7章Bパート
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うふふ・・・。
お兄ちゃんの浴衣姿ゲットぉ。
相変わらずカッコいいなぁ☆
これぞ文明の利器。 携帯の写メはその場で写真に残せるから便利ね。
それにしても・・・どこまで邪魔する気なの? あの女は。
お兄ちゃんの隣にいるだけで不愉快だっていうのに手まで繋いじゃって。
ムカツクわ・・・マジで。
まぁ、でも今のうちに楽しんでおきなさい。
ふふ、これがあたしからの最後の贈り物だよ。 智瀬先輩・・・。
ふふふ・・・あはははは。
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「ねぇ、さと君。 焼きそばあるよ!」
「ああ、あるな」
「こっちには焼きトウモロコシだよ! あ、こっちには綿飴!」
「ああ、あるな」
「あ、ジャンボ焼き鳥だって! 美味しそう!!」
「・・・・・・」
「あ、チョコバナナ! 懐かしいなぁっ」
「お前な…なんで食いもんばっかなんだよ」
「だってぇ・・・美味しそうなんだもん・・・」
さも買って欲しそうな視線で食べ物関連の出店の横を通る度に見つめていく。
「買って欲しいのか?」
「え、うん!」
「仕方ねーなぁ。 でも、全部は流石に無理だぞ? だから一つな。」
全部買ったら破産します。 間違いなく。
「え、やった! いいの? 本当に?」 キラキラした視線をこちらに向けてくる。
「ああ、本当だ。 好きなもの選んで来いよ」
「えーっと、う~んと」
智瀬は少しの間キョロキョロしていたが、何かを見つけたように俺の手を引いていった。
「本当にそれで良かったのか?」
結局、智瀬が選んだのはリンゴ飴だった。
「うん、これでいいの」 智瀬はリンゴ飴をペロペロと舐めている。
「でも、それじゃ腹減るぞ? もっとガッツリしたものでも良かったんだぞ?」
「いいの! ていうか、さと君から買ってもらえるならなんだって美味しいから」
恥ずかしいのか、そう言って俯く。
「・・・・・・」
恥ずかしいくらいなら言うなよ。 こっちが恥ずかしくなってくるだろ?
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
暫くの間、俺たちは出店を観てまわった。
途中智瀬が「射的やってみたい!」と言い出したので射的の店へ。
結論から言うと、智瀬は下手だった。 何回か挑戦してみて成果はゼロ。
「あう~」と残念そうにうな垂れる智瀬は、なんだか可愛かった。
ちなみに去年は金魚すくい。 一昨年はヨーヨー釣り。
いずれも結果は同じ。 残念賞で店の兄ちゃんからおまけで貰ったものだけだった。
また少し歩いていると、智瀬が
「ねぇ、さと君。 ベンチに座ろうよ?」と
出店が連なっている道から少し外れた所にあるベンチを指差した。
「そうだな。 少し歩き疲れたし休憩するか。」
「うん、休憩休憩!」
よいしょ、と智瀬はベンチに腰掛ける。
「よいしょって、おばさんかよ」そう苦笑いしながら、俺も腰掛ける。
「ねぇ、さと君」 キュっと俺の手を握ってくる。
「なんだ?」
「これで、何回目かな? こうして、さと君と緑夏祭りに来るのは」
「そうだな、高校からだし3回目になるかな。」
「・・・うん。 なんかね? ここ毎年来てるのにね全然飽きないの」
「まぁ、確かに年によって出店とかステージイベントとか違ったりするしな」
「そうじゃなくってね」 智瀬は苦笑いした。
「ん?」
「出店とか、イベントとかじゃないの。
聡君と一緒だから、全然飽きることないの。
自分でも不思議なんだけど、毎年見慣れてる光景のはずなのに。
さと君が横に居るだけで、風景が毎年違って見えるんだよ」
智瀬は視線を夜空に移した。
「・・・・・・」 俺もそれに釣られる様に視線を夜空へと移す。
―――星が綺麗だった。 星には詳しくはないがきっと夏の大三角が見えているだろう。
ベガ、アルタイル、デネブ。 だったかな? 中学の頃習ったきりだから定かではない。
その星の一つ一つが、自分を主張してるかのように思えた。
『自分たちは、遠いけど確かに“ここ”に存在しているのだ』と主張しているかのように。
そして遠い、遠い。 何億年もの旅をして星の光はこの地上に降り注いでいる。
そう考えると、なんだか物凄くロマンチックだ。
「星・・・綺麗だね」 智瀬は感嘆の息を漏らす。
「ああ、綺麗だな」
「ねぇ、さと君?」
「ん・・・?」
「私たち、また来年も…一緒に来れるかな? 緑夏祭りに。」
「当たり前だ。 来年も再来年も、ずっと。 何度でも来れるさ」
「・・・・・・本当?」
「不安、なのか?」
「少しね」 智瀬は俺の顔に視線を移すと真っ直ぐ見つめてきた。
「さと君、私のこと。 好き?」
トクン・・・。
「ああ、好きだよ」
不安にさせてしまったのは、俺の責任だ。
「この前の続き、しよ?」 智瀬の声が妙に甘く、儚い感じがした。
「・・・ああ」 俺は智瀬の両肩を優しく掴み、体を密着させる。
「もう、離さないからな・・・」 そう、耳元で呟いて。
「うん・・・嬉しい・・・」
「智瀬・・・」 ゆっくりと智瀬の顔に自分の顔を近づけていく。
――― まもなく、花火大会が始まります。 ご観覧の方は
公園奥の展望フロアまでお越しください。 ―――
アナウンスが公園中に鳴り響いた。 もちろん、俺たちの耳元にも。
「・・・・・・」 アナウンスに気を削がれ俺たちは静かに体を離した。
「花火・・・観に行こうか」 智瀬はバツが悪そうに俯き腕を絡めてきた。
「そう・・・だな」 なんだか、気まずい。
俺たちは、特別な会話もないままにその場を後にするのだった。