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STORY1「出会い」

ごく普通の小学生であった「津田 明」は、学校の帰り道にある青年と出会う。

しかし、青年から「近くの廃ビルには近づくな」と告げられたものの、好奇心からその廃ビルへと足を運んでしまう。


そこに出くわした凶悪殺人犯につかまってしまい、襲われそうになる明。 そのとき助けに入ったのは、意外にも飄々とした一人の青年であった・・・。


 今僕の目の前には、とてつもなく気味の悪い、機械と生物が合体したような化物・・・いや、怪人がいる。

 そう、顔と肌はワニ、両腕と腹には拳銃だらけの化物がいた。

 さっきまで僕は、こいつに殺されかけたのだ。

 

 だが、目の前に姿を現した「もう一人」が今その怪人と戦っている。

 

 鬼のような形相のマスクに、黒一色。

 マスクの左右に飛び出したものは、まるで悪魔の角のようにも見えた。

 片胸には信号機のようなものがあって、何か防弾チョッキに似たものを着ている。

 この怪人の仲間を一瞬のうちに倒し、的確に敵である相手を捉えていく。

「ハッハッハ…こいつは驚きだな! こりゃ撃ち甲斐があるってもんだッ!! まさに快楽…これが撃ちまくる快感ってやつだぜェェ!!! 」

「…今は、貴様を倒すだけだ。とっとと来い」落ち着いた状態で、黒いマスクの男は吐き捨てるように怪人にこう言った。

 

 ―これは、数時間前に起こった「あるきっかけ」が全ての発端だった。

 

 \\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\

 

「あーあ、退屈だな」

 そう、あの日はよく晴れた日だった。

 津田明はいつものようにつまらない学校の授業を終えて、憂鬱な気分で家に帰ろうとしていた。

 いつも通りに小学校に通い、いつも通り授業を受け、いつも通りに学校から帰る。

 何気ない当たり前の日々に、飽き飽きしていたのである。

 悶々とした思いを抱きながら、通学路である住宅街の裏道を歩く。

 

 彼も、今は小学五年生。来年はもう六年生で中学受験とかそんな時期だ。

 当然、良い学歴を持って欲しいという彼の両親は将来のためだと受験をさせようとする。

 だが、明はそうではない。

 自分には何ができるか、それが定まっていないからこそ敷かれたレールには乗りたいと思わないのである。

 

「大体さ、俺はまだ小学生だよ?それこそ、クラスの皆と同じ中学通って、楽しくすごしたいのに…」

 

 

 誰しも思うことがあるだろうが、平穏な日々を送り続けているとふと刺激が欲しくなる一瞬がある。

 だからこそ、人は時として刺激を求め、過ちを犯し、リスクやスリルを味わおうとする。

 

 

 そのきっかけが少年にふりかかったとき、この物語は始まる。

 

 

「・・・いたっ」考え事をしていて余所見をしていたら、どんっと軽くにぶい音を立て明は人とぶつかり、少し後ろにのけぞった。

「おっと、わりいな。大丈夫か?」

 ぶつかったのは、ちょっと軽い感じの青年男性。

 手にはペンとメモ帳。赤い革のジャケットに黒のパンツを着ている。

 ちょっと古い感じ・・・いや、敢えて言うならば気さくな感じの青年である。

「もしかしておじさん、新聞記者か何か?」ペンにメモ帳を手にした彼の姿を見て、明は尋ねた。

「うーん、まあそんなとこかな。・・・って、おじさんは勘弁してくれよ。これでもまだ若いんだぜ?」鼻の下を指でこすり、青年ははにかみつつ答える。

「もしかして、取材か何かなの?」

「まあ、そうだな。と言っても俺、フリーのジャーナリストだから新聞記者じゃないんだ。新聞社とか週刊誌にネタを売り込んでる」

「そうなんだ」明は何故、こんなところにそんなフリージャーナリストがいるのか気になって仕方がなかった。

「…あっ、俺そろそろ行かないと!じゃあな、この辺今物騒だから気を付けろよ」しかし、そのことについて聞こうとした途端、彼はそう言い放ちその場を急いで去っていく。

「…あの人、一体なんだったんだろう?」

 ただ呆然と、明は彼の向かっていった方向を見つめるしかなかった。

 

 

 ////////////////////////////

 

