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   証



 月は、空にあいた穴。

 遠い大地は、横たわる境界線。

 ただ、それだけのものだった。

 時折見えてくる景色が、何を意味するのか。

 その中を歩いているのが、誰なのか。

 知らなかった。

「ラタン、あまり急ぐと後がもたないよ」

 背後から、声。

 自分を、形にする。

 立ち止まり、振り返ると、そこには、自分の中を、透けて通り抜けていかない人。

 世界と自分を繋ぐ、接点。

 追いついてくるのを待って、見上げた。

 多くのものが交錯した視線。

「あなたのことは、みんなを殺した後に生まれた別人、そう思うことにしたから」

 壊れてしまうのを、堪えている、強張った、顔。

 世界が、彼女の周りにだけ、息づく。

「だけど、あいつが出てきたら、私は迷うことなくあなたを殺す……覚えておいて」

 何度も聞いた、音の繋がり。

 まるで、自分に言い聞かせているみたいな。

「好きに、したらいい」

 向けられる、強い感情。

 それは、この世界の存在を示す、信号。

「少し方向がずれてる、谷があっちにあるから……もっと南寄りに歩かないと」

 手書きの地図を手に、先を歩き出す。

「どこへ、行くの」

 振り返らずに進んでいく背中を、追う。

「みんなが、眠っているところ」

 ほんの少し近付いた背中から、虚ろな呟き。

 自分が殺した、人間たち。

 覚えていない、けれどそれも、信号のひとつ。

 ふと、前を行く人が、喉を引きつらせる音。

 背中を丸めて、足下の岩に躓き転びそうになりながら、銀色の大地を歩いている。

 泣いて、いる。

 信号が、伝わって。

 体の奥が、痛んだ。

 時々ある、この痛みは何だろう。

 捨てたくなる、けれど、最も世界を感じられる、この痛みは――

 泣いている人に、触れようとして、触れられない。

 ただ、離れていかないように、足を前に出す。

 たったひとつ、見付けた、証。

 見失わないように――





          《了》

ここまで読んで下さった方、ありがとうございました。

応募用に書いた作品だったのでページ数に限りがあり、ちょっと中途半端なところで終わりとなっていますが、自分の中で書きたいと思ったテーマは書ききれたかなと思っています。


でも、設定を存分に活かせず、謎を明かしきれなかったことは私の力不足です。すみませんでした。


ラタン(レギ)が何者かについて少しだけ明かすと、文中にも匂わせていた通り、今回の物語の舞台とは別の常識に支配された、現操術とは違う原理で魔法らしきものを使う遠い秘境(まだ公にされていない新大陸)に暮らす稀少な種族の子供です。その未知なる強大な力を持つが故に、様々な勢力の思惑に巻き込まれ、悲惨な経緯を経て今回のエピソードに至りました。


そして、彼らの旅はまだまだ続いていきます。

無駄に細かく設定を考えてあるので、頭の中には延々と続きが書けそうなネタがあります(笑)

そのうち時間と機会があったら続きを書いてここに載せることができたらと思います。また、どんなご意見でも今後の創作の参考にしたいと考えていますのでお気軽に感想など寄せて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。


それでは、またの機会に。

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