⑦ 背信行為?
念のために言うと、この人物は❝昭和❞時間軸の杉浦鷹志である。
彼にしてみれば、真田雪子を裏切っているつもりは無い。
何せ彼とサン・ジェルマンとの出会いは、雪子からスカウトされるよりも、ずっと前の事だったのだから。
そもそも雪子が、よく彼の事を調べもせずに、自分の研究所に引き入れたのが迂闊だったのである。鷹志もそう思っている。
そんな訳で鷹志は、月、水、金曜日はサン・ジェルマンのアジトで、火、木、土曜日は雪子の研究所で働き、どうしてもの用事を任された時は仕方なく、日曜日にどちらかの場所で働くという、二重勤務をしていたのだった。
勤務とは言っても、どちらでも大好きな研究をして、給料や研究費を双方から二重取りしているので、嬉しくはあっても辛いことは皆無だった。
東大農学部を首席で卒業したのだ。それくらいの収入は妥当であろう。
どちらかと言えば、彼は元々サン・ジェルマンのファンで、実在するならぜひ一緒に仕事をしたいと、常々思っていたのだった。
それ故、彼からの誘いがあった時は、まさに渡りに船であった。
それに比べれば、雪子からの誘いは半ば強引だったので、イタズラ心も少し手伝って、サン・ジェルマンのことは黙っておこうと思ったのだった。
「杉浦君、コーヒーを3つ煎れてくれるかな?」
「了解です。」
戻って来た三名は、テーブルにつくと談笑を始めた。
「さて、何から尋ねたらいいのやら…キミは不思議な手品を見せてくれたし…。」
テスラが京子に言う。
「私、雪女の末裔ですの。雪と氷を自由に操る超能力者、と捉えていただければよろしいかと。」
「ほう、それは興味深い。モノを温めるより、冷やす方が技術的には難しいものだがね。」
あら、やっぱりサン・ジェルマンと同じ見解なんだ。と、京子は思った。
「あのビートルのカスタムも凄いものだね?」
今度はサン・ジェルマンに尋ねる。
「ええ、あれは自慢の自家用車兼タイムマシンです。同じ時間軸上なら、過去へも未来へも、自由自在に行けますよ。それに先ほど披露したように、控えめな武装も備えています。」
「どうやら、常々キミが語っていた❝未来から来た❞と言う話は本当だったようだね…この建造物も立派なものだ。」
「コレはパリのエッフェル塔を手本にして、日本の建築家が設計したものです。私はソレの一部を異空間にコピーして使わせてもらってます。」
「ところで、あの追手たちは、やはりFBIだったのだろうか?」
「…いや、アレは違いますね。異空間まで追跡する技術があったので、彼らはおそらくMIB。いわゆるメン・イン・ブラックなのではないかと…。」




