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兄妹 ~ 紡グ言ノ葉 ~  作者: 八神
【第7章 ~それは花火のように~】
28/45

7章Eパート



見上げた夜空は、相変わらず雲一つ無く。



キラキラと星が瞬いている。




「・・・・・・」



この星を見つめ、智瀬はなんて言っていた?





『私たち、また来年も…一緒に来れるかな? 緑夏祭りに。』



その問いに答えたときの俺の言葉は、嘘だったのか?



もう離さないと・・・言ったはずだろ。



このまま智瀬を失っていいのか・・・?



彼氏である俺が智瀬にあんな表情させたままでいいのかよ?






「ねぇ、お兄ちゃん。 またあの女のことを考えてるの?」



ふと気がつくと、夏美は腕を解き俺の目の前に立っていた。



「あの女って…お前、そんな言い方」



「だって、あたしからお兄ちゃんを“奪った”んだよ?」



「奪った・・・? 違う・・・」



俯き、目を閉じる。



「なぁ、夏美。 今目を閉じて一番最初に思い浮かぶのは誰の顔だ?」



「え、そんなのお兄ちゃんに決まってるじゃん」



「・・・・・・」 俺は、俺が真っ先に思い浮かんだのは。






―――そうだな、もう答えは決まっているじゃないか。


どっちかを傷つけないで、なんて甘い考え。 元々無理だったんだ。






「ごめん、俺は違うみたいだ」



目を開けて、夏美に真っ直ぐ向き合った。




「え? 何言ってるの、お兄ちゃん?」 明らかに動揺している。



言葉では分からないフリをしているが



多分、俺が言いたい事を悟ったからなんだろう。






「ごめん、俺が好きなのは智瀬だから」






俺はそう言うと夏美の横を通り過ぎ、階段を下っていく。




「待ってよ! お兄ちゃん! あたしはお兄ちゃんが好き、大好きなのぉ!!」




イカナイデ。 夏美はそう言った。



でも俺は。





「俺も夏美のことは好きだよ」 立ち止まる。 けど振り返らずに答えた。



「だったら・・・!!」



「でもそれは妹としてだ。 家族としてならお前をずっと好きでいるよ。」



「妹として・・・? そんなの嫌だよ!!


 お兄ちゃんは忘れているかもしれないけど、あたし達―――!!」




「もう決めたことだから! 俺は…智瀬を守る。


 お前のことは…もう守れない…ごめん、夏美。」





夏美の言葉を一蹴するように言い放った。




「待って・・・待ってよ・・・」




声が震えだした、今にも泣き出しそうだ。



夏美は今、どんな表情をしているのだろうか?



声色から察するに、きっと苦痛に顔を歪めているに違いなかった。




それを分かっていても、俺は夏美の頭をもう撫でてやる事はできなかった。




「夏美、ごめん」





そのまま走り出す。 もう振り向くわけにはいかない。





「待ってよ!! お兄ちゃん………お兄ちゃん………………聡さん!!」







夏美の声が、遠くなっていくにつれ



それに比例してその声が痛々しくなっていく。



その声に、気持ちにはもう応えられない。 ごめん、本当にごめん・・・。








・・・・・・・・・。


・・・・・・。


・・・。







階段を下り終わると、俺はベンチにちょこんと座っている智瀬を発見した。






「智瀬! 良かった、まだ居たんだな」



そう言って智瀬の方に駆け寄る。 だが・・・。



「来ないで!」 あと数メートルという所で制されてしまった。




「え?」 予想外の展開に固まる。



「なんで来たの?」 俯き、囁くような声で呟く。



「なんでって、そりゃ・・・」



「夏美ちゃんは? どうしたの? 一緒じゃなかったの?」




悲しく、それでいて怒っているような様子。




「待ってくれよ、俺の話を聞いてくれ。


 俺は夏美にハッキリ言ってきたんだ、俺は智瀬の事が好きなんだって。


 夏美のことは“妹”として好きなんだって。 血の繋がった家族としてって。」




「妹として・・・? まさか、さと君夏美ちゃんとのコト」




そこまで言って口を紡ぐ。




「え? 何、なにか言いかけなかった?」 夏美とのコトってなんのことだ?



