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54:”無法”の体現者(16)

 荒金靖樹ことラクォーツは、悪人街の元締めである「ゲダム」を探し出す為、”悪人街”の防衛戦へと参加した。

 午後からの本格的な攻撃が始まると、PK系ギルドの領地「商業地区」において、ファイブ・スターズの「アイドル」クラスであるプリミアが歌い始める。

 ラクは戦況の悪化を止める為、同じく歌唱能力を備えた「ヴェネディア」に協力を求め、彼女の協力と同じく掃除屋の人間と共にプリミアと対決する。しかし、その途中でニクロムとジャグスが裏切ってしまった。

 更にガンテスも倒され、圧倒的に不利となるも、ラクの機転によりプリミアを撃破することに成功した。

 そして逃走する裏切り者二人、ニクロムとジャグスを追いかけるが、商業区が急に静かな空気に包まれ始めていった―――

(文字数:15218)

 階段を降りる中、ラクとストロングはビルの窓から地上の方を確認しつつ、そしてサイモンが少し離れて先に降りながら、三人は地上へと降りていた。

 言うまでもなく、危険を確認しながらである。

 急に、地上付近が静かになったからだ。


(大丈夫か……)


 先に降りたサイモンがハンドサインを送りつつ、二人は注意深く階段を下っていった。

 罠などが仕掛けられているとは思えないが、先に降りたジャグス達が待ち伏せをしている可能性は多いにある。一応、警戒はしておくに越した事はない。

 そんな中で、ラクは自分の能力や持ち物を確認していた。

 これから何が起こるのかわからないが、誰かとの戦闘に巻き込まれ、その時に一々自分の状況を確認してから行動していたのでは、遅すぎるからである。


(あと残ってるのは……もうほぼ基本エネルギーだけか)


 ラクは武器による接近戦と、その補助としてアイテム攻撃をメイン・ウェポンとして戦闘の基本を組み立てている。

 魔法攻撃は使える事は使えるのだが、両立させるとなると大変なので、あまり使用はしないほうである。

 その弊害なのだろうが―――攻撃用アイテムが、連戦によってほぼ底をつきかけていた。

 煙幕玉は先程のプリミア戦で使い果たしてしまい、爆弾系の武器も、もうあと2、3個程度しかない。

 地雷や轟音弾などの補助武器アイテムももう手持ちにはない。

 毒針弾などの弾丸型アイテムが少々残っている程度だ。


(ソウル・パワーはひとまず満タン近いから、3発ぐらいはクラッカーが撃てるけど……)


 魔法使いクラスならば、ある程度休んでヒーリング状態になって回復すれば、また魔法攻撃が可能になるが、アイテム使いとなると弾が尽きればそこまでだ。

 まず補給をしなければならないが、この状態ではとてもそんな事はできそうになかった。


「まずいなぁ……」


「あン? 何がだ」サイモンが訊ねる。


「いえ、実はもう武器アイテムがあんまりないんです。魔法攻撃が少しぐらいなら撃てますが……」


「道具なんかに頼ってッからそうなる。基本的なスキルを鍛えてねぇとよう」


「それはそうですが……自分はどれかに特化するとまずいんで、科術攻撃を主軸にしてるんですよ」


「特化するとまずいってなんでだよ?」


「自分は調達をやってるので……色んな所に行ったり、交渉ごとをやるには、なるべくオールラウンドに能力を上げてる必要があるんです。特化すると、受けられなくなる仕事があるから……」


「なんで全部出来る必要があるんだ? モノ集めるだけなら、移動スピードか、周辺の感知力ぐらいでいいだろ。採集と配達がメインなんだから」


「戦う事もできなくちゃいけないんですよ。モンスター倒して集めるものもあるんで。あと……交渉の時に戦う必要があったときもありました」


「交渉の時?」


「報酬を踏み倒そうとしてこっちを攻撃する人とか、あと戦ってからじゃないと話を聞いてくれない人とかいましたね。色んな人に会いに行かされました」


「……なんじゃそりゃ。おみぃ、やけに面倒事に狩り出されてんだな。普通の学校ギルドに居たんじゃなかったのかぁ?」


「収集も配達もひとまとめにした方がいいんじゃないか、とかそんな理由で自分にお鉢が回ってきてたので……」


「やけにピンチ慣れしてるのはそのせいか。ただの元レベル50台にしては変だと思ってたが……」


「ゴゴフゴゴ、フゴゴッ」


 鼻息を鳴らしてストロングがラクの肩に手を置く。

 ”お前も大変だったんだな”といわれたような気がした。

 ラクは、その間もとある事に関して逡巡を巡らせていたが、他の二人にも話しておく必要があると思い、口を開いた。


「あの……少しだけこれからの事についていいでしょうか?」


「これからの? なんだよう。急に」


「”裏切り者”についてです」


「他にもいるって言ってたアレか?」


「そうです。今、判明しているのは二人だけですが……最悪の事態を考えると、更に何人か居ると思われます」


「……考えたくはねぇがな。おみぃの見立てだと、どうなんだ?」


「数まではわかりません。ただ、あの二人だけだと……今までの事に説明が付きにくいです。突然、防衛ラインの内側に相手が現れたり、悪人街のエリア全域に的確に相手を割り振ったり……あの二人だけではちょっと難しいと思います。心当たりとかはありますか?」


