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ご近所防衛隊10 たいへんだぁ

『十字架の 主もむせ返る 酒の息』

 賛美歌が流れ、ゲームの予約が締め切られ、ケーキやオードブルの見本が目に着く。クリスマスに向けて流れて行く街の風景。もう直ぐやって来るプレゼントにお年玉。子供達を待つ楽しい冬休み。

 だがその前に、いやーんな関門。人はそれを通信簿と呼ぶ。そして、受験生には厳しい季節だ。

『世の中に 絶えて受験のなかりせば 春の心はのどけからまし』

 誰が詠んだか戯れ歌を、小学生まで口にする昨今。

「なぁ。聞いたか?」

 今、知立に一つの都市伝説が生まれようとしていた。


 土管下の秘密基地。

「オス! 何か情報あったか」

「なんかここも大変ね」

 いつもの高校生のお兄さんと同じクラブのお姉さん。

「うん。今ケイに調べて貰ってるの」

 幼い司令は、先日の騒ぎの後始末に動いていた。幸い、ひろさんラーメンを襲撃?した怪獣の目撃情報は無い。その代わりに都市伝説のように広まっているある噂。それによると、被害に遭ったのは何れも学校や塾の帰り。気晴らしの寄り道を楽しんでいると、おさげの可愛い女の子が現れるのだと言う。寂しそうにしているので話しかけると、いつのまにか時間が過ぎ去り。夜遅くに為っているという。

「別れて帰る途中で、後ろから柱時計の化け物に襲われるって言うのよね」

「これってやっぱり九十九神か?」

 考え込む高校男子。

「できれば応援してあげたいけど、この人バイトの予定が入ってるの。あ、私はまだ未定」

「アルバイト?」

 連れのお姉さんの言葉に、幼い司令は問い返す。

「ほら、今年賀状の季節だろ? 短期バイトとして郵便局で募集してるんだ。機械仕訳できない分の仕訳とか、配達とか。まあ外勤なら、回るついでにパトロールもできるけど」

「そうか。あんまり頼っちゃ駄目だよね」

 幼い司令は笑顔で言う。

「できればなんとかするよ。あの事件の続きなら、放って置けないからな」

 髪をくしゃっと撫でながら、約束した。


 その頃。ハム博士の研究所。ハム博士が招いたジョーカー達に説明している。

「件の九十九神ですが、殆どの物は元に戻りました。しかし例の柱時計だけ行方不明です。どうもまだ動いているようなので、捕獲してデータを取りたい所です」

「で、壊しても構わないの?」

「壊すとデータが取れません」

「年末ですし、こないだのメンバーが集まれるかどうか判りませんよ」

「そうですよね。帰省する人も、コミケに行く人も居ますし。……公募しますか」


「……ってわけなの。ハムちゃんのヘンテコマシンで創った疑似生命体を探して欲しいのよね」

 ネットワークにアクセスしたジョーカーに、ノアは状況を説類した。


●成分分析

 ジョーカーのアジト。南風極楽丸がぼやく。

「やるな柱時計。俺もかわいいじゃなくて怖いって噂されんのがいい!」

 すると香野けむりは手を振って

「無理無理。ぴーちゃんだと……そうね。捕まえて抱き枕にしたら、好きな人の夢を見れるとか。ぴーちゃん人形を持って歩くと両思いになれるとか」

(「駄目だぁ。俺には致命的に怖さが欠けている」)

