STORY2「過去」
G-VENOMで変身した殺人犯から明を救ったザ・ディサイダー=「高原雅輝」は、今日も一人兄を殺害した仇「AGI」を追い続ける・・・。
その日の夜、とあるバーであろ男と過去の出来事を語る雅輝。
今、ディサイダー誕生の秘密が明かされる!
「今日も大荒れのご様子だな」
雨が激しく降りしきる、夜のとある市街地。とあるバーに、一人の男が今日もやってくる。
「…一杯よこせ」男は店の中に入るなり、沈んだかのようにマスターに注文する。
「その様子だと、外れだったな」
「何でてめえの情報は、いつも充てにならねえんだ」男はそう言ってマスターの胸倉を掴み、食って掛かる。
「おっとそこまでだ、情報は生き物。あらゆる角度から見た視点の一つで、100%の真実じゃない。少なくとも、真実には近づけてるんじゃないのか? 」見た感じ30代半ば位の男性のマスターは、得意げな顔をしてこう返す。
「…やっぱりアイツにも、アレが絡んでいた。これで十人目だ」今にも爆発しそうな感情を抑え、男は掴んでいた手を離す。
「思っていたよりも広まってるようだな」
「アレだけはこの俺が全て絶つ・・・!兄貴の思いを、無駄にしないために」
そう呟きながら、男は出されたグラスを握り締める。
「…あれから3年経つのか」
手にしたグラスを磨きながら、男の過去を知っているマスターは三年前のある出来事を回想する。
そう、マスターの目の前にいるこの男「高原 雅輝」の運命を大きく変えた出来事の始まりであった――。
雅哉が復讐の名の下に、終わりなき戦いへと身を投じるまでの出来事である。
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「兄さん、今日は何を研究してるの? 」
いろんな機材が並ぶ一室に、つい最近まで少年だった一人の青年が入ってきた。彼こそが、三年前の雅輝である。
この頃の彼はまだ少年っぽさが抜けないのか、表情もあどけなさが残る。
下手すると、高校生にしか見えない。
「なんだ雅輝か。いつも部屋に入るときはノックくらいしろと言ってるだろう」
彼の名は高原雅哉。高原雅輝の実の兄であり、若くしてバイオ科学の権威。
28歳という若さにして、それにまつわる賞もいくつか受賞している。
整えた髪形に、ワイシャツの上に白衣。まさしく科学者といった風貌だ。
「それにしてもすごいよ、兄さんは。こうやって社会の役に立って、多くの人を救おうとしてるんだもんな」
「なに、俺のしてることはまだまださ。だからこそ多くの人間が救われたり、助けになるようなことをしたいんだ」
「それだけでも立派だよ。ちゃんと結果出してさ、世の中の役にちゃんと立ってるんだから」
「そういう雅輝だって、しばらく家を離れて自分を磨いてたんだろ?なら大丈夫だ。お前もきっと立派な人間になれる」
「…………」
「やっべ…兄さんごめん、俺ちょっとトイレ行ってくるよ」思わず自分の股間を抑え、雅輝は少し焦った感じで断りを入れる。
「ああ」
そう言って急いでバタンと音を立てながらドアを閉め、雅輝はトイレへと駆け込んでいった。
さっきまで兄弟二人しかいなかった部屋は、たった一人ぽつんと残される。
「…立派な人間、か」雅哉はそうつぶやき、表情を曇らせた。
すると、何かを思い出したかのように仕事用の机の引き出しを開け、資料らしき書類を取り出す。
そこには戦闘服とも呼べる漆黒の仮面の男の姿とバイクらしきものが描かれた設計図と、「バイオ技術による人間の進化」と書かれたレポートが書かれている。
「…俺はあいつに、いつまで嘘をつき続ければいいんだろうな」
手にした書類をじっと見つめ、雅哉は思いつめた表情でいた。
いつからか、弟である雅輝に隠し事を隠し続け、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
幼い頃から兄弟仲良く育ち、寝食も共にしてきた仲だ。
成長してお互い大人となった今では互いに道は別れたが、兄弟の強い絆だけは決して切れることは無かった。
幼い頃からの思い出に浸っていると、突然机に置いてあった携帯電話が鳴った。