「……いいや。裏切る奴は他には想像できねぇ」


「そうですか……」


「フゴ、ゴ」


 ストロングも嫌々な感じで首を振る。

 彼もまた、仲間の事を余り疑いたくはないようだった。

 悪人街というからには、残虐非道な人間ばかりで、仲間の事など毛ほども信用していない連中ばかりだと思っていたが、彼らは本当に悪党ではなく、”ゲーム中での悪党”である為、その辺りは現実とは性質が変わってくるのかもしれない。


「そりゃお前もわかりはしねぇだろ。仕事一緒にしてるやつを疑って見てるやつなんざいねぇさ」


「”誰が”というのもあるんですが。一つ、気になることがあるんです」


「なんだ?」


「裏切った理由が免罪であるのはわかったんですが……何故―――”政府が出張ってくるのか?”です」


「電子操業省ってのか? そりゃ、ここの奴らが気にいらねぇんだろ。それ以外に理由があるかよ」


「それは今までも恐らく同じだったはずです。普通にプレイしている人達から見れば、悪人街なんて目の上のたんこぶみたいなものでしょう。それが何で今、急にここを潰そうとし始めたのか? と……どうも気になりまして」


「今……って言われてもな」


「恐らく、目標が何か別のところにあるんじゃないでしょうか? 自分は今までの事を考えると、そんな気がします。そしてそれがわからないと……このまま負ける。そんな予感がします」


 ある程度降りると、ラクは再度、ビルの窓から地上の様子を伺った。

 そろそろ、地上の様子が見えてくる。

 戦っている人間達が、どうなったのかを出て行く前に確認したかったのだ。

 すると―――恐るべき光景が目に入り、思わずラクは声を漏らした。


「うッ……!」


「どうした?」サイモンが訊ねる。


「ぜ、全員やられてます……下にいた人たちが」


「何ッ!?」


 ラクが言うと、サイモンも無理矢理身を乗り出して階下を見る。

 地上には―――ただただ”遺骸の山”があるだけだった。

 プリミアが居るこのビルへの道を切り開くため、戦っていたガンテス率いるPKギルド。そのメンバー達が全員、そしてプリミアを守る為に配置されていたプレイヤー達のその骸が、ただただ地面に広がっていた。


「……なんてこった……」


(片側の陣営だけじゃないな……)


 見た感じでは、遺骸は両陣営共に同じほどであった。

 片側が勝利した、というわけではなさそうだ。


「……ッ! あれは!」


 サイモンは階下の入り口付近を見ていたが、その中に何かを発見したようで、突然、血相を変えてビルの入り口へと降りていった。

 ラクとストロングも慌ててそれに続いた。



 サイモンが降りていくと、その先にはアサシンの格好をしたプレイヤーが、全身に欠損ダメージを受けた格好で倒れていた。


(あれは……!!)


「K.K!!」


 倒れているのは、つい先程ニクロムとジャグスを追って行った「K.K」だった。

 慌ててサイモンが駆け寄るが、K.Kは動かなかった。


「……ダメだ。やられてやがる」


「フゴ、フゴ……」


「”誰に?”だって? そりゃニクロムかジャグスか……どっちかだろうよ」


 サイモンは拳を握って悔しげに言う。

 しかしラクは倒れている彼にふと、妙な傷を見つけた。

 そしてある結論に達すると、それを呟くように告げる。


「……いえ、違います。これは……別の相手からです」


「何?」


「ここを見てください」


 ラクは倒れているK.Kの胸の辺りにある、大きな欠損ダメージ部分を指差した。全身に切り傷や痣が目立つ中、一際大きく明滅している部分だ。


「大穴が空いてるな……これが恐らくトドメか」


「一撃でやられています。それも……刃物ではない、みたいな感じです」


「一撃……!? それに刃物じゃないだと……?」


「見てください。胸元に大きな穴が開いてますが、これは反対側の、”背中側”からの一撃です。完全に身体を貫通されてるので、これで即死級のダメージを受けたんだと思います。それに……この傷跡はニクロムさんが使ってた中型の刀でも、ジャグスさんの使ってた大きな包丁でもない。まるで、”巨大な杭”か何かで打ち抜かれたみたいな感じです」


「ハンマー……か? でもそんな大振りのモンに当たる野郎じゃねーだろう」


「……あと考えられるのは”貫手ぬきて”を使われた、とかですね」


「なんだそりゃ?」


「格闘の技です。手を手刀の形にして槍みたいに相手を貫く技で、直撃すればこんな風に大穴が空くはずです」


「おいおい……K.Kが格闘技でやられるわけねぇだろ。オリよりも下手すると身軽なやつだってのに。それにこいつ、いつも鎖帷子くさりかたびら着込んでんだぞ。刃物でもカスった程度なら殆ど効かねぇってのに、手刀なんかでこんな大穴空けられる筈が……」


