1章Bパート
―――話を戻すと、その後の俺たちのデートといえば。
雑貨屋を回って『これ、かわいいね?』などと智瀬のはしゃぐ姿を見たり
喫茶店で一緒にスパゲッティを半分こしたり。
…至って順調に進んでいった。
そして、日も暮れ始めた頃。
俺が「帰るか」と言うと、智瀬は上目遣いでこう、せがんでくるのだ。
「さと君、あたし行きたい所があるの」と。
俺と智瀬は一緒に電車に乗り“田辺町”で降りた。
そこは、俺の住んでいる凪名町程ではないのだが、かなり田舎町で。
ここにある花江山は、季節によって咲く花があり、その景色は
それぞれの色に咲き乱れ、とても華やかだ。
外の人がよく観光に訪れる唯一の売り出しスポットだった。
その花江山の中腹に、小さな教会がぽつりと建っている。
その教会は昔は山に暮らす“なんとか”神教の信者が
そこに祭られている恋女神という神様に祈りを捧げる為に使っていたらしい
ことを昔、婆ちゃんから聞いたことがある。
最も今は信者も居なくなり、そこに住んでるのは今にも倒れてしまいそうな
老神父が一人居るだけだった。
その教会に、智瀬は行きたい と言ったのだ。
ギィィィ・・・。 重く堅い扉を開ける。
「・・・・・・」
静かだ、どうやら誰も居ないようだった。
「ねぇ、さと君。 ついてきて」
智瀬は、俺の手をキュっと握るとそのまま引い歩き出した。
「・・・これは」
智瀬に連れてこられた先は、教会の一番奥。
天に向かって祈りを捧げる女神の像の前だった。
「恋女神。 恋愛成就と平和を祈る女神様。」
そっと、智瀬は呟くとそのまま跪き祈るようなポーズをとった。
そして、瞳をそっと閉じる。
「・・・なにしてんだ?」
「見てわからない? 恋女神に祈りを捧げてるの。」
智瀬は瞳を閉じたまま答えた。
「祈り・・・」 何故だか、祈りを捧げる智瀬は切なく見えた。
それが何故なのか、分からないけれど。
―――その時だった。
ゴーン、ゴーン、ゴーン。
教会の鐘が鳴り響いた。
あの老神父が鳴らしたんだろうか?
「っ!!」
と、智瀬はびっくりしたように跳ね上がった。
「ど、どうした?」 慌てて智瀬の顔を覗く。
「やった! 鐘がなったよ! 嬉しい!!」
にこっと笑うと智瀬は俺に抱きついてきた。
「お、おい。 いきなりどうしたよ?」
「知らないの? この鐘の言い伝え。」
「?」
「この鐘はね、“愛し合ってる二人が一緒に聞くと幸せになれる”ていう言い伝えがあるんだよ」
智瀬は俺に抱きついたまま言った。
「へぇ・・・て、そんなどこかのギャルゲーじゃあるまいし・・・」
女の子って本当にそういうの好きだよなぁ。 などと思ってしまう俺は。
心が荒んでしまっているかもしれない。
「私たち、女神様に祝福されたのかな?」
そんな俺を他所に、智瀬は嬉しそうに俺の胸に顔を埋めた。
「・・・まぁ、いいか」
智瀬が嬉しそうだからいいか。
それに、本当に祝福されたのならそれは喜ばしいことだ。
何故なら。
俺たちは幸せになれるということなのだから。
俺はそっと、智瀬の頭を撫でてやった。 智瀬はくすぐったそうに笑った。
その時の俺たちは気づかない。 教会の重苦しい扉の向こうから覗く視線に。