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05:ギラセル防衛準備

 蟻モンスターの住む谷の町「ギラセル」へとやってきたヤスキとミツキ。彼らはひとまず、ゲーム内での名前をそれぞれ「グンバ」、「デアルガ」と決めて、これからどうするかを考えた。

 取れる手は「このまま助けを待つ」か「日本へなんとか戻る」か。どちらもかなり難しそうだと思案の中、二人は食堂にて、もう一人のモンスター化させられたプレイヤー「世々乃銑里よよの せんり」と出会う。そして彼女から話を聞くと、どうもこの現象に遭遇しているのは一人や二人ではないらしかった。

 そして次の日を迎えると、突然、町を守る「治安維持ミッション」が始まり、彼らは町から逃げるか、それとも戦うのかを選択させられる事となった―――

(文字数:15172)

 太陽が昇って間もない朝早い時間。

 谷の町の各階層では、既にモンスター達がまばらに闊歩を始めていた。

 歩いているのは大半が蟻族モンスターだが、外から来たらしい別の種類のモンスター達も混じっており、その姿は容易に判別する事ができた。

 そして、最上層へと向かう道の途中、二人のモンスターが並んで歩いていた。


■残り時間―――3時間30分


「上に登って、どうする気なんだ?」


「とりあえずこの町の構成を把握しないとまずいだ」


「おいおい、そんな悠長にやってて大丈夫なのかよ」デアルガがグンバに言う。


「まぁ、とりあえず地形を確認するのが初歩の行動だぁよ」


 起床して外に出て、二人のモンスターは、、谷の町の一番上の方へと向かっていた。



 谷の一番上までやってきて、グンバは止まった。

 ここからなら地形を完全に把握する事ができる。

 入る前に、じっくりとは見なかったのでわからなかったが、この谷の役割は、どうも

階層ごとに分かれているようで、旅人らしい別のモンスターは、上の方にしか見えない。 そして下に行くほど人影が少なくなっていき、一番下の方には、殆ど動いているものが見えなかった。


「う~ん……」


「お、おい大丈夫なのか? あと3時間ちょいぐらいしかねぇんだぞ」


「わかってるだよ」


 そう言って谷を見回すグンバ。どうやら、何かを探しているようだった。


「あ!」


 やがて、何かを見つけたグンバは、足早に谷の下へと駆け出していった。


「お、おい!」



「センリ!」


 グンバが降りていった階層では、スライムと蟻が話し合っていた。


「あんた達! 丁度良かったわ。なんか変な表示が出てるんだけど、これ何?」


 スライムはセンリだった。特徴のあるモンスターなのですぐにわかる。

 どうやら、彼女を見つけるために、上の方へと登っていたようだ。


「あら、あんただったかぁ」


「もしかしてマギーだか?」


 それにマギーは元気良く応える。どうも話を聞くと、センリがイベント表示の事を彼に訊ねていたらしい。

 どうやら、センリはこの治安維持クエストについては、全く何も知らないようだ。


「オラ達も二人を探してただよ」


「えっ?」


「とにかく、ちょっとオラ達が居た宿まで来て欲しいだ」


 グンバはマギーとセンリを連れて、最初に居た宿まで戻っていった。



 残り時間―――3時間。


 宿に戻るなり、グンバはテーブルを4人が座れるように配置しなおした。


「さ、とりあえずみんな座るだ」


 グンバの行動の意味が、イマイチ判らず、デアルガは首をかしげた。

 しかし言われた以上……と、3人は着席を行った。


「準備が出来ただな」


「で……これからどうするんだ」


「会議をやるんだぁよ」


「か、か、会議?」と、拍子抜けするデアルガ。


「妙な事をやってるかも、と思うかもしんねぇけんども、色々と考えて辿り着いた重要な事だぁよ」


「色々な事を……ねぇ」


 グンバは道具袋から、何か黒い物を取り出して壁に文字を書いていった。


「黒炭……か? いつの間にそんなもん持ってたんだ」


「何かに文字を書いて、助けを求められるかも知れねぇ……と思って、キャンプでゴミ箱漁った時に、一応拾っておいたんだぁ」


 グンバはそう言って、壁に直接文字を書き始めた。


「な、なにをしてるんだぁ!? ここ、宿だぞ!?」とマギー。


「心配しないでいいだ。あとでちゃんと消しとくから。本当は……黒板が欲しいんだけども、そんなもの無いから仕方なくここに書いてるだよ。


「外でやりゃあいいんじゃねぇの?」


「外だととてもゆっくりは会議できねぇだ」


「会議って、何をやるのよ?」


「それを今から……書くところだよ」


 そう言ってグンバは持っていた黒炭をチョーク代わりに壁に文字を描いていった。

 壁に書かれていた内容は、三つ。


 ・治安維持ミッションについて

 ・町の構造について

 ・この町から逃げるか、戦うか


「まず……治安維持ミッションについてだぁ」


「それって、このウィンドウのイベント欄に出てる奴の事?」


「んだ」


「なんか戦うイベントみたいだけど……これって、この町を何かが襲うって事なの?」


「その通りだぁよ」


「マギー、一応聞くが、この町の名前は”ギラセル”でいいんだよな?」

 デアルガがマギーに訊ねる。


「え、ああ……間違いないけんども」


「何かが襲うって、どういう事なんだぁ?」とマギーが言う。


(やっぱり……)