 画面に現れる円グラフ。ぴーちゃんの72%はかわいさ・21%は萌え・4%は気の迷い・3%は心の壁。

「こんなん出ました」

 ノアの分析に苦悩する極楽丸。そんな彼を後ろからぎゅっと抱きしめる遠藤遥香は

「どう見ても、あなたは可愛い系ね」

 お姉さまに頬擦り寄せられ、極楽丸は真っ赤。

「ちょっとの息抜きを無駄に長くさせるなんて、幽霊か改造人間か九十九神か知らないけど、是非全国に広めたいわ」

 くすりと笑う遥香。

「受験になんて、ただのテストじゃん」

 極楽丸のつぶやきに

「あなたみたいな子ばっかりだと、私も助かるんだけどね」

 はあっとため息を吐き、

「ん?」

 遥香は物憂げなLily-Bellを見た。

「大丈夫? ちょっと顔色が……」


●仕込み

「爆弾なんて作ってないわよ」

 いきなり物騒な声がする土管下の秘密基地。

「静流さん」

 剣幕にタジタジの波佐見稔雅。

「ヒロ達が作ってるのは花火なんだよね。カウントダウンの綺麗な花火を見せて、想いを果たして上げるの」

「うーん。クリスマスイブの深夜に時計怪人が花火のごとく散る。じゃ無かったのか?」

 材料一つ提供した稔雅が、きょとんとした顔をすると。

「それじゃ、下手すると爆弾仕掛けて回る怪人の都市伝説が出来そうね」

 ちょっと嫌みな漆原静流。

「いや! ……そんな風になるのか……」

「トシマサ。お腹空いてると優しい考えは生まれないよ。はい」

 緋色が持ってきたのはコーンポタージュ。ちゃんと裏ごししてある本格的な物だ。

「これ。静流さん?」

「ヒロだけど。手抜きでごめんね」

「へー。作ったんだ」

 緋色のお手製だとするとかなりな腕である。

「よ! 配達の途中に寄ったんだ。あ。それ美味そう」

 漆原祐の声に

「まだ何杯かあるよ。カップでいい?」

 注ぐとろりとしたポタージュ。祐は一口啜るや

「美味い! これレトルト?」

「えへ。一応ヒロが作ったんだ」

 賑やかな会話に、別作業をしていたR・L・ジーンと房陰嘉和が顔を出す。

「はい、ジーン。ヨシカズもどう?」

「うん。美味いな」

「これは美味でござるな。昨今は舌が贅沢に為り申した。かほどの感激は、院の警護にて茶を喫した時以来にござる」

「院?」

 緋色は首を傾げる。

「これで手抜きかよ」

 祐は真顔で関心。

「いつでもお嫁に行けるな」

 その言葉に頬を染める緋色。


「後ろに隠した物なーんだ?」

 霧島萌がイタズラっぽく微笑むと、

「あー。ばれちゃった」

 手に隠していたのは、うまい棒のコーンポタージュ味の包装。これで作ったらしい。

「コーン・植物油脂・コーンパウダー・ブドウ糖・砂糖・脱脂粉乳・小麦・パセリ・食塩・香辛料・調味料・香料・甘味料……確かに必要な物は全て入ってる」

「でね。ミルクを少し入れたの。具はミックスベジタブルからコーンだけ選り分けて」

 緋色は

「どこで習ったんだ」

 と言う祐に

「てへ。ひ・み・つ」

 と答えた。


●あの子はだぁれ?

 木枯らしが吹く街の中、MTBを駆る極楽丸。3連休が明けると終業式だから殆ど冬休み。探すのはお下げの女の子。

「ぴーちゃん。本気で探してるの?」

「悪かったな」

 極楽丸のケンカ友達、知る人ぞしる暴行女。意外そうな顔をして

「あんた。ひょっとしたらその子に惚れちゃったの?」

 通信簿なんてどうでもいいと思っている極楽丸とて歴とした六年生。中学受験の年齢で、これでも塾に通う身だ。帰りに遭遇していることは十分に想像できた。

「ば、馬鹿言え!」

 事実、暴行女の一言に動揺するような極楽丸の態度。

「ふーん。そうなのぉ」

 おかしさを堪えて暴行女は

「他でもないキミの頼みだもん。探すの協力して上げる」

 結構乗り気。動機はどうであれ応援すると約束した。

「……悪い。ありがとな」

 極楽丸もわざわざ断るほどガキでは無かった。


「うーん。噂には聞くけどね。結構可愛い子らしいよ」

「ありがとう」

 暴行女は頭を下げた。

「大変だね。彼氏がお熱を上げちゃってるなんて」

「そんなんじゃないよ。ぼくがコイツの彼女に見える?」

「そうだ。言って良いことと悪いことがある。誰がこんな暴行女と」

 呼び止めた少年が立ち去った後も、傍目には痴話喧嘩を続ける極楽丸と暴行女。そこへ

「二人とも何してるだべ」

 お味噌のCMに出てきそうな坊主頭の少年が後ろから声を掛けた。

「情報は集まっただがや」

 見かけない顔である。

「誰だおまえ」

 訊ねる極楽丸に、

「あっしが判らないだすか」

 二人とも覚えがない。少年はにこりと笑い

「んなら万全だべ。またあとで」

 行ってしまった。

「誰、あの子? ぴーちゃんの知り合い」

「さぁ?」

 二人とも心当たりは無い。


 その後も聞き込みを続けた二人は、特に塾の帰りに事件が起こっている事を突き止めた。


●数楽塾

 数楽塾も今年の最終日。特に希望した子以外は明日から松が明けるまでお休みに入る。

 講師のハムはいつも通り、時間が来ると黒板に計算問題を5つ書いて、

「3つ出来たら持ってきなさい。○を貰ったら残りを。全部出来たら席で起立」

 と告げた。


「南風さん」

 と、いつもは何も言わず○か×しか着けないハムが、声を掛けた。

「素晴らしい。教えた通りの手順と書き方です。それが出来る子がお勉強の出来る子です。だから、問題と問題の間を指二本開けて、線はミニ定規を使いましょう。ノートを綺麗にすると、賢さがそのまま成績に成りますよ」

