ご近所防衛隊14 しらんぷり
「へへへーん」
しんちゃんは得意げに答案を持って帰宅する。塾での成果もあり今度も100点だ。
でも……。赤ちゃんが産まれて忙しいお母さんはそれどころではない。
「ちぇ」
舌打ちをしてランドセルを放り出す。
「パンジャンドラム。それはゆめ。そしてローリングボムはろまん」
転送のキーワードを唱え、土管下の基地にやって来た。
ところが、正義の味方の基地の人たちも、なんだか様子が変。とても疲れているようで良くあくびをする。
基地の司令は机に突っ伏して寝ている。
「主上はスケベで情事がお盛ん!」
奇妙な寝言だ。
「ねー。おきてよー」
ゆさゆさと揺する。
「はい? 大臣は顔を真っ赤にしました」
起き抜けの反応は、授業中に居眠りして当てられたような感じ。キョロキョロして
「あれ? 寝ていたの」
どんな夢を見ていたのかは知らないが、しんちゃんの顔を見て照れ隠しの笑いをする幼き司令。
「もーいい」
基地も飛び出しどこかへ行く。
当てもなく歩くうちに、やって来たのは怪しげなお店。
「おまじないのお店?」
中はちょっとおしゃれな雰囲気である。今は暇な時間らしく店番が一人。店番をしているのは塾の先生のアパートに住んでる人だ。
「あのね。最近、ぼくみんなから知らんぷりされてる気がするの。みんな何考えているか判らないの。ねえ。ここおまじないのお店でしょ? なんかいいものないの? これで買える?」
サイフから取り出すのは虎の子の全財産。100円玉が1枚と10円玉が5枚。
店番の店員はこくりと頷き、お金と引き替えに狼の絵の描かれたピンバッジを渡した。
ふりがなのある取扱説明書にはこう書かれていた。
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取扱説明書
1.このバッチを着けると、透明人間のようになれます。
2.どこか静かな安全な場所で使いましょう。
3.バッチを回すとあなたの意識は身体を離れ、空を飛んだり透明人間のようにのぞき見したりする事が出来ます。意識だけで動いているあなたは、どんな危険な場所に行っても安全です。
4.戻るときは自分の体の中に倒れ込んで下さい。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「へー。面白そう」
これでみんなが何を考えているのか判るかも知れない。
しんちゃんは喜んでバッジを手にした。
その頃。
「あれ? ここに置いたバッジを知りませんか?」
その日の授業が終わって帰る準備をしたまま、うたた寝していたハム博士が、隣で寝ていたアルバイト講師に尋ねる。
「え? あれ、売り物じゃなかったんですか? 他人の気を引く効果があると聞いてましたが」
「頼まれていたフェロモンバッジは、ここの箱ですよ。机の上のは試作中の精神離脱装置です」
「え?!」
如何にもおまじないグッズ然としたデザインの所為だろうか? 説明書と共に無くなっている。
「訳も分からず使うと、大変なことになりますよ。なんとししても回収して下さい」
ハムは真顔で言った。
そして、その深夜。警察に一人の少年の捜索願が出された。
「本名、早川真。知立小学校2年生7歳……。はい。塾から帰宅後に外出して戻っていません」
連絡はPTAや塾の方にも届けられた。翌日には同じ子供会に属する幼き司令の耳にも入る。
ジャスティスにとって子供が行方不明と言うのは事件。また、この頃にはジョーカーも不安定な発明品を購入したのが行方不明の子供と言う事実が確認され、それぞれのWCNで有志が募られた。
斯くして、それぞれの立場から行方不明の少年の捜索が始まった。
●ジャスティス作戦会議
土管下の秘密基地。只ならぬ様子で集まる面々。
「真の奴が行方不明ってマジかよっ!? 早く探さねぇと……!」
ジャン・ノエルの姿で肩をすくめるジャグルス・ディセンバー。
「ヒロの責任じゃないわよ」
藤堂緋色の肩を叩く漆原静流
「しんちゃんと知り合ったのは去年の7月。もう1年にもなるって言うのに俺達何にも知らなかったんだなぁ」
漆原祐はしんみり。
「もしかしたら、基地のどこかに隠れているかも」
