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08:軟体なカノジョ

 ゲーム内に閉じ込められたグンバ、デアルガ、センリのプレイヤー三人は、町の防衛戦をボロボロになりつつも、なんとかクリアーした。

 三人は、防衛戦が修了したその日は傷を癒し、休息を取る事にした―――

(文字数:8934字)

 谷の底から、煙が谷の中を通って空へと上っていく。

 空は完全に夜の帳が降り、星が見え始めていた。


「そういやよ」


 『戦車ザリガニ』が土に埋められて、あれからおよそ5時間ほどが経過していた。


「なんだぁ?」


「”ボイル”ってのはちょっと違うんじゃねェか? これは」


「いや、なんか土瓶蒸し的な感じだし……いいんじゃないだか?」


「なんか別の調理法になるような気がするぜ」


 防衛戦は、まだ終了はしていなかった。

 硬くなった盛り土の山は、まだ周囲が火で炙られている。

 山を崩さないように、適度に穴を開けられて、熱を中のほうまで通され、辺りには甲殻類が調理された時に発生する香ばしい匂い。

 ”潮っぽい”特有のものが立ち込めていた。

 ザリガニのHPは、10%……いや5%を既に切っており、あとほんの僅かの状態だ。

 このHPゲージをタイマー代わりに、もう少しだけ蒸してトドメを刺し、更に念のために10分ほど加熱する予定となっている。


「う~ん。おいしそうなカンジ……!」


 センリがフォークと皿を持って待ちきれない、と言った風に声を上げた。

 一応、周囲にザリガニが反撃した時のために兵士が配置されているが、緊張していたのは最初の1時間ほどで、今は既に食事前の準備をしている、と言った様子だ。

 もし、再びザリガニが暴れ出したら大事だが、もうあの硬化した土の山を、自力で破壊するのは流石に無理だろう。

 グンバ達も手当てが終わった後、土山の周りで一応武器を持って座り、待機していた。


「なぁ。もし―――」


「ん?」


 デアルガがグンバに訊ねた。


「源子弾で土の山ごとぶっ飛ばされてたら、どうした?」


「いきなり、どうしただよ?」


「いやよ、なんか気になったんだよ。あの戦闘の最後で、腕の回転を高確率で封じれた、ってのは理解できるんだが、もし源子弾を使って土を吹き飛ばされてたら、お前、どうしてたんだ? そこまで考えてたのか?」


「一応、考える事は考えてただよ」


「どんな手だ?」


「どんな……って、もし仮に源子弾で土の山をふっ飛ばしても、あの硬い山だから無理矢理やったら、多分ハサミが暴発して潰れるだ。少なくとも、すぐには使い物にならなくなるはずだぁ。そしたら、もうブレスかテール攻撃ぐらいしか使えないはずだから、上から岩を落とすとか、ブレスが吐けなくなるまで疲れさせてまた埋めるとか、色々と手があるだ」


「……よくまぁ、そんな色々と思いつくもんだな」


「意外となんとかなるもんだぁよ。ここが”谷”だって事に気づけば。強敵が相手だったから、頭から地形を利用するってのが抜けてて、土ぼこりをふと、舐めた時に思いついたんだぁ」


