4章Dパート
トクン・・・トクン・・・。
無常なほどに、俺の心臓は高鳴っていた。
これまでに感じたことがないほどに。
「・・・」 俺はそっと重ね合っていた唇を離す。
「・・・」 夏美は夢心地のようにフワフワと視線を漂わせている。
そんな夏美の表情をジっと惚けた様に見つめた。
夏美って・・・こんなに可愛かったか・・・?
見慣れているはずの顔。
そう何年間もずっと見てきた顔。
でも、瞳を潤ませて「はうぅ」と言わんばかりの顔をしている夏美は
妹ではなく、一人の女の子として可愛いと思った。
そして、夏美は恥らいつつも微笑み言った。
「えへへ、やっとお兄ちゃんとキスできた」 と。
「…?!」 その顔は―――。
―――あなたが好きでした、やっと…勇気を出せました―――
あの日、そう言って微笑んだ智瀬の顔と重なった。
その刹那、俺の心はズキンと痛み出した。
目の前には夏美の嬉しそうな顔。 でも今智瀬は俺を想い俺を求めているだろうか。
夢の中でも、俺と“お家デート”をしているんだろうか。
「っ・・・」 バっと音が聞こえそうな勢いで俺は夏美の両肩に手を置き
その体を突き離した。
「え、お兄ちゃん…?」 突然の事で驚いたのか夏美はキョトンとしていた。
俺は夏美の手を引いて布団から追い出すようにベッドから出た。
「え・・・?」
「悪いけど、自分の部屋で寝てくれ」
そう言うと、ドアを開けて俯く。
「え・・・でも・・・」
夏美の声色は困惑していた。
「頼むから…っ」
俺は嫌がる夏美を無理矢理部屋の外に追い出すとドアを閉めて施錠をした。
ドンドンドン。 ドアが叩かれる。
「お兄ちゃん開けてよ? ここ、暗くて怖いよ…」
ドア越しに、泣きそうな声がこもって聞こえてくる。
「・・・・・・」
でも、今の俺にはその声に反応する余裕なんてなかった。
「ごめん・・・」 ポツリ、ドアを見つめて呟いた。
その“ごめん”は誰に対して言ったものなのか。 自分でも分からないまま。
そしてドアの前で蹲り、静かに声を殺して泣いた。
先程の夏美のように、誰にも聞こえないように。
皮肉にも、さっきまで傍に感じていた妹の温もりはまだ…消えていなかった。
―――どの兄妹等しく、“越えられない一線”が存在している。
でも、俺たちは今それを越えてしまった。
俺は夏美を、その存在を。 受け入れてしまった。―――