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20:遅まきながらのチュートリアル(2)

荒金靖樹たち三人は、不思議な少女から頼まれた人探しの為に、北海道エリアの「ルサーラ」までやってきた。

そして探索へと出発する直前に、巨人型モンスターの来襲を受け、全滅の危機に瀕する。だが、なんとか時間を稼ぎ、辛くも逃れた。

その後、靖樹と御津貴の二人は、本格的な探索まで一日の時間が空いた為、初心者の銑里にひとまず基本的なテクニックを教えることにした―――

(文字数:20322)


 ラクが自分の『夜間住宅』のテーマを戻し、今度は緑色の地平線が広がる世界へと空間を戻していった。

 最初に構築されていたものと似ているが、細部がより緻密になっている。

 これは、トレーニング用のワールド構築だ。


「それじゃ、何をするのよ?」


「えー、一応リファレンスを見ながら、座学を30分ぐらいに、実践を入れて1時間って見てるけど、それだと多分飽きが来るから実践を大目にしてやっていくつもりだ。まずは……まぁ、基本的な能力パラメータの操作かな」


「クラスチェンジする時にやった奴? 力とか素早さがどうとか……」


「そう。キャラをどんな風に作っていくか? って言う話を再確認する」


「そんな事突然言われてもなぁ……」


「まぁ、聞き流すぐらいで構わない。基本的にファシテイトは自由にプレイしていいんだから。ゲームとしてじゃなくて、生活の為のものとして使ってる人も多いし。ただ……これからゲームとして、つまり”戦闘”をプレイの中に組み込んでいくとなると、知識を知っているのと知らないでいるのとじゃ、絶対の違いがあるから、できるだけ知っておいて貰いたいんだ。だから……まぁ、ちょっとだけ集中して聞いて欲しい」


「……わかった。けど―――先に一つ、聞きたいんだけどさ」


「ん?」


「リファレンスって何?」


「……」


(こりゃあ、大手術になりそうだな……)


 アリカからそう言われ、ラクは思わず俯いてしまった。

 彼女からは見えなかったが表情は曇り、眉間に皺が寄って、渋い顔をしていた。

 だが、ラクは短く咳を吐いてから、落ち着いてアリカへと説明を始めた。

 これぐらいで取り乱していては、初心者への助言など到底できないだろう。


「リファレンスってのは、要するに”説明書”みたいなものだよ。”ヘルプ”とか”リードミー”って言うファイルと似たような奴、アプリとか入れたらたまに入ってるだろ?」


「あ~、確かに入ってる入ってる!」


「このファシテイト・ファンタジーにも当然リファレンスはある。それを開いてくれ」


「どうやって開くの?」


「メインプログラムが入ってるフォルダに”Facitate general”って名前のテキストファイルがあるはず。それを開いて、”単語検索モード”にして欲しい。これから話す部分が強調されて表示されるから」


「ああ、これね!」


「さて……それじゃあ始めようか。まずは”メインステータスについて”話そうか」


■メインステータスについて■

 あなたの写し身であるこの世界のアバター(キャラクター)は、様々な能力パラメータを持っています。

 それはSTR(筋力)、VIT(丈夫さ)、INT(知力)、MND(精神力)、DEX(器用さ)、PSY(感応力)、REF(反射)、QUI(敏捷性)、LUK(運勢)の計9種です。

 これらは、おおまかにですが”身体の部位”を表すものとして対応しています。


 筋力(STR)は腕力、上半身の筋力を。バイタリティ(VIT)は胴体の筋力や内臓的な強さ。

 知力(INT)、精神力(MND)は、共に思考能力。つまりは脳の情報処理強度を表し、魔法をはじめとする特殊攻撃の基本使用能力や、基礎防御能力を表します。

 器用さ(DEX)、感応値(PSY)、反射(REF)は脳の情報処理速度を、それぞれ”精度”、”受容力”、”出力能力”として指しています。

 これらはゲーム内で使用されるスキルやアビリティなどに主に影響します。

 そして、敏捷性(QUI)は足腰や、下半身の強さの基礎値となっています。

 これらが大きいほど、脚力が強くなります。

 最後に、運勢(LUK)はバイオリズムです。日によって変動します。

 アイテムドロップや、状態異常などへの回避能力などに影響します。

 この数値は基礎的な値しか見る事が出来ず、変動後の値は隠しパラメータとなっています。


 以上のような感じです。そしてこれらが複合的な計算をされ、更に別のステータスが決定されます。

 それらを全て記述はできませんが、例えば総合体力(HP)はVITを基本に、STRとMNDにQUIを、ある一定のバランスで計算した値、というような感じとなっています。

 様々な組み合わせを見つけていってみてください。


「へぇ……身体の部位に対応してるんだ」


 アリカがリファレンスの説明文を見ながら、感心するように言った。


「これだけだとまぁ、ただの知識なんだが―――例えば”移動速度はVIT、DEX、REF、QUIの組み合わせで上昇する”とか、そういうのを知っておくと、キャラメイクの時に指針ができて楽になるんだ」


「えっ、そうなんだ!」


「俺達はそういうのをそこそこ知ってるから、そんなアドバイスを含めて、さっきも言ったけど、まず―――”どういうキャラを作っていきたいか?”ってのを決めるのがこの最初の話し合いのテーマさ」


「どういうキャラ、って……」


「この電想世界を”ゲーム”としてプレイしていくなら、必ず”戦闘要素にどう向き合う?”かについて考えてなきゃいけない。戦闘能力を上げて、実際に戦うのか、それの補助的役割に回るのか、それらを両立したプレイスタイルにするのか」


「う~ん……いきなりそんな事言われても」


「キャラメイクは、自分のやりたい事をまずやるのが第一前提さ。何かやりたい事があったら、それをまず最優先で考える」


「そりゃあ……魔法使ったり、おっきな剣を振り回して戦ってみたいけど……そういうのって難しいんでしょ?」


「できない事はないけど……」


「筋力と魔力を両方鍛える必要があるな。それだと」


 グンタが横から割り込んで言った。


「大変かなぁ?」


「そりゃあプレイスタイルによる。魔法メインで接近して戦う時だけ剣を使うとかなら、短い時間に限定すれば、充分初心者でも使えるだろう」


「じゃあ、あと盗賊がいいなぁ。動きの早い奴がいい。成り行きでなっちゃってたけど”魔盗賊”って結構気に入ってるから」


「なら……素直に二刀流か、片手剣、持っても槍ぐらいにしといた方がいいぞ。大型の両手剣なんざ、スピードタイプが持つには重過ぎるぜ」


「そっかー……う~ん。どうしよ」


 悩んでいると、ラクが訊ねた。


「君は、一緒にプレイしてる仲間とか居ないのか? 俺ら以外にさ。そういう仲間内での役割連携とかも考えて、キャラメイクはした方がいい」


「それは……ちょっと秘密って事で」


「まぁあんまり詮索はしないけど……クラスのことについてはわかるかい?」


「全部で5つ選ぶって奴ね」


「うん。この辺は……まぁ実際にクラスパラメータを見てもらわないといけないから、言及は避ける。ただ、戦闘系クラスに応用できる生産系クラスがあったりするから、そういうのも考えて構成した方がいい」


