9章Aパート
「そうか・・・お前・・・」
同じベッドに腰掛けて、こちらを見つめている夏美を見つめ返す。
「思い出した?」
「ああ・・・全部」
「そっか、良かった」
「俺とお前は・・・血が繋がってなかったんだな」
「そうだよ、お兄ちゃんはお母さんの連れ子。 あたしはパパの連れ子。」
「そして、俺とお前そして智瀬は小さい頃に会ってたんだ」
そうか、それで智瀬は告白の際“やっと勇気が出せた”なんて言ってたのか。
「そうだよ」
「そして、俺たちはそれぞれ約束を交わした・・・」
「でも、その約束はあたしの方が先だった」
ギシッ 深く腰掛け俺の肩に頭を乗せた。
「夏美・・・」
「あたし、お兄ちゃんと会う前から何回かお兄ちゃんの事を見てた。
お兄ちゃんは、あの日始めて知らされただろうけどあたしはずっと前から
知ってた。 もうすぐ自分に“お兄ちゃん”ができることを。
パパが、自慢げに言うの。 次のママは美人さんだぞって。
携帯の写メでその姿をたまに見せてくれた、そこに写ってたのが、あなただった。」
「俺の姿を知っていた? なら何故あの公園の時、黙ってたんだよ?」
「ごめんね? お兄ちゃんが本当はどんな人なのか、試したの。」
「それで、その試した結果は?」
「当然、合格。 カッコいいだけじゃなくて、優しい人なんだなって思った。」
「・・・優しい、か。」
「だから、あの時から・・・絶対あの女よりもずっと前から。
お兄ちゃんのこと・・・」
「おわっ」 バタン、急に俺の体はベッドの上に沈んだ。
「・・・・・・」 俺を押し倒した夏美は顔を上気させてこちらを見つめる。
その瞳に、一瞬吸い込まれそうになる。
「お兄ちゃん・・・あたし・・・もう我慢できないの・・・」
「ちょ・・・お前・・・」
着ていた上着を脱ぎ始める。
「待て・・・今日はそんなこと“しに”来た訳じゃないだろ?
ほ、ほら。 『でーと』したいんだろ?」
「・・・・・・」
そんな俺の言葉には耳をかさず、夏美は脱ぎ、とうとう下着一枚になってしまう。
「ねぇ、お兄ちゃん。 “したい”んでしょ?」
夏美は汗ばんだ俺の掌を掴むと、自分の胸に押し当てた。
「・・・・・・!!」
触ったことのない、柔らかな感触にどうしたらいいか分からなくなる。
「っ・・・、ほらもっと触っていいんだよ・・・?」
トクン・・・トクン・・・トクン・・・。
「だって、俺ら兄妹・・・」
ハっとした。 そうだ、俺たちは血の繋がっていない。
今まで大きな壁となっていた。 でも事実を思い出してしまった以上
俺たちの前に、そんな壁はもう。 どこにも存在しない。
トクン・・・。
怖いくらいに。
胸が。
高鳴っていた。
こいつ・・・こんなに可愛かったっけ・・・?
フワフワして、もう何がどうでもいいように感じた。
「お兄ちゃん・・・好きなの・・・」
「?!」 恥じらいと、憂いに満ちている。 その瞳は・・・。
『あなたが好きでした』 あの時の智瀬の瞳と同じだった。
ドクンっ。
唐突に、胸の高鳴りは痛みへと変わった。
「お兄ちゃんの全部を、あたしに頂戴・・・?」
ドクンっ。
どこかで、智瀬が泣いている。 そんな気がした。
「・・・」 俺は無言のまま、その柔らかな感触から手を引いた。
「えっ・・・お兄ちゃん・・・」
「服を着ろ、馬鹿」 俯き、俺はベッドから立ち上がる。
「どうして? お兄ちゃん!」
「・・・・・・」
ダメだな、こんな状況になっても智瀬のことばっかり考えてるじゃないか。
俺って、こんなにも女々しい奴だったのかよ。 心の中で苦笑する。
「どうして? あたしじゃダメなの? あの女がそんなにいいの?!
お兄ちゃんのことフったんだよ?! いっぱいいっぱい傷つけたんだよ?!
約束だって、あたしの方が・・・!!」
「分かってる!!!」 夏美の言葉を一蹴すると、俺は部屋のドアへと歩いていく。
「どこに行くの?! ねぇ、お兄ちゃん!!」
悲痛な叫びは、俺の耳に届いていた。 でも、その声に対して優しい言葉なんか
かけれなかった。 そんなことしても、結局夏美を傷つけてしまう。
「分かってるから、夏美。 少し考えさせてくれ。」
俺はそう言うと、振り返らずに部屋を出た。
正直、頭が混乱している。 自分の気持ちが、分からない。
・・・・・・。
・・・。
「ちっ・・・あの女・・・」
下唇を強くかみ締める。
あんなことしておいて、まだお兄ちゃんを苦しめる気?
許さない、あたしからお兄ちゃんを奪った挙句
お兄ちゃんをフって、傷つけたくせに。 尚もお兄ちゃんの心の中に居座るなんて。
お兄ちゃんは、あたしのモノ。 好きになるのは、あたしだけ。
許さない。 許さない。 許さない。 許さない。 許さない。
許さない。 許さない。 許さない。 許さない。 許さない。 ・・・絶対に。