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私、お嬢様よりもお金持ちですよ

作者: いのりん

 私、リーリャと申します。職業はサザンフラン家のネルモスお嬢様にお仕えするメイドです。


「さっさとついてきなさいよ、このグズ!」

「はぁ、はぁ……申し訳、ありませんお嬢様」

「まったく、なんてノロマなのかしら」


 アンタが無駄遣いで爆買いした商品が重いんだよ!この超絶我儘意地悪クソ女!


 はっ、いけない。

 ついついお口が悪くなってしまいました。言葉の乱れは心の乱れともいいますし、労務契約を結んで給金を貰っている以上は内心でもメイドに相応しい言動をしなくては。


「ふん、さっさと馬車に荷物を積み込みなさい」

「はっ、直ちに」


 命令通り、御者と手分けしエッホエッホと荷積み作業をしていると、宝くじの販売所が目に入りました。宝くじは、この国で人気の公益ギャンブルです。


 私も毎回、一枚だけ買います。


 いいですよねぇ、宝くじ。

 この国の宝くじって、一等の金額が凄く大きい上に『一等当選なし』の年はその分が翌年に繰り越されるんですよ、それで今は数年分の繰り越しがあるから、もし当たれば……ウヒヒ。


 いえ、もちろん損する可能性のほうが高いとわかっちゃいますよ。でも、『もしこれが当たったら……』と当選番号発表まで毎日ワクワクできるから好きなんです。


「ねえ、リーリャあれ見なさいよ。バカよねー、宝くじ買う様な連中って。損する可能性が高い事に気づく知性もないんだわ。だから永遠に貧乏なのよ」


 毎度のように競馬場で大金無くしてるお前にだけは言われたくないわ、このバーカ!


 ちくしょー、宝くじ当たったらこんな仕事すぐ辞めてやる。そして、仕送り中の病弱だけど優しい母さんと田舎でのんびり暮らすんだ……



 ***


 リーリャは今、サザンフラン家当主様の執務室を掃除しております。え、貴女はお嬢様のお付きではないのかって?


 その通りなんですが先日、当主様と奥様とネルモスお嬢様の三人でお出かけされた競馬場で三人揃って大負けした腹いせに、当主様はお付執事頭であるセバスさんを殴って怪我をさせたのです。

 でセバスさんの怪我が治るまでの間、執務室掃除は私が肩代わりする栄誉を賜りました。もちろん、普段の業務もしながら残業代もなしで。


 うん、クズの親はやっぱりクズだ。

 ゴゴゴ……あまりの理不尽、怒りに震える私


「……って本当に揺れとる!?」


 地震でした。


「きゃあ!」


 かなり大きな揺れで、脚立から落ちてしまった私。受け身には成功しましたが痛ぇ!ついでに、バケツも倒れて本とか書類も散らかりました。


 はあ、この地方って地下に龍脈があるらしく結構大きめの地震が多いんですよね。そしてこの館は『地震に合わせて家も揺れる事で基礎や壁が壊れない様にする魔術』なんてかけてるもんだから、普通の家より揺れる揺れる。


「あーあ、せっかく綺麗にしたのにまた片付けなくっちゃ……って私の宝くじどこにいった!?」


 身体のダメージをチェックしていると、ストレスフルな日々のお守りとして懐に忍ばせていた宝くじがなくなっている事に気付きました。


「あっ、よかった本の下に落ちてた。」


 えーと、22組の……いや、それより下の番号は忘れたけど私の宝くじで間違いないだろう。サザンフラン家の奴らって全員、宝くじ買う人のことめっちゃバカにしてるもんな……


「はあ、これでまたサビ残ふえちゃいますよ。」


 神様、もしいらっしゃるなら今日の残業代分くらいは当たりますよーに。明日は丁度、宝くじの当選日ですし。


 ***


「当たっとる……」


 朝刊を受け取った私は呆然と呟きます。

 当たってました、宝くじ

 それも、五等や四等ではありません


 一等です。


「私、ドリームジャンボガールになっちゃった……」


 ええっと、こういう時って周りにバレない方がいいですよね?額が額だし、きっと物騒なことになるから……でも、あまりの衝撃に手足が震え、止まりません。こういう時は素数を数えると落ち着くんでしたっけ?