「例えば?」


「戦士とかの前衛で戦うクラスが”鍛冶師”を入れて、バイタリティを底上げしたりするような感じだ。一つの能力に限って言えば、接近クラスより上の能力を持ってるクラスは多いんだ」


「へぇ……そいえばさ、なんかあの女の人って”上級クラス”とか言われてたけど、あれってどれぐらい凄いの?」


「エルミラさんの事か? 防衛戦の後に、テントの最前列で話してた……」


「そうそう! あのすんごい豪華そうな鎧つけてた人」


「えーっとなぁ……クラスは、当然といえば当然だけど”ランク”が存在してて、それが上がるほど強力な能力を使えるようになっていくんだ。ランクは下から”見習い”、”低級”、”中級”、”上級”、”高級”、”最高級”。すべてのクラスには”セミクラス”って言うのがあって、全部で10ランクある。このセミクラスってのを”準中級”とか”準上級”って呼ぶんだ」


■クラスの階級について

 キャラクタークラスは全部で5階級存在します。

 ”見習い”、”低級”、”中級”、”上級”、”高級”、”最高級”の5つで、それにセミクラス(準級)が存在し、特殊な大型イベントをこなす事で

 クラス系統ごとの上位クラスへとランクアップを行っていく事が可能となっています。


「10クラスかぁ」


「大体だが、人口比は見習いが5割、低級が3割、中級が2割、ぐらいの感じになってる。上級プレイヤーは殆ど居ないし、高級クラスのプレイヤーとかは、全世界にわずか3人だけ。最高級クラスに至っては、到達した人間が今だ誰も居ない」


「そんな少ないんだ……」


「一応実装自体はされてるらしいんだけど、クラスアップの条件が難しすぎるんだ。だから―――”準上級”ってのが、一般的に出くわす事が出来る最強クラスのプレイヤー、って考えてればいい」


 鼻で返事をするアリカに、ラクが続けて言う。


「そういえば、”悪性クラス”についてはまだ説明してないよな?」


「えっ? 何それ?」


「じゃあついでだからこれも話しておこう。”クラス分類について”ってのを見てくれ」


■クラス分類について■

 クラスは、三つの性格的な要素と、三つの行動的な要素によって分かれます。


 性格的な要素は、そのクラスの本質を表すものです。

 何かを助ける事にその意味を見出す”善性”のもの。

 何かをおかす事を本質とする”悪性”のもの。

 そして、それら二つの要素を併せ持つか、どちらも持たない”中立”のもの。

 性格はこれら三つに分かれます。


 行動的な要素は、そのクラスの「特徴」を表すものです。

 戦う事やあらゆる物事の競争を象徴する「戦闘系」。

 何かを作り出したり、改良したりする事によって世に影響を与える「生産系」。

 最後に、何らかの物事を外部から持ち込む「調達系」。


 先の”性格”と上記の「特徴」により、クラスの大まかな特色は決まっていきます。


「悪のクラスとかあるんだ……」


「ああ。要するに悪事をメインにしてる職業って事なんだけどね。設定している5つのうち、この”悪性”のクラスが多かったり、強かったりすると、アバターは”悪のクラス”になる」


「それってヤバイの?」


「別に対した影響は出ないよ。ただ……それを目安にしてリアルでファシテイトを利用してる”本物の犯罪者”が集まるらしいから、パーティに入る時にちょっと警戒される、ぐらいの影響は出てくる」


「こっわ! 本物もこういうクラスになるんだ」


「”盗む”とか”騙す”能力は悪性クラスじゃないと持ってないからねぇ」



「さて……それじゃあ、次はもう実践行こうか」


「もう? 良かったー。あんまり話を聞いてばかりだと眠っちゃいそうだもん」


「そりゃあ、話してる方だって一緒さ。さて……それじゃまずは”手のサイン”について簡単に言っておくよ」


「手のサインって……あのモンスターで学校に行った時に、ラクがやってた奴?」


「そう、あれだよ。あれの意味を説明しておく。とはいえ……意味は非常に簡単で2つしかない」


「たった二つなの?」


「ああ。モーションとその強さだけだ」


「モーションと強さ……?」


「手のサインって、何も言わなくても大体意味は解るだろ? ”こっちに来るな”とか”こっちに来い”とか、方向を指示したりとかさ」


「まぁ、なんとなくは」


「俺がやってたサインは、これに指の数で強さをつけただけなんだ。立てる指の本数が多いほど、強いサインって事」


「そんだけだったんだ」


「色んな人が使うから、余り難しいサインだとダメなんだ」


 アリカは頷く動作を繰り返し、意味がわかったらしい意を伝えた。

 それを見て、ラクがグンタへ向かって顎で何かを言う。

 戦闘系のスキルは、彼が説明を担当する事になっていた。

 グンタは、それを見てアリカの前へと移動し、言った。


「さて……ここからは戦闘系についてだ。オレが説明する。まずは……技の出し方だ」


「待ってましたー!」


 手を叩いて、待っていたように喜ぶアリカ。

 グンタはラクと対峙して、戦闘の例を見せ始めた。


「それじゃあ、実際に実演してみよう。ラクォ……じゃない、ラク、か。相手頼むぜ」


「わかった」


 グンタは、刀を抜いてからアリカに言った。


「”技”ってのは戦士型の使う”戦技”とか剣士の使う”剣技”とかがあるんだが、その全ては、基本的にメニュー画面から行う”選択入力”ってのと言葉で行う”発声入力”。そして最後に念じるだけで起動させる”思念入力”ってので使う」


「選択……ってのは、メニュー画面でタッチするだけ?」


「ああ。タッチすればそのままメニューが閉じて、身体が技を勝手に繰り出してくれる。言葉の場合は、技名を漫画とかでやってるみたいに発声すればいい。例えば……”ダブル・ソード”!!」