 グンバがそれを聞いて、やはり、と確信した。


「えっ? アンタ、この表示見えてないの?」


「表示って……なんのことだぁよ?」


「やっぱり、見えてないんだぁな?」


「?」


 グンバがマギー訊ねるが、彼には何の事かさっぱりわからないようだった。

 その質問を聞いて、デアルガがグンバに言う。


「どういう事だ?」


「これが会議を開いた理由の一つだよ。

 ”この町がちゃんと襲撃に対抗できるような状態かどうか”を確認するため、だぁ。

オラたちが普段いた町は、高レベルプレイヤーが守ってがら、攻撃に参加する必要は全くなかっただ。でも……今回は違う。町にいる奴等も、構造も、何度攻撃を受けたかも、まだ知らねぇだ。そして、必要なら戦うか、それとも逃げるかってのを判断するために、

こうして集まってもらったんだぁ」


「逃げる? 戦う? 何が起こってるの?」


「落ちつくだ」


 グンバが戸惑っているマギーとセンリに向かって言う。


「まず、マギー。何が起こってるか、わからないと思うけんども、それを今、詳しく説明している時間はないだ。だから……とりあえず―――オラ達は”普通の旅人にはわからない危機が迫ってるのがわかる”って思っててくれだ」


「普通の人にはわからない危機……?」


「まぁ予知って言うか……とにかく、ちょっとだけ先の未来。今回だと”戦い”が起こることがわかるんだぁよ」


「そうなんだか」


 余り深く考えていないのか、意外にすんなりと受け入れるマギー。


「次に、センリ。今起きているのは、最初に言ったけんども”治安維持ミッション”って奴だぁよ」


「なんなのそれ?」


「敵モンスターが町に向かって侵攻してきて、それを食い止める、って内容だよ。無事に止められれば、町からボーナスアイテムがもらえるけども、失敗すると町が乗っ取られたり、破壊されたりするって内容だど」


「な、何それ? そんなの聞いた事無いわよ!」


「本来は、色んな町にある”治安維持局”って組織の奴等の仕事なんだぁよ。たまに戦力補完の為に、傭兵を募集する時もあるんだけんども、基本的には”戦闘能力の高い奴”じゃないと務まらないだぁ」


「へぇ……」


 グンバがマギーに言う。


「それで、マギーに聞きたいけんども……過去に、町に別の種族が襲撃してきた事はあっただか?」


「いや……そんな事ははじめて聞くだぁよ。このギラセルって町は、出来て10年ぐらいになる若い町だけんども、そんな話は一回も聞いた事がねぇ」


 それを聞いて、グンバが顎に手を当てて呟く。


「ってこどは……防衛準備を整える必要もあるだな……」


「防衛の準備って?」


「町にいる兵士とか旅人とか、とにかく戦える奴に呼びかけて、戦闘準備をとってもらわねぇとならねぇだ。この辺も、本当なら呼びかける必要なんてねぇんだけんども……」


「今回は必要ってことか」


「防衛戦は、出てくるモンスターが多いがら、協力がねーど絶対ムリだぁ」


「一人二人じゃムリって事ね」


「さてと、じゃあ……一番最初に決めるのは、この町を防衛するか、それとも―――

さっさと逃げ出すか、どうするかだよ」


「逃げ出すって……町の人は見捨てるって事?」


 センリが心配するように言った。


「そうなるだな」


「ちょっとそれはひどいんじゃないの?」


「そう言われても……もし、これがゲームだったら、あんまり勝敗を気にせずに参加もできるんだけども、今、オラ達は死んだら本当に死ぬかもしれない状態なんだぁ。

 冷たいようだけんども、生き残る為には、冷静に判断しなくちゃならねぇ」


「ま、確かにな」


 デアルガがグンバの言う事に賛同する。

 確かに、今の状態で勝算の見込みのない事をやるわけには行かない。

 敗北イコール”死”なのだから。


「アンタまで……」


「仕方ねぇよ。ゲームキャラは復活できるが、今の俺達は復活できねェんだから」


「……」


「まぁ、んだけども……できるなら、ここを守って何とか防衛をやった方がいいだよ」


「そうなの?」


「何でなんだ?」


「んだ。ここをできるなら守った方がいい理由は”二つ”あるだ。一つは……

 恐らくは、近くに町がない事」


「えっ? そうなの?」


「あくまで推測だんよ。マギー、その辺はどうなんだか? 近くに、こんな町みたいな、モンスターが沢山集まってるところって、あるだか?」


「町け? ん~……そんだなぁ……近場にはねぇなぁ。ここから一番近いのは、山三つ越えて、人間の町を通り過ぎた所にある”イーサー”って町だよ」


「遠いな……」


「もし、ここを放棄すた場合は、かなりのロスが発生する事になるだ。それに、日本へ渡るには、この場所から出発するのが一番いいだ。できるなら、ここは失いたくないだよ」

「もう一つの理由は、何だ?」


「もう一つは……クラスチェンジができなくなる事だぁ」


「クラスチェンジって何?」


「全てのキャラクターには”職業”が設定されてて、これを”クラス”って言うだよ。

 ”戦士”とか”魔法使い”とか設定する奴だぁ」


「ああ、ああいうのね。でも……そういうの、設定するのになんか意味あんの? 