「……とにかく、周囲を気をつけましょう。これをやった奴が、まだ近くに居るかもしれません」


「フゴッ、フゴゴ?」


 ”これから、どこへ行くんだ?”とストロングが訊ねる。


「ひとまず、これから中央区の方へ行きましょう。一番の激戦区だったので、援護に行かないと……匂坂さんとかも心配ですし」


「一体……誰がやりやがった? こんな事をよう。とても人間技に思えねぇ」


「わかりません。向こう側にも有名な賞金稼ぎがまだ残っていたのか、それとも……匂坂さんが負けて、スターズの人間が一気に攻勢に出たのか」


「冗談じゃねぇぜ。そんな事は」


 三人は状況の確認の為、ひとまずは匂坂とエクスクモが戦っていた場所へと向かってみる事となった。



「おいおい……嘘だろう」


 匂坂とエクスクモが対峙していた交差点へと三人が行くと、どこにも立っている人間はいなかった。

 同じように遺骸が積み重なった光景が続いているだけ。

 立っている人間どころか、生きている人間自体が居ない。


「周囲の状況はわかりませんか? 近くに人がいるとか」


 ラクはサイモンへと訊ねた。

 プレイヤーには周囲を見回すレーダー機能があるが、表示される範囲や精細さには感覚や反射のステータスが関係してくる。

 こういう能力は盗賊などの方が適しているのだ。


「あ~……となぁ。見た限りではわからねぇな。とりあえず、激しく動いてるもんはねぇ」


「広域にしてもですか?」


「もう広域にしてるぜ。狭域レーダーはさっきから散々見てるからな……ん?」


 サイモンがレーダーマップを確認していると、いくつかの反応が現れた事に気付いた。

 商業区の端にある高層タワーの前あたりに、何人かの反応が見えた。


「8時の方向になんか見えるぞ。生命反応モードだから、多分プレイヤーだな。数は……わかる限りじゃ5、6人ぐらいだ」


「5、6人……」


「……いや、もっと居るな。弱い反応が周囲に沢山ある」


「弱い反応?」


「何かまではわからねぇよ。行ってみねぇと……」


「……近付くのは避けたいですね。何があるかわからない以上、遠くから確認できればいいんですが」


「なら、どっかのビルにでも登って確認するか?」


「そうですね。もう少し近付いてから、手ごろなところで確認しましょう。何も把握しないうちに近付くとマズイです」


 三人は、登れそうなビルを探しつつ、そのままサイモンが感じ取ったという反応がある場所まで移動する事となった。

 しかし―――奇妙だった。

 いくら歩いても、生きている他のプレイヤーに遭遇しないのである。

 倒されているプレイヤーばかりが、ただただ地面に転がっていたり、壁にめり込むようにして死亡していたりしていた。

 凄まじい力で吹き飛ばされたような感じだ。

 遺骸の一つを見て、サイモンがやや上ずった声音で言う。


「……なんか恐ろしくなってきたぜ。一体、どんなパワーの奴がこんな事をしやがったんだ。オーガとかジャイアントぐらいのパワーがねぇと、こんな事はできねぇんじゃねぇか?」


「フゴッ、フゴッゴ」


 ストロングが「俺には無理だな」と言った感じで近場にあった遺骸の鎧を軽く叩いた。

 建物の壁には、大柄の騎士型プレイヤーの遺骸が埋め込まれるようにして張り付いており、持っている鎧やら盾やら、大斧やら共々が壁の中にあった。

 レベル自体は高いプレイヤーであるらしく、しっかりと装備を離さずに持っているが、それがかえって喰らった衝撃の強烈さを物語っているようだった。

 全部あわせると、かるく200キロほどはありそうなこんなプレイヤーでも、鎧などがひしゃげさせられ、深々と壁の中にめり込まされている。


(……しかし、変だな)


 ラクは周囲の異常な光景を見て、恐ろしさも感じていたが、それよりも気になることがあった。

 今、こうして遭遇している事に、デジャヴを感じる、というか、”憶え”があるような気がするのである。


(こんな状態、俺は前に遭ったっけな……?)


 どこか、似たような雰囲気。以前感じた事があると自分の経験がいう。

 しかし、それがどこかを思い出せない。

 間違いなく、これは二度目の事態であるとわかるのだが。


「この辺に登って見るか……おい! 新入りとストロングは下で見張りをしててくれ。オリが様子を見てくる」


(まぁ、考えてても仕方ないか……)