「…何か変な人だったなあ」

 あの青年と別れて数分経った帰り道、自分の家に向かいながら明の脳裏にはまだあの青年のことがチラついていた。

 今悶々と悩んでいた自分に対し、気さくで笑顔を忘れない大人の青年。

 自分もああいう大人になりたい・・・だが、だけどなれるのだろうか。

 そう考えて空を見上げてみれば、夕焼けで一面赤く薄暗くなっている。

 

「…おう、例のブツは用意出来てんのか?」

「はい、この通りちゃーんと用意しています」

 帰り道の途中にある廃ビルに、少しドスが利いた低い男の声が聞こえてくる。

(なんだろう…なんか怖いんだけど、すごく気になる。ここ、誰もいないはずじゃないのか?)

 この廃ビルは数年前に取り壊しが決定して誰もいないはずなのに、何故人の声が聞こえるかが明は気になってならない。

 いわゆる、人間特有の「好奇心」と「スリル」を感じているのだろう。

 

 足音を立てないように廃ビルの入り口からこっそり男たちの様子を覗くと、大柄で強面の男と、横に黒いスーツを着た男たち数名がアタッシュケースを取り囲んでいる。

 そして視線をアタッシュケースに向けると、明はその中身に驚く。

「…ええっ、これってもしかして…!? 」

 大き目のアタッシュケースには3~4丁の拳銃、そして何故か注射器らしきものが梱包用のウレタンに綺麗に収まっていた。

「いや~、これで撃ちまくって人を殺せるかと思うと快感だねぇ。でもって俺には、強い味方が付いてるってモンだ!! 」

 ガハハと下品に笑いながら、大男は銃を手にし不気味な笑みを浮かべる。

「これでよぉ、無抵抗の人間を撃つんだよ。…そんでよ?撃たれたときの叫び声を聞くのがもう幸せったらありゃしないねボクちゃん!」

 にまあと満面の笑みを浮かべ、敷地内の壁に向けて拳銃を向ける。

 

(うわあ…まずいとこに来ちゃった…! 逃げなきゃ、早く逃げて警察に言わなきゃ…!! )

 そう思いそそくさとその場を離れようとしたそのとき、明は不覚にも足元にあった空き缶を蹴ってしまい物音を立ててしまう。

 

「…誰だ!」ビルの敷地内にいた男たちが、すごい形相で皆出入り口へと振り返る。

 すると大男は、にやりと笑い手にした拳銃を声のした方向へと向ける。

「さあ~出てきなちゃい?今だったらおにいちゃん殺さないであげまちゅよ~」非常に嫌らしい笑みを浮かべ、舌なめずりをしながら待ち構えている。そう、まるで獲物を狙う獣の如く。

 

(こ、殺される…!)今、明は生まれて初めてとてつもない恐怖に打ち震えていた。

 もしこのまま出てきても、きっと殺される。かと言って逃げても、撃たれて殺される。どちらを選んでも、生きる道は今の明には思い浮かばなかった。

「………………。」

 すごく罰の悪そうな面持ちで、俯きながら両手を上げ静かに彼らの下へとゆっくり向かう。

「ふへへへ、いい子だ」

 大男の仲間と思われる黒服の男に連れられ、明は彼らとともに廃ビルへと向かうのだった。

 そう、この後何が起こるかも想像ができないまま――。

 

 

 ///////////////////////////////////

 

 

「さあ、お前みたいなガキがあんなとこで何をしていたのか教えてもらおうか」埃と塵にまみれ、何もないコンクリートの壁に覆われた部屋の中で大男は言う。

 くちゃくちゃと嫌な音を立て、ガムを噛みながらその手には相変わらず拳銃を肌身離さない。

(そうか俺、ここでこいつらに殺されちゃうんだ)

 囚われの身となり、すでに失意に満ちている明の目は、もはや死んだ魚のような目をしていた。

 縛られた両手は天井からロープで吊るされ、もはや逃げることすら許されない。

 

「おいちゃんはさ、このまま大人しくしていてちゃーんと言うこと聞いてくれれば何もしないで帰すつもりだったんだよ。しかし、お前は知っちゃいけない秘密ってもんを知っちまった」

 笑みを浮かべながら大男は言うが、その目はもはや笑っていない。

 

「つーまーりはだ、残念だがここでお前を殺さなければならないってわけだ」

 そう言って大男は、明に近づいて手にした拳銃を喉下に突きつける。

(ああ、今度こそもうダメだ・・・!)

