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10/22

         七


 差し込んだ夕日が石造りの床に日溜まりを作るジェドルの部屋で、向かい合った三人は慎重に、一言一言噛みしめるように言葉のやりとりを交わしてしていた。まるで、ほんの少し手元が狂えば複雑に絡み付いてしまいそうな細い糸屑を、震える手で一本一本引いてほどこうとするように。

 本当は、あの後、あの場で、すぐにでもラタンに事の経緯や事情を問い質したかった。しかし、直前まで繰り広げていた死闘からくる疲れと、傷の痛み、命懸けで挑んでも互角に渡り合うことすら叶わなかったあの巨大なスナヒョウを、一瞬で炭に変えた張本人がこの幼い少年であるらしいこと、その衝撃に混乱していたルヤは、ラタンに対して冷静に語り掛けることができず、帰っていろと言ったのにまだ宿に帰っていなかったのか、あなたのような子供がこんなところに近付いたら危険だなどといった、とりとめのない、的外れな質問を繰り返すことしかできなかった。そうすることで、何とか目の前で起きた信じ難い出来事を、受け入れやすい現実に重ね合わせようとしていたのかもしれない。そして、そうこうしているうちに、一人また一人と通りに出てきた村人や滞在者達が例の焼け焦げたスナヒョウの死体を発見して騒ぎだし、気が付くと村中の人間に取り囲まれているという収拾のつかない事態に発展してしまっていた。まだ自分達でさえ整理しきれていない事の成り行きを勝手に推測した上での賞賛や羨望、畏怖、皮肉、批判を浴びせてくる村人達を前に途方に暮れていた三人を、人垣を掻き分けてやってきた村医が強引に人の輪から連れ出してくれてその場は切り抜けたが、その後も、村の診療所で傷の手当てを受けたり、訪ねてきた村長に事情を説明したり、宿に帰れば血相を変えた主人と女将に迎えられ、例によって宿代を払う要らないの問答になったりと、その日のうちはとても落ち着いて話し合うどころではなく、翌日の夕方になって漸くこうして三人だけでいられる時間を確保することができたのだった。

 あの、スナヒョウの一件以後も、ラタンの様子にこれといった変化はなく、何を話し掛けてもぼんやりしたまま一言二言返すだけで、淡々としたものだった。こうして三人で顔を付き合わせていても、深刻な表情を浮かべているのはルヤとジェドルばかりで、背もたれのない椅子に腰掛けたラタンは人形のように動かず、視線を宙に留めている。

 そんな、出会った頃と何も変わらないように見える彼の姿を、ルヤの心はもう既に、一昨日までのただ感情表現が苦手な、全てを失った無力な子供としては捉えられなくなっていた。

 あのスナヒョウをこともなげに殺したのが彼であろうことは、当時の状況が物語っている。こちらの問い掛けに対する彼の反応が曖昧な所為もあり未だに信じ難いが、本当にそうなのだとしたら、その力は一体何を意味するのか。

 表面からはあまり感じ取れない、けれど彼自身も切望しているであろうその疑問の答えは、手元へ転がり込んだ不可思議な手掛かりによって、近付くことなくまた別の謎へと姿を変えた。

「やっぱりあの時、現操術を使ったのはラタン……なんだよね?」

 あの光が現操術であることだけはまず間違いないだろうと考え、ルヤはそう切り出した。それ以外に、あのような超自然現象を起こす手だてを、ルヤは知らない。その現操術と呼ばれる力もまた、千二百年前にシトア教宗主アリオ=シトアが編み出し提唱するまではこの世に存在しなかった画期的な能力だ。現在までのところ、それを最初で最後に、超常的な力の類は他に一つとして存在しない。ルヤの知る限り、それが一般的に広く浸透した常識だった。