手にとって着信表示を確認するも、表示は非通知になっており身元を確認できない。
「…はい」
「…私だ。例のものはもう完成しているかね?」
慎重になりながらも平静を保ち、雅哉は電話を受けた。
電話口から聞こえるその声は、穏やかな口調ながら何処かドス黒さが見え隠れする雰囲気の老人の声である。
「ええ、つい昨日完成しました」
「ならば話は早い。急な申し出で申し訳ないが、これから場所を決めて引き渡すことは可能かね?」
「…分かりました」
「ふふふ…そうか、ならば話は早い。なぜなら君の今の地位があるのは、我々のバックアップがあってこそなのだからな」
「………」
「…はい。では、0時に港ですね。では、失礼いたします」
その後しばらくして、声の主である老人と受け渡し場所を教えてもらい、雅哉は電話を切った。
すごくやるせなく、何ともし難い悔しさがその顔からも伺える。
すると雅哉は、机の下に隠されていたアタッシュケースを取り出し机の上に置く。
(本当に奴らに、これを渡してしまってもいいのか…!? )
静かにアタッシュケースを開けると、そこには何か注射器にも似た容器がウレタンに複数敷き詰められている。
その注射器に密封された液体は、気味の悪い澱んだ緑色であった。
雅哉は、ただやるせない表情でそれらを見つめるだけである。
すると、勢い良くバターンとドアを叩き開ける音が響く。
「ふうー、すっきりした。こういう冷える時期ってのは、トイレが近くて辛いよ……って、兄さん。また出かけるの?」随分慣れた感じで、雅輝は尋ねる。
「あ……ああ。急遽、片付けなくちゃならない仕事ができたんだ」とてもバツの悪い表情で、雅哉は返事をした。
今の何も知らず幸せなままの雅輝の今の笑顔を壊すことは、今の彼にはとても出来なかった。
「そうかあ、最近忙しそうだもんな。頑張ってきてよ、無理すんなよ」
「ああ、行ってくる」
そう挨拶すると、雅哉はハンガーにかけてあったグレーのトレンチコートを羽織り、アタッシュケースを手に部屋を出る。
「……なあ、雅輝」だが、雅哉は出た直後足を止め、振り向きざまに声をかけた。
「なんだよ」
「お前だけは、お前のままでいろ」
これが、雅哉が雅輝へ最後に交わした言葉だった。
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「さあ、こうして例のブツは持ってきた。これでもういいだろう、阿儀さん」冷静な面持ちで、雅哉はアタッシュケースを差し出す。
「……たしかに。ちゃんとこの通り受け取らせてもらったよ。高原君」
目の前にいた40代くらいの男は、アタッシュケースの中身を確認しながら不敵な笑みを浮かべている。
紳士的に整えた単発で中肉中背。
顔立ちも整っており、人相も決して悪くない。
見た目はごく一般的な、スーツ姿のサラリーマンそのものであった。
しかし、その笑みからは考えられないほどドス黒い雰囲気の何かが、彼自身を取り巻いているのも事実である。
取引を行っていたその場所は、誰もいない真夜中の港。
そこはいわゆる物流関係の倉庫が立ち並ぶ倉庫街で、波打つ音とサイレン音だけが鳴り響き、数少ない街灯とその先のビル街だけが明かりを灯していた。
ここには、雅哉と取引先の男である「阿儀」の二人。
そして、移動ならびに運搬用に使っている乗用車二台しかいない。
「……では、私はこれで失礼いたします」
そう言って、雅哉が帰ろうと取引先の男に背を向けたそのときである。
「だめだ、あんたはもう二度と帰れない」
そこには、不敵な笑みを浮かべたまま首をかしげ、背を向けた雅哉に対し阿儀は銃を構えた。
「……どういうつもりだ」取り乱す素振りを見せず、雅哉が冷静にこう切り返す。
「それはこちらが聞きたい。先に裏切る真似をしたのは高原君、君なのだから」
すると突如、何処からともなく無数の男たちが銃を構え一斉に飛び出した。
倉庫の裏で既に、このときをまちわびていたかのように待ち構えていたのだ。
彼らは、すぐにでも喰らいついてやろうという野生の目で銃を構えている。
中には、唾液を垂らし舌なめずりをする者さえもいた。