 あたしやってないんだけど?」


 センリの問いかけに、デアルガが割り込んで説明する。


「ある。あり過ぎるぐらいある。まず、クラスを設定すると、全てのステータスに修正がつく。中にはマイナス修正もあるが、ほとんどはプラス修正で、これを設定してるかしてないかってだけで能力が”二周り”は違う」


「そ、そんなに違うの?」


「ああ。キャラの能力を決定する要素は、装備だとかパラメータの振り分けだとか、信仰する神の加護とか色々とあるんだが、このクラスの設定だけで半分以上決まるって言っても過言じゃねェのさ」


「……」


 知らなかった事に言葉もでないセンリ。


「だから、できるならこの場所でクラスチェンジしておきてェ。そう言う事だろ?」


 デアルガがグンバに向かって言った。


「その通りだぁ。第一、遠出をするならどうしても設定してからじゃないと危険だぁよ」

「そんなに大切ならチャッチャと済ませちゃったらいいんじゃないの?」


「クラスチェンジには時間が掛かるだ。それこそ、現実世界時間で丸1日ぐらい」


「って事は……3日掛かるって事? なんでそんな掛かるのよ」


「なんでも、住民情報や中枢システムとかとキャラクター情報が連動してるらしくて、

それを全て書き換えないといけないっていう話だぁ」


「住民情報って……今、あたし達モンスターなんでしょ? 関係ないんじゃないの」


「それは……オラにはわからないだ」


「マギー、お前はそういやクラス設定してるんじゃないのか?」


 デアルガがマギーに訊ねる。


「その、クラスってぇのは”農夫”になるとかの事け?」


「”農民”クラスも確かあっただよ」


「じゃあそれは一階下の方でやっただな。確かに、1日ぐらいは時間が掛かっただよ」


「できる事は出来るって事か」


「可能なら、できる限り早くやっておきたいだ。生存率に直結するがら。でも……

もしこの町を防衛するとなると、少々危険なギャンブルになるだ」


「なんで?」


「オラ達は雑魚モンスターだから、だぁよ。本来、防衛は人間キャラ用に設定されてるもんだから、正直、守りぬくのはキツイと思うだ」


「だから逃げる選択肢も考えなきゃ、って事ね……」


「もし放棄して脱出するなら、始まる前にやらないとダメだぁ。ミッションが始まると、外から延々とモンスターが入ってき始めるから、逃げづらくなるだ」


「勝算……っていうか、成功率はどのぐらいなの?」


「今の所、町の戦力がわからないからかなり低いだよ」


「マギー、町には兵士とか、なんかそういう奴等はいるのか?」


「この町は、一番下から、オイラ達の大事な集落になってて、そこには女王様とそれを守る兵士達がいるだぁよ」


「兵士ってのは、どんな感じの奴等なんだ?」


「オラみたいなのと違って、ガタイが大きくて足二本で立ってるだ。で、レストランとかで揉め事があると出てって、4本の手で戦ってるだなぁ」


マギーの話を聞いて、デアルガが呟く。


「”クィーン・アントラス”と”アントラス・ウォーリア”だな。クィーンはともかく、ウォーリアが居るなら結構勝算があるかもしれねェ」


「その、クィーンとウォーリアってどんなの?」


「”クィーン”はそのまんま、女王アリでデカイ腹の奴だ。かなり巨大で、ちょっとした列車並の大きさがある」


「れ、列車!?」


「ああ。そのぐらいはある。で、”ウォーリア”は2本足で立つ人間と同じぐらいのサイズの奴だ。4本の腕を持っていて、機械の様に正確無比な攻撃を繰り出せる。結構強いモンスターに分類される奴等だな」


「じゃあ、そいつらに協力を頼めば行けるんじゃない?」


「まぁ得られば……確かにかなり目が出てくるだ。出てくる奴も、弱い奴等みたいだし」

「なら、やってみよっ! 勝てばいいんでしょ?」


「んな簡単に……」


 センリは、余り考えずに防衛を行う事を決めたようだ。


「……やるしかねぇだな」


「お前まで……」


「どっちにせよ、マギーの言った町まで移動するのは難しいだよ。

 ここを守りきらなけりゃ、未来はないだ」


「……あーあ。こりゃあ、また今日も面倒な事になりそうだぜ……」


うんざりした口調でデアルガは言った。



「よし、マギー。じゃあ頼みたいんだけんども」


「頼むって……何をやればいいさね?」


「この町の、兵士に呼びかけて、入り口から入ってくる奴等を止めるように頼んで欲しいだ。時間は……あと、2時間半ぐらいでやってくる、って伝えて欲しい」


「そうは言っでも……いきなりそんな事を話しても、取り合って貰えないんじゃあないだか?」


「恐らくはムリだと思うど。でも、間違いなく来る、って強く言えば、一応動いてくれる奴等がいるはずだど。そいつらを中心にして、とにかく町の入り口を固めてもらって欲しいだ。襲撃が始まれば、嫌でも町の中にいる奴等は戦わなきゃならなくなるはずだから」