 だがそうすると、ラタンはシトア教徒であるばかりでなく、目に焼き付いたあの閃光の威力を見る限り相当の使い手、つまり、かなり高位の僧侶だということになる。果たして、この年齢でそこまでの使い手になれる人間がいるのだろうか。しかもそのような高位の僧が、記憶を失っているとはいえこんな辺境を一人で彷徨っていたりするものなのか。更に言えば、どうして彼はシトア教の僧衣ではなく、見慣れない黒いローブに身を包んでいるのか、と、辻褄が合わない点がいくつも出てきてしまう。そして、そんな矛盾の極め付けは、質問する度、予想の範疇を超えた世間知らずぶりを発揮するラタンの浮世離れした返答だった。

「げん、そうじゅつ……というの……? あれは」

「え……現操術、わからないの? あなたが使ったんだよ? ラタン」

 専門であると思われる人間が、現操術という呼称そのものを忘れてしまうなどということがあるのだろうか。単語を聞くことすら避けてきた自分たちでさえ、現操術が何であるかくらいは説明できるというのに。ラタンの記憶喪失がそれだけ重度であることを意味しているのかもしれないが、その、一瞬の迷いもない、まるで知らないという反応が、ルヤにはひどく異様なものに感じられた。

「特殊な、ことなの……それは……」

「……私も詳しいわけじゃないけど、少なくとも自然に使えたりしないってことは確かだよ。勿論、私も、ジェドルも使えない。習得法は漏洩しないようにシトア教団が徹底的に管理してるし、僧院に修行僧として所属しても、術を伝授して貰えるのは色んな厳しい訓練を乗り越えて地位が上がってからだって聞いたことある……あなたくらいの歳じゃ、僧院に入りたてとか、見習いとか、そのくらいが普通じゃないのかな?」

「しとあ、きょ……?」

「やだ、嘘でしょ? シトア教くらいは……」

 まるで初めての響きが良く聞き取れなかったかのように反復するラタンに、ルヤは薄ら寒いものを感じた。この大陸にとってシトア教とは、ただの宗教以上の意味合いを持っている。シトア教の教義理念も、教団そのものも、この大陸の様々な事象に多くの側面から関わり、良くも悪くも深く浸透し、影響を与えている。恐らく、この東西ヘンディア大陸に生きる人間の中で、シトア教と聞いて何の感情も湧き起こらない者はいないのではないかというくらい、シトア教という概念は人々の思想を構成する重要な要素となっているのだ。

 それを、知らないというラタン。

 ただ忘れているだけなのだとしても、現操術師の彼がそのワードに全く反応しない、その様子を見て受けた衝撃は、例えるなら、食べたり寝たりといった、生きていく上で当たり前の行動まで忘れてしまった人間を前にしているような感覚だった。

「その、しとあ、きょう、というのが……僕の、帰るところなの……」

 黙ったまま硬直しているルヤに、シトア教の意味自体には大して興味も無さそうに、ラタンが質問を省いて発する。

 止まっていた思考が、その問い掛けに漸く動き始めて、ルヤは少し考えてから、曖昧に頷いた。

「そうだね……現操術が使えるんだから、少なくとも過去にどこかの僧院に在籍してたってことだろうし、そこに行ってみればあなたの素性も分かるかもしれない……ここから一番近くにある僧院は、確か……」

「……待てよ。まだシトア教僧と決まった訳じゃねえだろ」

 自分の考えを確認するように頷いて辿り始めたルヤの記憶の糸を、今まで一言も発しなかったジェドルの低い声が断ち切った。

 顔を上げると、深い思索から浮かび上がったばかりといった様子の、眉間に皺を寄せたジェドルの顔が目に入る。

「え、どうして? まあ確かに、こんなに若い僧侶の話はあんまり聞いたことないけど……」

「そうじゃねえよ、こいつくらいの歳で高位の僧になるガキは稀にだがいることはいる。若いってことに関しちゃ、別に疑問はねえんだ」

「……そうなの?」

「ああ、厳しい修行についてこれさえすれば僧院に在籍するのに年齢制限はねぇからな、ガキのうちからのし上がってくような才能のある奴もいるよ……だがな……それとは別に、こいつ、シトア教僧って決め付けるには引っ掛かるところが多すぎなんだよ」

