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兄妹 ~ 紡グ言ノ葉 ~  作者: 八神
【第7章 ~それは花火のように~】
26/45

7章Cパート




カランカラン 音を立てながら俺と智瀬は広場までの石段を登っていく。



「・・・・・・」 その間、俺たちは無言だった。



でも、繋いでいる手の温もりはずっと感じられた。



だから、なんとなくそれだけで安心できた。







・・・・・・。


・・・。









「わー、人がいっぱいだね」 智瀬は目を丸くした。





無理もない。 今年は例年と比べても特別に観客の数が多い気がする。



展望広場自体は割と広い、だから観客で“満員電車”状態になることはなかった。



でも、今年はなりかけている。 ギリギリで足の踏み場があるような状態。



人、人、人。 とても暑苦しい。





「そうだな、結構人居るけど花火ちゃんと見えるのかね?」


「大丈夫だよ! だって花火はお空に上がるんだもん!」


子供のように、智瀬は夜空に向けて手を上げた。



「はは、そうだな」


本当にガキかよ、全く。




でも、そんな智瀬を見るのも悪い気はしない。











  ――― 花火を打ち上げる機械の点検の為、予定を変更しまして



        花火打ち上げは30分延長となりますのでご了承下さい ―――










場内に、再びアナウンスが流れた。



「なんだ、まだ待たなきゃいけないのか」



俺たちはお互いの顔を見て、肩をすくめた。














「痛っ」 後ろの方で、女の子の声がした。






「―――夏美?」 呟き、振り返る。




石段の下方。 そこには、先程入り口で見かけた兄妹の姿があった。




「うぇ・・・」 妹はどうやら石段に躓いて転んでしまったらしい。






今にも泣きそうな顔で妹は上をスタスタと歩いていく兄を見つめていた。




「ママ、どこに行っちゃったんだろう・・・」 兄はそんな風にキョロキョロしていて



妹のそんな様子に気づいていない。






「・・・・・・!!」



妹は兄に気づいてもらえない事を悟るとポロポロと大粒の涙を零し始めた。



そして、口を微かに動かす。









『タスケテ・・・オイテカナイデ・・・』 俺には、そう言っているように思えた。



痛くて、辛くて声にならないんだろう。 口は動いていても、それに声が伴っていない。





置いていかないで・・・。


声にさえなってない女の子の悲痛な叫びが、俺の脳裏に届く。


“それ”は俺に言っているわけではないはずなのに。


何故か、夏美とリンクした。




言葉とかではなく、表情や仕草。 その瞳。


そう遠くない昔…いや過去にもあんな顔を…。 俺は見たんじゃないか?




記憶が曖昧で全然ハッキリしない。




それはいつなのか、どこでなのか、何故それが生じたのか。








「さと君? どうしたの?」 その声にふと視線を智瀬に戻す。



智瀬は心配そうな表情をしながら俺を見つめていた。



「え、いや。 ちょっとな。」



「・・・・・・夏美ちゃんのコト?」 少しの間を空けて、呟いた。





「いや、違うよ」



でも、その智瀬の質問は当たらかずも遠からずだった。



「?」



「ごめん、智瀬。 ちょっと待ってて」



「ちょっ、さと君?!」俺は智瀬の手を解いて階段を下る。








「あれぇ、ママどこに行ったのかな?」



相変わらず、男の子はキョロキョロしている。




「おい、ちょっといいか?」俺はそんな男の子に話しかけた。



「お兄さん、誰?」男の子はポカンとした様子で俺を見つめていた。






「俺が誰なんてのはどうでもいいんだ。


 それより君、なにか大切なものを忘れているんじゃないのか?」





「大切なもの?」


「…自分の手を見てみろ」






そう、さっき入り口に居たときは握っていたはずのその掌。


いつの間に、離してしまったんだ?


『もう離すんじゃないぞ』そう言って差し出した手だったはずだろう?







「手? ・・・・・・あ」


少しの間不思議そうに自分の掌を見つめていたが


ふと気がついたように後ろを振り返る。





「ふぇ・・・・・・お兄ちゃん・・・」 倒れこんだ女の子が泣いていた。



梨恵りえ!」 男の子はその女の子に向かって走り出す。



「ごめん、梨恵。 ママ捜してて気づかなかったんだ」


男の子は女の子に手を差し出すと、女の子はそっぽを向いた。



「私、忘れられちゃうような子なんだ?」





違う・・・忘れたことなんかない・・・。





「そんなんじゃないって、とにかく泣き止んでよ」



男の子は女の子の涙を拭ってあげる。







そうやって、優しくしてきたのは俺のほうだろう・・・?



中途半端に優しくして、結局中途半端に言葉を交わして。








「お兄ちゃんのバカ!! 足痛いもん! 歩きたくないもん!」



「仕方ないなぁ・・・」 んしょっと男の子は女の子を背負う。



「お兄ちゃん・・・?」



「ごめん、僕が悪かった。 だからもう泣くな。」



「・・・うん」 女の子は兄の背中に寄り添うように頬を寄せた。







守ってきたのは・・・俺だろう?


これからもずっと一緒だと約束したのも・・・俺だろ?









妹を背負った兄は、俺の横をすれ違う瞬間俺に笑顔で言うのだった。



「お兄さん、ありがとう。 お兄さんが居なければ僕の大切なもの…。


 見えなくなっちゃうところだった。」 と。




「・・・梨恵ちゃんの事、離すんじゃないぞ。 梨恵ちゃんがいつか大切な人


 を見つけるまで、君がその子を守るんだ」




俺は、そう言って「うん、お兄さんバイバイ」と言う二人を見送った。




何を言ってるんだか、全く青春中か? 俺は。






「なるほど、あの兄妹を放っておけなかったのね」



上から智瀬かカランカラン音を立てながら降りてきた。



「ああ、ごめんな。 智瀬」



「ううん、さと君優しいのは分かってるし。 それに私だったら同じ事してたし。」



「優しさ・・・か」








今のは本当に優しさだったのかな。



ただ、“自分”を見てるようで嫌だっただけなんじゃないだろうか。



周りに気をとられて、後ろで俺を見つめ求める存在に気づかず手を差し出せない。



俺みたいで・・・嫌だっただけだ。 これは優しさなんだろうか。










『うふふ・・・お兄ちゃんってやっぱり優しいね、素敵』



階段の下から、そんな声が上ってくる。




「え、その声は・・・夏美か?!」




『ピンポーン、流石お兄ちゃん声だけで分かっちゃうなんて。


 あたしたちって、やっぱり通じ合ってるのかなぁ?? クスクスっ』




そんな笑い声と共に、姿を見せたのは紅い浴衣を着た夏美だった。




「え、夏美・・・ちゃん・・・」 驚いたような声を出す智瀬。



「お前、どうしてここに・・・?」




驚いている俺たちに、夏美は虚ろな瞳を向けて言うのだった。














“もちろん、お兄ちゃんと祭りを楽しむ為だよ” と。











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