「やあ、久しぶりだなあ。高原君」
更に、暗闇の中カツカツと足音を立て一人の老人が現れる。
「あなたは……阿儀会長」
そこに現れたのは、好々爺といった感じの一人の老人であった。
白髪に総髪、年老いた年齢相応の痩せ型の体型。
口には立派な白髪交じりのひげを蓄えており、服装もボア付きの皮のコートにスーツ姿という風貌だった。
「高原君、君の事はとても誠実で優秀な人間であると買っていたのだよ」残念そうな面持ちで、老人は雅哉に答える。
「……しかし、君は少し深追いをし過ぎたようだな」
「まさか……俺は、最後の最後までアンタたちの掌の下で踊らされていただけなのか!? 」老人は淡々と離し続けるも、軽く溜息を付き一転して残忍な表情を浮かべる。
冷静を装っていた雅哉の表情からは、焦りが滲み出始めた。
「どうやら裏でいろいろ嗅ぎまわって私たちを告発しようとしたみたいだが、詰めが甘かったのだ。全て我々にはお見通しだった。君も知らないわけではあるまい?我々が、政財界すらも顔が利くと言うことを」
再度ふうっ、と溜息をつきながら、つかつかと静かに雅哉に歩み寄っていく。
「まだ弟の彼に話してないのは懸命な判断だ。もし君が喋りでもしていたら、彼まで消さねばならなかったのだからな」
老人はそういって、雅哉の目の前に顔を突き付ける。
「では……最初からG❘VENOMを独占し、自分たちのものにして利用するつもりだったというのか!!!? 」
しかし雅哉の怒号も虚しく、老人は意に介さず雅哉の下から離れていく。
そして一定の距離を取った直後、老人は後ろを向いたまま指先を立てくいっと手首を捻る合図をする。
雅哉の眼前からは、一気に鉛弾の嵐が押し寄せる。
それも前だけではない、背後・左右と鉛弾が雨のように降りかかる八方塞の状態だ。
普段誰もいないはずの港には、無情にも銃声だけが響いた。
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「ううっ……くそっ、一体兄さんを殺したのは誰なんだ!? 俺の大事な、大切な兄さんを奪ったのは一体誰だ!!? 」
とある病院の霊安室の中、兄の遺体の前で雅輝が泣きじゃくって怒りを露にする。
幼い頃から強い絆で結ばれた、たった二人の兄弟。
長い年月変わることのなかった関係を無情な何かで断ち切られた怒りは、収まることを知らなかった。
「あれから、警察にもいろいろ調べてもらってる! だけど、何故か知らぬ存ぜぬの一点張りだ!! 一体全体、何で死んだんだ!!? どう考えたって、その傷は殺されたものじゃないか!!!」
今の雅輝には、身寄りは誰もいない。
今彼のいる部屋には、彼と兄・雅哉の遺体だけであった。
両親は幼い頃他界していたので、兄弟二人一生懸命今を生きていたのだ。
それだけで、当たり前だった日常を失った代償は大きいことに変わりはない。
「ううぅ……兄さん、兄さぁぁぁぁん!!!! 」
雅輝は雅哉の遺体の前に崩れ、さっきよりも思いっきり泣きじゃくった。
辛さ・怒り・苛立ちを今はただ涙に変えて―――。
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兄の死から数日が立っても、その後も雅輝は決して真相を突き止めることを諦めはしなかった。
根気良く警察に捜査をしてもらうよう、何度も頭を下げた。
だがしかし、裏で阿儀一派が圧力をかけている関係で不問とされており、あの事件の真相は闇へと葬られていたのだった。
やり場のない怒り。苛立つ焦り。
負の感情だけが、雅輝の心を覆い尽くしていく。
次第に、酒に明け暮れは夜の街で喧嘩をするだけの日々。
もはや、心の支えを失った雅輝には「自暴自棄」という言葉しかなかったのである。
だが、突然そんな彼の前に運命を変える何かが起こる。
「…お前、高原雅哉の弟か」
それは、ある一夜の出来事であった。
見るからに男前なバーテンダー姿の男性が立っており、酔いつぶれて道に座り込んでいる雅輝を見下ろしていた。
「…死んだ目をしてやがる。情けねえ」
「…ンだとぅ、てめえ」