 グンタがラクへと向いて、声を発すると身体が突然動き出した。

 持っている刀を使い、素早く前方を二回切りつけ、ラクへとダメージを与えた。

 攻撃は、通常の武器での薙ぎ払いと違い、発光しながら尾を引くようなエフェクトを帯びていた。


「―――とまぁ、こんな感じだ」


それを見て、アリカは”おおー!”と感嘆の声と共に手を叩いた。


「名前言うだけで動き出すんだ!」


「そうだ。ただし、ちゃんと敵を認識してないといけない。相手に対して、明確に攻撃の意思がないと、発声入力は動かないというわけだ。これは暴発を防ぐ為って言われてる」


「へえ」


「で……更に簡単なのが”思念入力”だ。これはそのまま、技を出したいって頭で思うだけでいい」


「そんなので技出せるの?」


「問題なく使える。基本的に、選択での技起動は余り行われてなくて、さっきの発声入力か、もしくは今言った思念入力のどっちかで殆どのプレイヤーが技を使う」


「違いとかあるの?」


「出せるまでの時間が違うぐらいだ。当然だが、メニュー画面から選んだりしてっと、技を出すまでにどんなに早くとも3~5秒ぐらいは掛かる。だから普通は他のを使う。ただ……一つだけ言っておくと、強力な技を使う場合は、発声入力にやや分がある」


「どして?」


「技は”システムと一体になる必要がある”からだ。例えば……技の発動する条件を完全に満たしてる状態で、身体を無理に止めるとこうなる。……”ダブル・ソード”!!」


 先ほどと同じようにグンタが”発声入力”を行うと、身体が動き出した。

 だが―――彼の腕は一瞬、ピクリと反応したが、痙攣のような震えを起こすだけで、身体が動いていかない。やがて―――震えが止まると、グンタが言った。


「今のは無理矢理攻撃を止めた場合だ。あんな風に動かない。”使う本人が技の発動を拒否する”と技は止まるわけだ。で、今度は……完全にシステムに身を任せてみる。……”ダブル・ソード”!!」


 今度は発生を終えると、身体が動き始めた。

 だが―――先ほどと違って、動きが遅い。

 最初に出した動きの、半分程度の速度しか出ていないように見えた。


「さて……どう見えた?」


「なんか……さっきより遅い」


「そう。システムに動きを任せてるだけじゃ、パワーは落ちる。”引っ張られてるだけ”だからな。だから”本人の意思”で、技の動きに完全に身体を合わせる事が必要になるんだ。システムが起こす動きに身体を合わせる事で、余分なロスが無くなって、技はより威力・スピードが増す。それで―――話を戻すが、発声入力は頭で念じるよりも、身体により確実に命令を送れるんだ」


「気合が入るって事?」


「正確な理由はわからん。ただ、気合と言うか”精神がより強く同調するから”とか言われてるな。……まぁとにかく、その方がより強力になる場合が多いんだ。だから、手数の必要な通常の技では、思念入力もそこそこにあるが、強力な技、決め手になるような一撃を打つ時は、言葉で技を起動させる場合が多い。それを憶えておいてくれ」


 グンタは、そう言うとアリカへと構えて、言った。


「……さて、それじゃあ実際に、オレかラクに向かって技を打ち込んでみろ」


「えっ? いいの?」


 思いも寄らぬ一言に、アリカが思わず戸惑う様子を見せる。

 それを見て、ラクが言った。


「大丈夫さ。ここはトレーニング用に作ってる空間だから、HPはゼロで止まって死ぬ事はない。首を刎ねられるような攻撃を受けても、身体がバラバラにゃならないし、痛みも殆ど感じない。だから思いっきりやってきて大丈夫だ」


「わかった。それじゃあ……やってみよかな」


「思いっきりぶちかましに来い!」


 アリカは持っていた短剣二つを取り出し、両手に持った。

 そして―――目の前で指を宙に向かって動かし始めた。

 恐らくは技を選択してるのだろう。

 やがて、とある動きがトリガーとなって、彼女の身体は見えない力に引っ張られるように動き始めた。


「わっ、わっ!」


 アリカはラクへと向かって、勢い良く飛びて行った。

 そして、両手に持っていた短刀を使って、クロスを描くように彼を切り付けた。


「おっと!」


 だが、ラクはやや後ろに後退しつつ、持っていた大きめのナイフでアリカの攻撃を受け流した。


「”クロスアタック”か」


 アリカは攻撃が終わった後、元の位置まで再び戻ったが、勢いがついていた為、転んで尻餅を打ってしまった。


「うっわぁ~……難しっ!」


「何度かやってりゃ慣れるさ。最初はそんなもんだ」


 それを見ていたグンタが、愉快そうに笑いながら言った。


「……ねぇ、そういえばさ」


「ん? どした?」


「あの”エルミラ”って人が使ってた技は、どんなのだったの? ギガースの鎧を壊したり、武器を弾き飛ばしたりしてたけど……」


「ああ、あれか。あれは……断言は出来ないんだが、多分『破岩閃』と『斬鉄』だろう」


「どんな技なの?」


「『破岩閃』は鉱物に大きなダメージを与える技だ。これで恐らく、石斧にダメージを与えたんだろう。そして、恐らくその時の”武器破壊ダメージ”を利用して、ギガースの身体を弾き飛ばしたんだ」


「武器破壊ダメージを利用……?」


「武器は、破壊される際に攻撃ダメージが使用者へと伝わってくるんだ。あの女剣士は、武器へと強力な破壊ダメージを与えて、その反動でアイツを跳ね飛ばしたんだ」


「そ、そんな事できるの!?」


「要するに”武器”じゃなくて”物体”として利用した、って事で、理屈上は出来るっちゃ出来る。上級クラスなら充分パワーもあるだろうしな。ただ……余程の攻撃力がなきゃダメだ。俺が同じ事をやっても、まずパワー不足でそのまま潰されるだろうな」


「そんな強力だったんだ……」


「ああ。それで、次に言った『斬鉄』っつーのは、あらゆる装備品や物体を切り裂く強力な剣術の一つだ」


「”斬鉄剣”ってヤツ?」


「いや、これはあくまでも”技”だ。色んなものにオールマイティにダメージを与えられる。威力に微妙な差が存在してて、それで効くかどうか微妙な時があるんだがな」


「微妙な差?」


「例えば”斬鉄:弱”とか”斬鉄:強”みたいな感じで、普通の刃物と違って別の攻撃成功判定があるんだ。だから武器の威力が足りなくても、それで追加される攻撃力が足りてれば、スッパリと物が切れる」


