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兄妹 ~ 紡グ言ノ葉 ~  作者: 八神
【第7章 ~それは花火のように~】
27/45

7章Dパート







暗闇の中に、少女は佇んでいた。




そして、俺に向かって笑いかけてくる。





『一緒にお祭り行こう』と。




「夏美・・・どうしてここに?」





「ごめんね、こっそり後をつけてきちゃった。



 でもお兄ちゃんも水臭いなぁ、お祭り行くならあたしも誘ってくれればいいのに」






「あ・・・あ・・・」 智瀬の顔がどんどん青ざめていくのが分かった。





「智瀬・・・? 大丈夫か・・・?」





「・・・・・・どうしてここに居んのよ」 俺の質問には応えずに智瀬は夏美に


ツカツカと歩み寄ると睨みつけた。





「何、あんた? あたしがここに来てるのに文句あるわけ?」


負けじと、夏美も睨みを利かせる。





「答えて! どうしてここに居るのよ!!」 智瀬は叫ぶ。




「どうして? そんなの決まってるじゃない」





夏美は不敵に笑うと俺の腕にか細い腕を絡めてきた。





「なっ・・・おい」



「お兄ちゃんは黙ってて。 安心して、あたしがこの女を追い払ってあげるから」


上目遣い気味で俺に微笑む。






「ちょっと! 何腕組んでるのよ?!」


智瀬は必死に俺と夏美を引き剥がそうとする。






しかし、腕に込められている力は思いの他強くなかなか外れない。





「無駄よ。 あたしとお兄ちゃんは“愛し合って”いるんだもん。


 そう簡単に外れたり、離れたりなんかしないよ」






「?!」







その夏美の言葉を聞いた瞬間、智瀬は俯き呟いた。





「愛し合ってる? ふざけないでよ」



その声は、なんだか怒っていて。 それでいて泣きそうな感じだった。





「は?」





「ふざけないでって言ってるのよ。 そんな夏美ちゃんの勝手な勘違いで


 私とさと君の仲に割って入るなんて・・・いくら妹でも酷いよ」



消え入りそうな声。 その声はスゥっと夜の闇に消えていく。







「・・・・・・」



「ねぇ、さと君? 私、やっぱりさと君の傍に居ちゃイケナイのかな?」



俯いたまま、震えた声で問う。







「え・・・・・・?」



「私・・・さと君の傍に居ることで、さと君を・・・夏美ちゃんを・・・傷つけてる?」





浴衣の裾を、キュっと握る。






「そんなこと・・・」



「やっと気づいたの?」



俺の言葉を遮る様に、夏美は言う。





「あんたが居るから、お兄ちゃんが苦しい思いをするの。


 あんたが居るから、あたしはこんなんになるの。


 そんな当たり前のこと、今まで気づかなかったわけ?」






「お、おい! 夏美!」






「・・・・・・」 智瀬は身体を震わせ、何かに必死に堪えているようだった。





そして俺の言葉を無視して、夏美は続ける。



「あんたなんか、居なくなっちゃえばいいんだ。



 あんたが居なきゃ、あたしとお兄ちゃんは今頃“結ばれて”いたはずなのに!」






チガウ・・・ヤメテクレ・・・。




「っ・・・・・・」





ブルブルと震えが大きくなる。






「あんたなんか・・・あんたなんか・・・・・・」







ギュッ。 裾を掴む手に、さらに力が入る。








ヤメテクレ・・・オレハ、コンナコト・・・。


















   ―――あんたなんか、死んじゃえ!!!!!!!!―――
















夏美は、智瀬を睨みつけ叫んだ。



声が、どこまでもどこまでも。 木霊していく。



月明かりの中で、その木霊に身体をビクつかせて智瀬はその声に応える。












「分かった・・・私は・・・」 さっきまでの強気など、もう何処にも存在していなかった。








「智・・・瀬?」









顔を上げた智瀬。 その顔は涙でクシャクシャになっていた。








胸が・・・痛い。 心臓が嫌なほどドクドクいっている。



なんで、そんな顔するんだよ。 なんでそんな顔しなきゃいけないんだよ?



なんで俺は何も言えないんだ・・・なんで言葉が出てこないんだ・・・!!



心の中で、自分自身を殴りつけてやった。





でも、そんなのじゃ問題が解決するはずもない。












「私は・・・消えるね・・・さと君・・・ごめんね」










震えた声で、そう言う。 そして笑う。




静かに踵を返すように階段を下っていく。









ごめんね? どういう意味だよ? 智瀬?


どこに行くんだよ? 消えるってどういう意味なんだよ?








追いかけたかった。 追いかけて今の言葉の意味を一語一句逃さずに


問い詰めたかった。


でも、体が金縛りに遭ったように動かない。


俺の足に、根っこでも生えてしまったんじゃないかと錯覚するほどに。








カラン・・・カラン・・・・・・。








“音”が、次第に遠くなっていく。 智瀬が、遠ざかっていく。






俺は・・・このままでいいのか??




流れに身を任せたままで、なすがままでいいのか??





でも・・・今この腕をほどいたら夏美はどうなる?



また一人になってしまうんじゃないのか。









自問自答する俺を他所に、夏美は嬉しそうに俺に甘えた声で


「お兄ちゃん、あんな女もう忘れて。


 あたしと一緒に居よ? そっちの方が幸せだと思うよ?」と本当に嬉しそうに。




「・・・・・・」 俺はそれには答えなかった。









そして俺は空を見上げる。  一人佇むように。







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