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兄妹 ~ 紡グ言ノ葉 ~  作者: 八神
【第6章 ~黒猫が黒い訳、そして~】
20/45

6章Bパート







「・・・・・・」








シャー・・・。









俺は今、何故か智瀬の家の風呂場を借りてシャワーを借りている。



それと言うのも、智瀬の家に入るなり汗だくの俺を見て智瀬の母さんが



『どうしたのよ? 汗だくじゃない? 良かったらお風呂使って!』



と横でキョトンとしている智瀬を他所に、なかば強引に風呂場に押し込めたのだ。






「まさか、昼間から彼女の家の風呂に入ることになるとはな・・・」



苦笑い気味に呟いた。




「さと君・・・? 今居るんだよね?」



風呂のドアが遠慮がちにノックされた。




「い?! ち、智瀬か?!」  いきなりの訪問者に驚く。




「うん、私・・・。 ちょっと入ってもいい・・・?」 これもまた、遠慮がちに。




「え・・・あ、でも俺今・・・」



「私は・・・気にしないから・・・」 ガラっとドアが開かれる。







ちょっ! 待った!! 風呂ってことは智瀬も・・・?!



待って、心準備が・・・!!






などと、慌てふためいたのも束の間。



智瀬は律儀にも全身をバスタオルで隠していた。





「あ・・・」 ちょっとホっとしたような。 かなり残念だったような。






「前・・・隠さないんだね」 智瀬は恥ずかしそうに視線を宙に逸らす。






「あ・・・・・・うわぁっ」







とっさに前をタオルで隠す。 恥ずかしい・・・なんて間抜けなんだ。














・・・・・・・・・。


・・・・・・。


・・・。












「んしょ、んしょ」 智瀬は俺の背中を流してくれていた。




「・・・・・・」 その感触を確かめながら思った。




智瀬は、何を考えているんだろう? いくらタオル巻いてたって普段の



智瀬なら恥ずかしがって絶対にこんなことしないのに。








『さと君のエッチ!』 そう言ってムクれるはずなのに。







たまにこうやって智瀬の家の風呂を借りることはあったが



その時だって、智瀬は一緒に入ろうだなんて思わなかっただろうし、しなかった。




・・・それにしても、こうやって女の子と風呂に入るなんて。



小さい頃一緒に夏美と入ったきりかもしれない。










そして、俺は夏美と布団で会話して・・・キス・・・して・・・・・・。








その温もりが・・・怖いほど、温かくて。













いかん、俺はまた夏美の事を思い出している。



あいつは妹だ。 それ以上でもそれ以下でもないんだ。



今は、智瀬が隣に居てくれる。 だから今はこいつだけを見ていくんだ。








「さと君の背中って・・・こんなに大きかったんだね」



手を止め、唐突に口を開く。




「ん・・・あ、ああ」



「そういえば、さと君の背中。 じっくりと見たことなかったな・・・」



「そう、だったな。 智瀬の前で脱ぐことって体育の時くらいだったもんな」




「夏美ちゃんは・・・毎日、この背中を見てきたんだね・・・」



なんで今夏美が出てくるんだよ・・・。



「・・・それはどうかな? 少なくともあいつの前で脱いだことはないぞ?