隗より始めよ。祐は基地の物置を見てみることにした。
「……物が多すぎる。えーとヒロは千迄は数えたって言ってたな」
緋色の私物アイテムだけでも山の様。
「ねー。どこから探すの?」
詩音と隼人がお手伝い。各種兵器にコスチュームから装備できる下着クッキーや勝負パンツまで様々なアイテムが積み上げられている。
「うぁ!」
祐はうっかり、積み上げられたアイテムのケースを崩しそうになった。重くはない。しかし、つま先立ちの背伸び状態で支えるのは辛い。
程なく、緋色の差し向けた応援のちびっ子ロボが、ワラワラとやって来て木の台を足下に置く。
「助かった。偉いなお前達」
「でも、居ないみたいだね」
基地内をちびっ子ロボで隈無く探した結果、居ないことが確定した。
「ごめんね。シンジにまで心配掛けて」
駆けつけた涼村シンジに謝る緋色。
「良いってことさ。ヒロ閣下のお陰でアトランの発売部数が倍増してることだし、おふくろの発明品の改良もしてくれたしな」
発明品とは改良型ちびっ子ロボの謂いである。基地の外では役に立たないが、細かな清掃や保守となかなか重宝する形になっている。
「それにしても、何処に行きやがった」
ぼやきながらジャグルスが家に帰ると。
「……おい。嘘だろ?」
No444444が居間のソファーに腰を掛けていた。
『応援に来た』
フリップを見せる。
「いや。今回は学校とか遊び場とか、子供に対する聞き込みなんだ。ご近所が『不審人物』に過敏になってる時期に、シロさん。あんたの格好は……」
これならまだH君のほうが有り難い。どうしようかと途方に暮れていると、シンジがやって来た。
「話は聞いた。俺が手配する」
とかくネタ塗れな男ではあるが、これでも銀河刑事だ。捜査の障害は除く事にはやぶさかではない。
「もしもし。俺だ……ムネンタトヲタノム。……冗談だ。手が空いてたら手伝ってくれ。いや、着用のほうがいい」
無線機で助っ人を呼びだした。
●ジョーカー作戦会議
数楽塾。職員会議の形を取ったうち合わせが続く。
「まあ、子供がどうなろうと知ったことじゃ無いけど、ジョーカー技術がジャスティスに流れると碌な事が無いよね。確実にバッジだけは回収だね」
神楽友貴は乾いた笑い。恐らく精神離脱装置が行方不明の原因だろうと当たりを着ける。
「それで、装置はどんな能力を持っているのです?」
アリサ・エスクード・須藤が尋ねる。装置の事を知らずに迂闊なことは出来ない。
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1.精神を肉体から分離する。
精神が肉体に戻るのに装置の助けを必要としない。
2.精神離脱時の肉体を、代謝1/10の冬眠状態にする。
これに伴い体温低下。密閉空間にいても、水も酸素も通常の10倍保つ。
3.装置を破壊しても停止させても精神は戻らない。
但し、機能停止時点で肉体の維持機能は失われ、通常の昏睡状態になる。
4.精神離脱の長時間実験は行っていない。
長期冬眠状態は一時的な免疫障碍を起こすであろうと予測される。
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「ハム博士。この仕事は高くつきますよ」
霧華がハムの耳元で囁く。
「こういう物を用意してあります」
そっと見せたのは、組織UN系ギガンテス断片資料。但しこれはますますお金が出て行く諸刃の剣でもある。
「小さいね」
ピンバッチサイズの空の筐体を手に取り、アニエスエースは呟いた。かなりコンパクトに詰め込んでいる装置は、まだブレッドボードの筈だ。
「電源だけで半分のスペースをとっちゃうんだよね」
すり替えるダミーバッジを作るのもちょっと骨かも知れない。
「トランシーバとLEDライト程度なら簡単だけど、手を抜いて置いた方がいいかな?」
入手したジャスティスに不審がられない程度の出来にしておく必要がある。
「あ、そうそう。これ精神体を見えるようにする薬」
アニエスの薬に一同険しい表情。
「こ、これは……」
熊の胃とおだまきの根を一緒に齧ったような味がする。
「なんてもん作るんですか!」
ブランカは半ば怒りの声を上げる。