 明の中の絶望が限界に達し、思わず目を瞑ってしまったそのときだった。

 閃光にも似た何かが明の両手を縛ったロープをかすめた。

 するとロープひきちぎった明はどすんと鈍い音を立て、しりもちを付いた。

 

「…誰だ!!! 」大男が何かが飛んできた方向に目線を向けると、そこには一人の男が立っていた。

 ロープに何かをかすめた先にも目を向けると、見張りとして大男の後ろに立っていた手下の黒服の男は戦意を失い震えて立ちすくんでおり、彼らが立っている壁にはナイフが突き

 刺さっている。

「おっと、お痛はそこまでだ」

 そう、紛れもなく数時間前に明と接触したジャーナリストと名乗る青年であった。

 しかしそのときとは違い、黒ずくめで防弾チョッキに似たものを着ており、その上に何かジャケットのようなものを羽織っている。

(あれは、あのときの…!? 何であんなところに)

 明は開いた口が塞がらない放心状態だ。

 

「小野木伊作さん…たしか裏の世界じゃ名の知れた狂信的ガンマニア。そして、自分の快楽のためだけに銃で人間を一方的に射殺することでしか生きられない男。それがあんただ」

「ハハハハ…俺のことを知ってんか?兄ちゃん。一体何モンだ?」

 青年は開口一番、男の素性を言い当て、さらにこう続けた。

「それが今や、ヤクザ以上にカタギの人たちの犬。・・・そう、ヤバめの代物欲しさにね」

「…ほう」その男、小野木はにまあとまた不敵な笑みを浮かべ、手にした拳銃を青年の方向へと向け引き金を引く。

 銃声がコンクリートに囲まれた空間に響き渡るが、青年はナイフの切っ先で受け止めた。

 ナイフは刃こぼれすらしておらず、青年はしてやったという表情で小野木に目を向ける。

(…こいつ、化け物か!)

 このとき小野木は、焦りと恐怖心すら感じていた。だが、それが返って彼の闘争心に火を付け、怯むことなく容赦なく銃を乱射する。

 だが、けたたましく銃声が何度も鳴り響くものの、結果は変わらなかった。

 全てナイフの切っ先で受け止め、青年の足元に金属音を立てて銃弾が零れ落ちる。

 青年は、至って無言で笑顔のままである。

 

「ふん、おもしれえじゃねえか…じゃあよ、これならどうだあああああ!!! 」

 万策尽きたかと思いきや、小野木のズボンのポケットから得体の知れない何かが取り出され、すぐ様彼の腕にそれを突き刺した。

 その手にしたものは何やら注射器のような形をしており、小野木の皮膚に直接何かを注入している。

 そしてその注射器には、こう記されていた。

 

 [G―VENOM]と。

 

「ぐあああああああ…! 」

 それを腕に突き刺したその直後、雄たけびにも似たうめき声を上げ、何かが爆発するかのように小野木の体を変化させていく。

 衣服が音を立てて引き裂き、みるみるうちに姿を変化させていく。

 皮膚はまるでうろこのように、両腕はまるでガトリング砲、顔つきもまるでワニ・・・いや、ワニそのものに変化しているのだ。

 

 そう、彼は「人間ではなくなった」のである。

 

「ふへへへへひゃ…俺様生まれて初めて、こんな気持ちのいい気分になったぜぇ」

 その姿は、ワニの体にガトリング砲の両腕。

 腹には機銃が二門、ぬめっとした皮膚。

 生物と銃器が融合したような、シュールでありながらも実際には異質で不気味な存在であった。

 そこにいたのは紛れもなくあの人間の小野木ではなく、完全な化物なのだ。

 

「…やはり奴らが絡んでいたか」

 さっきの飄々とした表情から一転し、青年が厳しい表情になる。

 そうなったと同時に異形の姿に変わり果てた小野木に向けて鋭いナイフを投げつけるが、、惜しくも腹の機銃ではじき返されてしまう。

 間髪入れずに更に二本投げつけるが、これも撃ち落されてしまった。

「さあ~、こっからが反撃のターンってやつだ…覚悟しなあッッ!!! 」

 小野木は再度にまりと笑い、非常に気分の悪い笑い声を上げ腕のガトリング砲と胸の機銃

 を一斉総射した。

 