 あ、まぁ。 小さい頃は抜かしてな」



「・・・・・・」



そんな風に冗談めかして言うと、智瀬は何故か黙り込む。



「あ、ごめん。 俺変なこと言ったか?」



「ううん、そうじゃないの。」 智瀬は俺の背中にピッタリと頬を寄せた。





「ち、智瀬・・・? 何やって・・・」






「ちょっと、妬けちゃった。 羨ましいなぁ。


 いつも一緒に居れるって、いつもこの背中を見つめられるって。」






遠慮がちに、ごめんね。 と最後に付け加えて。



ドキッ、俺の心臓が一気に跳ね上がった。  その声が、言葉が可愛かった。





同時に、申し訳なく思った。 やっぱり昨日の事、気にしてるんだ。



頑張ってニコニコして、いつもの通りに。 変わらないように無理して振舞って。



“またいつもの二人”に戻れたら、そんな風に思ってるんだろう。



だから、きっと恥ずかしいのに無理して風呂場にまで・・・。





「なぁ、智瀬・・・」



「・・・・・・」 智瀬からの返答はなかった。



「智瀬・・・?」 俺が心配そうに振り返る。







・・・・・・・・・・・・パタッ。






智瀬は俺の背中を滑るように倒れこんだ。



「ち、智瀬?! 大丈夫か? おい、しっかりしろ!!」



「はぁはぁ・・・」 智瀬は苦しそうに顔を蒸気させていた。





「くっ・・・しっかりしろっ」






とにかく、智瀬を部屋まで運ぼう。 俺は智瀬を抱え上げ、風呂場を飛び出した。



持ち上げて分かったが、智瀬はこんなにも軽かったんだ。





・・・・・・・・・・・・。


・・・・・・。


・・・。





部屋へ運ぶよりも大変だったのは、智瀬の母さんに事情を説明する事だった。


俺自身、智瀬が何故倒れたのか分からないから


とりあえず、ありのままを話した。


少しの間、不思議そうに首を傾げていたが


『聡くんがそんな嘘つくはずないもんね』 と信じてくれたのだった。






「智瀬・・・」 智瀬をベッドに寝かせて顔を見つめる。



先程よりは、穏やかな表情になっていた。



今はスヤスヤと寝ている。





コンコン。 部屋がノックされて智瀬の母さんが入ってきた。



「智瀬ちゃんの様子はどうかしら?」



手には麦茶が乗っかっているお盆を持っていた。




「さっきよりは落ち着いたみたいで。 今は寝ているみたいです。」



「そう、良かったわ」



智瀬の母さんはそう安堵の息をつくと、ベッド横のテーブルにお盆を置いた。




そして、心配そうに智瀬を見つめて言うのだった。




「ここ数日、あまり寝てなかったみたいだから。 この



「え、そうだったんですか?」



「ええ、何か悩んでるみたいだった」




「・・・・・・」


知らなかった。 智瀬がそこまでの“何か”を抱え込んでいたなんて。




そんな俺に、智瀬の母さんは言うのだった。





「聡くん、この娘の彼氏なのに何も聞いてないの??」







―――グサリ。 まるで鋭い槍ように。


その言葉は俺の心に突き刺さった。


彼氏なのに。 そう・・・彼氏のくせに・・・。


俺は智瀬に何かしてやれたか? 何かひとつでも、助けてやれたのか??


悩みひとつ・・・聞いてないじゃないか。


何も聞かず、本人も話さないから訊こうともせず。


ただ、ニコニコしながら俺の隣をついてくる。 その『側』の智瀬だけを。


それしか、見ていなかったんじゃないのか?


心の奥に閉まっておいた、負の部分。 俺は見落としていたんじゃないのか?





そう、それはきっと夏美にも言えることで。


俺は、何一つとして。 “二人”を理解していないじゃないか。




なんて・・・情けないやつなんだ・・・それでも俺は・・・・・・。





「ごめんね、変なこと言って。 別に貴方をとがめている訳じゃないの。


 あ、喉渇いたでしょ? 良かったら麦茶飲んでいってね。


 それと、智瀬ちゃんが目を覚ますまで・・・傍に居てあげて。」



「・・・はい」 智瀬の眠る顔を見つめながら、静かに答えた。



「・・・よろしくね」 智瀬の母さんは俺の肩をポンっと叩くと部屋から出て行った。





「ごめん・・・智瀬・・・俺・・・・・・」







無性に情けなくなって涙が零れ落ちた。



なんで泣いてるかなんて分からない。



後悔? 苦しみ? 悲しみ? それとも、自己嫌悪?







分からない。 







ポロポロと。








頬を伝う涙、その軌跡は何処へと続いているのだろう・・・。





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