「めちゃくちゃ不味いですわー」
烏鳩も悲鳴混じり。
「味覚神経を刺激して超常視力を活性化させる薬だから、飲み込まずにずっと舌の上で転がしてね」
アニエスの説明に一斉に溜息。どよよんとした空気が漂う。
それでもアニエスの探知機をテストするとかなり感度は良好。漸く皆の表情も弛んで行く。
こうして会議の結果、烏鳩の提案によるジャスティスとの正体を隠した共闘を前提に方針が纏められた。
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1.条件
・7歳……自宅から遠く無くかつ学校や塾、行きつけの遊び場の可能性高し
・母再婚と同時転居……自宅と同等の場所がある
・捜索願……人目に触れていない
・肉体は冬眠状態……ずっと同じ場所に居ることが出来る
・外部が見える場所……離脱精神の外出可能条件
2.該当個所
・秘密基地……不明
・公園……いつも遊んで居る場所、隠れる場所が皆無ならNG
・学校……かくれんぼの要領なら、跳び箱、倉庫、舞台袖口等多数
・自宅……見ていないだけで、押入れ等の可能性有り
・転居前の家……自宅と同じ
・父方の家……近くにある場合(自宅と同じ)
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「とりあえず、塾で何度か話してるんで、精神体とテレパシー会話、試してみますね。範囲に入ってくれればいいんだけど」
宇佐美・冬慈はキャンディーで口直ししているが、なかなか口の苦味が取れない。
「私は塾の友達ブランカと言うことで、烏鳩先生と一緒にあちらに合流して『しんちゃんの本体』を探す事にするよ」
こちらは10回を超えるヨードのうがい薬でなんとか後味を消した。
少年二人は余程苦不味い薬に懲りたらしい。揃って薬を使わずに済む行動を選択する。
「私たちも、必要になってから使う事にしましょう」
葉月の提案に、アニエス以外の者達は何度も深く頷いた。
「あたしは今回も穂村葉月として行動致したいと思います」
伝と手段のある者は皆子供の姿をとる。小学校は児童以外には非常に入りにくい空間だからである。
●聞き込み
昼休み。校庭の『心に太陽を持ての塔』前に集合したのは、緋色とジャン、詩音、隼人、真吾、ミンメイの5人。加えて冬慈、葉月、霧華、ブランカ。烏鳩を介して緋色の元に助っ人達。
「さぁ。手分けして探すよー」
緋色の音頭で一斉に散る。
冬慈と緋色による聞き込みは芳しくない。
「そんなに怖いかな?」
緋色はぼやく。質問の仕方が悪いのか? それとも心の壁があるのか?
「2年の子から見ると、5年生って物凄く大人だよ」
この年代。3年も違えば世代が違うと言って差し支えない。
「うん判ってる。でも、心配してる烏鳩先生のためにも、手掛かりを探さなくっちゃ」
緋色は拳を握りしめた。
その頃。職員室では訪ねて来た烏鳩が、しんちゃんのことで話をしていた。
通りかかった学年主任の先生は、烏鳩のあまりにも深刻な表情を見て母親なのかと勘違い。
「学校の方でも対処しています。お力を落とさないで下さい」
と、声を掛けた。
「いえ。この方は早川くんが通っている塾の先生です」
「あ、失礼しました。あまりお気になさらないで下さい」
(「うぅ。激不味! ヒロの前でも笑顔が作れませんでしたわ」)
アニエスの薬は、別の方向で絶大な効果を発揮していた。
●公園
屋外担当は祐とレーザースキャンでビーグル犬に変身したシンジ。
「謎のおまじないショップか……」
意識を鼻に集め、入り交じった匂いの中からしんちゃんの物をシンジは探る。上靴のすえた匂いには辟易したが同じ匂いをトレースする。
「やっぱり公園に来てる」
シンジに引っ張られた祐は公園の中へ。
「きゃ。可愛い」
折しも、子供を遊ばせに来た若い母親達のグループが公園にいた。
(「う、ヤバイ」)
ちっちゃな子供と言うのは加減を知らぬものである。鼻を抓まれたシンジは大事を取り離脱しようとした。
「だめしょ。わんちゃん吃驚したよ」
子供を抱きかかえて離そうとしたが、むずかるので犬の方を抱き上げた。柔らかな胸に顔を埋め、抱かれるビーグル犬。