 と言い、縦に薄く引いた赤線。そして大きくはっきりと×を書いた。

「あ!」

 即座に極楽丸は理解した。桁ズレのせいで、簡単な部分を間違っている。

「これさえなきゃ○だったのか……」

 当然。直ぐに書き直し、○を貰う。


 席で3人起立した段階でハムは指示した。

「起立している人、黒板で解きなさい。一人一問。ノートを持って来てない人、答えを写して持ってきなさい。写すのもお勉強です」

 当然のように起立組にいるR・L・ジーンが、鮮やかに模範解答を書いて行く。補助算と検算付きのハム先生指定のフォーマットだ。黒板用の定規も駆使して、とても綺麗な仕上がり。

「ジーンさん。とても綺麗です。学校の先生でもそんなに風に書けませんよ」

 ハムが手放しで褒めちぎる。そんなグレードの物であった。にも関わらず顔色が冴えないジーン。

(「やっぱり、誰も子供にしか見えないんだ。ギカしょぼん」)


 こうして、恙無く今年の数楽塾はお終い。帰り支度をしている子供達に、鈴生蘭はお話をする。

「最近、子供が狙われる事件が目立っています。みなさん学校や塾から帰る時には一人にならないようにして下さい。お父様やお母様にも、お願いしてあります。それからもう一つ。残念なことですが、愛知県は北海道を抜いて全国交通事故死ワースト1位とか。冬場は特に事故が起きやすいので、こちらも気を着けて下さい。皆さん、来年全員元気で会いましょう」

 蘭は既に防犯員の腕章を着けている。このまま子供達の安全のために活動する予定だ。

 蘭の言葉に命はちょっと困り顔。

「ミコト。今日は一緒でしょ?」

 緋色は近づいてぎゅっと腕を取る。これで単独行動ではない。

(「でも……どうしよう。子供達が被害に遭ってるのは心配……だから事件の解決は最優先事項……。だけど……解決方法は一つじゃないはず……」)

 テレパシーで伝える命の考え。

「うん。だから上手くやろうよ。ね。ジーン」


 そんな緋色達を後目に。極楽丸はケンカ友達の女の子と、回りの子達に質問していた。

「なあ。お下げと時計の話知ってるか?」

「お下げの女の子なら、こないだ塾の帰りに遭っちゃった。でも、直ぐに逃げ出したんで、時計は見てない」

「で。美人だった、かぁ! 痛ぇ~な暴行女」

「鼻の下伸ばしてる場合じゃないでしょ。キミのために協力してんだからね」


(「なんか、ヒヅキ怖い」)

 緋色は首をすくめるのであった。


 連れだって塾のあるマンションのエレベーターを出ると、玄関フロアに緋色達と同じくらいの男の子が立っていた。坊主頭は珍しくないが、ここまでツルツルなのは珍しい。

「あんたら。お下げの女の子を見た子は居ないだすか?」

 ちょっと変わった言葉遣いの子だ。噂が噂を呼んで、あちこちでこんな子を見かける。

「実は私も探して居る」

 とジーンが言うと

「やっぱ。自由研究だがや」

「……あ、ああ」

 脱力するジーン。そう言う説明で聞き込みをやっているが、今まで誰からも怪しまれたことがないのがショックなのだ。

「なら。一緒に聞き込みするだ」

 知らない子が仲間に加わった。

「じゃあ、ヒロって呼んで」

 握手する緋色に。

「あっしはブドウだす」

 ツルツルの少年は答えた。しかし誰一人、彼がブドウ・サイモンであるなどとは、思いも寄らなかったのである。


●お下げの女の子

 出会ったのは漆原祐。郵便局の外勤の配達で回っている時だった。

「そこで何しているの?」

 思わず口に出た言葉。あまりにも寂しそうに見えたので。

「待っているの」

 女の子の歳は小学校の中学年くらい。祐にはそう見えた。

「お兄ちゃん。行っちゃうの?」

 寂しそうな眼差し。

「ごめんな。お兄ちゃんバイトがあるから……」

(「は! ヤバイ!」)