 デアルガはグンバの回答に鼻で応えた。


「おっ……そろそろ、くたばるな」


 戦車ザリガニのHPが見えないほどに小さくなり、やがて―――ゼロを切ってHPゲージが消失した。

 その瞬間、騒々しい”変なシステムメッセージ”が響いた。


『ミレベッレレシベベベョベベベベンルルルルアア・クッッッリアッププププププププププ!!!』


「!?」


 デアルガが驚いて呟く。


「な、なんだ今の?」


「た、たぶん……”ミッション・クリア”と”レベルアップ”のコールが重なったんじゃないだか? ”C”の強敵相手だから、一気にレベルが……」


 話しているグンバの動きが止まった。


「……レベル、今いくつぐらいだぁ?」


 二人ともウィンドウを慌てて開き、能力を確認する。


「……じゅ、18あるだ」


「俺は……17だ」


 顔を見合わせて、二人は笑みを浮かべた。


「低レベル帯は一気に駆け抜けた感じだなぁ」


「これなら―――森の深くとかにはいらねー限り、フィールドは問題ねェな! 大手を振って歩けるぜ!」


 ちなみに、ファシテイトのレベルキャップは今のところ”120”まで存在している。

 そしてレベルによる実力の振り分けもあり、”20”は初心者から中級者に入る手前、と言う感じだろうか。もう全世界の街道を歩くだけなら問題は無いレベルだ。


「ねぇねぇ~っ! なんか凄い声がしたんだけど! 何なのこれ?」


 センリが二人の元へと駆け寄ってきた。


「そういやあいつにも説明してやらねェとな」


「んだな」


 センリにメッセージの理由を話すと、彼女はレベル20になっていた。



 そしてその10分後、盛り土の山を恐る恐る開いてみる事になった。

 マギーがその役を買って出てくれ、スコップを一つ持ち山を掘っていくと、硬い陶器状のものにあたった。


「んっ? ここだか?」


「気をつけるだよ!」


「わかってるっぺよ」


 マギーはスコップを仕舞って小さなピッケル(小型のツルハシのような道具)に持ち替え、陶器の壁を砕いて掘っていった。

 そしてある所を割ると―――


「おわっ!」


 突然、蒸気が天高く噴出した。

 たが、スチーム・ブレスなどではない。

 一時的に噴出した後は、すぐに緩い白煙となった。

 マギーは一旦、身体を引いたが、すぐにまた気を取り直して周囲を掘り出す。

 やがて―――ほどなく、ザリガニが姿を現した。


「おおーっ……」


 その姿を見て、ある者は安堵し、ある者は食欲を強く刺激されて涎を垂らした。

 ザリガニは完全に茹で上がっており、青かった殻は赤くなっていた。

 所々の装甲が破れた所からは、殻の中身が見えており、硬かった濃い青色の筋繊維は、ピンク色の、いかにもおいしそうな色になっていた。

 ザリガニが死んでいる事を確かめると、後の作業は早かった。

 周囲の盛り土と陶器状の壁を除去し、ザリガニは処分も兼ねて、谷の住人総出で、そのまま食事のメインディッシュとして消費されることとなった。


「かぁーっ!! うんめぇっ!! コイツこんな旨かったのか!」


 皿に載せた切り身をパクつきながらデアルガは言った。

 ザリガニの身はあっさりとしつつも、弾力がある脂身のような感じであり、噛めば噛むほどに味わいが出てきた。

 センリも緑色の身体の中へ、次々と切った身を放り込む。


「おいしーっ! めっちゃジューシー!」


 ぷるぷると身体を振るわせつつ、センリは絶品の味を堪能していた。

 スライムの体の中へ沈んだ切身は、次々に泡に包まれて消化されていく。

 殻ごとでも関係ないようで、かなりの食欲を発揮している。


「ザリガニって意外とおいしいんだなぁ」


 谷のあちこちに鉄板だとか、鍋などの調理器具が持ち出され、ザリガニの切り身を焼いたり、再び茹でたりスープの具材にしたりして、色々な方法で調理がなされていた。

グンバ達は色々なテーブルを回り、あらゆる調理方法で切り身を食べていた。

そして、この町の最初に訪れたレストラン前で、グライズを見つけた。


「あっ、アンタは……」


「ん?」


 グライズもまた、切り身を食していた。

 左腕にはかなり厚く包帯が巻かれており、非常に痛々しい状態となっている。


「お前か……」


「大丈夫だっただか?」


「なんとかな……お前はどうなんだ?」


「オラも大丈夫だぁ。直接は攻撃を喰らわなかったから」


「そうか」


 再びグライズは食事を進め始めたが、どことなく沈んだような雰囲気になっていた。


「そういえば……あの3人はどうなったんだか?」


「さぁな。まだ探しには行ってねぇ。死んでなけりゃいいんだが……」


 そう言うと、グライズはグンバを見て言った。


「そういや、お前の名前を聞いてなかったな。なんて言うんだ?」


「え? いやぁ、別にオラの名前なんて……」


「教えてくれ。頼む」


「……」


 グライズは真剣な眼差しでこちらを見つめていた。


「オラは……”グンバ”って言うだ」


「グンバ、か。憶えておくぜ」


 その時、奇妙な感覚をグンバは感じた。

 名前を聞かれて、ただ答えただけの時間だったが、ひどく間延びした時間であったように思えた。


(……なんなんだろう、この感覚は……)


