ご近所防衛隊11 以心伝心しよう
窓の外に雪が流れる数楽塾。若い女性講師は教材の準備もどことなく上の空。
「はぁー」
そしてため息。
ハム博士は、まるで初恋の真っ最中のような同僚の前で手をひらひら。
「先生。お腹がすきましたね。ラーメンでも食べに行きますか。ひろ」
「!」
ぴくんと反応する女性講師
「どうしました?」
「いっ、いえ!」
「そうですか。ひろさんラーメンでいいですか?」
「あ……はい」
先日、TV局のゲリラ企画でますます繁盛しているひろさんラーメン。
「どうしました? 最近変ですよ」
「あーはい」
気のない返事。ラーメンをすすりながら何気なく外を見ていると
「あれ?」
女性講師はいつになく珍しい光景を見た。
「山本先生。最近、ああ言う遊びをしてる子供達って珍しいですね。みんなゲーム機ばっかでしょう」
「そんなことは無いですよ。学童保育などでは学年を越えた遊びもやってます」
「それにしても多いですね」
「確か20日までノーテレビデー・ノーゲームデー強調週間と言う話です」
どことなくぎこちないその遊び。
「あ、そうだ」
ハム博士はぽんと手を打ち。
「新しい子供の獲得に、イベントをやりませんか? そうですね。チャレラン大会とか。
空気入れで風船を膨らませて割るタイムトライアルなんかも意外と盛り上がりますよ。そうそう、お正月感覚も残っていますから五色百人一首なんかもいいかも知れません」
「五色百人一首ですか?」
20枚づつの組みにして5グループに色分けしてある奴だ。一色だけで勝負なら、直ぐ覚えられるし勝負も早い。試合前に覚える時間を用意すれば初めてでも楽しめる。
「2人一組じゃなくて4人一組のタッグでやれば、準備も勝負もテンポ早いですよ。その他にも、みんなが楽しくなる物を考えておいて下さい。その後は、簡単な立食パーティーにしましょう」
ネットで手伝いを募り、同時に塾のHPで体験入塾のお知らせする。塾のチラシ裏にイベント内容がプリントされ、有志の手で配られた。
目立つ行動である。当然ジャスティス達もその日の内に企てを知った。
●ジョーカー作戦会議
闇鍋パーティーを開いた鈴生蘭の家。
「いや一人勝ちを目指しちゃダメだってくらいわかってるけどさ」
どさっとベットに身体を投げ出し南風極楽丸は大あくび。
台所ではリズミカルな包丁の響き。
「うわ。なにこれ!」
香ばしい香り。
「ケバブですよ」
蘭が出来立てを横に置く。キャロットケーキにチンジャオロース。
「食って良いのか?」
「味見をお願いしますわ」
ほおばる極楽丸。そこへ
「すまんだす。少し探しただがや」
「タケシ! なんでお前が……」
極楽丸の前に現れたのは将棋などの遊具を抱えた丸々坊主の転校生。斎門武道。
(「まるこめ君?」)
烏鳩が見知らぬ男の子にどっきり。ちょっと格好いいかも。
「勝負のすばらしさを実感するには、やっぱ2人用のゲームの方がいいでがしょ? 変わり種将棋なら、普段の実力差は無くなるだす」
そう言って、幾つかの特殊ルールを示した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
・八方桂
桂馬がチェスのナイトの動きをする。成ると金になる。
・反射角
将棋盤の横を鏡と見なし、角が横壁で反射するような動きを取る。
成ると普通の竜馬になる
・獅子王
王将が古い将棋の獅子の動きをする。動きは以下の通り。
周囲2マスの範囲に動く。駒を飛び越えても良い。
隣接した駒を取り元の位置に戻ることも可能。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「へー。タケシおまえ頭いいな」
極楽丸は感心する。将棋の強い奴ほど、このルールだとポカをやりそう。
「なあタケシ君。あなたもジョーカー?」
「やっぱり判らないべか。あっしはブドウ・サイモンだす」
「「ええーーー!?」」
●ジャスティス作戦会議
土管下の秘密基地。
「いよぅ、今回はこっちのがいいかな」
ご近所の子供達にはジャスティスハートで有名なヴァルテ・シザー。
「ふもっふ。ふもふもふももっふ(相良宗一郎だ。特命を受けて参加した。よろしく頼む)」