「まぁ……できる限りはやってみるだよ」


「頼むど! オラ達は旅の奴等に頼んでみるから!」


 マギーがグンバの頼みを受け、部屋を出て行こうとするが、その前に、グンバが続けて訊ねた。


「ああ、忘れるところだった! マギー!」


「なんだぁ?」


「この町に、店とか農耕具を作ってる鍛冶屋とか、そういうところはあるだか?」


「この宿の下の階層に、お店とかは集中してるだよ」


「ありがたいだ!」


「それじゃ、言ってくるだよ」


 一通り伝え終わると、マギーは部屋を出て行った。


「さて……それじゃあオラ達も準備するだか」


 グンバ、デアルガ、センリの三人もマギーの後に続いて、部屋を出て行った。



残り時間―――2時間30分。


 部屋を出た後、グンバ達はまず店のある階下の層へと降りた。


「それで……こっからどうすんの?」


 センリが訊ねる。


「とりあえず、一応職業申請所でクラスチェンジをやってみるだ。時間掛かるから、たぶんムリだろうけんども」


「出来ないなら、別のことをやったほうがいいんじゃない?」


「いんや。スキルを整えなくちゃならないから、どちらにせよ必要だぁよ」


「ちょっと待った」


 階を降りた所で、突然デアルガが二人を呼び止めた。


「これから、色々と面倒な事が始まるが……その前に、やる事があるんじゃねェか?」


「なんだぁそりゃ?」


「”リーダーを決める”って事さ。これからは三人で行動する”パーティ”になるから」

「誰がリーダーか、決めておかねェと混乱する事になる」


「リーダーかぁ。確かにだなぁ」


「リーダー、ねぇ……」


 考え込むグンバだったが、いつしか―――デアルガとセンリがこちらを向いている事に気付いた。


「な、なんだどその目は……」


「じぃ~っ……」


「うん……まぁ、この流れだとなァ……」


「ま、まさかオラをリーダーにするんだか!?」


「だってよォ、今までの過程を省みるに、適任者はおめェだろ。俺は基本ソロだったから、指揮なんて柄じゃねェし、こっちの女は初心者みてェだし……」


「初心者っ、でぇーすっ!」


 皮肉のフリに、元気良く応えるセンリ。


「~~~……」


 苦虫を噛み潰したような顔になり、声にならない声を上げるグンバ。


「まっ、頼むぜ。そこんトコ」


 拒否権はどうやらないようだった。



 階層を降りて、いくつかの店を見た後、見覚えのあるカウンター構成を見つけ、グンバ達はその洞穴へと入った。

 中は天井が低めの部屋が長々と続いていく、細長い構造をしていて、長いカウンターが丁度、建物内の領域を二分するような感じで境目を作っている。

 それはファミレス等で見るような、もしくは小さな役所で見る感じの広間だった。

 グンバ達は、案内に従って職業変更申請を行ったが、ほどなく”すぐには難しい”との応答が帰って来た。


「やっぱムリみたいね」


「じゃあ、スキル調整だけやっとくだか」


「スキル調整?」


「”スキルシステム”ってヤツだぁよ。ちょっと見てるといいだ」


 グンバはそう言って洞穴の中にある、光が流れ出ている床に立った。

 床には何かの紋章のようなものが描かれていて、その線に沿うように光は浮き上がっていた。そこに乗って、パネトレートコマンドを唱え、いつものようにウィンドウを開く。

「こうやって、特定のポイントで、自分のスキルとかアビリティの調整ができるだよ。

とりあえず、これで設定だけ……ありゃ?」


 グンバは、設定できるスキル一覧の中を見ていて、今までプレイしていて見た事の無いスキルが並んでいるのに気付いた。


「どうした?」


 驚いて手が止まっているのを不思議に思い、デアルガが訊ねた。


「”獣道視認”とか、見た事あるだか?」


「初耳だが……そんなモンがあるのか?」


「んだ。見た事ねぇスキルとかアビリティがあるだ」


「どら……」とデアルガも隣のパネルに乗り、スキル設定画面を開いた。

「……”特性強化”、”獣道視認”、”スタン耐性強化”……。な、なんじゃこりゃ? こんなもん今まで無かったぞ」


「知らない内に更新されたんだか?」


「更新じゃねぇぜ。俺らが閉じ込められた後、すぐに告知が出てたとしても実装されるには短すぎる。それに……”スタン耐性”はモンスターにしか存在しない耐性のはずだぜ」

「じゃあモンスター専用スキルって事だか?」


