⑧ 保護か拉致か
「貴方の発明や発想が、あまりにも時代にそぐわない先進的な物ばかりなので、彼らから、異星人との繋がりを疑われたのでしょう。」
「いや、さすがにそれは…。」
「これは冗談ではないのですよ。数種類の異星人は、既に地球に移住して来ているのです。」
「えっ!?」と、声を上げたのは京子だった。
「実を言うと、私も少しだけ彼らとコンタクトを取ったことがあります。」
サン・ジェルマンは、どさくさに紛れて、とんでもないことをカミングアウトしたのだった。
横で話を聞いていた京子は、口をアングリと開けるばかりである。
「しかし、まさか貴方が、物理的な肉体を維持したまま、宇宙の記憶たる❝アカシックレコード❞に手が届いているなどと、誰も想像できませんからねえ。むしろ、そちらのケースの方がレアですから。」
「様々なアイデアが、頭の中に自然に降って来るのだよ。宇宙の記憶領域とリンクしていると言えば、そうかもしれないな。」
「それにしても、誤解とは言え、危ないところでした。もしも彼らに捕まれば、保護と言う名目で拉致されて、その後はどんな目に合うのか、分かったものではありませんから。」
「それは勘弁してほしいね。ところで君たちは、この後私をどうするつもりなのかな?」
ニコラ・テスラから、当然の疑問が提示された。
「新しいメンバーとして、我がチーム・サン・ジェルマンに加わっていただきます。」
彼は、さも当たり前のように答えた。
「ほう?」
「テスラ先生専用のラボを用意します。やりたい研究を自由にやって、研究費も好きなだけ使って下さい。それにもしご希望でしたら、先ほど申し上げたように、若返りの秘術も、施してさしあげます。」
「それは助かるね。」
「外出も自由です。運転手付きのクルマでどうぞ。」
「いたれり、つくせり、というわけか。それでキミには、どんなメリットがあるのかね?まさか、全てボランティアというわけでもあるまい?」
「先生の研究成果の、ごく一部でも教えていただければ、それで充分です。」
「…なるほど。それでウイン・ウインというわけか。」
「いかがです?」
「よかろう。仲間に入れていただこうか。」
「あり難き幸せに存じます。」
「ねえ、貴方…。」
話の切れ目と見て、京子が口を挟んだ。
彼女は、どうしても気になっていたことを、サン・ジェルマンに尋ねた。
「この人をあの時代から連れ出してしまって、歴史上問題は無いの?」
「大丈夫です。史実では、彼はあの部屋で❝睡眠中の自然死❞という扱いで亡くなったことにされています。その上、ろくに検屍も解剖もされずに、さっさと火葬されたことになっているのです。恐らく死体も死因もMIBの連中が捏造したのでしょう。そう言う訳でオールOKなんですよ。」
「…そうだったのね。」
京子はホッと胸を撫で下ろした。
それというのも、つまらぬことで、真田雪子の❝時空監察局❞に目をつけられても、面白くないと思ったからだった。