 まるで僧院に居たことがあるような彼の口振りに複雑な表情をしているルヤに気付く様子もなく、ジェドルは、自分の方へ真っ直ぐ視線を向けたラタンを見据えるようにして続ける。

「ラタン……お前、もしかすると魔人じゃないのか?」

「ま、じん……?」

「もしくはお前をここへ連れてきた誰かか……」

 魔人――その言葉を聞いて、ルヤは漸く、ジェドルがさっきからラタンに対して妙に挑戦的な態度をとる理由を悟った。

「ジェドル、魔人って、まさか……」

「ああ、現操術習得法を盗む形で教団から抜けた僧侶のことだ」

 シトア教では、ある一定以上の階位を得た僧侶の脱退が厳しく制限されていて、無断で教団の管理下から外れ、目の届かない場所に行ったというだけで容赦なく命を狙われるといわれている。その禁忌を犯してまで脱走し、世を乱してきた存在――それが魔人だった。彼らの所業により生み出された悲劇の数々を見れば、罪人と言っても過言ではない。西大陸に現操術が渡ったのも、軍事力として利用されることを承知の上で、金と名誉欲しさに習得法を売った魔人の仕業だというのは有名な話だ。

「ラタンが……魔人だっていうの?」

 特に動揺するでもなくジェドルの話に聞き入っているラタンを、信じられない思いで顧みる。

 ルヤが魔人と聞いてイメージするのは、金に汚い、性根の腐った救いようのない人間の姿で、この、発言も行動もまだまだ幼い、世間のことを何も知らない顔をした子供とは到底結び付かなかった。

「今んとこは推測でしかねえが、正統な僧侶なら堂々と僧衣着てるはずだろ。それに、こいつは僧侶の証である鳴鍵(めいけん)も持ってねえ」

 鳴鍵と聞いてもルヤには暫く何のことだかわからなかったが、そう言われれば確かに、僧侶がそんな名前の、装飾を施された杖を所持していたことをうっすらと思い出す。大陸中を旅していても、現操術を忌む三人と共に在った為か、僧院には余程のことがなければ近付かなかったし、旅先で僧侶に出会う機会も多くはなかった。そして、そんな三人の中でも特に現操術やシトア教の話になると機嫌が悪くなっていたジェドル。そのジェドルが、こんなにもシトア教についての詳細な知識を持ち、しかもそれを平然と語っている。今までに見たことのなかった彼のその姿に、ルヤは言いようのない、まるで、ジェドルがジェドルでなくなっていくような、恐怖にも似た不安を覚えた。

 そんなルヤの心情など想像もしていないといった様子で、ジェドルは少し考え込むように間を置いてから、躊躇いがちに言葉を継いだ。

「それに……俺が一番気になってるのは、あのスナヒョウの死体だ」

「死体? あの、真っ黒焦げの……?」

「ああ……現操術ってのは人間にしかほとんど効かねえんだよ、獣とか草木には、人間に向けた時の半分も威力を発揮しねえ」

「えぇ? そうなの?」

 思わず声の調子が外れる。

 それは、常識なのだろうか。そんな特徴、ルヤは今まで聞いたことがなかった。だが、確かに言われてみれば現操術が使われるシーンは戦争にせよ治癒にせよ、対人のみであることに気付く。 戦争に使用される現操術を間近で見てきたジェドルだからこそ得られた知識、ということだろうか。