「すっかり怯えさせちゃったようね。あ! うちの子が怪我させちゃった。ごめんなさい!」
胸に付いた血の跡を見て、母親は祐に頭を下げる。ビーグル犬の鼻から血が滴り落ちていた。
変身が解けない以上、怪我ではないとはっきり判っている。しかし、それだけになんと言ったら良いものか、二の句が継げない祐であった。
物陰で変身を解くシンジ。鼻血で犬の鼻が使えなくなった。
「ムネン、アトヲタノム」
自分で後頭部をトントン叩きながら、鼻にティッシュを詰める。
「あんた! ホントに無念なのかぁ!」
突っ込む祐の叫びをバックに、シンジは一時脱落。
●郷土資料室
放課後。学校で隠れそうな場所の探索が始まった。手始めは資料室。
蓑笠・当世具足・本物の火縄銃。
中央におかれた知立周辺の地形模型。随所の史蹟に設置された発光ダイオード。
「へー面白い」
詩音はカチカチスイッチを押す。
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「これはなんですか?」
「こき箸ですね。元禄の頃まではこれで脱穀していたんですよ」
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展示物のスイッチで説明ビデオが映し出される。
それを後目に、緋色達は展示されている水車小屋の裏やら、千石船の模型の中やら、念には念を入れて探す。
「しんちゃん居ないねー」
「次行きましょう」
●不審人物
怪しい。何が無くても露骨に怪しい。西洋甲冑で街を歩くシロはどう見ても不審人物。
「旦那さん済みません」
スクールゾーンに入った瞬間、早くも警戒に当たっていた警官の職質。
「やべー。どうしよう」
ジャンは頭を抱えた。今回一番の難題って『親戚の同僚のサンドウィッチマン』ことシロかも知れない。
「もふ。ふもももふもふも、ふもっふふもももふもーふもっ」
プラカードを下げたボンダーくんRXがプラカードを持って登場。
防犯キャンペーンの『いかのおすし』のCDを鳴らしてやって来た。着ぐるみの肩にスピーカーが着いている。
「ボンダーく~ん!」
下校途中の子供達が挨拶する。乞われるままに握手し、パンフを渡して行く。見ると、手にしたパンフは子供のための安全心得だ。
「あ、そうでしたか」
そう言えば、学校を防犯キャンペーンで回っているボランティア団体の話を聞いている。
「ご苦労様です」
制服警官は敬礼。
『なんで怪しまれない!』
フリップを見せるシロに、子供達にぶら下がれてちょっと重たそうなボンダーくんがもふもふと笑いフリップを掲げた。
『根回しと人徳の差だ』
●ラッキーカラー
連れ添い歩く葉月と冬慈。こちらは主に攻めのアプローチ。
冬慈の手には雑誌アトランの古本。今はコンクリートの蓋がしてあるエロ本が湧く井戸で入手した物だ。
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「幽体離脱ってあんまり長い間身体から離れてると
戻れなくなっちゃうんだって」
「生霊もすごいエネルギー使うから、
飛ばせる人っていつも疲れが取れないんだってさ」
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無論、どこかを移動しているしんちゃんの精神体に聞かせるためだ。こんな怪しげな話題も、興味半分で乗ってくる子が結構居る。
「古いな~。それ半年前のアトランだぜ」
ピンク一色に服を統一した男の子が笑って言う。
「え。それ最新号?」
「もちろん」
まさか小学生がアトランを買っているとは。
「えー!! 君買ってるの?」
「まぁね。ヒロちゃんが凝ってるらしいから」
理由は緋色のブログらしい。
「よ~く考えよう。お金は大事だよ」
心配して突っ込む冬慈。
「ヒロさん人気有るんですね」
葉月がにっこり男の子に微笑むと
「やったー! 占いのお陰かも」
ほくほく顔で示す占いページ。獅子座のラッキーカラーはピンク。ラッキーアイテムはアトラン誌最新号2冊とあった。
「占いの内容も随分ですね」
「あそこ、相当経営苦しいって聞いてますよ。お給料も遅配してるとか」