「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん、ひゃくまん、いっせんまん……」

「おはよう、リーリャ」

「ひゃあ!おおおはようごさいますセバスさん」

「すまない、びっくりさせてしまったかな?」


 三角巾で片手を吊った状態で挨拶して下さったのは、執事頭のセバスさんでした。

 若い頃にお人よしな奥様が詐欺被害にあったらしいのですが快く許し、その借金返済のために今も働く有能ナイスミドルです。


「な、何か御用でしょうか?」

「ああ、10時から使用人は全員ホールに集まれとの事だ。それで、皆んなに声をかけてまわっているんだよ」


 まあ、どうせろくでもない事だろうな、という顔をするセバスさん。心中お察しします。ああ、辞めちゃいたいこんな仕事……って、私もう辞めれるんでした!


 でも、私が仕送りのために働いてるのは色んな人が知ってますし、急に辞めたら怪しまれちゃいますよね……ああ、なにかきっかけが無いものでしょうか。




 指定された通り10時……よりも少し前にホールに入ると、使用人全員がネチネチとダメ出しをされました。

 なんでも、1時間前には来とけとかなんとか……できるもんか、ギリギリの人数で仕事して回してんやぞこのボケ!


「お前ら全員けしからん、よって減給だ!」

「クビにされないだけありがたいと思いなさい」

「なによ、文句あるなら辞めてもいいのよ?」


 はぁ?

 そんなこと……いや、今の私には逆にいいのか。今だけはありがとう、このクソ野郎ども。


「では、私はお暇を頂きます。今までありがとうございました。」


 ずいっと前に出て宣言。ネルモスお嬢様……いや、もう雇用主じゃなくなるし心の中でまで敬称は不要ですね。ネルモスが驚いた顔をしています。


「はあ?あんた次のアテがあんの?アンタみたいな無学な女がここより稼げる場所なんて、限られてると思うんだけど」

「ええ、まあアナタの言う通りでしょうね。でも、ここよりは幾分マシかと思いますので」

「ハッ、おおかた娼婦にでもなるつもりね。」


 いえ、投資家になろうと思ってるんですよね。もし宝くじに当たったらと夢見ながら、ずっと勉強はしてきたんですよ。ごく少額ながら、実際に株や債券は毎月買ってきましたし、不動産の下見もしてました。

『経済的自立』とか『4%ルール』ってご存知ですか?筋の良い資産に分散投資した上で不労所得が生活費を上回った状態を作れば、今後半永久的に働く必要がなくなるんですよ。


「いいわ、暇を出してあげる。梅毒でも患ってから後悔するといいわ。お父様、コイツの事をクビにして頂戴!」


 怪しまれずに辞職できました。ひゃっほう!

 早速宝くじを現金に変え、田舎に帰りましょう。それで、落ち着いたらセバスさんや他の優秀な元同僚に声をかけましょうかね『ここの3倍給金を支払うんで、ウチに来ませんか』って。



 ***


 時は少し遡り


「ない、ない、ない!」

「くそっ、どこにいった!」

「ど、どうしましょう」


 サザンフラン家の三人は、当主の執務室で半狂乱に陥りながら、部屋をびっくり返す勢いで探し物をしていた。


「確かにこの本に挟んで隠していたよな!ワシらの『当たりクジ』はどこにいったんだ!?」


 探し物は、裏取り引きで一等を確定させた一枚の宝くじ券である。


 この国の宝くじは七人の担当者がそれぞれ数字を決めそれを合わせることで当選番号とするのだが、サザンフランの当主はその全員に対して個別に裏取引を持ちかけ、頬を分厚い札束でひっぱたくとこで当選番号を操作していた。