 やがて適当な建物を見つけると、サイモンが登ると提案した。

 ラクは今までの経験を振り返って、今の状態と傘萎える事態を思い出そうとしたが、今はそんな事を考えていても仕方ない、と直面している目の前の事に集中する事にした。



 やがてサイモンが登り始めると、2階から声が聞こえてきた。


「なっ、だ、誰だお前ら!?」


 その声に反応し、ラクとストロングが慌てて2階まで駆け上がると、そこには二人ほどのボロボロの姿になったプレイヤーが居た。

 手に武器を持って、サイモンを警戒しているようだった。


「こ、ここから、先は……」


「ん? もしかしてアンタらは……匂坂さんトコの人じゃないのか?」


 サイモンがふと呟くと、味方であることがわかったのか「なんだ」と彼らは空気が抜けるようにその場にへたり込んだ。

 どうやら味方であったようだが、こちらをすぐに判別できなかっただけのようだ。


「大丈夫ですか?」


 ラクが近付いて持っている薬で手当て出来ないか見てみる。

 しかし……見た限りでは、HPゲージも2割を切っており、瀕死の状態で、手持ちのアイテムでは全快は難しそうだった。

 良く見ると身につけている装備は、破壊されているものが多いが、確かにグレードが高いものばかりだ。

 彼らが匂坂の部下というのは、間違いなさそうだった。


「いや、それはもういい。そっちの為にとっておいてくれ……」


「何があったんですか?」


 ラクは思わず訊ねてみた。

 匂坂の部下たちは、皆、相当な実力者である筈だ。

 それがここまでボロボロになっていると言うのは、どういう事なのか。

 サイモン達も同じように訊ねた。


「それはオリも聞きてぇぜ。一体どうしたんだよ? それに、アンタらは確か……直属の人たちじゃなかったか?」


「わ、わからないんだ……」


「フゴ、フゴッ?」


 ”なんだって?”とストロングが聞き返すと荒い呼吸を整えながら、部下のもう一人が言う。


「マスターとエクスクモが戦ってるのを、遠目から見てたんだが……いきなり、遠くで何かが爆発して、それから何十人も吹き飛ばされたんだ。それで、気付いたら防衛線が吹っ飛んでて、外から増援が現れ始めて……」


「はぁ? 何だそりゃ?」


 話を聞いてみるが、要領を得ない。詳細を聞こうと何度か訊ねてみるが、同じような回答が返ってくるだけだった。

 いきなり外側の防衛戦が崩され、外から大量の増援が現れた、と。

 3回ほど訊ねると疲れ果てたのか、彼らは何も言わなくなってしまった。


「ダメだ。これ以上はムリだな」


(どういう事だ……?)


 余程、激しい攻撃を加えられて防衛線が崩れたというのはひとまずわかった。

 しかし―――それなら、相手のほうが残っていなければならないはずだ。

 相手からの攻撃で、こちらが負けたのだから。

 両方とも残っていないという事は、勝ったハンター側が別の所を制圧しに行ったのか?


(いや、それなら押さえにある程度戦力を残すはずだ。何で誰も居ないんだ……?)


「おっ、サイか?」


 これからどうするか、考えあぐねていると、奥の階段から聞きなれた声が掛けられ、そこから一人の影が出てきた。


「じゃがいもさん!」


 出てきたのは白衣姿のプレイヤー「じゃがいも」だった。

 商業区へと入る前にラクは行動を共にしていたが、ヴェネディアを見つけて、彼女に協力を頼むために一旦別れた。

 それから行方がわからなかったが、どうやら彼も無事であったようだ。


「300も無事だったか。突然居なくなるから、もうやられてると思ってたよ」


「いえ、ヴェネディアさんを見つけて、それでちょっと協力を……」


 話し込もうとすると、サイモンが割り込むように言った。


「ちょっと待て、先に聞きてぇ事がある。一体、この辺で何が起きたんだ? さっき匂坂さんの部下に聞いてみたが、全然ワケがわからねぇ。おみぃなら何かわかるだろ。詳しく起きた事を聞かせてくれ」


「……そうですね。先にそっちから話しますか。とりあえず、ちょっと上へきてください」


 じゃがいもに言うと、それから10階まで案内され、そこで話がされることとなった。

 10階まで登ると、そこには黒い鎧を着た騎士姿の人間が居た。

 じゃがいもと共にヴェネディアのファンをやっているという「滝沢」だ。

 彼もどうやら難を逃れ、ここでヒーリングを行っていたようだ。


「おや、新入りにィ……サイモンじゃないか。お前ィらも生きてたのか」


「生憎とな。それより……何でこんな所に溜まってんだ。逃げ出す算段でもしてるんじゃねェだろうな」


「いえ……実を言うと、それも考えてた所です。一気に攻められて、どうしようもなくて、それで……」


 じゃがいもの言葉に、怒った様子で声を返すサイモンだったが、じゃがいもは何も言い返さず、黙ってビルの隅を指を差した。

 そこには双眼鏡が配置されていて、遠くの光景が良く見えるようになっている。

 ”外を見ろ”と言う事のようだ。


「はぁ? どういう意味だ?」


「見ればわかります。とりあえず、確認してください」


 力無く言うじゃがいもを、サイモンは怪訝に思いながらも、ひとまず彼が指差した方を見た。

 双眼鏡を覗き込み、ビルの外のを―――丁度、最初にサイモン自身が「プレイヤーの反応を感じる」と言った方向だ。

 そして彼は言葉を失った。


「……あ……ああ……?」


 ただただ、口を開けっ広げにして、見えたものに対して”信じられない”と言った風にしていた。


「あああ、ああ……!?」


(?、何だ一体……? 何が見えたんだろう?)