「う~ん……なんかよくわかんないなぁ」


「まぁ、実際に使う所をみりゃわかるさ。今は先に別の事だ」


「はーい」



「さてと……それじゃあ、次はコンボ……と言いたいが、その前に”当たり判定”について話しておくか」


「当たり判定って?」


「まぁ見てろ。……まずオレから行くぜ?」


 グンタが何やらラクに了解を取るような事を言う。

 そして、ラクが頷くと―――


「すらぁっ!!」


「ッ!」


 グンタは、そのままラクの首筋を、刀で振りぬいた。

 首を通り過ぎた後、一瞬、赤い血しぶきにも見える赤色の爆発が起こり、刃が通った軌道に沿って、綺麗に赤色のエフェクトが張り付いた。

 そして、システムメッセージが鳴り響く。


『ONE END!』


「っと……危ない危ない」


 ラクが傷口をさすりながら言った。


「だっ、大丈夫なの?」


「大丈夫さ。ここじゃ死なない。……ここ以外だったら首が刎ねられて死んでるけどね」


 口では強がっていたが、ラクはかなり気分が悪そうに見えた。

 ダメージを受けないとは言え、やはり首元をリアルな刃物が通り過ぎるというのは気分がいいものではないのだろう。

 グンタが、その様子を得意げに一瞥しつつ、言った。


「さて……今、システムメッセージが聞こえただろ?」


「うん。”ワン・エンド”とか……」


「これは”一発で終わった”って意味で、要するに”即死”って意味だ。首を刎ねられたら、流石に普通は死ぬからな。こんな感じで、キャラには”急所”ってのがあって、そこを攻撃されると、かなり大きなダメージを受ける」


「どんな場所になるの?」


「基本的にほぼ全ての生物に共通してるのは……”頭部”と”首元”に、心臓のある部分。そして……股間だな」


「あー、”タマ”とか?」


「お前……女なんだから、少しはそういうのを恥らうとかしろよ。流石に直球過ぎるだろ」


「タマだけにストライク? なんちて。まぁ別にさ、恥ずかしがってもしょうがないじゃん」


「……」


 猛烈に寒い洒落というか、空気を読まない台詞に、思わず二人は目を閉じて口をつぐんだ。

 どうやら彼女は……なんというか、調子に乗って後先考えない台詞を言うクセがあるようだ。

 子供っぽいというか、天真爛漫な感じと言うか。

 グンタは、非常にリアクションの取り辛い空気を、無理矢理払うように言った。


「~~~……まぁ、とにかく、レベル差があっても、そう言う場所を狙われると、一気に大ダメージを受けたり、倒されたりするから気をつける事だ。レベルがある程度離れてれば、早々喰らいはしないがな」


「例え差があっても油断しちゃダメって事ね」


「ああ。ちなみに命中した場合、”ONE END(一撃死)”、"CRITICAL HIT(致命打)"そして”HARD HIT(強打)”、”CLEAN HIT(的確な一撃)"って順に基本、大きなダメージを受ける。自分の場合でも相手の場合でも、メッセージが聞こえたら、HPを確認することだ」


「どのぐらいダメージ受けんの?」


「ダメージ量でメッセージが出てるわけじゃないんだ。”クリティカル”は通常攻撃の3倍~5倍の威力を喰らった時に。”ハードヒット”は余り防御を行えないで攻撃を喰らった場合に。”クリーンヒット”はこちらの攻撃が直撃して100%伝わった時に出る、って感じだ」


「へ~」


■特殊ヒットとダメージ倍率の変化について■

 攻撃ダメージは、基本的に受け手の状態によって変化します。

 無防備であったり、バランスを崩れている時に攻撃を受けたりすると、特殊な倍打イベントが発生し、ダメージ倍率にボーナスが掛かります。

 ただし”基本的に受け手”の状態ですが、攻撃側の能力などで、イベント発生率が上がる事があります。


・ONE END

 一撃死です。受け手のHPがおよそ絶対値のマイナス点にまで到達するダメージを受けます。これが発動された場合は、心臓部を貫かれたり、首を刎ねられたりと、見た目にも明らかに死亡した事がわかる場合が多いです。

・CRITICAL HIT

 致命打と訳される攻撃です。なんらかの要素により、攻撃ダメージに数百パーセントの倍率が掛かります。欠損ダメージを誘発しやすい倍打イベントです。

・HARD HIT

 強打。攻撃が相手に大きく通った時の表示です。攻撃を余り防御できていない場合や、また攻撃属性が対象の弱点であった場合などに表示されます。

 部位ダメージを誘発しやすい倍打イベントです。

・CLEAN HIT

 的確な一撃を示します。攻撃の運動エネルギーが全て相手に通った状態で、攻撃側が完璧な攻撃動作を行った事を示します。

 これを連発するプレイヤーは、かなりの能力の持ち主です。

 また、一部の追加効果発生条件になっている事があります。


「そして、ダメージが通ると……当たり方によっては、アイツの首元にあるような、”欠損ダメージ”か”部位ダメージ”ってのを受ける」


「欠損って?」


「身体の部位のどこかが欠けたり、破損してしまった状態だ。ダメージを受けた手だとかの部分が全く使用できなくなる。リアルなら血がドバドバ出たり、骨とか筋肉が剥き出しになって痛そうな状態になるんだが、流石にファシテイトは全年齢向けのゲームだから、それはチョイとまずいって事でこういうマイルドな表現になってる。ちなみに……部位ダメージは、欠損とまではいかないが、身体の一部分が使えなくなった状態を表す」


■部位ダメージ、欠損ダメージについて

 アバターは身体の各部位に攻撃を受けることで、対象となった部位が使えなくなる場合があります。

 腕に矢を受けて”腕部ダメージ”となってしまうと、しばらく腕を動かしにくくなりますし、手にダメージを受けてしまうと、”掌部ダメージ”となり、物を持つ事が極めて難しくなります。

 この部位ダメージは、回復行為によって余り時間を掛けずに復帰する事ができますが、ダメージが悪化したり、非常に強烈な一撃を受けた場合はこれを通り越して”欠損ダメージ”となり、