「まっ、マスタぁー!!」


 突然の呼び声にグンバとグライズが振り返る。

 声の方向を見ると、ふらふらした足取りで、あの三人が戻ってきているのが見えた。

 三人は全員、ボロボロの状態であったが、命に別状はないようだった。


「おお! お前ら、大丈夫だったか!」


 グライズがその姿を見て、調子のいい声を上げる。

 そしてラビラントが、グライズの目の前に出て、跪いて言った。


「申し訳ございません……先程、ようやく目が覚めまして……。あわてて戻ってきた次第であります」


ほかの二人も同じように跪き、グライズに報告を行う。

そして、コボルトが訊ねた。


「あのデカイ奴は……どうなったんでしょうか?」


 グライズが親指をグンバに向けて言った。


「コイツが倒した」


 グンバは一瞬、驚いた顔になったが、グライズの顔を見て、すぐに平静な表情に戻った。

 彼は、先程の戦いを見て、どうやらグンバの事を一目置いて見ているようだった。

 だが、それを知らない三人は瞠目した様子でグンバを見て、言った。


「……えっ?」


「ご、ご冗談を……」


「グライズ様、流石にそれは……」


 三人が口々に”まさか”と言った風に言うが、グライズはそれに対して、やや険しい顔になって応えた。


「俺が……こういう冗談を言うと思っているのか?」


 思わぬ”険のある一言”にたじろぐ三人。


「い、いや、でも……どう見ても倒せそうには……」


「い、いえ……そのような事は……」


「グライズ様ならともかく、ブタ野郎如きに……」


 鼻で三人の口ごもる声を遮り、グライズは立ち上がった。


「コイツは、お前達よりも数段上の戦士だ。少なくとも、精神的にはな」


「……」


 三人はそれをただただ、黙って聞いていた。

 グライズは溜息を短く吐き、言った。


「行くぞ。包帯が緩くなってきた。俺の手当てついでにお前らも見てもらえ」


「ハッ!」


 三人はグライズに連れられ、そのまま仮設の治療所へと歩いていった。

 ザリガニをメインディッシュに据えた宴会は、しばらくするとザリガニの殻と頭の部分を残して、殆ど綺麗になくなってしまった。


「はぁー、美味かった……」


 満足げに言うセンリをよそに、グンバはその残骸を見て、残念そうに言う。


「殻は……やっぱり難しいだなぁ」


それにデアルガが「どうした?」と訊ねた。


「いや、殻がいい防具の材料になるらしいから、できれば回収したかったけんども……倒し方が倒し方だったから、ちょっと使い物にはならなさそうだなぁと」


「そんなにいい素材なの?」


センリが食べかけの殻つきの切り身を身体の外に出して訊ねる。


「軽くて物理・特殊の両方の防御力を持ってる、なかなか優れた素材だぁよ」


「へぇ」


「ま、ボスのボディだからな。確かに価値はありそうだ」


「まぁ、もう使えないのはしょうがないだな」


 そんな事を話していると、マギーがグンバ達の元へと近づいてきた。


「おぉーいっ! グンバッ!」


「マギー! どうしただぁ?」


「いんや、役所の奴等が”クラスチェンジ申請”ってのが終わってできるようになったから、呼んでくてくれって言われただよ」


「おお! できるようになっただか!」


(あの二人が話してると、なんか調子狂いそう……)


 センリが小さく呟くと、デアルガが応える。


(言うな……)