「嘘だろう……嘘だろうオイッ!!」


 双眼鏡から顔を離すなり、サイモンは床に無造作に置かれていたダンボールの箱を蹴り上げ、そして傍にあった机を思い切り殴りつけ始めた。

 余程、腹持ちならない光景を見たからなのか、苦悶の声を上げながら何度も拳を振り上げていた。


「ちょっ、何をしてるんですか!」


「うるせぇっ!! 終わったんだ! もうここは終わったんだよッ!!」


「はぁっ……?」


「見て見やがれ!! そこから、向こうの方を!! くそっ……! くそぅ……!!」


 サイモンは、そのまま机に倒れ込む形に身体を崩し、嗚咽のような声を漏らし始めていった。

 ラクとストロングは、恐る恐る同じように双眼鏡を覗き込んだ。

 すると―――そこには信じられない光景が広がっていた。


「うッ……!」


 見えたのは商業区の中でも、もっとも人が集まっている”横浜ウェルサイドタワー”と呼ばれる商業施設だ。

 普段はネット上での通販だとか観光だとかで、人々で溢れかえっている場所である。

 だが、今はその場所には多くのプレイヤーが縛り上げられ、並べられていた。

 どうやら捕縛されているようだ。


「捕まった……のか?」


「中央を良く見てみるんだ。タワーの入り口あたりだ」


 じゃがいもの言葉に、ラクは双眼鏡を動かしてウェルサイドタワーの入り口付近を見た。

 そして、サイモンと同じように言葉を失った。


「え……? な、なんでシエラさんが……!? それに、他の人たちが……」


 見えたのはシエラの姿だった。

 中央で指揮を取っているようにしており、どうも周りのプレイヤー達は、彼女の命令に従っているように見えた。


「な、なんであんな所にシエラさんが居るんだ……!? みんな捕まってるのに……」


「もっと良く見てみろ……」


 サイモンに言われ、他の部分も確認していく。

 シエラのすぐ傍には、匂坂の部下達の姿が見えた。

 皆、縄やら鎖やらで縛られており、全員がボロボロの状態でぐったりとしている。

 どうやら、商業区で戦っていた者の殆どが捕えられ、あの場所へと集められているようだった。

 そして、生きている者だけではなく、遺骸も山のように積み重なっているのが見えた。

 ハンター側の人間が、どこからかプレイヤーの遺骸を持ってきて山へと投げ入れている。

 どうやら生きていても死んでいても関係無しにプレイヤーを集めているらしい。


「な、何を一体してるんだ……?」


 そして、更に周囲を見ると―――見覚えのある姿が目に入った。


「さ、匂坂さん……! それに、他のマスターの方々も……!」


 あの匂坂が、張り付けの様になっている姿が目に入った。

 戦闘狂の、あの超強力プレイヤーであった匂坂も敗北し、捕縛されていた。

 それだけではない。傍にはヴェネディアや、ヤジマの姿もあった。

 掃除屋の人間たちも、敗北し、向こう側に囚われてしまったようだった。

 更に―――アズールやシーカー、リリルの姿もあった。

 強力なプレイヤーであるからか、彼らには単純な縄や手錠などではなく、全身にくさびが打ち込まれていたり、鋼鉄の輪のような拘束具が入念に装着されていた。

 あれでは、もはやどうやっても逃げ出す事は難しそうだ。


「みっ、みんなが……!!」


「……主要な人達は、みんな向こう側に捕まってしまってるようだ。もう―――自分らは負けたって事だよ。その上、まさかマスターの一人が裏切ってたんだからな」


「そっ、そんな馬鹿な……」


「フゴ……ッ……」


 ストロングも同じように双眼鏡を覗き込むと、見えた光景にショックを受けた様子だった。

 しかし、しばらく双眼鏡を覗き込んだ後、突然、様子が変わった。


「フゴッ!? フゴッ、フゴフゴ」


 ストロングは何かを言いたげにラクの肩を叩いた。


「え? 何ですか? ”見ろ”って?」


「フゴッ! フゴッ!」


 ストロングはしきりに双眼鏡を指差した後、左下の方へと指を動かす動作をした。

 どうやら”左下の方を見てくれ”と言っているようだ。


(左下……? どういう事だろ)