 うっすらと赤く光る電飾のようなもので傷口が覆われます。

 こうなると、専用の施療術などで回復しなければならず、戦闘中に回復する事が難しくなります。

 これら一連の部位ダメージは、前述の特殊ヒットを受けた場合に誘発されることが多いです。


「確かに、本当に首が跳んで骨が見えたりしたら……って思うと、ちょっと怖いかな」


「まぁ痛みはリアルに反映されるわけじゃないから、そこらへんは大丈夫だ」



「さて、そろそろ魔法のシステムに移りたい所だが、その前に”コンボ”について教えておかねぇとな」


「コンボって……格闘ゲームとかである、一気に何回も攻撃する奴?」


「まぁそんな奴だ。実際にやってみるから見てろ」


 再び、グンタは先ほどのように”ダブル・ソード”を発動させた。

 だが攻撃は二回の連続切りで終わらず、その後、更に三度の突き攻撃を行った。


「あれ? 5回になってる……」


「今、オレは”ダブル・ソード”を出してから、”トリプルニードル”って突き技を出したんだ。これが”コンボ”。”技を繋げて大きな連続技にする事”だ。技を繋げるほど、素早くいくつもの技を出せる上、威力にボーナスが掛かり、より強力な技になっていく。そして―――代わりに使うエネルギーも大きくなっていく」


「へぇ」


「盗賊とかの高機動クラスは、手数の多さで攻撃力をカバーしなくちゃならんから、このコンボの仕様をちゃんとの理解してないと、接近戦で勝てない。ちゃんと憶えておくんだな」


「わかったけど……そんなにコンボ攻撃って大事なの?」


「大事だ。初心者を脱した辺りから”攻撃可能時間”ってのを考える必要が出てくるからな」


「なにそれ?」


「対プレイヤーでも、モンスター相手でもなんだが、接近戦をそう長い間仕掛ける事は出来ないんだ。一瞬の隙を突いたり、相手を崩して無防備にさせたりで”攻撃が可能な状態”ってのをちゃんと作ってから攻撃をするよう心がけないといけない。そう言う時に、チマチマと技を出してたら押し切られる。だから一瞬で攻撃を一気に叩き込む、ってのが必要になるのさ」



「それで……そろそろ魔法の事が聞きたいんだけど……」


「オレはここまでだ。魔法はアイツの方がわかるだろう」


 グンタは、そう言うと一歩下がり、代わりにラクが前へと出た。


「それじゃ、いよいよ魔法の仕様について教えようか」


「よっしゃー!」


 声を張り上げて喜びをアピールするアリカ。

 どうもかなり魔法を使いたかったらしく、気合は相当なものだった。


「まず、このファシテイトの魔法システムは、とあるTRPGを参考に作られていて……」


「あ、それは聞いたわ」


「え? そうなのか」


「アリの村の防衛戦の時に、オレがちょっとだけ説明したんだ」


「なら……実践の部分からか」


 ラクは咳を一息吐いてから話し始めた。


「とりあえず、一度魔法を使ってみるから、よく見ててくれ」


「えっ? 使えるの?」


「一応、全能力が使えるように組んでるのさ。……それじゃあ……」


 ラクは何やら言葉を呟き始めた。そして、言葉が言い終えていくと、それに応じて手に光が集まり始めた。

 やがてそれは発火し、炎の塊となって球形へと纏まっていく。

 そして掌で掴めるほどの、握り拳程度の大きさになった時、ラクは言い放った。

 すると―――


「”火球ファイア・ボール!!”」


 発生と共に、作られていた火の玉が前方へと飛んで行き、地面へと落ちた。

 同時に、爆発するかのように大きく燃え上がった。

 だが―――やがて、炎はだんだんと小さくなっていき、消えた。


「うわぁ……!」


 アリカが感嘆の声を漏らすと、得意げにラクは言った。


「これが一番有名な初歩魔法。”ファイア・ボール”さ」


「どうやって使うの?」


「いくつか使う条件があるんだけど―――まず、魔法は”魔法系クラス”がクラス構成に入ってないと使えない」


「魔法使いとかね」


「そうだ。今、俺は”合成騎士”が入ってるから、魔法が使える。一つもクラス構成に無い場合は魔法を憶えていても使う事はできない」


「まず”魔法系クラスであること”ね」


「次に”知識を憶えること”が必要だ」


「知識って……?」


「具体的には魔法を出す為の呪文の羅列だ。これを得る事によって”知識”が溜まっていく」


「知識が……溜まる? どういう事?」


「信じられないかもしれないが、魔法の呪文は”使うと使用者の頭の中から消えていく”ようになっているんだ」


「ええ!? 嘘でしょ!?」


「”形無き力ある知識を消費して、自らの精神力を使い、生み出した『源子』と練り合わせて奇跡を生み出す”というのがTRPG『XYZ』における魔法の定義だから、そう言う風になってるんだ。だから、例えば―――もし、ここで俺が口頭でファイアボールの呪文を伝えたりすると、その分、伝えた側の頭の中から”ファイアボール”の知識は薄れていく」


「……じゃ、じゃあ魔法っていつかは使えなくなっちゃうの?」


「そんな事はない。ちゃんと”知識”を補充すれば使えるさ。本を見返したりすれば、知識は頭の中でまた満たされるし、暗記とか復唱を繰り返していれば、そう簡単には忘れなくなる」


「へぇ~……」


「それで”知識”を持ってる状態で、なおかつそれを唱えて”消費”。更に自分自身の精神力……つまりはMPとかを消費して、初めて魔法は使えるという仕組みになってる。そして、貴重な知識や、強力な魔法を放つ為の知識は消耗が早いんだ」


「MPってのは、左上に出てるゲージの……どれなの? 5本あるけど……」


 アリカは左上に出ているゲージの事を訊ねた。

 現在、アリカのパーソナルビューの左上には”大きなゲージが二つ”と”小さなゲージが三つ”の計”5つ”ものゲージが見えていた。


「ああ、そういやそこの説明してなかったな」


 アリカの言葉を聞いて、グンタが応えた。


「ゲージの説明、してなかったのか? 元ネタの説明どこまでやったんだ?」


「触りの部分だけだ。そんなにやってない」


「なるほど……なら、そこの説明もしておこうか。……一応確認するけど、左上のゲージは”5本”あるよね? 一度も魔法系クラスについてないと出ないから、ちょっと確認したい」


「うん、あるよ。大きくて明るい緑色の奴と、ピンク色の奴。そしてその下に濃い緑、赤、青って順に並んでる」


「そのゲージは、上から”HP”、”TP”、”MP”、”EP”、”SP”って言う名前になってる。意味は……HPはわかると思うけど”ヒットポイント”。つまり体力。TPは”テクニカルポイント”。物理的な技を出す為のゲージだ。この上の大きな二つのゲージは、どっちも肉体的なゲージ」


 ラクが言葉を切ると同時に、アリカは視線を下の三つのゲージへと落とした。


「そしてその下の三つが、全て精神系のゲージ。上からMP、”マナ・ポイント”。二つ目の赤いのが”気力”で”エナジーポイント”、一番下の青いのが”霊力”で”スピリットポイント”って意味になってる」