二人の大胆な登場に、藤堂緋色は
「その格好で登場すると子供たちのウケはいいかもねー。トシマサの存在で子供たちがあの劇のこと思い起こしてくれれば、みんなで知恵や力や勇気を出し合って槍を作ってヤーンを倒したことなんかも思い出してくれるんじゃないかな。ボンダーくんも宜しく」
「ふももふもーふふもっ(中略)、ふもももふもふもももふも(スタンドプレイに走る子供がいたら注意して、仲間と力を合わせる事を促すべきだろう。勝利を分かち合える喜びは、仲間がいてこそだからな)」
「ヒロは塾に来てなかった子たちの中で、なんとなく輪に入りにくそうにしてる子たちに積極的に声をかけていっしょに楽しめたらいいなって考えてるよー」
基本的な方針を確認する。
「あー悪ぃ悪ぃ」
一番遅いのは矢張り漆原祐。住人の波佐見稔雅や助っ人に来たボンダーくんRXと違い、高校生だから帰りが遅いのだ。祐はシザーを見るなり
「お、俺は猫耳着けないからな!」
叫んだ。シザーは爪で色々傷つけないように猫グローブを装着していたのだ。チャオの差し金なんだろうか? 最近猫アイテムをよく見かける。腐のエネルギーと猫パワーに翻弄される最近の自分は、呪われているとしか思えない。
「もふ」
ボンダーくんが特有のオーバーアクションで何かの冊子を緋色に手渡そうとした。
「Σ! ヒロには早い。早すぎます!」
ひったくるように取り上げる。
「タスク。どうしたの?」
冊子はレクリエーションのレポートだ。
「顔色悪いよ」
緋色がおでこを合わせて
「うん。熱は無いみたい。ちゃんと寝てる?」
ベットを勧められる。
「ああ。ちょっと疲れてるようだ」
大きなフェレットの抱き枕。それに頭を置くと
「ふもももふもも」
ボンダーくんが毛布を掛けた。
●出迎え
準備万端。塾解放の日はやって来た。
「みんな今日は来てくれてありがとうございますわ」
烏鳩は笑顔で子供達を迎える。特に小さな子供は、抱き上げたり頭を撫でたり、とスキンシップ。
「先生。沢山来たよね。ヒロびっくりだよ」
ぎゅーっと抱きしめる烏鳩。
「せ、先生、苦しいよう」
思わず力が入りすぎた。慌てて腕を緩め、ついでに頬まで弛んだ笑顔で子供達に呼びかける。
「塾の子も体験の子も、そんなの関係なく皆で仲良く楽しんでいってね。最後には美味しいお料理も用意してるからたっぷり遊んで頂戴」
「先生。ヒロの知り合いのお兄さん達が手伝ってくれるって」
緋色は特別ゲストの話を告げた。
「やあ先生」
漆原祐が大きな段ボールを抱えて到着。
「それ、どうしたの?」
「え? 景品。大したもんじゃないけど」
「あなた……まさか買って来てくれたの?」
否定しない祐に烏鳩は
「あなたの気持ちは有り難いわ。でも、こう言うのは違うと思うの」
元より好意の行いである。しかし、筋が通らない。
「判った。俺が間違ってたよ……(でもこれどうする?)」
そこへハムが現れて、
「お使いありがとう。レシートは有りますよね?」
祐に出させると、その金額を支払った。
「折角ですから、塾の催しに使わせていただきますよ」
なんだか悪いことをしてしまったような気に祐はなってしまった。
●ヒーロー登場
さっと姿を現す影。伸身ムーンサルトを決める特徴的なフォルム。
「わぁーー」
男の子達が歓声を上げる。
「ジャシュティスハート参上! 僕ちゃん嬢ちゃん達! 自分達と皆一緒に楽しもうぜぃ!」
体操のお兄さん顔負けの格好良さに、女の子もわくわくしている。だが、彼が女の子にモテモテなのはそこまでだった。
「もふ」
続いて姿を現したボンダーくんに、
「可愛い~」
と先を争って飛びついて
「ふわふわしてるー」
としがみつく女の子達。
「ふもっふ(自分に惚れると怪我するぜ)」
指を立てるが、異常なモテようである。
方やジャシュティスハートことシザー。こちらも子供達にしがみつかれ、おんぶをせがんでよじ登ってくる始末。
「ふっ、もふ」
なんだか勝ち誇ったように見えるボンダーくんに、ちょっと寂しさを覚えるシザー。
ともあれ。子供達は大喜びであった。
●百人一首
取り出したのは五色百人一首。中身は小倉百人一首と同じであるが、20枚ずつ五色の色に分かれているので五色百人一首と呼ばれている。