 慌てて時計を見る。

「……よかった」

 時空が歪んでしまう訳では無いようだ。急ぎみんなに場所を連絡する。

「寂しい……」

 離れるに離れられない祐。根が優しすぎるのだ。せめて、皆が来るまでの間。


●師走の街

 コートの襟を立て、用立てて貰った防犯員の腕章を着け、歩哨のように寒空に身を晒す男。

「……まさかあそこでハネ満とはな」

 呟きの内容と表情は、どう見ても怪しい人。お下げの女の子と時計が出たという路地裏の入口に陣取っている。少なくとも、ここを寄り道しようと考える子供は居ないだろう。


 同じ頃、遥香は近くにあるコンビニや、知立小学校の直ぐ近くにあるマミーは勿論、長篠町は市役所の近くまで足を伸ばしてセガ・ワールド知立に立ち寄り、情報を集めていた。

「ふーん。じゃあ女の子で出会った子は居ないのね」

「うん。それと女の子は凄く寂しそうに見えたって。それから、時計に襲われても死人が出ていないのは、緑の品物を身につけていたからだって」

「さんきゅー」

「あ、お姉さん。約束の」

「いいわよ。一緒にプリクラだったよね」

 小坊や中坊なんて可愛いもの。大人の魅力を使いまくる遥香であった。


 駅前のカラオケボックス。

(「良いんだろうか?」)

 ジーンと命はカラオケボックスで中学生のグループと同席していた。

「ジーンちゃん。何飲む? ドリンクフリーだから遠慮しないでいいよ」

「じゃあ。これを」

「OK! カルーアミルクね」

 テーブルのポテトチップスを摘み、乾杯のコーラを煽る。

「え? ああそうですか。ちょっと待って」

 インターホンで注文していた男の子が、

「カルーアミルクってお酒なんだって。代わりにミルクココアのアイスでいいかい?」

(「いや、わたしは20なのだが。……だんだんこの状況に順応しているぞ……」)

 弩級にションボリ。しかし最早説明する気も起きない。ジーンはこくりと頷いた。

「あ。これ誰?」

 手を挙げるジーン。ポップスとアニソンが入り混じる選曲の中、選んだのはアメージング・グレイス。年季の入ったゴスペルの歌い込みに。選曲している女の子が手を止める。

「ねぇ。命ちゃんは歌わないの?」

「歌は……」

「無理強いしないで。みんな楽しくやりましょう。はい。抹茶オレ到着」

 仕切役の女の子が、カップを命の前に置く。

 集めた情報を元に公園を散策し、被害の再現を試みたジーンと命だったが、お下げの女の子の代わりに現れたのは、塾の打ち上げの中学生集団だった。

「ぱぁ~っとやりましょ。ぱぁ~っと」

 冬の日は短い。まだ5時前だと言うのに、外は暗くなっているだろう。

「寒いでござるな」

 外では風の中、護衛の房陰嘉和が店の前に立っていた。


●今週のライバル

「タスク! ここなの?」

 5分ほどして現れたのは緋色一人だった。お下げの女の子は緋色を認めると

「わたくし、寂しいの……」

 と言葉にした。

「あのね。ヒロでいいならお話聞くよ。タスク、ヒロがやるからお仕事頑張って。うん。一人でも大丈夫だよ」

「判った。ヒロに任せる」

 時計の針は正常だ。時間は普通に流れている。


 女の子は力のない声で話し始めた。

 相づちを打ち、うん。うん。と真剣に話を聞く緋色。

「うん。でもね。ヒロは思うんだ。シロは幸せだったと思うよ。ランちゃんと一緒にいられて……」

「ほんとにほんと?」

「ほんとにほんとだよ。ヒロ、絶対にそう思う」


「あら……こんな所に」

 現れたのは季節柄お腹を壊しそうなおへそ丸出しの派手なコスチューム。知るひとぞしる魔法少女ヨーコであった。

「お下げの子は、女の子の前に現れないって言うけど。噂って当てになんないものね」

 ヨーコはポーズを決めると。

「あなたが今週のライバルね!」

「え?」

 緋色はきょとん。

「……ん、もう。張り合いのない人ね。あなたと勝負するわ!」

「ええっ!」

 新体操のボールのようなポーズを決めながら、作り出す光の玉。

「噂のネットアイドルとお手合わせ出来るのは光栄ね。いくわよ」

 派手な音を立てて崩れるブロック塀。

「ランちゃん。逃げよう」

 緋色はお下げの女の子の手を取って駆け出す。

「ま、待ちなさい!」

 追いかけるヨーコ。そこへ、プシィエンジェルが海豚のオカリナの奏でる「大きな古時計」をBGMに前方から現れるジーンことクェイサードラグーンと命。そして、有無を言わさずレーザーライフルを発射した幻影戦忍・影法師。