「お前、兄貴の仇を取りたいんだろ? 」
バーテンダーがそう発した途端、殴りかかった雅輝の手はピタリと止まる。
「だからどうした」
「そのためなら、闇を背負い続ける覚悟……お前にはあるか?」
「…………」彼の言葉に何かを感じ取ったのか、雅輝は突如掴んだ胸元の力を緩めた。
「付いてきな、見せたいもんがある」そういうとそのバーテンダーはニヤッと笑い、近くにあった自分の店らしき建物へと案内した。
建物のネオン看板には、「BAR MADNESS」とある。
薄汚れた空気で、染み付くようなタバコの臭い。
建物も、古い感じでところどころ薄汚れた感じすらある。
彼の後に付いていくと、店の下にある地下階段へとで迎えられた。
目の前には、何故か少し煤けた感じの近未来風の自動ドアが不自然にある。
バーテンダーと一緒に部屋のに入った途端、明らかに日常では考えられないような光景がそこにはあった。
「これが、お前の兄貴が死ぬ前に残したものだ」
部屋自体は全面コンクリートの簡素な造りでありながら、見慣れない機器や工具が並んでいる。
中でも目に付いたのは、入り口から向かってマネキンに装着したと思われる全身黒一色のマスクとスーツ。
その左隣には、同じく黒尽くめで大きすぎるとも言える、大型のバイクが一台ある。
「なんだよ、これ」普段見ることのない異質な光景を目の当たりにし、雅輝はバーテンダーに尋ねる。
「本来はあの阿儀に引き渡すはずだったもの、だ」
「…………! 」バーテンダーの突然の一言に動揺し、再び雅輝が迫る。
「まあ待て。たしかにこいつらは、阿儀に引き渡すはずのものだった。だが、最後までそうせずこれをひた隠しにして封印していたのさ」
「…どういうことだよ? 何で兄貴が?! 」
「お前の兄貴は、自分が研究していた…いや、させられていたものを奴らに悪用されることを恐れていた。だが、そのうち一つであるG―VENOMは引き渡さざるを得なかった。何故だか分かるか?」
次々と語られる真実に、雅輝は無言で立ちすくむ。
自分の兄が、裏で阿儀たちに脅されながら軍事利用目的に目の前にある強化スーツと、注入した人間の細胞を劇的に変化・進化させる悪魔のウィルス「G―VENOM」を開発させられていたこと。
雅哉が科学者として成功できていたのも、裏で阿儀たちが裏で圧力をかけ資金を提供していたことにあったこと。
そして、阿儀が組織している巨大複合企業「AGI」は雅哉の開発した技術を盗用・利用し、あらゆる利権を傘下に置くことを目的としていることを。
「これ以上、危険な目に合わせないためだ。死ぬ前の取引では、引き渡す条件としてお前に対し手を出さないと…しかし、奴らはそこで兄貴を殺った」
しかしバーテンダーは、それでも続けて真実を語りだす。
自分が裏社会における情報屋として暗殺者への斡旋を行っていることや、このバーもいわゆるカモフラージュであるということも彼自身の口から語られた。
(兄さん…何で、それを俺に黙っていたんだ。言ってくれれば、俺は力になれたかもしれないのに…)
雅輝の心の中は、真実を知ったことに対しての嬉しさと同時に悔しさが残った。
十分な力になってあげられるかは分からないが、自分にできることがあったかもしれない。
そう思えば思うほど悔しさだけが残り、拳をグッと握る。
、
「今のお前が取るべき選択肢は二つ。闇を抱え込んだまま細々と生き続けるか。更なる闇を抱え続け因縁、を断つか…さあ、どうする?」
「…ああ、そこまで言うのならやってやる。闇を抱えて、そして俺の中の闇を断つ! 」
このとき、雅輝の目は今までの腐りきった死んだ魚の目から獣の目へと変わった。
絶望と失望だけが滲み出た目ではなく、獲物を捕らえるためならば決して手段を選ばない。
既に雅輝の目は、獣そのものの目つきであった。
/////////////////
<昨日の夕方頃、取り壊しの決まっていたビル内で暴力団同士の抗争があったと思われる現場で、またしても「ディサイダー」と名乗る人物と謎の怪物が関係していることが警視庁の調べで分かりました>
「また派手に暴れたな」備え付けてあったポータブルテレビの電源を入れ、偶然流れたニュースを見てバーテンダーは雅輝に話題を振る。
