1章Aパート
【8月4日】
ふああ… 俺は欠伸を一つ。
眠い。 結局昨日は夜まで夏美の買い物に付き合う羽目になった。
柏市町で食事を済ませて終電ギリギリの電車に乗った。
結局家に着きゆっくりできたのは日付が変わった辺りだった。
夏美を部屋に見送り、自分の部屋に入った俺は倒れるようにベッドに入った。
…とこまでは良かった。
俺はすっかり忘れていた。 今日、4日は…。
「さと君?」
ぼっと物思いに耽っていた俺に
一人の女の子が心配そうに眉を寄せて顔を覗きこんでいる。
「…あ、なに?」
ハッと我に返った俺は女の子にすっとんきょな返事を返してしまう。
「何、じゃないよー。 ぽーっとしてるから具合でも悪いのかと」
「いや、そんなんじゃないからさ」
「そう? ならいいけど」
女の子はホッとした様子で顔を離した。
「それにしても、さと君とデートなんて久しぶりだね?」
女の子は照れたように微笑んだ。
「バッ…バカ、何恥ずかしい事言ってんだよ!」
俺は、照れ隠しにそう言った。
くすくす そんな様子を見て女の子は笑った。
この笑ってる女の子。
柳 智瀬は俺の彼女だ。
俺が高校に入学してすぐ彼女に呼び出された。
古典的な展開だった。
その日も放課後になり、俺は帰ろうと自分の靴棚の扉を開けた。
「ん?」
靴の上に白い手紙が二つ折りにされて置いてあった。
「なんだこれ?」そう思いつつ、手紙を開く。
白い手紙の右下の端には白いハトのようなキャラが描かれている。
女の子だろうか?
独特な丸い文字で書かれている。
“放課後、校舎裏で待ってます”
書いてあったのはそれだけだった。
これって、もしかして。
らぶれたー なのだろうか?
「…とにかく行ってみよう」
まだ居るかは分からないが…俺は行ってみる事にした。
手紙を制服のポケットにしまいこんで走りだした。
…校舎裏での初めて智瀬に、いだいた印象は“かわいい”だった。
肩までのショートカット。
小さくて、でも子供の様に大きな瞳。
華奢で守ってあげたくなるような弱々しい、でも芯はしっかりある。 そんな印象。
腰まで髪を伸ばして茶髪に染めてギャル化している夏美とは真逆な印象だった。
俺を見つけ、智瀬は微笑んで言ったんだ。
“あなたが好きでした、やっと…勇気を出せました”と。
あの頃から今までの2年間。
俺と智瀬は付き合っている。




