☆4 牢獄に近づく男③
扉越しに相まみえるセピアとある囚人。
ある囚人の男はセピアを見るや否や子供と見下し、差し入れを強要した。
この者なら思い通りに操れると踏み、マインドの浸食を試みるもセピアの言葉の逆襲に遭い、怒りの感情をむき出しにする。
やはり彼は牢番に着任したばかりのようで、囚人とのコミュニケーションをまだ知らないようだ。
情報伝達が一方通行で終わってはいけないことは大前提だが囚人相手には妥協も仲良くする手段の一つになる。
地下道の異臭といい、囚人の汚い容姿といい、穢れを知らぬ澄んだ瞳の少年にはとても耐えきれなかったようだ。
自分の鼻の穴に指を突っ込み、相手を意識下に置き、挑発含みで顔をそむけた。
口腔内に大量の唾液が生じた。
先ほど酸性の匂いを嗅いだため、酸を中和して口内を正常に保とうとする体の防御反応が現れたのだ。
セピアは気持ち悪さで反射的に唇を尖らせると唾をぺっと吐き出した。
唾はそのまま扉の面にねっとりと付着して重力のままに垂れさがっていく。
ある囚人の男は年に何度の入浴かと疑いたくなるほどの浮浪者ヅラだった。
再びその顔を見るなり、セピアは即座に無言で踵を返し、その場を離れる。
その態度に腹を立てたある囚人の男はセピアの背に向けて怒号を浴びせるのだった。
「てめェ、なんだその態度は!! 子供だと思って下手に出てりゃ、付け上がりやがってっ! 帰り道は覚えてろよ──っ!!!」
ある囚人の鉄扉の前から遠ざかりつつも背中から押し寄せる脅迫に一瞬目を泳がせるセピアはまた小さく呟く。
「地下の牢番なんて……囚人上がりのクソザコにでもやらせときゃいいのに」
囚人と自分は分厚い扉で阻まれているからといって感情を吐き返さなかった。
ここで戦う意味がないと知っているのだろう。
呟きながら、彼は爪の先を手のひらの肉に食い込ませて拳を握る。
込み上げる悔しさを押し殺すように。
そうして子供ながらに受けた屈辱がストレスとなり全身をかけ巡るのを抑制するのだ。