 ラクは狼狽する暇も無く、渋々双眼鏡を覗き込んだ。

 そして言われた通りに左下の方、タワー前広場の隅の方を見た。

 すると―――妙なものが見えた。


「あれ……? もしかしてアレ、”エド・ハヤト”じゃないのか」


「あン? どうした?」


「あのギャロットって奴もいる……? 何でだ?」


 ラクがストロングから指示された場所を見ると、そこには学生服姿の少年が奇妙な紋様が描かれている布の上に座らせられていた。

 首から下には幾つもの手錠が適当に付けられており、とても移動する事はできそうにない。

 床の陣は、恐らくはサイキック能力を阻害する為のものだろう。

 そして、余り離れていない場所に兜だけを被った青年の姿もあった。

 あの巨大な鎧を着けていないので、パッと見るとわからないが、顔立ちからあのギャロットであるのがラクにはわかった。

 どうやら装備を取り上げられ、彼も同じように拘束されているらしい。

 頑丈そうな拘束具が付けられ、足にはボーリング大の鉄球付きの足環が付けられている。


「……マジじゃねぇか。なんであいつ等まで捕まってやがる。ハンター側なんだから味方なんじゃねェのか」


「待てよ……そうだ。あいつらはハンターじゃないんだ。じゃあやっぱり」


「は? どういう事だ?」


「少し前に、確かあのウェンファス姉妹のファルが言っていたと思うんですが、最初の……つまり午前中の攻撃をしていたのは、確かに賞金稼ぎ達だった、というのは憶えてますよね?」


「え? ああ、そういやそんな事を言ってたな……午後からの攻撃前に解散させられた、って奴だろ?」


「そうです。それで、殆どの人間が午後からの攻撃には参加していないようだという奴です。しかし……今の光景を見て、確信しました。ここへ攻撃を行ってきたのは、どちらでもない、第三勢力なんです。だからどちら側も掃討されて、生き残ったプレイヤーも捕縛されてる」


「なんでンな面倒なことをしてるんだ? つうか、ハンターでもこっち側でもないなら、何なんだ?」


「”政府側”です」


「政府側……?」


「ニクロムさんが言ってたのを思い出してください。確か……こう言ってたはずです。”俺たちは電子操業省の人間と取引をしている”と」


 ラクが言うと、サイモンは言われて”思い出した”という感じの声を上げた。


「って事は何か? 向こう側にいるのはつまり政府が用意した奴らだって事かよう?」


「そうです。それで追加として、裏切りった人たちを入れているんでしょう。それで、こちらから引き抜いた人達だけで構成してるってのは考えにくいですから―――いや政府側としてはむしろ、なるべく外部の人間は引き込みたくはないはず。だから賞金稼ぎやらではなく、後ろ暗いこっち側の……ニクロムさん達とシエラさんを……追加の内通者として引き入れた、と言う事なんでしょう」


「……姐さんが……そういう誘いに乗ったって事なのか」


「政府側なら何か取引を持ちかけられたって事なんでしょう。そこをちゃんと聞くためにも……もう一度、戦いませんか? 俺は……このまま負けを認めるのは嫌です」


「しかし、い、今更どうしろってんだ。こっちにゃ5人……いや、あいつらは数に入れねぇとして、たった三人しか居ないんだぞ?」


「それについてなんですが……残ってる人たちってのは、本当にもう居ないんでしょうか? 自分らが残ってるぐらいだから、他の地区にまだ残ってるので……と思いますが」


「居たとしてどうすんだ。マスターはもう全員捕まっちまってんだぞ! 残ってるとしても、たかが知れてる。それに……もう掃討が始まってるはずだ。残ってても、そんな長くは生き残れねぇだろうさ」


「……」


 確かに、サイモンの言う事ももっともだった。

 生き残っているプレイヤー達自体は、商業区から離れた他の地区にいるかもしれない。しかし、彼らが戦力になるのか、と言えばそれは微妙だ。

 中心戦力となるマスターなどが向こう側に捕縛されているのだから。


「フゴフゴ、ゴゴ……」


「ん? え、何だって?」


 話し込んでいると、ストロングが何かに気付いたらしく、ラクの肩を叩いた。

 そして双眼鏡の方を改めて指差した。


(何かに気付いたのか?)


 双眼鏡の方を改めてみると、ストロングが双眼鏡の片方を見て動かしていく。

 ハヤト、ギャロット、そして悪人街のマスター達がいる場所を見せて、遺骸の山の方を見せる。


「フゴ、フゴ、フゴ」


「え? 居ない?」


 どうやら”誰かが居ない”と言っているようだ。

 改めてラクはストロングが動かした場所を見てみる。


(匂坂さん、シーカー、アズール、リリル、ハヤト、ギャロット、シエラさん……ヴェネさんに、あのナルミって人も居るな。ん? あれ……?)


 呟いている途中でラクは”誰が居ない”のかに気付いた。


「あ、れ……? エクスクモが居ない」


「あンの野郎も向こう側の奴らとつるんでたんだろ。今更何を言ってやがる」


「いえ、それは無いはずです。それならスターズの面々が捕まってるはずが無い。エクスクモも捕まってるはず……ですが、どこにも姿が見えません」


「タワーの中なんじゃないのか?」


「中には……入っている気配が無いです。何故かはわかりませんが、外にみんな出ています。中に出入りしている様子はない」


「……じゃあ、あの野郎だけ逃げおおせたって事か。薄情な野郎だぜ」


「もしかすると”やっとの事で逃げ切った”のかも。今……あの陣営、何かを探してる風ですけど、もしやエクスクモを探してるのでは……」


「何の理由でだよ。あんなの一人どうでもいいじゃねーか。姐さんが戦力としてついてて、あんだけ他の戦力もありゃあ負けねーさ」


(……そうなんだろうか?)


