4章Cパート
それから、俺たちは会話のないまま時間だけが過ぎていった。
何分経ったかはもう分からない。
ただ、聞こえてくるのは二人の呼吸の音。 そして、部屋で機械的に動く時計の音。
ふと、誰かのすすり泣くような声が微かに聞こえてきた。
「・・・夏美、泣いてるのか?」 背中越しに、夏美に問いかけた。
「・・・・・・」 夏美は答えなかった。
ただ、ぐすっと鼻を啜る音だけが聞こえてくる。
・・・さっきは言い過ぎただろうか? 泣くほどだもんな、少し言い過ぎたかも。
そう思い、「ごめんな」と呟いた。
「・・・・・・」 相変わらず夏美から返答はない。
「・・・夏美?」 あまりにも返事がないので俺は心配になり
夏美の方に体が向くように寝返りをうった。
ぼんやりと、夏美の顔が月明かりに照らされていた。
「み・・・ないで・・・っ」 夏美はそう言ったが顔は隠さなかった。
顔をクシャクシャに歪めて、声を押し殺して泣いているようだった。
夏美の頬には光る軌跡が走っていた。
それは今も尚、ハラハラと大粒の雫を落としている。
その顔、声。 とても悲しくて切なくて。
「泣くなよ…」
俺は夏美の頭に手を伸ばした。
何もできないけど。
今の俺に何かをしてあげる自信なんかないけど、できることは。
頭を撫でてやること。 だと思ったから。
―――その時だった。
「!!」 夏美はその俺の腕をグっと掴むとグイっと自分の元に引き寄せた。
夏美と俺の顔が眼前にある。 夏美の息が鼻にかかって少しくすぐったかった。
「なっ・・・おまっ 何やって…」
「お兄ちゃん・・・あたしは・・・」 頬を蒸気させて、呟くように言った。
――― 「あなたが、好きです」 ―――
トクン・・・。
可愛かった。
「お兄ちゃん・・・」 夏美はそっと瞳を閉じた。
まるで何かを要求するかのように甘えた声で俺を呼びながら。
「・・・・・・」 この状況で夏美が“何を”欲しているのか
流石の俺でも分かっていた。
でも、眼前にある夏美の顔が、声が、吐息が、香りが。
今この瞬間、愛しく思えた。 凄く可愛く思えた。
そんな俺を“兄妹だから”という理性が支えていた。
でも、その俺の心を悟ったかのように夏美は呟いてくる。
「キス・・・してください・・・・・・」
―――。 吹っ飛んだ。 刹那、全てが。
「・・・・・・・・・・・・」
俺はそっと、夏美の唇に自分の唇を重ねた。
自分にとって、初めてのキス。 智瀬ともしてないキス。
柔らかく、とても心地よいものだった。
俺は今・・・何をしているのか。 一瞬分からなくなるほど。
少しの間、俺たちは感じてはイケナイ感触を感じながら、唇を重ね合っていた。