最終章Bパート
・・・・・・・・・・・・。
・・・。
それから、3年の月日が流れた。
俺は、とある墓石に線香をあげ、合掌していた。
「・・・・・・」
五月蝿いくらいに蝉の鳴き声が響く中、俺に一人の女性が近づいてきた。
「もう、あれから3年経つのね」
そう言って空を見上げる。
「ああ、もう3年だ」
「・・・」
「どうした?」
「後悔、してない?」
「してないと言えば嘘になるかな。 あんなことになっちまって。」
「そうだよね、ごめん」
「謝るなよ、お前は悪くないじゃんか」
俺は“あの出来事”があった8月10日の日には毎年
この“彼女の居場所”に来るようにしていた。
もう、それもこれで3度目になるんだな。
丁度盆の時期と重なって墓参りには絶好の期間でもある。
「救えなかったね・・・」
「何をだ?」
「何もかも、あの子の気持ちも何もかも」
救う。 俺にそんな資格はない。
「まぁ・・・これで良かったなんて、嘘でも言えないよな。 確かに。」
「・・・うん」
「でもさ、“あいつ”が居たから俺たちは今こうして居られるのかもしれない」
「そうかもしれないけど・・・」
女性はそっと、墓石に彫ってある名前を撫でた。
「でも、どうしても自分のせいだと思えちゃうんだよね」
そう悲しく笑って。
「・・・馬鹿、悪いのは俺だって何回も言っただろ?」
俺は優しく女性の頭を撫でてやる。
「本当、そういうとこ変わってないよね?」 くすぐったそうにそう笑った。
「当たり前だ、俺は俺だ。 でも・・・」
墓石を見つめて俺は言った。
「“あいつ”の言った言葉は・・・絶対に忘れない。
今回のことで学んだこと、感じたことは絶対に忘れない。」
だから俺は、いろんな意味で変わらなければいけない。
「うん・・・そうだね」
この子を、もう二度と泣かせない為に。
そして、《この下》で眠る“あいつ”為に。
・・・・・・。
・・・。
俺はあの時、無我夢中だった。
普段、優柔不断で頼りない俺がこの時だけは体が動いたんだ。
それは素直に、智瀬を守りたいと思ったから。
それだけの思いだけど、たったそれだけで体って動くものなんだな。
気がつけば、俺は智瀬に矛先が突き刺さる寸前で智瀬の目の前に飛び出していた。
「?!」
いきなりの行動に驚いたのか、夏美はナイフの軌道を変えて間一髪俺には当たらなかった。
「お兄ちゃん? 何してるの? 危ないよ?」
無垢な子供のように、本当に分からないような顔をしていた。
どうして? 本当にそう思っているような。
「もう辞めてくれないか、夏美」
「なんで? だってこの女が悪いんだよ?
あたしとお兄ちゃんの関係を邪魔するから、当然のことでしょ?」
何が悪いの? 夏美の瞳はそう訴えていた。
「俺が好きなのは、智瀬なんだ」
「・・・え、またそんな冗談言って。 あたしを驚かそうとか?」
「嘘じゃない。 これが俺の本当の気持ちなんだ」
「・・・嘘だよね? だってお兄ちゃんはキスしてくれたよ?
それって、普通の妹にはしないはずだよね?
女の子としてみてくれてた証拠だよね???」
「ごめん、あの時の俺はどうかしてたんだ」
「・・・・・・」
「俺はやっぱりお前のこと、妹として好きだ。
これからも兄妹として仲良くしたいと思っている。
だから、こんなこともう辞めよ? 普通の前みたいな関係に。」
「約束、してくれたじゃん」
「え?」
「あたしを必要としてくれるって!
ずっと、ずぅっと傍に居てくれるって言ったじゃん!!
この女が居たら、あたしの居場所なんかないじゃん!!
お兄ちゃんの傍になんか、居られなくなっちゃうじゃない?!」
興奮したのか、声を荒げる夏美。
「だから、妹としてなら・・・」
「それじゃあたしが嫌なの!!
お兄ちゃんと、ずっとずっと寄り添っていたいの!!」
デパートで買ってもらえない玩具を欲し、駄々をこねている子供のように。
「・・・・・・」
「お兄ちゃん・・・どうしてもその女がいいの?」
「ああ、俺は智瀬が好きなんだ。
お前が何を言おうと、この気持ちは変わらない。」
「ふ・・・」 一瞬、夏美の体がビクッと動いたかと思うと
今まで俺を見つめていた瞳とは違う
先程智瀬に向けられていたのと同じ瞳を俺にも向けた。
「なら・・・消えちゃえ」
「え?」
「あたしのモノにならないんだったら・・・お兄ちゃん、消えちゃえ」
ナイフをグっと握り締め直す夏美。
「・・・!?」
俺はその禍々しいほどに濁った瞳に恐怖を覚え、鳥肌が立った。