8章Cパート【Ⅰ】
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8年前、俺がまだ小学生だった時。
当時の俺は母さんと二人で田辺町、あの教会がある町に住んでいた。
本当の親父がどこに行ったかなんて分からない。
物心ついた時には、すでに俺の傍らには母さんが一人だけだった。
それは俺がその町に引っ越すより、かなり前のこと。
8月、夏休み。
俺は母さんと二人で親戚の家に遊びに行った。
それは恒例で、毎年行っているものなんだが。
その家は、今俺が住んでいる凪名町にあって。
電車で少しの距離だったが、その途中がとても退屈だったのを
幼心に覚えている。
しかも割と山の中なので、することがあまりなかった。
・・・・・・。
・・・。
「あら、聡くん。 また大きくなった?」 玄関で出迎えてくれる叔母さんの
第一声は必ずこれ。
「・・・知らないよ、そんなこと」
毎年同じことを言われるので、少しウンザリしていた。
「最近、この辺にも泥棒が出るらしいのよ」
「え? そうなの?」
「そうなの。 それもしかも噂では小さな女の子が犯人らしいの。」
「えぇ? 誰か見たの?」
「この前、八百屋さんの店頭に置いてあった野菜を服の中に入れて
持って行った女の子を店主が見たっていうのよ。
慌てて追いかけたけど、すばしっこくて逃げられてしまったらしいのよ。」
「ふぅん、世の中分からないものね。 戦時中でもあるまいし。
小さい子が泥棒を働くなんてね。」
部屋の隅っこでゲームをピッピピッピやっていた
俺にとってはどうでもいいことだった。
でも、近くにいるのでそんな母さんと叔母さんの雑談が嫌でも耳に入ってくる。
「どんな子なの?」
「店主が言うには、古びた白いワンピースを着た・・・そうね。
丁度聡くんぐらいの歳の女の子だってことらしいのよ。
小学生くらいじゃないかって。」
俺と同じくらいの女の子が? でもどうしてそんなことを。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
その後も、二人の雑談は続いた。
ゲームにも飽きて、俺は部屋を抜け出した。
・・・二人は雑談に夢中になっていて俺には気づいていない様子。
こんなんが毎年続いている。 しかも途中で親戚の叔父さんとかも
集まってかなり賑やかになる。
3泊4日の、俺にとってはとてつもなく暑くて、退屈な小旅行。
「ちぇっ。 遊びに行くっていうか、話に来てるだけじゃないか」
心の中で毒を吐きつつ、玄関で靴を履くと外へと飛び出した。
―――少し歩いて町のほうに降りていく。
行く宛ても無く、商店街をただふらふらと歩き続けた。
この町は毎年来ているんだし、もう自分の町みたいに大体の地図は
頭の中に入っていた。
「どうしようかな・・・」 辺りをキョロキョロ見渡す。
辺りは食べ物屋から服屋。 雑貨店からデームセンターまで。
いろいろな店があり、目が回りそうになるくらいだ。
「あれ?」
ふと、俺と同じくらいの女の子が長いフランスパンみたいなものを両腕に
抱えながら奥のほうに走っていくのが遠くに見えた。
服装は少し古ぼけた白いワンピース。
「あれ? あの子ひょっとして、母さんたちが言ってた・・・」
なんとなく、その時は好奇心で追いかけてみようと思った。
それに、もしあの話の女の子ならあのパンは・・・。
・・・・・・。
・・・。
「・・・ふぅ」 女の子は商店街の一番奥、今は使われていない寂れたシャッターに
ガシャンと音を立てながら寄りかかる。
どうやら、ここが終着点らしい。
「そんなところで何してるの?」 俺は女の子に話しかけた。