 夜も深まってきた時間。

 三人は役所の方に集結していた。


「で、これから何をやるの?」


「クラスチェンジだぁよ」


 役所の手続きをしているらしい、”転職係”のアントラスに訊ねる。


「時間、大丈夫だか?」


「もうちょっとしたら閉鎖しますけんど、今なら大丈夫ですだ」


「よし、じゃあやるだよ」


 グンバは、そう言って前に来た時にもあった”光の溢れる紋章”の上へと乗った。

 そしてメニュー・パネルを開いて操作を始めようとしたが、ある事に気付いて手を止めた。


「……と、その前にセンリに”クラスシステム”の概要を説明しとくだか」


「俺は問題ねェが、確かに話しておいたほうがいいな」


「クラスシステムって?」


「クラスは”戦闘系”、”生産系”、”調達系”の3系統に分かれてるだ。で、メインクラスとサブクラスを全部で5つ決めて、そこからクラス名が決まるだよ」


「? なんでメインとサブに分かれてるの?」


「能力を細かく設定する為だぁ。例えば―――3つだけど”戦士”+”魔法使い”+”盗賊”って風に設定すると、これならメインが戦士で、バトル中心のキャラだけど、魔法と盗賊の技も少々使える、みたいな感じになるだ。で、全て”戦士”で設定すると純粋な戦士になって、他の事ができない分、パワーのある戦士になる、って所だぁな」


「へぇ」と、鼻でセンリは応える。


「さて……問題は、オラ達のクラス構成をパーティ用にしとくか、それともソロ用に組んでおくか、そこだぁよ」


「? どゆコト?」


「よくロープレで”戦士”、”魔法使い”、”僧侶”ってな感じで役割を分けていたりするけんども、ああいう構成にするか、それとも全員が一人だけになっても大丈夫なように魔法とかもちょこっとだけ使える万能型になるかって事だぁ」


「どういう違いがあるの?」


「役割を完全に分けておく方が、パフォーマンス的には高くなるだ」


「パフォーマンス?」


「あぁー……えーっと、”効率”が良くなるんだぁよ。役割が完全に分かれてるほうが、無駄な能力にパワーの配分をしなくていいから、結果的に全体の性能が良くなるだ」


「じゃあそうすればいいんじゃない?」


 センリの素朴な疑問に、デアルガが応える。


「いや、それだとデメリットも大きいんだ。誰か欠けると、一気に全体がヤバくなる」


「なんで?」


「役割を完全に分けてるって事は、一人欠けたら全体に影響が出るんだ。例えば、戦う奴が居なくなったら、戦うのが苦手な奴が戦うしかなくなるし、完全に武器の扱いに特化した戦士に、いきなり”回復魔法”掛けてくれ、とか宝箱の鍵開けをやってくれっつったって無理だ」


 空中で人差し指を回しながら、デアルガは続ける。


「役割を分けてる、つまり”特化”してるって事は、逆に言えば他の事が”おざなり”になってるって事だからな」


「だから、不測の事態に備えて、全員なんでも出来るようにしようってワケね」


「んだ」グンバが応える。


「う~ん……どっちがいいんだろ?」


「一長一短だぁな。そこら辺はなんとも……みんなは、どうしたいだか?」


「う~む……」


 三人とも悩む。これがゲームなら―――遊びであるなら、気軽に組めるというものだが、今回は遊びではない。このミスが、本当に取り返しの付かないミスになってしまうかもしれない。