「…仕方ねえだろ、殺らなきゃこっちがやられる」一杯飲み干しながら、雅輝はマスターにこう切り返す。
〈なお、これで「ディサイダー」と名乗る人物が関与していると思われる事件は10件目となっており、警視庁は器物破損・傷害、ならびに殺人罪の容疑があると見られ、更なる捜査を進めています〉
「いくらヤツらが警察内部とも裏でつながってるとは言え、あまり派手にやると後々動きづらくなるぞ」
「まだ俺の戦いは終わっちゃいねえ…てめえもいい加減分かってるだろ、黒田」
この店のマスターである黒田に再度食って掛かる雅輝は、10杯以上もヤケ酒をかっくらっている。
既に目もうつろ虚ろとしており、言葉にも呂律が回らなくなりはじめていた。
「そういうセリフは、もっと酒に強くなってから言えよ。ガキンチョ」
そう言うと黒田は、ドンと水の入ったグラスを叩き付けるようにカウンターへと置く。
すると雅輝は、どうしようもなくなった酔いを醒まそうと一気に水を飲み干した。
「…なあ、そろそろ教えろよ。何でアンタが、兄貴のことを詳しく知ってるのかをよ」
「まだお前には教える時期じゃねえよ。そんときが来たら、嫌ってほど聞かせてやる」
手にしたグラスを磨きながら、黒田は軽く流した。
何故ならば、三年前のあの日から今日に至るまで、雅輝には自分と雅哉との関係を一切明かしていなかった。
いずれ明かすべきときが来る、その日まで。
「おっと、思い出したぜ。次のターゲットはこいつだ」
グラスを磨き続けてしばらくすると、黒田が思い出したように口をつき、胸ポケットから一枚の写真を取り出す。
「今度は信用できるのか」
「さあな。それでも、情報としては信瓢性が高いとは思うがね」
黒田は、取り出した写真をカウンター越しに雅輝に向けて滑らせた。
水を飲んで酔いが覚め始めた雅輝はすかさず、滑り込んできた写真を指で押さえて掴む。
「こいつは最近お前以上にある意味騒がせてる通り魔でな、奴がアレを手にした可能性がある」
「………! 」
黒田の一言を聞き、雅輝は一瞬にして目の色を変え写真を手にする。
また一人、兄の生み出したG―VENOMを売りつけられ悪用しようとするものがいることを知ると、いても立ってもいられない。
「なんだ、さっきまで酔いつぶれて愚痴ってたのに現金なやつだぜ」
「あの日から決めている、G―VENOMは全て俺が絶つ…そして、阿儀の野郎をぶっ潰すってな」
雅輝の表情は、心なしか憎悪と希望が入り混じった笑みを浮かべ始める。
手にした写真を思わず握りつぶして、既にしわくちゃとなっていた。
「じゃあな」雅輝はそう告げるとすっくと席を立ち、店を後にする。
その背中は、孤独さだけが一人歩きをしている感じであった。
「…フッ、あの阿儀マニアが」黒田は不敵に笑いながら、思わずつぶやく。
(雅哉、見ているか。お前の弟は、結局まだ獣のままだ―――)
しばらくして、誰もいない店内でカウンター越しからドアを見つめながら、黒田は思いにふける。
たった一人のごく普通の若者を、自分が羅刹の道へと進ませてしまったこと。
まだ終わることなく続く復讐劇を、ただこうして見つめるしかないこと。
これから、この復讐劇の先に何があるのかを。
しかし、その先のことは誰も知る由もない。
ただ言えることは、雅輝はそれでも復讐をやめることはないことである。
復讐の先に、何があるのか。
それは、復讐に身を置く雅輝がただ一人この先知ることであった。
STORY2 END
NEXT STORY6 「斬首」
というわけで、「ディサイダー」第二話いかがでしたでしょうか。
雅輝が何故G-VENOMを所持した人間をターゲットにし、倒し続けるのか。
第二話の段階である程度目的が明らかになっているかと思います。
兄の仇討ちを決意した雅輝が、今後どのように決着を付けていくのか。
助けた少年「明」が今後どのようにして彼と密接に関わっていくのかが、今後明らかになっていきますのでご期待ください。
ちなみに次のお話は、飛んで6話目からのスタートとなりますが…このあたりはまた次にお話できれば。