しかし使い勝手は五色の方が圧倒的に良い。それは五色に分かれているので、一色ずつで試合が出来るからである。一色が20枚しかないので1試合の時間が短くてすむ。という点である。やるのが初めての小学1年生でも1時間に7試合くらい出来てしまうのだ。
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1.2人1組で机を向かい合わせにし、札を十枚ずつ並べる。
出来るだけ相手近くに並べさせる。
2.札を覚える時間を30秒取ってから開始。
3.「先生が札を読みます。何回か繰り返し読んでいる札を見つけて取りなさい」
と説明し、上の句から読む。下の句を何回か繰り返し読む。
4.読んだ札は黒板に札番号を貼って行く。
子供達は札番号を見れば正解かお手つきか直ぐに判る。
5.同時に取った場合は、手が下にある人の勝ち、
判断できない場合はじやんけんで決めさせる。お手つきは相手の札になる。
6.沢山の札をとったほうが勝ち。
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左胸に着ける鉄のプレートにゴム磁石の星。予定する試合の数だけ星が張り付けてある。7試合なので7個だ。試合を続けて行くと一目でその子の強さが分かるシステムだ。
ハムは最初の対戦の時にこう説明した。
・全員起立。
・今日は青の札だけ使います。
・一番最初に、対戦相手と握手します。
・一緒に「お願いします」と言います。
・試合は1対1ですが、札を並べる準備は4人でやります。早い人は隣を手伝ってあげましょう。
・準備が終わったら着席しなさい。
・全員座ってから開始です。
・札を取るときは『はい』と言って取ります。
・どっちが早いか判らないときはジャンケンです。
・黒板に読んだ札の番号を貼って行きます。取った札の番号を見て正しいかどうか判断しなさい。
一勝負を挟み指示を追加。
・勝負が終われば、負けた人は勝った人に星を上げます。
・勝負の後の握手をしなさい。
・お互いに「ありがとうございました」と言います。
7試合終わった後で、星の多寡に応じてハムは横綱・大関・関脇・小結と言った称号シートを子供達に示した。
「横綱は強いので星3個でスタートします。大関は4個・関脇は5個・小結は6個スタートです。7試合しますが。今度から星が無くなったらリタイアです。今回から漆原さんと南風さんと烏鳩先生、そして鈴生先生とボンダーくんが小結。6個スタートです」
栄誉に満ちたハンデ戦である。気が着くと、祐も烏鳩も蘭もボンダーくんも本気になって楽しんでいた。
●チャレラン
「ふ~。楽しかったぁ……あ!」
夢中になって楽しんでしまった百人一首。緋色の戦績は3セット終わった段階で10勝11敗。どっちかと言うと弱い方だ。個人が競い合う事は、もっと殺伐としているようなイメージを持っていた緋色であったが、この和気藹々とした空気は何だろう?
対戦の度に男の子と握手するのは照れくさかったけれど、なんだか前よりも仲良くなれたような気がする。
「試合の最初に覚える時間を取るのがキモだな。歌を暗記してない子でも1枚も取れないって事は無い」
シザーはそう分析した。
「それにしても、ボンダーの野郎。容赦ないな」
3セットが終わった時点で、ボンダーくんは関脇になっていた。
「ふもももも」
なんだか弁解じみた声を上げるが、本気になって勝負していた。
「つよいなぁー」
子供達の尊敬の声。勝つほどにハンデが重くなる勝負だから、それをひっくり返して勝つ者は単純に凄いと思われるのだ。
「さ。次の奴が始まるぞ」
次の種目は一息ハッピーバースデー。ロウソクの火を50cm~1m位離れたとこから腹ばいになって消すと言うゲームだ。だんだん距離を伸ばして一番離れたとこで消せた人の勝ち。点火役は猫グローブを外したシザーが務める。
「ふーーー! はぁはぁはぁ」
1mを超えたところから難しくなる。
「もっと口を細めろ」
提案者だけあって極楽丸は余裕のアドバイス。
「よーし次は1m20」
だんだんと絞られて行く強豪者達。