「そうなるんじゃないか。急に増えたってことは」


「ほかにはどんなのが……」


「ちょっと、今時間ないんじゃないの?」


 センリに言われ、ハッと我に返る二人。


「そうだっただ。今は……とにかく、準備を整えねぇと」


「でもよォ、準備っつったって、何をやるんだ? やれる事なんてたかが知れてるぜ?」

「まず、オラ達はスキルとアビリティを戦闘特化型に調整して、その後にパラメータを全部攻撃と敏捷性に振るだ」


「はっ!?」グンバの回答に、デアルガが驚きの声を上げた。


「何なの? ”パラメータを振る”って」


「腕力とかバイタリティとかの”能力値”の事はわかるだか?」


「うん」


「能力値には、ある程度自由に割り振れるポイントがあって、それをこういう

”エンブレム”の上でスキル設定とかと一緒に調整できるだ。で、そのポイントを振り分けるのを”パラメータを振る”って言うだよ」


「自分の能力を自分で調整できるってワケね」


「んだ。今オラが言ったのは、防御系を捨てて攻撃に全て振る”完全攻撃型”スタイルになるって感じだ」


「だがよォ、今……このただでさえ全体的に能力が低い状態で、それをやるって事は……かなり危険な調整になるぜ」


「でも防衛やるにはそれしかないだよ」

「攻撃力が低い状態じゃ、とてもザコを相手に出来ねぇだ」


「う~む……」


 グンバに諭され、渋々、デアルガもパラメータを振り分けていく。


「あたしはどうしたらいいの?」


「センリは防御系に振っておいてくれだ。直接戦いには参加しなくていいから」


「えぇ~っ! なんで!?」


「スライムはオラ達よりも更に能力的に低いからだよ。武器も持てないし、言っちゃ悪いけんど、出ても危ないだけだぁ」


「別に持てるわよ? 何言ってんの?」


「えっ?」


「アンタら武器持ってる? 適当なの、ちょっと貸してみなさいよ」


(んなアホな……持てる筈ねェだろう……)


 そんな馬鹿な、と思いつつ、グンバは道具袋から棍棒を取り出し、センリに向かって手渡す……事はできなさそうなので、身体にくっつけようとしてみた。

 すると―――


「ほいしょっと」


「うわっ!?」


 センリの液体状の身体に突き刺した途端、妙な力が働き、棍棒を取り上げられてしまった。そして、センリはスライムの身体の表面を滑らせるように、棍棒を移動させ、持つ部分を僅かに身体に沈ませて、まるで棍棒を旗のように身体に立てた。


「ほらね。持てるでしょ?」


「ど、どうやってるんだか?」


「スライムの身体は、メチャクチャ弾力のあるゴムみたいになってんのよ。だから物の形状にへこませる事で、物が持てるようになってんの」


「へぇ」


「物食う時はどうしてんだ?」


 デアルガが訊ねる。


「身体に物を沈めることもできるから、食べたいものは身体に沈めて、”食べたい”って思ってれば段々泡に包まれて溶けてくわ。ガムみたいに味が段々消えていく感じね」


「そんな風にスライムは物を食べるだか」


「この姿になったときは大変そうな感じをイメージしてたけど、慣れると意外と便利よ」

「ん……? こりゃあ……」


 デアルガがウィンドウを開いたまま、彼女を見ていて何かに気付いた。

 そしてグンバに向かって言った。


「おいヤス……じゃないグンバ。コイツ俺らよりレベル上だぞ」


「えっ!? 本当だか?」


「たぶん、外で採集とか色々やってて、経験値を知らない内に稼いでたんだな」


「って事は、私も参加していいってコト?」


「いや、それでもやっぱり前衛は止めといた方がいいだ」


「なんでよ!」


「オラ達よりレベルが高いって言っても、そこまで大差はないはずだし、接近して戦う以上、初心者じゃやっぱり危険だど」


「俺もそう思うぜ。普通に殴り合うんじゃなく。”クリティカル”とか”クリーン”を

狙わねェとならねェんだからな」


「なにそれ?」


 センリの問いかけにグンバが答える。


「致命的な一撃のことだよ。相手の急所とか、弱い部分に攻撃が命中すると、ダメージ倍率が一気に跳ね上がったり、相手を一撃で倒したりする事ができるだ。防衛戦でのザコは、基本、こっちがなぎ払ってある程度は一気に倒せるんだけども、今回はオラ達が弱いから、パラメータを完全攻撃型に特化して、尚且つ相手の急所を次々に打ち抜いていく、っていうテクニックが必要になるだ」


