5章Aパート
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
女の子が泣いていた。 俺は近づいた。 そして話しかけた。
でも、俺の後ろにもう一人の女の子が居て不安げに口にしたんだ。
「あの子、迷子なのかな」 と。
確かにそう言っていたはずだった。
ぼんやりとした風景に木霊する、二つの声。
君は誰だっけ・・・? なんで俺を知っているの・・・?
茜色の風景の中で、俺は泣きじゃくる女の子に手を差し伸べた―――。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
「・・・んあ」 ぼんやりとした頭で起き上がる。
部屋は明るかった。 いつも通りの朝。
でもいつもと違ったのは、肉体的にも精神的にも“だるい”事。
そして、何故かベッドではなくドアの前で糸を失くした操り人形のように
ぐったりとして眠っていたことだった。
「なんで俺はこんな事になっているんだ・・・?」
天井を見つめ、考える。
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・?!」
思い出した。
その刹那、昨日の事が一気に脳裏に流れ込んでくる様にフラッシュバックする。
ブンブンと思わず頭を大きく左右に振った。
消し去りたかった。 その出来事を、事実を。 忘れたいと思った。
でも、そんな現実逃避で起こってしまったことは消えるはずもない。
…そんなの、心のどこかでは分かっていた。
ふと、気がつく。
「そうだ、夏美は?」 あいつは今どこに居るんだ?
昨日、部屋から追い出してきりだから。 まさかまだ部屋の前に居るなんて事は…。
そう思い恐る恐るドアを開けてみる。
…そこには人の影はなく、流石にもう居ないようだった。
何故か少しホっとしている自分が居た。
―――しかし、なら夏美は今どこに行ってしまったんだろうか?
寝巻きのまま階段を早足で駆け下りて俺はキッチンで軽快に包丁をトントンしている
母さんに向かって「夏美を知らない?」と問いかけた。
母さんの返答は「知らないわよ? 朝ごはんも食べずに何処かに出掛けて行った」だった。
どうやら母さんも何処へ行ったかは分からないらしい。
「どうすっかなぁ…」
仕方なく、妙な胸騒ぎがした俺はポケットから携帯を取り出した。
夏美に電話したほうが早いと思ったからだ。
早速開いてみる。 携帯の液晶画面には“新着メール2件”と表示されていた。
カチカチとボタンを操作し、メールを開いてみる。
1件目のメールは毎朝早くに智瀬がくれる「おはよう」メールだった。
所謂、モーニングコールならぬ、モーニングメール。
それは、あまりにもいつも通りの内容で。
“今日も会いたいな”等と無邪気な文字達がそこには並んでいた。
その普通すぎる内容が、俺の胸を痛いくらいに締め付けた。
「ごめんな」
呟いた。
言ったところで聞こえないし、届かないが。
それは突発的に、それは反射的に口から漏れ出していた。
カチカチカチ。 智瀬のメールには返信をしなかった。
いつもなら、「今日も会えるさ」などと打って返すのだが。
罪悪感からか、それをするのは、なんだか気が引けた。
カチカチカチ。 続いて2件目のメールを開く。
受信は今日の午前10時31分。 差出人は…。
「え・・・?」
―――“From : 夏美”
夏美だった。




