援助している食べ物は約800万t。対して日本だけで捨てている食べ物はその3倍近い2200万t。それに日本の食料自給率は約4割。食べ物がどんなに大切か分かるよね?」

 そんなこと、言われないでも調査済みだ。敵は正論で来たか。

「でも。只のやつを売るんでしょ?」

 こっちは情緒で攻める。

「必要経費というものがあります。企業である以上、利益を出さなければ働いてくれる人にお給料を出せません。それにこの計画を全国に広げるためにはどうしてもお金が要ります。ボランティアはこの計画の布石でもあり未来への投資です。ご理解いただきたい。どんな高邁な志も、途中で破綻させては社会の迷惑。どんなに勤労奉仕で社会に貢献しても、生活保護を貰う始末では本末転倒です」

 なかなかに手強い。税務署でも無い限り帳簿見せろとは言えないし、一本取られた格好だ。

 話し込み、帰り方向が同じと言うことに話を合わせ、首尾良く車に同乗することに成功したマリアベルは、

「ちょっと待ってくださいね」

 知立のマンションへの立ち寄りにも同行。

 マンションの一室。数楽塾と言うプレートが掛かっている。

 事務所のインターホンを鳴らすと、中からおっさんと若い女性が現われた。

「なんで塾が関わってるの?」

 マリアベルの素朴な疑問。

「はい。こんなご時世ですし、僭越ながら食育に関わるお話ですから」

 と男性講師の山本が説明。

「お疲れ様です。子供達のご家族からのカンパですわ」

 達哉に手渡す女性講師の烏鳩。早速マリアベルが疑問を尋ねると。

「一企業になにもかも負担させろという意見の方こそ理解できませんね。こう言う良い事業は、地域一帯となって育んで行くのが正しいですわ」

 非常に反論し難い論理武装。

「食は教育上も非常に大切です。校内暴力やいじめの激しい荒れた時代、教師が平等に給食を分配させることで、辛うじて崩壊を乗り切った事例も数多くあるんですよ」

 現代における学校給食の教育的意義の論に、マリアベルは圧倒された。


●収支計画

 一方。ジャスティス運営フードバンクの可能性を探る嘉和と烈火。既に下地はジョーカー達が作っていたため、楽勝ムードで交渉は進む。

「うーん。存外に費用が掛かり申したな。運送費は、車ではなく業務用の三輪自転車等を使うとして……」

 そろばんを弾くと、かなりな人的コストが弾き出された。

「これ、ジャスティスでやると拙くない?」

 烈火はカレー屋店長としての経験で数字を見るや、たちまちこの結論に達した。

 殊に紫が実行した活動で新聞社に特集を組ませたせいで、フードバンクが無償ボランティアとイメージされ、コスト経費無視の風潮に拍車を掛けている事も大きい。

 ただ同時に紫は、明朗会計な寄付金を恒常的に募る方向へ舵を切っていたため。人員さえ投入できれば、制度の永続化にぬかりは無い。しかし、いくらなんでもジャスティス有志をここに送り込んでは正義と平和は守れない。

「しからば、この環境でジョーカーに遣らせましょう。拙者らの交渉で相場が変り申して居ります。従来よりも期待利益が削られておりますれば」

 コスト高はジョーカーとて同様。人のためになる儲からない活動に感けさせれば、世の中平和になると言うものだ。


●ボランティア

 数楽塾の二学期。

 巷で今評判のフードバンクに協力することが告げられた。

「あなたはどうすれば、こんな無駄が無くせると思いますか?」

 取材に来ているソラがマイクを向ける。子供達は誇らしげに自分の意見を口にした。

「宣伝にはバザーはどう? こんな風になるんだって体験してもらうの」

 ブランカが提案。

 子供達も乗り気である。だって、新聞の取材を受けて立派な子供として載っかるのは、親にも友達にも自慢できるから。

「それはいい考えですね。山本先生、以前来たという記者の方に撮影お願い出来ますか?」

 蘭が促す。記者とは以前取材に遣って来た『阿蘇談編集部 煤群・真一』の事である。

「皆さん。ここにおうちの人への説明書と承諾書があります。参加したい人は、必ずおうちの人の署名とはんこを貰って来て下さい。無断で参加することは許しません」

 ハムは厳しい口調で宣言した。そして


 知立の駅前にビラが配られる。子供達の絵をプリントしたポスターだ。

「フードバンク?」

「へー。安いね」

「バザーの一種か?」

 反応は様々である。宣伝会場は知立小学校の体育館。

 今日はフードバンクの宣伝のためのブースを備えたバザー最中だ。

 パネル展示とスクリーンに投射される活動ビデオ。スポンサーや提供者、食料配布先の申し込み受付。募金箱も設置されている。

「はい。ボランティアで施設訪問をメインとしている劇団ですか……」

 演技の勉強をしながら慰問活動も遣っている劇団員の相談に、烏鳩が受給者申し込みの手続きを取る。正式に認められている団体ならばどこでもOKなのだ。

「あくまでも有料ボランティアだ。月3万も払えない。金が目的ならコンビニバイトの方が儲かるぞ」

 職員志願者に玲那が説明する。

 道路の清掃奉仕で拾った空き缶を、役立ててくださいと持ち込む子供達も居た。

「ありがとう。きっと役立てますよ」

 葉月の渡す心尽くし。セロファンに包まれた手作りクッキーに喜ぶ子供達。

 会場は心地よい奉仕と善意とに包まれていた。


「ちょっとー」

 マリアベルが、コスチューム蕾でジャンと言う子供姿でクッキーを頬張っているジャグルスの手を引っ張り物陰に。

「なんであんた馴染んでるのよ」

「いや、別に……」

 場の空気ですっかり当世の子供。マリアベルは敵の手強さを感じた。


 会場の盛り上がりは、試みの順調な立ち上がりを予感させる。

 但し、紫の活躍によって収益性を制限されたフードバンクは、多くのスポンサーが付いたものの収支明瞭の枷を着けられたボランティア活動として定着しそうである。

 ジョーカー達は、その受益者に貧しいジョーカーを食い込ませるのが関の山であった。


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