「う~ん……なんか難しそうね……」


「一応、センリ用の戦法も考えてあるから、心配しないでくれだ。さぁ、スキルを調整してさっさと次に行くだよ」


 三人は足早に能力調整を終えて、施設を出て行った。



 施設が密集していた洞穴を抜けて、別の洞穴へと入って行くグンバ達。


「次は何すんの?」


「店で道具を集めるだ」


「店で何か買うって……金はどうすんだ? 道具もロクに持ってないってのに」


「いや、一応、売れそうな物をゴミ箱で拾ってきてるだ。とはいえ……余りお金にはならなさそうだけんども」


 カウンターへとそう呟いて向かうグンバ。

 色々と話し合っていたようだが、やがて彼は、にやついた顔を浮かべて戻ってきた。


「どうしたんだ? いやに嬉しそうだが」


「いや、意外と高値で拾った物が売れたんだぁよ」


「ふぅん」


「これなら装備の強化と、必要なものが揃えられそうだよ」


 その後、グンバは色々な物を買い込み、足早に店を後にした。

 転職申請所、雑貨店と続いて、彼らが次に訪れたのは最初に来たレストランだった。


「次はここか……どうすんだ? こんなところで」


「防衛に協力してくれるように頼むだ」


「町に敵が攻めてくるから、一緒に戦ってくれ、ってな感じか?」


「んだ。とはいえ……多分、5人も居ないと思うけんども」


 グンバがレストラン、もとい酒場の中を見回しながら言う。

 ここに集まっているものは、町で働いている者たちか、もしくは旅の途中でたまたまここへと立ち寄っただけの者が殆どであるため、結局は防衛に参加する理由など無いのだ。 5人どころか、一人も話を聞いてくれない可能性のほうが高かった。


「ま、とにかく話すだけ話してみるだよ」


 グンバたち三人は、手分けしてそれぞれのテーブルへと向かって、防衛に参加してもらえるように頼んだ。内容はこうだ。

「あと2時間ほどすると、この町へと昆虫族の、何かまではわからないがいずれかの種族が襲撃を行う。ターゲットはこの町にいる生物全てで、町に居るままだと攻撃を受けるから、もしこのまま町に留まるなら、2時間後までに町の入り口を固めて、防衛に協力して欲しい。もし、その気が無いなら早めに町から出て行かないと危険だ”」