「…しまった!!!? 」

 ありとあらゆる鉛の弾がハチの群れであるかのように青年に向かっていき、爆音と爆煙の中に消えていく。

 悲鳴すらも聞こえず、ただ銃声と爆音だけが空しく鳴る。

 爆煙が消えてきた頃には、既に青年の姿はない。

 あれだけの銃撃で吹き飛んでしまったのか、青年の肉体は既に存在すらしていなかったのである。

 目の前の現実を目の当たりにし、立ちすくむ明。

 

 

「そ、そんな・・・兄ぁぁぁぁちゃん!!!!!」

 彼らとのやりとりをただ横で見ていただけで、なにも出来なかった自分を悔いる明。

 とめどなく涙がこぼれ、力いっぱい叫ぶしかなかった。

 そうだ、自分が興味本位でこんなことをしなければ青年も死ぬことはなかったかもしれない。

 そう思えば思うほど、ただ自分の非力さが情けなく思い自分を責めるしかないのである。

 俯き、歯を食いしばるも涙は止まらない。

 

「ヒャハハハハハ・・・俺ちゃんホント嬉しくて涙止まんないヨ!!余計な真似をしなきゃ、この小僧の替わりに死なずに済んだのになァ」

 人を銃殺することでしか自分の快楽を見出せない小野木の顔は、満面の笑みであった。

 そう、それは人によっては明らかに不快感を示すような軽蔑と傲慢に満ちたいやらしい笑みだった。

 この目で人が殺されたことへの絶望感と失望に満ちた、明を見下すように。

 

「さあ、今度はボクちゃんの番よ?おとなしくねんねしなちゃいね?」

 目の前にいた怪物の標的は、再度明へと向けられる。既に腕のガトリング砲を彼に向けられ、既に準備態勢だ。

 本当の本当に今度は自分が殺されるかと思うと逃げたくて仕方ない明だが、完全に足がすくみ腰が抜けて思うように足が動かない。

(殺される、助けて…!!!!)

 

 だが、明が確実な死が近づくと確信したそのときである。

「おわっ…!!!」

 小野木の腕を何かが絡みついたかと思いきや、体が勢い良く宙を舞い、重力に引かれ激しく地面に叩きつけられた。

 何とか受身を取ったからか、ダメージを負いつつも何とか起き上がる。

「誰だ!!!?」

 すると、目の前の暗闇・・・そう、ちょうど照明が付いてなくて暗くなっているあたりからだった。

 足音が静かに聞こえ、次第にその音は大きく、近くなっていく。

 間違いなく、小野木のほうに足音は向かっていた。

 そして光の当たるこの場所へと、その姿を現す。

 

 そこに現れたのは、漆黒の仮面の男であった。

 

 

 ////////////////////////

 

 

 全身黒ずくめで細身、そして仮面を被った姿はまるで禍々しさすら感じる。

 黒一色というだけでなく、凶悪な表情をしたマスク。

 上半身には防弾チョッキのようなジャケットを身に纏い、片胸には信号機のような装置がある。装置のシグナルは、静かに青く灯っている。

 そしてマスクの左右に飛び出したものは。まるで悪魔か鬼の角。

 その角の部分には、センサーなのか赤いラインのようなものがあり、左右の太ももにはナイフと警棒がそれぞれ収まっている。

「また妙なモンが出てきたな、おめえ何モンだ?」

「…貴様が知る必要などない」

 小野木が尋ねると、仮面の男は静かに答える。

 すると小野木はくいっと首を右に回し、取り乱しつつあった部下に始末するようけしかけ

 る。

 さっきまでうろたえていた部下たちが、一斉に仮面の男に向かって襲い掛かっていった。

 隠れて待機していた部下もいたのか、今までいなかったところから一斉に彼に向かって突き進んでいく。

 

 だがしかし、次の瞬間だった。

 

 目にも止まらぬ速さで部下たちの攻撃をボクシングのスウェーに似た動作で避け、的確に始末していく。

 手にしたナイフで喉笛を切りつけたかと思いきや、警棒に仕込まれたチェーンを伸縮させ絡め、上空に投げつけた。

 すると相手は大型トラックにでも強くはねられたかのように宙を舞い、壁や床に叩きつけられていく。

 気付けば仮面の男を一斉に取り囲んだ部下の男たちは、一瞬のうちに横たわっている。

 仮面の男はただ静かに、小野木に背を向けたちすくんだままだった。

 そう。彼の周囲には、倒された部下たちしかいない。

 