「なんで3本もあるの?」


「このゲームの能力体系が、TRPGを参考にしてるのは知ってるんだよね?」


「うん」


「そのTRPGの世界では、全ての人間が魔法使いになってるんだけど、その流派は”魔法使い/メイジ”、”魔術師/ソーサラー”、”魔導師/ウィザード”って分かれてるんだ」


「なんで違うの? 魔法使い一つで絞ってればいいのに」


「流派というか、系統って言った方がいいかもしれない。世界が三つの流派で分かれてて”魔法使い達の文明”とかがあるんだ」


「??、どういう事?」


「なんて言うか、魔法使いって言っても、一杯それっぽいのがあるだろ? 僧侶とか、精霊術師、妖術師とか。魔剣士とかだって立派な魔法使いだ。そういうのを、全て三つの系統として分類してるんだ。例えば”魔法使い系の魔剣士”みたいな感じになってる」


「料理の和食、洋食みたいに分かれてるのね」


「う、う~ん……まぁ、ニュアンスが違う気もするけど、そんな感じだ。それで、今―――君には”源子使い”ってのがクラス構成に入ってるはずだけど、これも魔法使い系か魔術師系かで使い勝手が違ってきたりするんだ」


「でも……それとゲージが三つあるのとってどう関係してるのよ」


「”魔法使い”、”魔術師”、”魔導師”の三つを分ける為さ。実際には、これらを分ける事は難しいんだけど、今言ったTRPGの中では、明確にある基準を持って分けられてるんだ」


「それが……あの3つのゲージなの?」


「その通り。精神力を使って”マナ”、つまりは”魔力源子”を生み出して使うのが『魔法使い』。生命力、気力、活力を”エナジー”という名の”気力源子”に変えて使うのが『魔術師』。最後に魂の力、魂魄こんぱくを”エーテル”へと変化させて操るのが『魔導師』ってわけだ」


「へぇ……」


「ちなみに、ゲージはどれもゼロになると危険だから注意してくれ」


「HPはわかるけど……他のも危ないの?」


「勿論。HPは、言うまでもなく切れると死亡する。TPは、当然だが減るほど大技を出しにくくなる。ゼロを割れるまで技を使うことは可能だけど、ゼロ以下になった場合、しばらくの間”テクニックブレイク”って状態になってTPが回復しなくなる」


「どのぐらい使えなくなるの?」


「TPが”0”をオーバーした数値分の時間だ。だから、ある程度TPが減った状態だと、大技を出しにくくなる。それと精神系のゲージも、かなり大きく影響が出る」


 ラクはゲージを拡大しつつ、説明を続けた。


「MPは”精神力”だから、切れると思考能力が低下する。”考える事自体”がなかなかできなくなるんだ」


「考えること自体って……?」


「先の事を読む頭脳的な体力がなくなる、というかな。全力疾走をした後みたいな感じになる。一度なってみればわかるよ」


「全力疾走した後みたいな……ねえ」


「あと、EPは活力や気力を象徴するゲージだ。だから切れると当然のことだけど、”虚脱”した状態になって身体が動かなくなる。これもかなり危ない」


「虚脱って、ぐったりした状態のこと?」


「うん。精気が全くない状態だ。”うつ”みたいな様子とか、体力を完全に使い果たしたような感じをイメージするとわかりやすいと思う。そして―――SPがゼロを割ると、意識が消えてしまう」


「えっ! 嘘でしょ!?」


「ホントのことさ。SPはスピリット、つまり”魂の力”そのものだ。無くなると意識の力が消えてしまったことになるから、失神してしまう。これも他のゲージ切れと同じぐらい危険だ」


「って言うかどれも危ないじゃん……」


「うん。だから基本、どの数値もゼロになるってのはその時点で殆ど勝敗が決したようなものになる。どれも死亡した状態じゃなければ、少しずつ回復していくけど、減る毎に段々身体の状態が悪くなるから、なるべく減らさないように戦わなきゃいけない」



「俺が魔法のことで言えるのはこの辺かな。じゃあ呪文教えるから、実際に使ってみようか」


「やったー!」


 ラクが道具袋から一つの本を取り出し、アリカへと渡す。


「これ何……本?」


「初歩の魔法教科書さ。それの……4ページを開いてくれ」


 言われるがまま、アリカは本をペラペラとめくり、該当ページを開いた。

 ページには「初級エレメンタル魔法」とかかれており、その下にはいくつかの文章が書かれていた。

 だが、今まで見た事のない文字で描かれており、とても読めそうにない。


「何これ……どうやって読むの? 初級エレメンタル、ってのはわかるけど……」


「魔法使いのクラスが入ってるから、君はそれを読めるはずだ」


「えぇ? でも……」


「集中して、とにかく一度やってみてくれ。技を出した時みたいに、自然体を意識する感じで、文字と意味の解読に集中するんだ」


 アリカはそう言われて、再び本へと視線を集中させた。

 しかし、やはり文字は初めて目にする外国の言葉のような感じで、一つも読み取る事が出来ない。


(……~~~こんなのどうやって読めって言うのよ……?)


 半分諦めかけていたアリカだったが、半ば捨て鉢の気持ちになって、再度集中すると―――文字が別の言葉へと、移り変わり始めるのが見えた。

 段々と文字が日本語へと変換されていく。


(!)


 やがて、アリカは並んでいる文字列を、無意識のうちに読み上げ始めた。


「ギ・アル・デル・ロー・アーヴ。火の真理の御名において命じる。我が精神マナをその代替とし―――発火せよ!」


 アリカはそこまでを発生してから、自分の身体の中で、熱いものが腕へと集まっていくのを感じた。

 まるでピリピリとした痺れが、一点へと集まっていくような、不思議な感覚だ。

 そして―――それが指先へと集まり、頂点に達した時―――呪文が自然と口からこぼれるように発せられた。


「ファイア・ボール!」


 アリカが人差し指と中指を二つ前へと突き出し、呪文を発声すると、一瞬、小さな爆発のようにも見える発火が起き、卓球で使うピンポン玉程度の大きさの火の玉が、前方へと弾け飛んでいった。


「うわぁ……や、やったぁっ!!」


 それを見ていたラクとグンタが小気味よい雰囲気を漂わせつつ、縦に首を僅かに振った。


「その教科書はあげるから、あとは自分で実際に色々と試してみてくれ。実の所……俺も基本的な部分しか知らないからさ」


「えっ、そうなの?」


「基本、俺は科術攻撃ってのメインで戦ってて、魔法は合成の時に火を起こすとか、そう言う程度でしか使わないんだ。メインクラスに据えてる奴なら、もっと色々とわかると思うから、何か聞きたいならそう言う奴に聞いた方がいい」