「ヒロ殿を狙う以上。容赦せん」

 本気だ。

「角を討って押し拉ぐは兵法の常道。御免!」

 伏せて躱した後方にある庭木が、着弾して枝を落とす。一気に形勢逆転である。

「わらわらと……」

 防戦一方に押されるヨーコ。

「ならば、おまえの相手は私だ」

 Dキャリバーで突っ込んできたクェイサードラグーンは、強引にヨーコを引っかけて河岸を替え。

「まあいいわ。あなたが今週のライバルね!」

 二人の思惑が一致してライバルチェンジ。

「ここならいいだろう」

 離れた河畔で一騎打ちが始まった。


「大丈夫でござるか?」

 影法師が緋色に語りかける。

「……ランちゃんは!」

 気が付くとお下げの少女が居ない。まるで幽霊のように消えていた。


●おかえりなさい

 1時間後。とある路地裏で極楽丸が遭遇していた。

「いつまでだってつきあってやるぜ。あ! ……彼女に為ってくれとか、そんな事じゃないからな」

 台詞が告白っぽくなって居るのに気付きはにかむ。そこへ連絡を受けたヴァルテ・スモークが胸の筋肉をピクピクさせる戦闘員二人を連れてやって来た。

「ねぇお嬢ちゃん。サインの為よ。時計さん呼んで貰えない?」

「キンニク・キンニク」

 戦闘員がポージングで迫ってくるのは迫力がある。

「い、いやぁ~」

 少女の悲鳴。すると、少女の傍らにすうっと手足を持った柱時計が現れた。

「ランに手を触れるな」

 時計の声。

「BINGO」

 ヴァルテは歓喜の声を上げる。

「さぁ。早く捕まえて!」

 襲いかからせるが。所詮戦闘員。時計の一撃であっけなく吹っ飛ぶ。

「あ、あんた達ぃ」

 弱い。あまりにも見かけ倒し。

「力づくかよ」

「そんなんじゃだめだべ。話せばわかるだす」

 現れたのはK=9そしてキャプテンB。顔を見合わせ、どちらも説得第一に考えていることを理解した。互いに手を出しかねているところへ出くわしたのが数楽塾の蘭先生だ。

「あなた……」

 少女を見た蘭は目を丸くした。それは、昔の写真を見るよう。

「ラン……」

 柱時計はチクチクと時を刻む。少女がすうっと宙を飛び蘭に吸い込まれる。蘭は一掬の涙をこぼした。

「お帰りなさい」


●そして伝説へ

 間もなく12時。クリスマスの夜に街に現れた柱時計の怪人。

「5・4・3・2・1」

 知立の空に咲く銀の花。

「クリスマスおめでとう!」

 そう言うと柱時計は姿を消した。

 あの後何があったのかはご想像に任せよう。


 そして数日。

「思いがこもった品物は、不思議なことを起こすんですね」

「結局あれはなんだったんだ?」

 今日の宿を探す稔雅が、霧島萌と話しながら歩いていると、

「サムライおじさんに会ったんだって」

「あれは絶対、昔の時代からやって来た人だよ。言葉遣いが変なんでからかうと、もう時代劇顔負け。猪口才な小僧だってさ」

 出所が何であるか、二人には容易く察しがついた。


 同じ空の下、買い物につきあう極楽丸。

「ぴーちゃん。なんか……疲れてない?」

 荷物はへばる程でもない。

 そこへ小学生が話をしながら歩いて来た。

「おい。聞いたか」

「クレクレバードのこと?」

「うん。コンビニで買い食いして歩いていると、可愛い鳥のぬいぐるみが『俺にも分けろ』って駄々こねるの」

「実は……夕べ逢ったんだ。もーう可愛くてたまんねーの。嫌だというとクレクレって……」

 何故か知らないが、極楽丸が恥ずかしそうに顔を隠した事だけは、記しておく必要があるだろう。


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