 考え込んでいると、やがてセンリが言った。


「あたしは……パーティの組み方がいいかなぁ」


「どうして?」とグンバ。


「その方が面白そう、ってのが一番の理由だけど……なんていうかさぁ、”誰か欠けたら”なんて考えでこの先、進みたくないからさ」


「……」


「グンバ、デアルガ。あんたらが決めてよ。あたしは、戦うためにクラスの調整とかした事無いからさ」


「じゃあ俺はグンバに任せるぜ」


「いぃっ!?」


 思わぬ役振りに、戸惑う声を上げるグンバ。


「俺ぁソロの能力は組んだことがあるが、パーティ用のはやった事がねェ。それに、おめェの方がこういうのは上手そうだしな」


「だねぇ。アンタならいい感じに組んでくれそうな気がする」


デアルガとセンリが期待の目でグンバを見つめる。


「頼むぜ!」


「まっかせったよー!」


「……」


 その”振り”に、ただただ、口をぱくぱくさせて、戸惑うばかりのグンバだった。



 それから―――およそ10分ほど経って、グンバは自分を含めて、三人のクラスとスキル構成を組んだ。


「で、できただ……」


 疲れた声を上げながら、グンバはウィンドウから手を離した。


「おっ、出来たのか!」


「どういう感じになったの?」


「今から説明するだよ。ウィンドウを開いてくんろ」


 考えた末、スキル構成は以下のような形となった。


「ついでに、オラ達がなってるモンスターだとか、モンスター特有のアビリティについても説明しとくだ。まず―――全員のクラスとスキル・アビリティ構成」


■グンバ/プズルオーク/工作傭兵

クラスは”初等傭兵”+”採掘師”+”傭兵入門者”+”戦士”+”工作師”。

スキルは「槌術基礎」、「鉱物加工」、「調理」、「戦技」、「工作技術」、「初級鑑定」。

パラ振は腕力、バイタリティ、感応。やや防御より。

オークは元々の体力がそこそこあるので、そこを活かした構成だ。

戦闘もそこそここなせるが、本業は調達もしくはアイテムを調整したり

合成したりなどの補助系の仕事を大体こなせるようにしている。

モンスター・アビリティは「毒耐性」。毒やマヒへの抵抗力を獲得する。


■デアルガ/ジャンク・スケルトン/砂塵剣客

クラスは”浪人侍”+”剣士”+”マッパー”+”ダンサー”+”砂塵旅客”。

スキルは「剣術基礎」、「剣舞」、「剣闘技」、「周辺感知」、「見切り」。

パラ振は腕力、バイタリティ、敏捷、感応、反射。やや防御よりに振っている。

スケルトンである為に体力を上げづらく、HP上げは諦めて

その分を防御と回避に割り当てている。

剣を用いた戦闘系完全特化のクラス構成で、特に至近戦で力を発揮する。

感知能力も持っており、斥候的な役割も兼ねる。

モンスター・アビリティは「気絶耐性」。スタン攻撃や朦朧とさせる攻撃を受けにくい。


■センリ/グリーン・スライム/盗賊

クラスは”盗賊見習い”+”槍使い”+”魔法士”+”僧兵”+”薬草師”

スキルは「盗術」、「薬草採集」、「槍技」、「初等魔法」、「初等回復術」など。

パラ振はバイタリティ、敏捷、魔力。耐久力重視で、僅かに魔力に振っている。

スピードを活かしつつ、魔法などの技能に慣れる為の構成。

少々特殊な事が多いが、基本も兼ねて組んでいる。

モンスター特性として「微・張力」を持つ。身体に色々な物を貼り付けることが出来る。

これを利用して地面を滑るように移動する事が可能。


「……こんな所だぁなぁ」


「俺はやっぱ剣士スタイルか」


「あたし盗賊なの? 魔法使いがいいなぁ」


「魔法はちょっとムズかしいから、最初は特化するのは止めといた方がいいだ」


「ま、いいんじゃねェか。”魔盗賊”ってな感じで」


「”魔盗賊”かぁ……それならいいかも!」


「今”なってる”モンスターのデータも判明したから、一応見ておくだ」


■プズルオーク

下等モンスターであるオークの中でも、更に下等な存在。

他のオーク達にこきつかわれており、体格も一番小柄。力だけが階級を決める社会であるため、パワーがない彼らは非常にぞんざいな扱いを受けている。

唯一の長所は、劣悪な環境にいるため、少々毒に強いぐらいか。

ちなみに”プズル”とは彼らの俗語で”笑い物”を意味しており、笑われるしか脳が無い、最下級のオークという意味である。


■ジャンク・スケルトン

もっとも低級なスケルトン。一人分の人骨をそのまま使うのではなく

部分ごとに別々の人間の骨をよせ集めて作り出されたため、身体の整合性が取れておらず、とても弱い。非常に簡単な魔術で作り出すことが出来るため、黒魔術学の入門時作成課題に選ばれるモンスターでもある。短刀を持つのがやっと程度のパワーしかないが、レベルが上がれば人間と似た事も出来るようになるという。