と言う感じである。

 三人はこれを、全てのテーブルに居る旅人やアリ達に話した。

 だが―――


「ってワケなんだぁよ」


「なんで2時間後に攻撃があるって事がわかるんだ?」


「いや、それは……」


「ま、話の種としては面白いが、ほどほどにしとくんだなぁ」


 当然ながら、話を聞いてもらう事すら、ロクに出来ず。


「っつーわけで、協力を頼めれば、と思うんだが……」


「信用できねぇな。まぁ、本当に攻撃されるってんなら、起きてから俺は対応するよ」


「そうか……悪かったな」


 システムメッセージをプレイヤーでないNPC達が見ることはできないので、信じられないのは、当たり前といえば当たり前の反応だった。


「人手が少しでも欲しいのよ」


「知るかよ。第一、襲撃なんて、来るわけねぇじゃねぇか」


「何よ! アンタたち、町の人たちのお世話になってる自覚あるの!?」


「うるせぇ! 飯がマズくなる。どっか行け!」


「~~~……もう!」


 話をしていくものの、次々に断られ、およそ30分ほどが経っていった。



 残り時間―――1時間50分。


「どうだぁ? みんな」


「ダメね。全然話聞いてくんない」


「こっちもだ。今まで町に襲撃なんて、一度も来なかったから~とか言ってな」


「……しょうがないだか。一人でも協力してくれると助かるんだけども」


「ねぇねぇ、後聞いてないのが一つあるんだけど……」


「どこだ?」


「あの一番奥のテーブル。見て」


 センリが身体の一部を伸ばし、指し示した方向は、一番奥のテーブルだった。

 その場所は家具や床などが最も豪華な感じのする”特等席”となっていた。

 そして、そこに配置されているテーブルには―――


「ありゃあ……昨日のあのレオニクスじゃねェか」


「アイツに、何とか協力してもらえないかな?」


「ムリだろ……第一、テメェが昨日言った事を考えりゃ、話しかけるのすら危ねェぞ」


「でも……」


「オラが行くだ」


 グンバがテーブルに向かうと言い出し、驚くデアルガとセンリ。


「お、おい! 止めとけって!」


「いや、確かに協力を得られれば、かなり有利になるだ。それに……どっちにしろ、襲撃が来る事はできる限り報せておきたいから、行くだけは行ってみるだよ」


 そう言って、グンバは奥の一番豪奢な席へと歩いていった。



 テーブルの席には、レオニクスのほかにも仲間らしい獣人が3人いた。

 ”オポック”、”ラビラント”、”コボルド”の三人で、それぞれネズミ、兎、犬型の獣人たちだ。恐らくは、レオニクスの従者か旅の付き人と言った感じだろうか。


「あのぅ……」


 グンバが席に現れると、レオニクスと他の獣人たちは、目に見えて不快感を示し、グンバの登場を悪い意味で歓迎した。


「なんだ? 昨日のヤツか。何の用だ」


「あ、すみまぜん……一つだけ、お耳に入れたい事がございまじで……」


 遠くからその様子を見ていたセンリが言う。


「なんか……すごい下手に出てるわね」


「レオニクスは食事の邪魔をされるのを一番嫌うって話だ。ましてや、あれから昨日の今日だからな。刺激しねぇようにしてるんだろ」


 グンバは、丁寧かつ手短に襲撃の件を伝えた。


「ってワケでじて……」


「襲撃ぃ? なんでそんな事がわかるんだ?」


「えーっどですね……オラは、ちょっとした理由から、先の事を少しだけ知る事ができまじて……それで、たまーに今日起こる事がわかるんでずよ」


「なーんかウソくせぇなぁ。俺達に町から居なくなって欲しいから、適当な事を言ってるんじゃないか?」


 鼠の獣人が訝しげにそう言い放つ。

 昨日の件もあってか、こちらもかなりイライラしているようだ。


「いえ、決してそんな事はないですだ」


「グライズ様。どうしますか?」


 兎の獣人は、感情を挟まない機械的な口調でレオニクスに言った。

 どうやらライオンの獣人の名は「グライズ」というらしい。


「ふむ……中々面白いじゃねぇか。食後の運動にはもってこいだ」


「し、信じるんですか? ブタなんかの話を」


 コボルトが不思議がってグライズに向かって言った。


「信じてるわけじゃねぇさ。ただよぉ」


 グライズが顎をグンバに向かって上げ、言った。


「本当でもウソでも、暴れる口実にはなるじゃねぇか。それが”イイ”んだよ。

 おい、オーク」


「は、はいですだ」


「あとどれぐらいで襲撃が始まるんだ?」


「えーっと……」


 ウィンドウを開いて、イベントの発生時刻を確認する。

 残り時間は「00:01:38:42」となっていた。


「なにやってるんだ? 空中で手を動かして」


「さぁ?」


 コボルトとオポックが、グンバの動きを見て怪訝そうに言う。

 どうやら彼らNPC側には、ウィンドウの操作は見えないようだ。


「えーと、あとおよそ1時間半ぐらいですだ」


「ふぅん。なら……2時間経って何もおきなかったら、罰だなあ」


「罰?」


「あぁ。今度は”手加減なし”でぶん殴らせてもらうぜ」


 そう言われて、グンバは背筋に寒気が走った。

 そして、早々にテーブルから引き上げていった。

 青い顔になりながら、グンバは二人と合流する。


「話は付いたみてェだな。で、首尾はどんな感じだ?」


「なんとか……協力してもらえる事になっただ」


「えっ!? ホント!?」


「正確には最初から防衛に参加してもらえる、ってわけじゃないけんども、まぁ、町からは出て行かずに、残って戦ってくれるみたいだぁ」


「よし、なら……かなり戦力的にはイイ感じになるな。町の兵士があんま居なくても、

全滅だけはとりあえず回避できそうだ」


「んだ。それじゃあ……最後の仕上げにいくだよ」


 そう言って、グンバ達はレストランから出て行った。


 残り時間―――1時間30分。



 グンバ達はレストランの洞穴から抜け出た後、再び下の階層にやってきた。


「あとは、どうすんの?」


「オラは買ったモンで武器をちょびっとだけ鍛えるだよ。買えたらよかったんだけども、農耕具以外は売ってなかっただ。というわけで……デアルガ。武器を預かるだ」


「リミットは過ぎないでくれよ」


「わかってるだよ。で、あと一つ、襲撃時間までにやってもらいたい事があるだ」


「なんだ?」


「センリに”これ”の使い方を教えておいて欲しいだよ」


 そう言って、グンバはデアルガに何かを手渡した。

 それは全体的に黒く、短い円筒形の物体で、中央から半分ほどが、一回り大きい円筒の形状となっていた。

 細い方の尖端には、金属の小さなリングがついている。


「コイツは……なるほどな」


 デアルガはそれが何かをすぐに理解したらしく、渡されると、センリを連れてすぐに町の出口の方へと向かった。


「頼むだぁ!」



 二人は、谷の入り口の方へとやってきた。

 谷へと入り込む坂と、そのすぐ外に広がる森林は、まだ静寂に包まれており、モンスターが襲来してくるような気配は微塵も感じられない。

 この時間は人通りも無いようだ。


「グンバに言われて入り口まで来たけど……何をやんの?」


「コイツを投げる練習だ」


 そう言ってデアルガはセンリに向かって、先程の円筒形の黒いものを手渡した。


「これ、何なの?」


「これは”レフトライト・グレネード”ってヤツだ」


「レフトライト・グレネード?」


「左手で投げる片手ライト型の手榴弾って意味だ。早い話が”爆弾”だな」


「ばっ、爆弾!?」


「ザコ掃討用にグンバが買ったんだろう。しかし……武器は農耕具ぐれェーしかねェってのに、よくまぁこんなもんが売ってたもんだ」


 ひとしきり感心した後、デアルガは話を切り出した。


「さて、確かにこれがあるとかなり心強い。だが……危険な分、投げる練習が必要だ」


「だから練習して、って言ったワケね」


「さてと、じゃあ早速、投げる練習を始めるか」


 センリに一本のレフトライトを渡し、とりあえず投げてみるように言う。


「先の金属リングが”安全装置”だ。それはまだ抜くな。そのまま投げてみるんだ」


「……えいっ!!」


 センリはスライムの身体を器用に動かし、身体の表面を滑るようにさせてグレネードを坂の上へと投げた。だが、飛距離が足りず。

 レフトライトは10数メートルほどで落ちて転がった。


「投げ方が違う。オーバースローじゃなくてアンダースローで投げるんだ」


「オーバースローって何?」


「上から下に叩き付けるような投げ方だ。野球の投げ方だな。逆に、アンダーは下から上に放るような投げ方だ。グレネードは正確さが命だから、下手投げの方が良い。最初は、スピードとかは気にせずに投げてみてくれ」


