3章Aパート
夜。 俺は重い足取りで家に帰ってきた。
結局あの後、夏美は現れなかった。
何をしていたのか、何を思っていたのか。 今の俺には全く想像がつかなかったんだ。
「夏美ちゃん、どうかしたの?」
智瀬はそんなことを心配そうな顔をして言っていた。
「いや、分かんないけど…でも…あいつの様子…」
俺の言葉を続けるように、智瀬は呟いた。
「なんか、寂しげ…だったよね」
「…ああ」
そんなどうしようもない状況の中、俺は智瀬の家から早めに切り上げた。
智瀬と俺の家の距離、徒歩で50分程度。 田舎といえど、この町は広い。
決して近くはない距離、いつもならどこまで乗っても一律150円の路線バスで帰っている。
正直、50分の距離は歩きたくないから。 疲れるし。
でも、今日はなんとなく。 歩いてゆっくりと帰りたい気分だった。
夕陽に染まった空を見上げながら俺は歩いていく。
ふと見上げた空に、夏美の悲しげな顔が映し出されて俺は頭をブンブンと横に振る。
まるで、それを落ち消すかのように。
「分かんねぇーよ…」 ポツリ、俺は立ち止まり呟いた。
俺は真っ直ぐ帰る気にもなれず、適当にコンビニ等で暇つぶししていた。
―――そんなこんなで、家に着いたのは日が暮れてからだった。
「ただいま」 玄関のドアを開け中に入ると母さんが俺に駆け寄ってきた。
「あ、聡。 ちょっと大変なのよ!」
その様子で分かった、何かあったらしい。 まさか・・・。
嫌な胸騒ぎをぐっと拳を握り堪えつつ、俺は平然を装った。
「なんだよ? 大変なことって? まさか、また父さんが別の女と歩いてたとかそんなクダラナイ…」
チャカすつもりで、言った。 が、それがいけなかった。
「そんなんじゃないわよ!!」 母さんは少し泣きそうだった。
「え・・・あ・・・悪い・・・何があったんだ?」
「夏美ちゃんがね・・・」
「え・・・?」
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
「くそっ! なんなんだよ!」 俺は玄関から勢い良く飛び出した。
母さん曰く、夏美がまだ帰らないそうだ。 携帯も電源を切っていて繋がらない。
友達のところにも連絡してみたが今日は来ていないという。
俺は走りながら腕時計を見る。 8時…。 確かに、いつもこの時間なら帰ってきているはず。
それに夕方のこともある。 何かを思い詰めた様な…何かを待ち続けているような瞳だった。
それと、何かが関係あるのだろうか。
分からない。 何も分からなかった。
ただ、今俺にするべきなのは・・・。
「くそっ…どこまで心配掛ければ気が済むんだよ!! あいつは!!」
そう、あいつを探すこと。 それだけは分かっていた。
なんとなく、あいつが俺の名前を呼んでいる。 そんな気がしたから。
宛てなんかはない、でも俺は心当たりを手当たり次第探し回った。