 勿論、バリバリの違法である。


 なぜそんな事をしているかと言うと、浪費しすぎて先祖から引き継いだ金が底をつきそうになっているからだ。と言うか実は、裏取引のために借金までしている。

 普段の気取った態度をかなぐり捨て、這いつくばって探しまわるクズ一家。それだけ命運をかけたクジということだ。


「あった!あったわお父様!」

「ああよかった、私キモが冷えましたわよ」


 探し物は、机の下スペースに挟まっていた。


「なるほどな、この前の地震で本が落ち紛れたんだろう。」

「全く、不心得者な使用人の誰かに盗まれたんじゃないかと焦ってしまったわ!」

「そうよ、全部無能な使用人のせいだわ!連帯責任で全員減給してやりましょう。」

「そうだな、それで沢山辞めても三割増の給金で募集すればすぐに次がくるだろう。なにせ数日中には、莫大な大金が入るのだから。」


 えっ、今日換金に行くのではないのかという顔をするネルモス。それを察した母親が説明する。


「発表日は貧乏人達が換金所に殺到するでしょ?私達は不正を疑われないように『宝くじなんて興味ない』といってきたからね。後日、今まで忘れていたんだけど戯れで頂いたものが当たっていましたわって態度で店へ行った方が怪しまれずにすむのよ」

「案ずるな、担当者は金を先に渡す代わりに強力な契約魔法で縛ったからな。絶対バレないし外れるなんて有り得んよ。ほら、番号も22組からはじまっているだろう」


 ◇◇◇


 私、リーリャと申します。

 ドリームジャンボを掴み取ったラッキーガールで、今は母親と昔働いていた都会へ旅行にきています。


「わあ!凄いわねぇリーリャ。この馬車の乗り心地もいいし、最高。この先も楽しみだわ」

「私もよ、母さん。」


 目的地は、過日メイドだったときには絶対に行けなかったレストランやラグジュアリーなホテル。良質な療養環境によって最近すっかり調子の良くなった母親と行ける事に深い喜びを感じます。


 懐かしい目で街並みをみていると……あら?


「どうかなさいましたか、リーリャ様?」

「いえ、目の錯覚でしょう。それよりも様づけはしなくていいですって、セバスさん」

「ははは、私が敬称をつけたいと思っているんですよ。前の雇用主とは天と地ほどの差がありますからな」

「前の雇用主、ねぇ……」


 先程、それによく似た浮浪者達が目に入りましたが、まあ本人という事はないでしょう。きっと『アイツら不幸になーれ』と心の奥で根に持っていた私が見せた幻だと思います。


 いけません、いけませんよリーリャ


 人を呪わば穴二つといいますもの……でもまあ、せっかくなので最後に一言だけ、心の中で捨て台詞を言わせてもらいましょうか。


 ねえ、お嬢様。

 今の私、お嬢様よりもずっとお金持ちですよ。


  はい、これで「ざまぁ」はお終い。

 もう一生会う事ない過去の人達のことはサッパリ忘れて、周りにいる素敵な人達と幸せになる事を考えなくてはね。


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― 新着の感想 ―
やっぱり入れ違ってたんですね笑笑 それにしても、ネルモス様ってお嬢様なのに梅毒とか知ってるのか...!割と色んなとこに出入りしてるお嬢様なのかなと少し思ってしまいました笑 リーリャは幸せになって欲しい…
リーリャさんが、幸せになって良かった。 現代だったら、サザンフラン家は超絶ブラック企業ですね。そんな環境にいたリーリャさんなら、超絶ホワイトな運営をしてくれそうです。 スッキリ!!
リーリャのキャラクターがさっぱりしつつ程よく毒もありよかったです。 雇い主への意趣返しも果たし、逞しく幸せになりそうですね。
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