 ただ戦略的にエクスクモは捨て置いているだけなのか? というのが気になった。

 何かが気に掛かる。今までの情報を総合して、何かが見えてきそうな気がする。

 ラクは頭の中にある情報をフル回転させて、その”何か”が思いつかないものか、と考えを巡らせた。


「政府側……悪人街を潰す、賞金稼ぎ達のほぼ全てを排除……そして、悪人街からは裏切り者……いや、内通者を使ってる……最後に―――”電子操業省”……」


「おい、何をブツブツ言ってんだ」


「……もしかして、彼らはエクスクモを……最初から―――なのか?」


「は?」


 今まで起きた事の全ての”点”を、頭の中で羅列し、そしてその中にあった”不自然さ”、”違和感”を並べていく。

 最後に、それらが全て繋がるような仮定をいくつか考えて、その中で一番しっくりと来るものを探し―――ラクは一つの事に辿り着いた。


「先輩、これは推測ですが……彼らは”最初からエクスクモを狙っていた”と考えてみたら、どうでしょうか?」


「??、何だよ突然、意味がわからねぇぞ」


「考えてみてください。この悪人街への総攻撃は、最初から何か不自然でした。政府の再開発の名目で……と言うことで最初、仕掛けられてきたものですが、そんなものに賞金稼ぎ達が乗るわけがない。どれだけ後で責任が降りかかるかわからないのに。それが、全面戦争が起きない理由でもあったはず」


「そりゃそうだ。ここは電想世界の都市とはいえ、れっきとした”横浜”なんだからな。現実と連動してるんだから、そう簡単に全面攻撃なんてやれねぇ。普通は……」


「そうです。普通ならやらない。でも今回は行われた……それは、スターズの全員がエクスクモの命令で動いたからです」


「……そういう事になるな。それで賞金稼ぎの奴らも、ここを一気に潰せる算段が付いたから、リスクもデカいがリターンもデカいって参加したんだろうよ」


「では動いた理由は何か……? って言ったら、それはエクスクモがチーター嫌いだから。要するに……”政府側がエクスクモを焚き付けた”んです」


「え? あいつが焚き付けられたから? どういう事だよ」


「確か……プリミアが言っていたと思うのですが、自分に関しての”資料”なるものを見せられてから、エクスクモは急に気が変わった。そう言っていました」


「そう言えばそんな事を言ってたっけな……」


「その資料とは、もしかすると……自分のあの”キャラチェンジ”についての事なんじゃないのか、と思います。シエラさんからか、誰かはわかりませんが、とにかくあの現場を映像か何かで取られてて、政府側がそれをエサに、エクスクモは乗り気になった。彼はチーターを死ぬほど憎んでいるから、焚き付けるにはいい材料です。そう仮定すると……ひとつ、確実にわかる事があります」


「何だ?」


「この街は、今回の攻撃で”確実に破壊する必要があった”と言うことです。こちら側の人間と裏取引をしてでも、とにかく確実に壊滅させなければならなかった。では、それは何故か? 勝つのではなく”壊滅”させるってのがミソです」


「絶対に破壊しないとならなかった? そんなのに理由なんてあるのかよ」


「これは普通の対戦とは違います。れっきとした一種の”戦争”みたいなものです。本当なら、一度の攻撃で絶対に勝つのではなくて、最初はこちらに大きな打撃を与えるだけでいいんです。後は、期間をあけて何度かに攻撃を分けてこちらの陣営を終わらせればいい。でも―――今回は違った。”確実に一度で決着をつける必要”があった。それはじゃあ、何か?」


 そこまでを言うと、ラクは大きく息を吸い込んで言った。


「結論から言うと―――政府側は、恐らくこの戦闘の”全責任をエクスクモに取らせる気”だったんじゃないかと思います。誰かが失脚を狙って、と言う感じでこの作戦をエクスクモに取らせるように仕向けたのではないか、と」


「何……!?」


「そう考えると、何で途中からわざわざ賞金稼ぎ達を排除したのか、そして無理な攻撃をしてきたのか……ってのが辻褄が合います。この”最後のトドメ”は、なるべく悪人街の人間、そしてスターズの面々以外に知られては困るから……そして、一度目で決着をつけなければ、”エクスクモを確実に始末できないから”です」


「確実に始末? それはどういう意味なんだ?」


「この戦闘で、エクスクモは勝ってはいけないんです。大きな損害を出しつつも、無事にこちらを掃討出来たら、それはただの実績になってしまう。後先考えずに攻撃を行って、そして自身ともどもスターズは敗北。悪人街を破壊する為に、横浜の街に壊滅的な被害を出した……と言うシナリオでないと、失脚させる材料にはならない。だからエクスクモには、なるべく無様に、ここで死んでもらう必要があるわけです」