「ねぇ、ちょっと手本見せてみてよ」


「うん?」


「習うより慣れろ、って言うけど、まずは手本を見てみたいのよ。アンタ教えるのを頼まれるぐらいだから、上手いんでしょ?」


「仕方ねェな……じゃあ、丁度いいし、爆発がどんなのかも見せておいてやる」


 デアルガは円筒形のライトを一本取り、手に持って構えた。

 そして、人が居ない事を十分に見て確認し、センリに言った。


「まず、今は無人だからいいが、使うときは何よりも味方に注意しろ。巻き込んだら

洒落にならねェ」


「はぁ~い」とそれに応えるセンリ。


「そして、リングを抜いたら、一拍だけ間を空けてすぐに投げる事。リングが抜けて、

約4秒後ぐれェーに爆発する」


「4秒ね」


「抜いたら焦らずに、しかしグダグダせずにすぐ投げる、ぐらいで憶えときゃいい。

で……今からやってみるぜ」


 デアルガは再度、坂の上を確認する。

 誰も居ない事を確かめると、口に金属リングを持って行き、ピンを抜いた。

 そして僅かだけ間を取ってから、下から上に投げる要領でレフトライトを投げた。

 円筒形の黒い筒は、坂の上近くまで飛んで行き、数秒後―――


 ドッグォオーン!!


 大きな爆発音と共に、強風が走り、閃光が一瞬周囲を覆った。


「ひゃっ!!」


「……なるほど、こりゃ”採掘”か何かに使ってる奴か。普通のヤツよりも、少し爆風がデカイな」


「こっ、こんなモンあたしに使えって言うの!?」


「ザコの出鼻を挫くだけだ。投げるのは俺かグンバがやる。こうやって教えておくのは、”一応”だ」


 センリはその言葉に、迫っている”襲撃”が思ったよりも深刻なイベントである事を

再確認し、投擲の練習を時間の許す限りひたすら行っていった。



 時間は過ぎていき、残り時間は―――あと15分ほどに迫ってきた。


「そろそろねぇ……」


「ん? あれは?」


 入り口の方で待っていると、下のほうから見慣れないサイズのアリが上ってくるのが見えた。人間とほぼ同じぐらいの大きさで、上半身が大きい。

 腕が4本あり、1本が槍のような武器を持っていた。

 先頭を小さな、町の中に居る普通のアリ型モンスターが先導している。


「アリ? かな?」


「アントラス・ウォーリアだな。マギーの奴が連れてきてくれたか」


「いよーっ、待っただか?」


「いや、これからだぜ」


 やがて、マギーが町の入り口付近までやってきて声を掛けた。

 連れてきてくれたアントラス・ウォーリア達の数は、およそ5人ちょっと、と言った感じだろうか。


「すまねぇだ。色んな人に頼んだけんど、連れて来れたのはこの人たちだけだぁ」


「十分だぜ」


「お前が噂の主か?」


 アントラス・ウォーリアの一人が、デアルガに話しかけてきた。

 鎧で完全武装しており、身長だけで言えば、レオニクスよりも大きい。


「私はギラセルの守護隊責任者”レギラッセス”。本当に襲撃なるものがあるのか、その事実を確認しに来た」


「確かめなくても、これから始まるぜ。あと……10分だ。配置についていてくれ」


「何故お前には、襲撃が来るなどというのがわかるのだ?」


「全部カタが付いたら話すよ。とにかく、守りの陣形を組んでくれ」


 そういって強引に話を進め、ウォーリア達に町の外からの進軍を阻止する配置についてもらった。

 ウォーリア達はまだ半信半疑なようで、渋々と言った感じで守りに付いていく。

 そして陣形が整った辺りで、今度は聞き覚えのある声が響いた。


「おーいっ! 待っただかーっ!」


「グンバ!」


 坂の下の方から、グンバがやってきた。

 両手には三つほどの棒状の物を抱えている。

 やがて、二人の近くまでやってきたグンバは、二人にそれを手渡した。


「なにこれ?」


「武器だぁよ。時間がなかったからあんまり凝った事は出来なかったけんども」


「おお!! これは……!」


 デアルガには剣が手渡された。最初に渡したものよりも、少し長くなっている剣だ。


「デアルガには短剣を少しだけ伸ばした”ミドル・ソード”にしただ」


「ありがてぇ」


「センリには余りもんだけんども、ショート・スピアだぁ」


「ありがと。短いけど、結構使えそうね」


「急いで作ったもんだから、ちょっと見栄えがアレだけども、普通に使えるはずだぁよ」

「アンタの得物は何なの?」


「オラは棍棒だぁ。ちょっと金属の楔を打ち込んで、破壊力を上げてみただよ。ホントはもうちょっと凝った事をやりたいけど、時間が時間だから、できるのはこんなモンだぁ」

「ま、やるだけはこれでやったってことね……」


「だな。後は……」


 三人は武器を構え、坂の上を見つめた。


「賭けて見るだけだよ」


 残り時間―――3分。


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