■グリーン・スライム

洞窟などで緑の藻やコケを食べて生活するスライム。

最弱のスライムで、形を保っているのがやっと程度の存在。戦闘も不得意、というか殆ど出来ず、レベル上げの一番最初の獲物にされる。中心部分にある目玉がコアの役目も担っており、これを取り上げると身体が霧散して死亡してしまう。


「なんか……あたしらがなってるモンスターってスッゲー弱そうなんスけど……こんなんだったの?」


「ザコモンスターだから、こんなもんだぁよ」


「その割には意外と強くなってる気がするな。レベルが上がったからか?」


 クラス調整を終えると、ほかにやる事もなくなり、寝る事になった。

 そして、三人は宿に大勢の獣人達と共に寝る事に。

 谷の至る所が破壊されてしまったため、寝れない者を受け入れる事となったからだ。

 とはいえ、一応は彼らは三人の個室で寝れることになった。


「なぁ……」


「ん?」


 寝る前に、グンバは二人を前にして言った。


「どうして、襲ってきた奴等とは話せなかったんだろか?」


「どうしてって……」とセンリ。


「いや、ミッションが始まったのと、襲ってきた奴等があんまりにも露骨に敵対してきてたから変には思わなかったんだけども……オラ達はモンスターなんだから、同じモンスター同士、戦うのは変なんじゃないだか?」


 グンバの疑問に、”確かに”と応える二人。

 言われて見れば、モンスター同士で敵対をしているというのは変な感じがした。

 ファシテイトでは、一応種族同士が対立をしているという事にはなっているが……。


「それは……」答える言葉に詰まるデアルガ。


「オラ達が完全に別種族だったから、あんまり変に思わなかったけんども、アントラス達とかは、ヘタすると交流を持っててもおかしくないだよ」


「う~ん……」センリも同じく、言葉に詰まる。


「まァ―――それを明日、確かめに行くんだ。とにかく、今日はもう寝ようぜ。くったくただ。まさかあんなヤバイのと戦うとか、思わなかったからよォ」


「明日はもっと強いのと戦わなくちゃならなかったりして」


「よしてくれ。冗談に聞こえねェ」


 センリの冗談に、本気で嫌がった口調でデアルガは答えた。


「そう言えば……センリ。丁度いいだ」


「ん?」


「オラの本名は”荒金靖樹”って言うだ」


 突然、センリに本名を名乗り、デアルガが驚く。


「お、おい何言ってんだ!」


「いや、なんかセンリは本名で、こっちがニックネームって変だなぁ、と思って」


「本名って……まさか、ニックネームだったの? アンタ達?」


「~~~……当たり前だろ! 仮に外国人でも、こんな名前そうそうねェよ」


「じゃあ、アンタは?」


「~~~仕方ねェな……」


 出来ればミツキは名乗りたくなかったが、この流れでは一人だけ本名を隠していると

いう方が変なので、渋々彼も名乗る。


「俺は”天堂御津貴”って名前だ。コイツとはゲーム友達で、今は同じ高校の学生だ」


「高校生だったんだ……」


「ああ。ついでに言うと……今向かってるのは、日本のファシテイトの運営会社の方だ」


「運営会社……」


「センリ。余計なお世話かもしんねぇけんども、センリもニックネームを考えといた方がいいだよ」


「……ニックネーム、ねぇ……」


 それから、部屋の電気が消えた。

 一日の終わり、大勢の獣人の寝息と共に、スライムの小さな寝息が、二人の人外の者と共に響いていた。



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