ぼそぼそと喋る二人を後目に男の子は葉月に声を掛けられて舞い上がっていた。
●体育館のステージ下
真っ暗。
「この格子が外れるんだ。俺にはもうきついけどな」
真吾は得意げに説明する。
「中に台があるからそこから伝って出入りできるさ」
念のためにロープを持ってきた詩音がそう言った。出入口のサイズは高学年の緋色達には小さめ。
「ハヤト。お願いできる?」
「まかしといて」
一番年下で小柄な隼人がヘッドライトでさっと身を翻した。
●嫌な話
早川家。
「あまり気にしないで下さい。同じ塾で同じ子供会ですし」
半ば取り乱している母親よりもしっかりとした霧華。
茶菓を出されて話を聞く。
「おばさんのお手製ですか?」
スイーツの味にブランカが年相応の反応。その時だった。
不意に、母親が開け放たれた窓の外に目をやった。つられてブランカが見ると、五月の風の吹き込む庭に一本リンゴの樹。
「どうしました?」
霧華の声に母親は
「今、真がこっちを覗いている様な気がして……」
途端に曇る霧華の顔。
(「うぅこれは拷問です……効果無かったら罰金ものですよ」)
涙で滲んでぼやけて見える。半透明のやんちゃ坊主がそーっとこちらを伺っている。霧華が合図を送るとうち合わせ通りにブランカは
「このまま見つからなくて捜索打ち切り、になったりしませんよね?」
と、真に聞こえるように言う。
「不謹慎です。ブランカさん。直ぐ近くに居ますよきっと」
窓際に進んだブランカはとても深刻な顔。勿論薬のせいである。うっすらと見えるしんちゃんに向かい
「野犬や烏に食い荒らされたしんちゃん見つけるのは嫌だな」
小声で母親に聞こえぬようにぼそりと聞かせた。しんちゃんの表情に不安の色が浮かび、慌てるように空に飛んだ。
「今、体を確認しに向かってます」
ブランカは仲間に無線で報せた。
●人気者のバッチ
体育館のステージ下で早川真は発見された。ぐったりしてい意識はない。
「しんちゃん。しっかり」
呼吸と心臓の音が正常でないしんちゃんに、霧華が手際よい処置を施す。
先生が来る前に119番とAEDその他の救命危惧を持ち出し万一に備えた応急措置。緋色を含め回りの子供達にはこう見えたはずだ。
(「あった。これですね」)
手当の過程で説明書を回収。チューブを使って人工呼吸を施す手際はプロはだしだ。
「……う……う~ん」
(「精神が戻った。今の内に」)
バッジを服から外しすり替える。
「探したぜ、しんちゃん。心配したんだぜ?」
祐が駆けつけた。そして救急車のサイレント共に到着した葉月やジャン。
「どこですか?」
救急隊到着。担架で運ばれるしんちゃんに付き添う緋色と烏鳩。
こうして事件は落着した。
「バッチ……」
意識を取り戻したしんちゃんの一声。
「ここにありますわ。私とお揃いですね」
葉月がよく見えるように持ってくる。彼女の胸にも同じ狼のピンバッチ。
「それ、流行ってる見たいよ」
今まで余り気にしなかったが、霧華の胸にも同じ物がある。
「ぼく……どうしたんだろ」
「君はずっと眠ってたみたいだよ。……気分は悪くなってない?大丈夫?」
しんちゃん質問にブランカが答える。
「……探してくれたの?」
「言ったろ? 俺はしんちゃんの友達なんだからさ。淋しかったらいつでも駆けつけるぜ。……まぁ、今回はちょっと出遅れちゃったみたいだけどさ」
心配げに覗き込んでいた祐がにこやかに話す。
「ありがと。こいつのおかげかなぁ?」
ポケットにあった説明書には、人気者になれるかも? と書かれていた。
「あのね。しんちゃん。関心を引きたいなら、隠れるよりも、おっきな声で叫べばいいんだよ!」
緋色が叱るように言った。
「ヒロ。今は駄目ですわ」
袖を引き言葉を遮る烏鳩。
「ほんとに……うぅ。本当に心配したんだからぁ~」
緋色は泣き出して仕舞った。
「ジャンから話は聞いてるぜ。……結構早くに親亡くして弟達の世話見てきた俺が保障するけど真のお袋さんは真の事を嫌いになったりした訳じゃねぇよ。ただ、ちょっと赤ちゃんの面倒を見るのに忙しくて手の掛からなくなって来た息子にまで目が届かなくなってるだけでな」
見舞いに来たジャグルスの諭しに、しんちゃんは大きく頷いた。