「そうだね・・・私との事も、忘れてるんだもんね・・・」



ポソリ、呟いた。



「お、おい。 さっきから何の話をして・・・」




「ごめん・・・私もう帰るね」 言って、立ち上がり浴衣についた砂を掃う。




「お、おい。 もう帰るのかよ? もうすぐ花火が始まるんだぜ?」



ここまで来たのに、それにあんなに花火を楽しみにしてたじゃないか?



「ごめん、私具合悪いから。」



「それじゃぁ、家まで送るよ」



「いいよ、一人で帰るから」



「何言ってんだよ、俺は智瀬の彼氏なんだぜ。 遠慮するなって。」




近づき、智瀬の左手をそっと握った。




「!! やめてよ!!」 その手はすぐに振り払われてしまった。




「え・・・・・・」 一瞬、何があったか分からなかった。




「・・・・・・」 目の前には自分の左手を右手で抑えつけている智瀬。




「智瀬・・・? どうしたんだよ? 今までそんなこと・・・」





「ごめん、さと君。 私、あなたを騙してた。」



「は・・・?」




「悪いとは思ってたんだけどさ。 実はあの時の告白・・・。


 クラスメイトの女の子に命令されて仕方なくしただけだったんだよね。


 ほら、私ジャンケン弱いでしょ? だから10連敗したら罰ゲームするっていう


 変な約束がとりつけられちゃって、私弱いからまさかの10連敗しちゃって。」





「な、何を言ってるんだよ?」





「それでね、罰ゲームってことで。 たまたまランダムで選ばれたのが貴方だったの。


 びっくりしちゃったよ、断るかと思ったら“オッケー”しちゃうんだもん。


 まぁ、その場では罰ゲームだなんて言い辛かったから言えなくて。


 そのままズルズルと2年間もやってきちゃったけど。 どう?


 恋人ごっこは、楽しかった?」






あはは、と智瀬は苦笑いした。





「ちょっと待てよ、訳分からねーよ…」 頭が混乱している。



つうことは、あれか? 簡単にまとめると。



俺と智瀬の2年間は、ただの罰ゲームの延長線で。



そこに気持ちは無かったってことなのか?





「俺のこと、最初から好きじゃなかったってことかよ?」




否定してほしかった。 でも智瀬から返ってきた答えは。




「そういうことになるね。」 肯定だった。






嘘だろ・・・? そんな、だって・・・。





「そういう事だから、もう私に近づかないで。 じゃぁね」




カランカラン、離れていく。 再び離れていく。




俺は事実を呑み込めず、ただ唖然としてその後姿を見つめていた。






ヒュー・・・・・・・・・ドーーーン!!



ヒュー・・・・・・・・・ドーーーン!!






遅れていた花火は、その瞬間に上がった。




階段の上からは観客の歓喜の声が上がっているのがここまで聞こえた。




けれど、そんな声も今はウザったいだけだった。




よく分からない、何がどうだったのか。




俺と智瀬の関係は・・・今までの2年間は、嘘だったっていうのかよ?



そんなの・・・そんなの・・・ありかよ・・・。





「・・・・・・くっ」



ボンヤリ、目の前が滲んだ。 ボロボロとせきを切ったように溢れてくる。




「んだよ・・・・・・チキショウ・・・」 情けなくなって、苦しくなって。




智瀬が座っていたベンチに腰掛けると静かに泣いた。




もう智瀬の温もりは、どこにも残っていなかった。


残っていたのは、心のモヤモヤと孤独感だけだった。






花火が打ち上がっていた。



大きな音を立てながら、でもその光はほんの一瞬しか輝かない。





なんだか、俺と智瀬の関係みたいだな。 いろんなことがあったけど



終わるのは・・・本当に一瞬の出来事だ。




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