「どんな高位の現操術師でも、獣をあれだけ黒焦げにするってのは相当な大仕事になるはずなんだ。ところがラタン、お前は何の造作もなくそれをやってのけた……」

 見透かすようなジェドルの鋭い視線を受けても、ラタンの表情は宙を見るときと同じ、ぼんやりとしたものだった。

「どういうこと……?」

 次々に未知の情報を繰り出す、いつもとどこかが違っているジェドルを、ルヤは戸惑いながら仰ぎ見る。

「さあな、単純にそれだけ桁違いの能力を持った術師なのか、それとも別の何かがあるのか……全ての答えはこいつの中にあるってことだろ」

 この、出会ったばかりの人間を見る時の値踏みするような目は、ジェドルの悪い癖だった。

「なぁ、ラタン、お前本当に何も覚えてねえのか……? 俺達に何か隠してないよな……?」

 ラタンは無言のまま、ジェドルを瞬きもせず見返している。

 その顔に、やはり読み取れる感情はなかったのだが、ルヤには見えた気がした。ジェドルにこんな言い様をされても、不快も、憤りも、悔しさも映さない瞳の奥で、ラタンは、何も感じることの出来ない自分を静かに悲しんでいる。

「やめて、ジェドル……ラタンは本当に何もかも忘れてるんだよ……もっとじっくり話してみて、ジェドルにもきっとわかるから」

「……そうだとしてもルヤ、少なくともこいつはただのガキじゃねえ、どう転んでも訳ありだよ……あんま情を移すな」

 自分を気遣ってくれているのが伝わってくる、強がりながらも少し辛そうな声。ジェドルの言っていることは、厳しいけれど、正しいのだろう。確かに、ラタンはどんな過去を持っているのかわからない、言われた通りに警戒して距離を置いていれば、傷付く心配もないのかもしれない。だが、ルヤの心の中でラタンはもう、無表情で得体の知れないただの子供ではなくなっていた。張り詰めていた心を不器用に解きほぐしてくれた、泣き疲れるまで黙って傍にいてくれた、壊れてしまうと心配してくれた、透き通るような笑顔を見せてくれた、それらひとつひとつの思い出が、ラタンを代わりのいない、唯一の存在としてルヤの心に刻み付けていた。

「……私には、ジェドルみたいに割り切ることはできない……だって、ラタンは私達を助けてくれた……その為に使った力が例えどんなものだって、私達の命を救おうと動いてくれたことに変わりはないんだよ? ……そういうラタンの気持ちを無視して、まるで無かったことみたいにして疑えっていうの?」

 言い返そうとしないジェドルに感情をぶつけながら、きっと彼が言いたいのはそういうことではないのだろうと、分かっていた。ルヤが傷付かないように、敢えて嫌われ役を演じているのだ。それを知ってか知らずか、夕闇に染まった暗い部屋に溶け込んでしまいそうなラタンがぼそりと口を挟んだ。

「この人の、言う通りだ……信じない方がいい、僕を……」

「ラタン?」

「僕は……信じられないから、自分のことを……」

 これまで何度か目にした、この場所にいながら、本当はどこか遠くにいるようなラタンは、言い終え、ぎこちなくこちらを見上げた。そう、この瞳をルヤは時々、実際以上に近く感じるのだ。自分と同じように、目に見えない何かを、安心できる何処かを探しているような、寂しげな色をした瞳。この瞳だけは信じようと、ルヤは思った。彼の持っている他の何もかもが自分を裏切るとしても、今、確かに自分と重なって見えているこの瞳だけは、嘘ではないと。

「あなたが信じなくても、私は信じるよ……」

 自分の心と約束するような気持ちで、ルヤは静かにラタンに告げた。

「ルヤ……」

 呆れたように、だが、どこか優しげな声で呟いたのは、ジェドル。ラタンは相変わらず無表情で、今の言葉をどう受け取ったのかさえわからない。もしかしたら、彼も同じように、自分がどう感じているのかわからないでいるのかもしれないと、何となく、そう思えた。