「ハッハッハ…こいつは驚きだな! こりゃ撃ち甲斐があるってもんだッ!! まさに快楽・・・これが撃ちまくる快感ってやつだぜェェ!!! 」

 小野木の闘争心に更に火をつけたのか、更に彼のテンションは上がっている。

「…貴様を倒すだけだ。来い」

 振り向きざまに、仮面の男は吐き捨てるように小野木に捨てるように言う。

 

「じゃあお言葉に甘えて…死んでもらおうか!!!! ヒャハハハハハ…」

 青年を殺したときと同様、自分の体に武装された銃火器を仮面の男に向けて発射する。

 

 だがしかし、そのありとあらゆる銃弾の嵐は手にしたナイフで切り払われ全くダメージを受けてはいない。

 

「このクソ野郎…俺の銃で死なねえなんて、バケモンか!? 」

 

 仮面の男に若干恐れを抱きつつも、小野木は更に銃撃を続けた。

 それは仮面の男にとって、防戦一方の千分の悪い戦闘であるかのように思われた。

 その場で立ち会っていた明すらも、この戦いは小野木が優勢だと確信している。

 

 しかし、そのときである。

 

 ナイフで銃弾を切り払う最中、常人では気付かないようなわずかな隙を突き、警棒を投げ

 つけた。

 

(…バカなっ!?避けられねえ!!!! )

 

 真空状態となって真っ直ぐ小野木に向かって飛んでいく警棒は、まさしく閃光でのごとくであった。

 彼の銃撃とは比べ物にならないほど早く、矢・・・いや、まさに一瞬の光の如き速さで。

 警棒は、小野木に避ける隙を与えず腹部に突き刺さる。

 

「ぐああああああああっ!!!!! 」

 

 異物が腹に深く突き刺さったことにより感じる激痛に、小野木は苦悶の声を上げる。

 だが痛みに苦しむ間もなく、追い討ちをかけんとばかりに突然目の前を横切った何かが小野木の両腕を切り裂く。

「バカな…俺が、この俺様がッ!! 」

 痛みに耐え、小野木がこう言葉を漏らす。

 

「…覚悟はできたか?」

「…なッ…てめえ、いつの間にッ!? 」

 背後から声が聞こえ振り向くと、そこにはあの仮面の男が喉元にナイフを突き付けていた。

 さっき腹に突き刺されたかと思われた警棒を手にしており、仕込まれたチェーンによって

 胴体に絡み付いている。

 

「貴様は、高原雅哉という男を知っているか? 」

 仮面の男は、突然こう小野木に尋ねた。

「…高原ぁ!?へっ、誰だか知らねえなあ」

「…では、あの薬をどこで手に入れた」

 あくまでしらを切ろうとする小野木の体に絡みついたチェーンを更に締め付け、仮面の男は問い詰める。

「俺はただ、AGIって会社の社長さんにアレを売ってもらっただけで、詳しいことはしらねえよ!バーカ…ヒャハハハハハ! 」もはや小野木には、真面目に答える気がない。

 

「…ならば、貴様にもう用はない」

 

 そう言うと、チェーンで絡みついた小野木の体を壁に叩きつけ、間髪いれずにナイフを胸に突き刺した。

 すると突き刺したナイフの切っ先からは突然バリアーにも似た電流の膜が作られ、仮面の男はいつの間にか高く飛び上がりこう呟く。

 

「…重力圧死グラビティ・デス

 

 そう発した直後、ナイフを突き刺した胸に向け急降下しキックを決めた。

 とてつもない重力が地面と小野木を叩きつけた瞬間、轟音を上げてビルの二階である地面に大きな風穴が開く。

 直撃した小野木は下の階の地面に叩きつけられ、巨大なクレーターが出来上がった。

 仮面の男は叩きつけた瞬間後ろに宙返りをし、着地する。

 彼の後ろには、泥のようにぴくりとも動かず小野木が横たわっていた。

 胸にはでかい風穴が開き、白目を剥いている。

 