 ラクが言うとアリカが鼻で応えた。

 だが、すぐに一つの事を彼女は訊ねた。


「あのさ……そういえばその”科術攻撃”って何なの? たまに聞く言葉だけど」


「要するに”道具攻撃”の事さ。科学を魔法的に使う技術を”科術”って言って、様々な道具を使っての特殊な攻撃を”科術攻撃”って言うんだ」



「さてと……次は地味に重要になる”属性”について」


「属性ってアレでしょ? 炎とか水みたいな」


「そう。属性には大きく分けて”エレメンタル属性”と”概念的”、”物理的”って大別された属性がある」


■属性について■

 世界の様々な事象は属性として表されており、全部で計26個ほどが存在します。

 ”エレメンタル属性”として「火炎、水素、冷気、風向、電気、大地」の6つ。

 ”概念的属性”として「閃光、暗黒、聖冽、邪悪、生命、地獄、源子、混沌、幻妄、理力」の10。

 ”物理的属性”として「高温、低温、切断、刺突、衝撃、爆砕、変質、分解、重力、音響」の10。

 魔法を初めとする運動や操作、事象の変化などの際には、これらの属性のいずれかが、そのエネルギーの属性として付加されます。

 これらいずれにも属さないものは「無属性」扱いとなります。


「……なんか多いなぁ」


 小難しい顔をしてアリカが呟いた。

 彼女はこういった文字が多く並ぶようなものを見るのは苦手なようだ。


「これってさ、結局の所、どういう違いがあるの?」


 アリカが訪ねると、ラクが言う。


「使われてる分野が違うんだ。例えばエレメンタル属性は主に魔法・科術攻撃で使用されてる。逆に切断とか刺突とかは、剣での攻撃で主に発生させるという感じだ」


 アリカは感心する声を上げるが、すぐに訊ねた。


「ねえねえ、”邪悪”とか”地獄”とかは何なの? あと”源子”とか”幻妄”とかも」


「え? う~む……どう言えばいいかな」


「例えるなら”邪悪”はそのまま、悪意の攻撃だ。呪いの爪とか、怨念の呪文とかの、喰らったらやばい感じ能力。危険な付加効果が付いてる事が多い」


「うえぇ……なんかキツそ~」


「”地獄”は早い話が”ドレイン攻撃”って奴だ」


「ドレイン?」


「相手のHPとかを吸収する攻撃だ。基本的にHPだが別のステータスを吸収するものもある」


「なんでそれで”地獄”なの?」


「それは多分、”死の属性”に組み込まれてるからじゃないかな」


「死の属性?」


「”アンデッド属性”とも言う奴。ゾンビだとかスケルトンだとかは、みんな”暗黒”、”邪悪”、”地獄”に対してもの凄く強いって特性を持ってるんだ。それを総称して”死の属性”って言う。そして地獄が入っている理由は……彼らが”生命力や精気を吸収できる”から、だと思う」


「吸収?」


「アンデッドモンスターは、生者から直接精気を吸い取る、みたいな能力を少なからず持ってるんだ。例えば吸血鬼が血を吸ったり、死神とかが手を触れたりして、直接命を奪い取るみたいな奴。だから、それを再現する為に実装されてるんだと思う」


「あ~……そう言われたらなんとなくわかるかな」


「この属性の厄介な所は、”武器”とか”技”についてた時に、体力回復を行われてしまう事だな」


「武器についてる時とかあるの!?」


「あるよ。”炎の剣”とかがあるみたいに”地獄属性付きの剣”ってのがある。あと”飢餓剣士”っていうクラスが持ってる”ヴァンパイアスラスト”とかの技にも付加してる。当然だが、喰らうとHPとかを吸い取られるから注意するんだ」


「はーい」


「そして、”源子”ってのは”純粋源子”のこと。純粋な魔力のブレスとかがこれに当たる。防御しやすいけど、純粋な力だから強力なものが多い。詳細も見ておくといいだろうな」