「疑うどころか、私はラタンがジェドル達を助けてくれた現操術師かもしれないって、ちょっと思ってるんだよ」

「は?」

 素っ頓狂な声を上げるジェドルを、窘めるようにルヤは続けた。

「だって、そう思わない? 大怪我を治癒できる力さえあれば、何も正式な僧侶じゃなくたっていいわけでしょ? ジェドルが見たっていう現操術師って、もしかしたらラタンなんじゃないかな?」

 眉を寄せて、改めて自分を眺め回すジェドルを、ラタンの方も見上げ、互いに見詰め合ったまま、奇妙な沈黙が流れる。

「ラタンを紹介した時、ジェドル変な顔してたでしょ? 二人は初対面じゃないんじゃないかって、何となく感じてたんだけど……何か、思い出せない?」

 もしそうなら、忘れているだけで、ラタンはビスラとサーナの行方を知っているのかもしれない。そう期待して二人の答えを待ったが、ラタンの方は、すぐに、何も覚えていないというようにルヤに向かって首を振る。

「……忘れる前の僕が、そんな風に誰かを……何かを、守っていたならいいのだけれど……」

 遠くに、その様を思い描くようなラタンの目と同じ高さまで腰を屈めて、ルヤは笑った。

「楽しみだね、あなたが全てを取り戻したら、どんな素敵な男の子になるのか」

 あまりルヤが正面から見詰めるものだから、ラタンは珍しく戸惑ったように瞳を逸らし、その視線をある一点で止めて、見て、と促すようにもう一度ルヤに目をやる。

 見ると、目を離していたほんの少しの間に、ジェドルが腰掛けたベッドの上で背中を丸め、きつく頭を押さえて低く呻いていた。

「ジェドル! どうしたの? ジェドル!」

「くそ……! まただ……頭が……」

「ごめん! ジェドル、もういいよ! 無理に思い出さなくていいから!」

 帰還した翌日の、同じような状況での彼の異常な苦しみ様が頭を過ぎり、ルヤは青ざめて、怪我をしていない右腕でジェドルの肩を抱いた。

「いつまでも、そんなこと言ってるわけにいかねえだろ……! けど、なんでだ……あの先……あの先を思い出そうとすると……なんで、こんなに頭が割れそうなんだよ……!」

 そのまま暫く苦しんだ後、まるで前回の成り行きをそのまま再現したように、ジェドルは平静を取り戻すことなく徐々に沈み込むように眠りに落ちていった。

 思えばあの日から、部屋を覗くと、真昼や夕方など普段は起きているはず時間に深く眠り込んでいるジェドルを何度か目にしてきたが、もしかしたら、あれは今のように当時の状況を思い出そうとして、恐怖と激痛に苛まれた直後だったのかもしれない。そんな話を彼は一切しなかったが、以前の威勢の良さがここ数日は明らかに影を潜めていたのも、その所為なのかもしれない。想像して、ルヤの胸にも重苦しい痛みが走った。

 ジェドルが思い出せない記憶とは、一体どんなものなのか。思い出そうとするのを阻むものは何なのか。それを知ることができた時、どんな景色が目の前に広がるのだろうか。知りたいと思うのと同時に、知るのが怖かった。ジェドルがあそこまで怖れる真実が幸せを運んでくれるとは、ルヤにはどうしても思えなかったのだ。

 その真実と、全てと、向き合うことを先延ばしにするように、ルヤはラタンに、彼の怪我が良くなって、もう少し落ち着くまで様子を見ようと話し合いをそこで切り上げた。ジェドルかラタンの記憶が戻るまでは下手に動かない方が良い、そう結論付けて、たとえ不安であっても今まで通り手探りの毎日を過ごす方を選んだ。今、信じたいと思えるラタンが傍にいて、ジェドルが彼らしい言葉を投げ掛けてくれる、そんな、強く握り締めたら手の中で消えてしまいそうな、けれど確かに自分を安心させてくれる現実に、必死に縋り付こうとするように。

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