「あ、あ…」

 仮面の男の登場からその一部始終を見ていた明は、言葉に出来ない程の動揺をしつつも地面にできた巨大な風穴を観ているしかなかった。

 これは小さい頃観ていたヒーロー番組のような作り物の世界でもなければ、アニメや漫画の世界でもない。

 紛れもなく作り物ではない現実の場面に腰を抜かしてしまい、動きたくても動けなくなっていたのだ。

 何故このようなことが・・・そんな葛藤だけがただ頭の中を激しき回っていた。

 あの穴の先に向かいたくても、怖くて到底足を運ぶことができない。

 

 一方、穴の向こうで仮面の男は胸のシグナルを軽く叩いた。

 するとマスクの一部がシャッターを開くように収まっていき、覆っていた素顔が露出する。

 そう、紛れもなくあのフリージャーナリストと明に名乗っていた青年だったのだ。

 あの気さくで飄々とした素顔はそこにはなく、厳しく険しい表情であった。

 激しくアラーム音とともに点滅していたシグナルの点灯も消え、アラーム音も次第にしなくなっていく。

 

 そして胸元から突然取り出した金属製のカードを取り出し、怪物になりさがった小野木の死体に向けて勢いよく投げつけた。

 カードは勢い良く小野木の額に突き刺さり、こう書かれていた。

 

 

 

 [Erasure completion(抹殺完了)]

 

 

 

 D‐SIDER

 

 

 

 何者からかの警察への通報があったのか、しばらくするとサイレン音が激しく鳴り響く。

 既にこの音も、この廃ビルにも筒抜けだった。

 おそらく数分もしない間に、警察がここに突入するだろう。

(兄貴、アンタを殺ったのもまたこいつじゃなかった…だとしたら、一体誰なんだ!? )

 静かに小野木の死体に向かい、突き刺したナイフを抜き取った仮面の男…いや、青年の表情は数時間前までのものとは全く別物の鬼気迫るものに変わりはない。

 それは、とてつもない憎悪を秘めたような、羅刹とも呼べるものであった。

 

 突如ビルの隙間から強い風が吹き荒れ、激しい砂埃が上がる。

 そのような中で青年はただ一人、静かにビルの非常口の方向へと歩んでいく。

 

 砂煙が消えた頃には既に青年の姿はなく、そこには小野木の死体だけが横たわっているだけであった。

 

 

 

 STORY1 END

 

 

 

 NEXT STORY2「過去」


この度は、「THE D-SIDER」第一話をご覧頂きありがとうございます。


「ザ・ディサイダー」という作品はいわゆる変身ヒーローものであります。

しかし、ありがちな単なる勧善懲悪ではないダークヒーローです。


復讐に身を投じた青年が、実の兄を殺害した理不尽で強大な権力に立ち向かう中、否が応にも彼に関わってしまった人々と、彼自身がどう捉えどう進んでいくのか。


物語としてはまず小説として展開していきますが、立体化や映像化等での展開も想定し同時に行っていきます。

そのため、小説のほうもテレビ番組でいう全26話という形式を取らせていただいています。

ただし、必ずしも26話分やるということではなく、あくまでテレビ番組として成立した場合…というコンセプトでやっております。


今後欠番になっている話数がある可能性がありますが、あくまでそれらは本筋とは関係ないサブ回と呼ばれるようなものであるというコンセプトです。

それらは今後執筆する可能性もありますし、別の言い方をすれば外伝や番外編と呼ばれるようないろんなエピゾートを描ける余地を敢えて残しているというのもあります。


正直申し上げまして、全く無名でほとんど経験のない小生がこのようなものを書かせていただいて、あまつさえもそれを公の場に出してしまってもよいのだろうかという迷いや悩みもまだあります。

しかし、こういった媒体はまず第三者に手にして読んでもらって然るべきものではあるし、それらを自分の中で完結させたくないという気持ちが強いのです。

だからこそ、この作品を読んでいただきたい。


まだ駆け出しどころか始まってない段階で、不安もあります。

しかし、ちゃんと書ききって完結させることこそが今の自分にとって重要であるという認識もあります。

まだ至らぬ部分もあるかと思いますが、皆様に読んでいただけているということを肝に銘じ執筆していきたいと思います。

ご意見・ご感想も遠慮なくいただけますと有難く思います。


ちなみに、2話以降に関してましては1話を含め何話分かを収録した形でイベント等での発売・発表をしていきたいと考えております。

もしかしたら、二話以降のこちらでの公開の可能性もございます。

皆様のご期待に添えられるよう執筆させていただきたいと考えておりますので、皆様のご支援・応援よろしくお願いいたします。


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