「……って事は、もしこのままあの野郎が捕まったら……!」


「ええ、本当にこのシナリオ通りになってしまう。そうなったら……完全に終わりです。エクスクモを……探さないと!」


 サイモンは慌てて動き出そうとするが、どこへ行けばいいのかわからない。

 行き先をどこにするのかを聞かなかった自分にもどかしくなりながらも、彼はラクへと訊ねた。


「お、おい! どうすんだしかし! 探さないとっつっても、あの野郎がどこにいるかとか、全然わからねェぞ!」


「自分もです。もう一度、広域レーダーを使ってわかりませんか? 今は、殆どの反応が恐らくあちら側に集められてるはず。感知能を最大にしてみれば……盗賊クラスならわかるかもしれません」


 プレイヤーが持っているレーダー・システムはプレイヤーの反射、そして感応の能力に応じて周囲の状況が表示されるという形になっている。

 戦闘力的には弱くとも、感知能力が高ければ周囲のレーダー役になれるというわけだ。

 そして盗賊クラスはパワーが低目なので、周囲の状況を確認する術に長けているという訳である。

 更に、プレイヤーの能力は、集中すれば僅かばかりあげる事が可能になる。

 サイモンが集中し、再度周囲をレーダーで見れば、何かわかるかもしれない。


「わかったぜ。面倒だが……」


 座り込み、レーダー画面を開いて他の人間にも見えるようにする。

 そして目を瞑り、精神をひたすら統一する。


「確認はおみぃらに任せるぞ」


 サイモンは呼吸を深く取り、ひたすらに心を沈めて集中していく。

 すると、やがてレーダーの表示が変化し始めた。

 物体の表示が小さくなり、表示されるプレイヤーの数が増えていく。

 広域レーダーの表示が段々と広がっていっているのだ。

 やがて―――商業区の端に、うっすらと緑色の点滅が現れ始めた。


「フゴッ! フゴゴッ!!」


 表示が現れた、とストロングが指を差す。

 非常に弱弱しい反応だが、確かにプレイヤー表示である”緑”のマーカーが表示されている。

 他にも薄い点滅が現れていくが、他のものはモンスターや小動物を現す赤表示である。

 プレイヤーの表示であるのは、ひとつだけだ。


「他に表示が無い……って事は、これがエクスクモだ!」


 しかし、その表示に向かって、いくつかの別の緑マーカーが向かっているのが見えた。

 そこまでが表示されると、レーダーの表示は元に戻り、サイモンが大きく息を吐き出した。集中が切れたようだ。


「ど、どうだ……何か見えたか!?」


「商業区の北西側にエクスクモらしき反応が見えました。ですが……そこへ向かっているいくつかの反応も見えました。向こう側でも確認して、確保しに向かっていると思われます。今すぐこちらでも救出に向かいましょう!」


「救出……お、おいおみぃ、マジで言ってんのかぁ?」


「敵は賞金稼ぎ達ではなかったんです。話せば一時的な休戦ぐらいには持ち込めるかもしれません。それに……どちらにせよ、今のままじゃ、あそこを奪還するのは無理です」


「……ま、やるだけはやってみるしかねェか。おし! ストロング、行くぞ!」


「フゴゴゴゴッ!!」


 サイモンがストロングに声をかけると”待ってました!”とばかりに腕を勢い良く振り上げた。

 そして先頭を切って反応が確認できた場所に向かおうとすると、じゃがいも達が言う。


「お、おい! 300、サイ! 本当に行く気なのか!? その戦力じゃあ……それに、もしエクスを確保できても、協力してもらえる保障なんてないだろ!」


「来たくねぇなら来ないでいい。この状況だ。まだ悪あがきする方がどうかしてるんだ。だが……オリは、姐さんに向こう側に付いた理由を訊ねたい。だから、少しでも可能性があるなら、それに賭けるぜ」


「俺も同じです。俺は……ゲーマーです。ゲーマーってのは執念深く、勝利への道を探るものです。そして、仮に勝てる可能性が低くとも喰らいつける可能性があるなら、それに精一杯挑戦します」


 二人がそう言って向かおうとすると、滝沢が言った。


「待てィよォ……俺ィも行くぜ。3人より4人だろィ。そこまで言われて、すごすごと俺ィだけ撤退できるかよィ」


「BL……なら、自分も行きますかね。ファン2号が行くなら、1号も行かないと。ヴェネ様を助けられるかもしれませんし」


「1号は俺だろォ? ヴェネ様が直々に言ってくれたじゃねィか」


「いいや、1号は自分さ。なんてったって……」


「あー!! ンンなんはどうでもいい!! つべこべ言わず来るなら来い!」


 二人が言い合おうとするとサイモンがそれを止め、有無を言わさない迫力で先頭を歩き始めた。

 じゃがいもと滝沢の二人は”仕方ないな”とばかりに、三人の行軍に加わり、エクスクモを探しに歩き出していった。

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