 ラクが「”属性の詳細について”を開いて欲しい」と言うとアリカは渋々、その部分を検索した。そして、一覧が表示されたが……かなり長い。

 彼女は、並んだ文字列を見て、うんざりするような声で言った。


「……う~ん。なんかゴチャゴチャしてて、見る気しないなぁ……」


「まぁ、魔法で使う時とか、実際に使った方が効果がわかるから理解しやすいだろうなぁ。言葉で説明すると伝わり辛い意味もあるし」


■属性の詳細について■

 属性の一例や内包されている事象は以下の通りです。


・火炎

 火による事象です。もっとも身近にあるとされるエレメンタルです。

 大抵は高温のもので、対象に浴びせかける事などで効果を成立させます。

・水素

 水による攻撃や液体を利用したものです。

 物体を劣化させるものや、酸などの溶解事象を引き起こすものなどが該当します。

・冷気

 大抵は低温をともなう事象です。

 様々な物体の原子的運動を停止させる事象が該当します。

・風向

 風や空気の流れを象徴するエレメンタルです。

 気圧や真空を引き起こす事などが該当します。

・電気

 電流などを司るエレメンタルです。

 機械にとって無くてはならないエネルギーでもあります。

・大地

 大地や鉱物、金属などを表すエレメンタルです。

 無機質なものを指す場合と、いくつかの副属性を伴って

 生命的な概念を表現する場合があります。


・閃光

 あらゆる光の事象を司る概念です。強烈な光は強い信号になります。

 聖なる力と共に付与されることが多いです。暗黒属性と対立します。

・暗黒

 暗闇の概念です。閃光属性と対立します。

 様々なものを包み込み、侵食していきます。

 邪悪な力と共に発動されることが多いです。

 閃光と共に盲目状態を引き起こすことがあります。

・聖冽

 神聖なる概念です。邪悪属性と対立します。清らかさや安らぎなどを主に象徴しますが

 時としては厳然たる法則などの顕現をも司る事があります。

・邪悪

 邪悪なる意思や存在の概念です。悪魔型のモンスターや悪性のクラスが持つ事が多いものです。聖冽属性と対立します。

・生命

 生命的な概念です。生ける者全てが持つもので、僧侶はこれを操って増やしたり、”負の力”を生み出すことで傷をつけたり等の奇跡を生み出します。

 地獄属性と対立します。

・地獄

 死の概念の一つです。アンデッドタイプのモンスターがほぼ確実に持っている属性です。様々なエネルギーを使用者へと吸収させる効力を持ちます。

 生命属性と対立します。邪悪属性と非常に相性の良い属性で、同時に持っている事が多いです。

・源子

 純粋なる魔力、生命力、霊力の属性です。源子弾攻撃や何も属性を持たないエネルギーの多くが該当します。

 純粋さそのものを体現するため、混沌属性と対立します。

・混沌

 あらゆるものを飲み込む混沌のエネルギーの概念です。

 具体的には別次元を流れる”カオス”と称される何物とも表現できないエネルギーを指し、荒々しく全ての存在を飲み込み、混ぜてしまう現象などを含めて指します。

 純粋なる源子概念と対立します。これが生み出されるのは、強力な事象が発動した場合が多いです。

・幻妄

 幻惑や迷妄などの概念です。虚無や狂気をも呼び起こす属性でもあり

 強い精神力を持っていなければ耐える事は難しいでしょう。

 洗脳などの能力はこれらをもって発動します。揺らめきがこの属性の本質である為、理力と対立しています。

・理力

 心や真理の概念です。余りにも強力な精神が現実に影響をもたらす際にこの属性を伴います。

 使いこなすには恐ろしいまでの精神力が必要となります。

 揺ぎ無い芯の通った心の概念である為、精神的な混沌を表す幻妄属性と対立しています。


・高温

 炎などと同時に発生する属性です。物体の運動が早くなる事でも生み出され

 その事によって炎が生じるという方が正しいかもしれません。

・低温

 氷などと同時に発生する属性です。これは高温とは逆で、物体運動の停止を象徴します。

 温度は高温から低音へと流れるように移動していきます。

・切断

 主に剣などの刃物によって作り出される属性です。

 ”線”に特化した事象であり、対象に鋭い両断をもたらします。

 極めてポピュラーですが、同時に汎用性も高く、文明を象徴する属性の一つです。

・刺突

 切断と同じく主に剣などの刃物起こる属性です。切断は”線”でしたが

 こちらは”点”を象徴する属性です。単純な威力だけで見れば最も強い力が生み出される属性です。

・衝撃

 主に殴打武器や生身の拳などで生み出される属性です。

 ”面”の力を象徴する属性で、切断と並ぶ汎用性の高さを持ちます。

 スケルトン型モンスターに対して最も効果のある攻撃属性です。

・爆砕

 爆発の際に起きる属性です。”周囲”に様々な物体を散らせたり、広範囲への影響力を持ちます。強力ですが、大掛かりな準備を必要とする事が多いです。

・変質

 あるものを変化させる属性です。酸による物体の溶解や腐食による劣化などに付加します。

・分解

 物体が散ること、壊れて砕けることなどを象徴する属性です。

 爆砕と違い、”周囲”ではなく”対象の崩壊”を指します。

・重力

 引っ張られる力(引力)や弾き出す力(斥力)の事を指す属性です。

 地球上のほぼすべてを覆うもので、これを操作する事によって、限りなく自由な運動を実現させる事が出来ます。

・音響

 振動を起こす属性です。高いエネルギーを持つ音響は高温や爆砕などを引き起こします。



「さて、最後は……システム的な防御系について話そう。まずは”異能防御壁”についてだ」


「いのうぼうぎょへき?」


「解りやすく言えば”精神的もしくは魔法的な鎧”って所だ」


「そう言えば……蟻の街で、そんなの聞いた気がする」


 一瞬、ラクがグンタを見る。グンタは何も言わずに首を縦に振る。

 ラクはそれを見て、何かを察しつつ、話を続けた。


「基本、アバターは物理的な防具を装備する事は出来るんだけど、魔法とかの特殊攻撃を防御する鎧を装備する事は出来ない。魔法攻撃によるダメージは、持っている精神力でそのまま防御する事になる。だけど、それだと当然だが余り攻撃を防御できない。だから……それを補う為に作られたシステムなんだ」


「特殊攻撃を防御する鎧ってこと?」


「ああ。”目に見えない魔法のエネルギーそのものを着る”事で特殊防御力を上げるシステム、って言えばわかりやすいかな? とはいえ、実際は特殊な視力があれば見えてしまうんだけど」


「まぁなんとか……どういう風に使うの?」


「一般的なのは魔法を唱えて壁を作ること。あとは道具を使っても張れるし、色んな張り方、構築の仕方がある。”壁”は全部で10枚分張る事が出来て、一枚一枚に品質が存在する。”炎の攻撃に強い壁”とかがあるんだ」


「場合によって使い分けたりするのね。でも……なんか面倒そー」


「装備自体に処理が施してあって、自然発生させてる場合もある。その場合は剥がされても、時間が経てば復活するし、呪文を唱えて早く張り替えたりもできる」


「前にも聞いた気がするけど、それってそんな重要なの? もの凄く危ない、みたいな事をグンタから聞いたような気がするけど」


「文句なしに危ないよ。これを付けてないと、例えば普通の攻撃で言うなら、防具一切なしの裸で、刃物を受けるのと同じだ。小さなナイフとかを受けるだけでも危ない」


「そりゃ危ないわ……だからか。重要って言うのは」


「これを知ってるか知らないかじゃ、天と地ほどの差がある。かなり重要な仕様だから、絶対に憶えておいて欲しい」


「わかったわ」


「ちなみに、この異能防御壁で張れる物はシステム的には”耐性”ってものになる。他にもキャラ自体が持つ力を”抵抗力”、そして完璧な耐性を”免疫”って言う」


「それは何が違うの?」


「”抵抗力”は、キャラ本来が持つ力。鎧と肉体で言えば”肉体”の方の能力のことさ。モンスターは防御壁を張る能力が低い代わりに、これが高かったりする。そして”免疫”は、言葉の通り、これを持っている相手には全く攻撃が効かない。例えば”火の免疫”を持っているモンスターには、炎の属性攻撃は全く意味がない。そればかりか、回復さえされてしまう場合があるんだ」


「空気と同じみたいになる、って事ね」


「そう。そんな感じ。溶岩に真顔で入れるドラゴンに、火が全く効かないようなイメージを再現するシステムさ」



「だいたい話す事はこれぐらいかな」


「はぁ~……長かったぁ……」


 アリカは、授業が終わった事を知らされると、疲れきった表情でへたり込んだ。

 かなり長い講義の時間を経て、昨日の防衛戦よりも疲れた様子だった。


「それじゃあ明日は時間の許す限り、雪山を探索するから、そのつもりで気を引き締めておいて欲しい」


 そこまでを言ってから、ラクはやや間を空けて言った。


「それじゃ―――解散!」


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