「高学年の部。藤堂さんは1m10でストップ。残りは佐脇さんと斎門さん、南風さんの3人です」
3人ともライバル意識で鋭い眼光。そして……。
「惜しい! 南風さんと斎門さん1m45でストップ。佐脇さん1m50の壁を破れるか?」
「ふっふーーーーーーー!」
どよめきが起こった。
「佐脇さん1m50クリア!」
「さすが暴行女! 鍛え方が違うね」
「ぴーちゃん!」
おきまりの騒ぎもあったが、いつものことなのでみんな笑っている。
その後も、空気入れで風船を膨らませてパンクされる時間を競ったりと、楽しい時間が過ぎて行った。
●変則将棋
烏鳩は目を配り、エキサイトのあまりのトラブルに対処。そのためか、対応に少し偏りが生まれた。シザーの目には、どうも緋色をマークしているようにしか見えなかったのだ。
タネを明かせば、緋色の人気が有りすぎることが原因だ。可愛く、活発で人当たりがよい緋色を前に、男の子達がいい格好をしようとする。自然、烏鳩の動きも緋色中心に為る道理。
どことなくシザーの敵意を感じるジョーカー。そこに
「ジャスティスハート。勝負だべ」
斎門武道と言う緋色と同級生くらいの男の子が、将棋盤を持って挑んできた。特に嗜む訳ではないが、シザーも結構指せる口だ。隣では祐が極楽丸と対戦。
「手加減は無用に願うべ」
但し、ルールが少し異なる変則将棋。八方桂・反射角・獅子王のルールを示した後。チーム対戦だ。基本的に差しの勝負だが、チームメイトはアドバイスできる。
「おぁぁぁ!」
シザーが本気の悲鳴を上げる。うっかり桂馬を成って仕舞った。
「えぇぇ!」
駒を飛び越えた獅子王に竜王を取られた祐の悲鳴。
なまじ将棋を指し慣れていると、こういう変則ルールではついポカをやってしまう。頭が柔らかい子供ほど、変則ルールを使いこなす。
「初心者でもアマ初段に勝つこともあるルールだす」
結果はシザーが投了。祐が王手詰みと言う結果に終わった。事前に変則ルールで練習していた成果である。
●立食パーティー
ゲームが終わると立食パーティー。既に準備は終わっていて後は仕上げ。
「50ccの量れるスプーンと30ccの量れるスプーンを使って10ccを量るには?」
ソースのブレンドをしながら蘭は出題。
「先生。こんなとこで問題ですか?」
問題を受けた女の子はちょっと考えて
「30ccのスプーンから50ccに移します。50ccに入るのはあと20cc。だから30ccのスプーンから移せるだけ移すと、30ccのスプーンに10cc残ります」
「ご名答」
どんと突き出すたこ焼きの型。既に溶いてあるホットケーキミックスを使ってたこ焼きケーキを作ってみる。チョコ・苺ジャム・マーマレイド・メイプルシロップ・蜂蜜・レーズンにナッツ、練り梅。檄カラスナック入りもある。
ピックで器用に形作る極楽丸に、暴行女ことひづきは
「ぴーちゃん。公立落ちても大丈夫だね」
公立中学に試験は無い。そっと特性檄辛サルサ入りを彼女の皿に載っけたが。
「ぴーちゃん。まじお店出しなよ。きっと繁盛するよ」
美味しかったらしい。どれと自分も口にすると
(「美味い。本気で考えてみようかな?」)
キャロットケーキとチンジャオロースを皿に並べる烏鳩。良い香りが辺りに漂う。
サンドウィッチ・エビチリ・唐揚げ・カレーを絡めたスパゲーティー・一口ハンバーグ……。テーブルにずらり並んだ料理の数々。
そして
「ヒロ! ヒロヒロヒロ……」
緋色の大安売りは烏鳩。
「ご奉仕します。ご主人様」
どこで手に入れたのかメイド服。大胆無敵のその姿。烏鳩のみならずシザーもボンダーくんも、目を奪われる。祐なんぞは声を荒げて
「ヒロ! お兄さんは許しません!」
「きゃあ! 先生ぇ」
バタンと卒倒する烏鳩。
(「あー、確かに情報通りの耳年増だす」)
斎門ことBは苦笑い。
自分が原因とも判らず介抱する緋色を見て祐は
「ヒロ……恐ろしい子」
と乾いた声で言ったとか言わないとか。
「どう? このジュース」
蘭が緋色に聞いた。
「凄く美味しいです。お代わりありますか?」
「ふーん。じゃあ。これで苦手な物は減った訳ね」
ジャーンと取り出す材料には、ニンジンとピーマンが含まれていた。
「ピーマン……」
軽い眩暈を覚えるのであった。




