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兄妹 ~ 紡グ言ノ葉 ~  作者: 八神
【最終章 ~《贖罪》 罪負い人は雨の中で~】
42/45

最終章Aパート




・・・・・・・。


・・・。




あれから、どれくらいの時間抱き合っていただろうか。


二人の気持ちを確認できたのが嬉しくて、互いに離れがたくなってしまった。


「ちょっと寒くなってきたね」 智瀬がそう言って身震いする。


真夏とはいえ、夜は肌寒い日もある。


ましてやずっと服を着ない状態だったから当たり前なのかもしれない。




「そうだな・・・いい加減服着るか?」


智瀬の身体を見れなくなるのは、ちょっと惜しい気もするが。



「うん、そうだね」 智瀬は立ち上がり、地面に転がっていた服を手に取る。


俺も後に続くように放ってあった自分の服を掴む。





・・・・・・・・・。





さて、着替え終えた所で智瀬は俺の目の前にやってきて


真っ直ぐに見つめてきた。




「さと君、これからどうする?」


「どうするって?」


「だから、その・・・夏美ちゃんの事」 言い辛そうにモゴモゴとしている。


「ああ・・・それなら心配ない。」


「え?」


「夏美の事は、俺が何とかする」 そういって頭を優しく撫でてやる。


一瞬くすぐったそうに笑ったが、すぐに不安な表情に戻る。




「でも・・・」





”―――(あなたをコロしてあげます)―――”





「あの夏美ちゃんの目は・・・本気だったような気がする・・・」


「智瀬・・・」


「私、怖い・・・どうしたらいいのか分かんない・・・」


智瀬は自分の腕で自分の肩をギュっと抱いた。


「さと君の事は好き。 誰にも取られたくないし渡したくない。


 でも、さと君と居ることで夏美ちゃんが何してくるか分かんない・・・


 もしかしたら本当に・・・」





キュっと口を紡ぐ。


多分、その先は怖くて言いたくないんだろう。


大丈夫、俺がそんなことさせない。 そう言おうとした、その時。




「・・・許しませんよ、先輩」


聞き覚えのある声、いつもよりドスの利いている声が入り口の方から


聞こえてきた。





「夏美・・・ちゃん」


智瀬は一気に表情を強張らせた。


教会の入り口には、髪をポニーテールにまとめた夏美が立っていた。


「・・・・・・」


俺は知っている、夏美の髪がポニーテールになる時は・・・。


とてつもなく機嫌が悪い時だって事を。





「お前、いつからそこに・・・」


「最初から居たよ? えっとねぇ・・・お兄ちゃんがぁ・・・ふふ・・・。


 先輩とぉ・・・うっふふふふふふ・・・あっはははははははは。」




何が可笑しいのか、笑い交じりに俺に言った。


「内緒の話をしてるところからぁ・・・ぜぇんぶ!!!」


「!!」


夏美は智瀬を睨みつけた。


なんという事だ、最初から“今までの事”を一切見られていたという事か。





「約束しましたよね? 先輩、この事はお兄ちゃんには黙ってるって。


 なんで話しちゃったんですか?」


つかつかと、智瀬の前にやってきて不敵に笑う。




「・・・なんでって、黙っていてもいつかはバレるんだし・・・」


「あたし言いましたよね? 最後に勝つのはあたしだって。」


「・・・?」


「そして、こうも言いました。 あたしとお兄ちゃんの仲を邪魔する人はコロすと。」


「おい、夏美まさかお前!?」


肩をグっと掴み、夏美の体をこちらに向けた。




「お兄ちゃん、待っててね。 今邪魔者を消すから。」


「・・・・・・!!」 狂っている。


夏美の顔はもう明らかに正気をうかがえなかった。


「夏美!! 正気を取り戻せ!! おい、夏美!!」


必死に肩をグラグラと揺らす。 でも智瀬は笑って


「お兄ちゃん、どいて?」と言うのだ。



「・・・くっ」 力なく、俺は夏美の肩から手を離した。



俺には・・・何もできないのかよ・・・!!!




「さて、先輩。 もうお兄ちゃんのこんな顔は見たくないので」


夏美は持っていたバッグに忍び込ませていた果物ナイフを取り出す。


ナイフが月明かりに照らされて、ギラリと不気味に光った。



「!! 嫌! 来ないで!!」


突然の事に、智瀬は腰を抜かしてしまいその場にお尻から倒れこむ。


「大丈夫ですよ、痛いのは最初だけです。 すぐに楽にしてあげます。」


「嫌!! 助けて!!」 智瀬の瞳からは大粒の涙がこぼれていた。




「夏美!! やめろ!!」 叫ぶも、今までに無い経験で俺も恐怖していた。


口先とは裏腹に、体が全く動かない。


くそ・・・俺ってこんなに根性なしだったのかよ・・・!!




「うふふふ・・・」 もうそんな俺の言葉も届いていないようだった。


「嫌・・・来ないでぇ・・・」


「先輩、最期の機会です。 あ、こういう時って冥土の土産って言うんでしたっけ?


 特別に良いことを教えてあげます。」


「・・・・・・?」


「先輩のお母さん、最近帰ってこないでしょう?」


「・・・なんで夏美ちゃんが知ってるの・・・? まさか・・・?」


「そう、あれはあたしのせい。 あたしね、貴方のお母さんが“邪魔”だったから


 コロしちゃった☆」


「?! でも、お母さんからメールはちゃんと・・・」


「ああ、あれ? あれはあたしが送ったんだよ?」





「・・・・・・!!!!!!!」


「夏美、お前・・・!!」


そんな大変なことを、サラリと微笑みながら言っている。


本気で狂っている・・・。




「じゃぁ・・・お母さんは・・・」


「そ、今頃あの世かな」


「そんな・・・そんなぁ・・・!!」


智瀬は首を小刻みに横にフルフルと振る。




「嘘よ・・・なんでお母さんまで・・・」


「嘘じゃないわ。 貴方のお母さんったら、全力で貴方とお兄ちゃんの仲を応援


 してるんだもの。 もう腹が立って。 それで邪魔だったから消したの。」




消した、そう消したんだ。


夏美にとっては、ロウソクに点いている火を一本消したに過ぎないのだ。


俺らとは感覚が、違いすぎる。





「お母さん・・・ごめんなさい・・・」 ボロボロと涙を流す智瀬。


・・・智瀬の所為じゃない・・・そう言ってやりたかった。


でも、今の状況で言ってもそんな言葉気休めにもならない。




「今、お母さんのとこに送ってあげるからね?」


夏美は智瀬との距離をゆっくりと縮めた。


「・・・・・・」 智瀬は嗚咽を漏らしている。


夏美が近づいても、さっきみたいな抵抗はしなかった。


まるで、全てを諦めてしまったかのように。




「・・・夏美、やめろ!!」


動け、俺の体!! 足、動け!!!




「先輩、お兄ちゃんとの“恋人ごっこ”は楽しかったですか?


 あの世でも、お兄ちゃんみたいな人が見つかるといいですね?」


「・・・・・・」


「夏美!!! 智瀬!!!」



「先輩。 それでは・・・」





智瀬の前までやってきた夏美は、しゃがみ込み。


座り込んでいる智瀬を立ち上がらせた。


「・・・・・・」 智瀬は俯き、無抵抗なまま涙を瞳から落とし続けた。


智瀬は小さく“ごめんなさい”と


何度も呟いているようにも見えたのは俺だけだっただろうか。








「夏美、やめろぉ!!!」






   ――――― 「先輩、バイバイ」 ―――――






        そして、銀色の矛先が智瀬の身体に向け、伸びていく―――――。






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