⑨ 彼のコレクション
「杉浦君、テスラ先生を、お部屋にご案内して。」
サン・ジェルマンが会合を一旦お開きにした。
「かしこまりました。」
鷹志が彼をエレベーターに乗せて行った。
そう言えばアレの乗り心地、以前より改善されたわね。
京子は今さらのように、そのエレベーターでの、かつての不快な体験を思い出した。
「さて、我々も一休みしましょうか。さすがに疲れましたね。」
サン・ジェルマンに声を掛けられ、京子もどっと疲れが押し寄せるのを感じた。いくら不老不死でも、不死身でも、痛みは感じるし、疲労とも無縁では無いのだ。
「ねえ、貴方、もう一つ訊いてもいいかしら?」
京子には、まだ疑問が残っていた。
「なんなりと。マイハニー。」
一仕事為し終えたサン・ジェルマンは、何だかゴキゲンだ。
「貴方、どさくさに紛れて❝コレが初めてじゃない❞って言っていたような…。」
「ああ、やっぱり聞こえてました?」
「貴方はいつもサラリと、聞き捨てならないことを言うわよね?」
「なにしろ、生まれつきウソがつけない性格なんで。」
「…よく言うわよ。それで?それは、どういう意味なのかしら?」
「言葉通りの意味ですよ。この行動は、前にもやったことがある…。」
「⋯つまり、過去にも歴史上の人物を保護した事があると⋯?」
「はい。正にその通りです。」
「どんな人物を?」
「死因のよく分からない、不審な死を遂げた人物や、結局死体の見つからない、行方不明の人物などから、私のコレクションの趣味に合う方を選んで⋯。」
「⋯まさかその中に、織田信長とか、アドルフ・ヒトラーとか、そういう危ない人は居ないでしょうねえ?」
「⋯さて、どうでしょうか?まあ、貴女は私の大切なパートナーですから、コレクション・メンバーには、いずれ必ず会わせて差し上げます。楽しみにしておいて下さい。」
そう言うと、彼は意味深な笑顔になった。
まったく、つくづく食えない男である。
そう言えば初めて出会ったころ、自分は投資家でコレクターだと、自己紹介してたわね。
そんな懐かしい事を、今さらながらに京子は思い出したのだった。
同時に、今後どんな歴史上の偉人に出会う機会があるのか、不謹慎にも楽しみになってしまうのだった。
それにしても、彼の行いはどう考えても、あの真田雪子より、数段大掛かりな時空介入である。
4次元や5次元の住人たちから、睨まれたりしないか、京子はふと、心配になったりもしたのだった。




