⑤ FBIの急襲
簡単に身支度を整えてたニコラ・テスラを連れ出すと、二人は部屋を出て急ぎエレベーターへ向かう。
「膨大な資料は、置いて来ても良かったのですね?」
速足で歩きながら、気になっていたことを京子が彼に尋ねる。
「ああ、全ては私の頭の中だ。あそこに置いてきたのは、その過程の産物。もしもそれを、誰かが上手く利用できたとしても、できるものはせいぜい電子レンジとかドローンの類までだよ。大したことは無い。」
「…そうなんですね。」
さすがは天才発明家だわ。京子は今さらながらに感心した。
エレベーター前に着くと、京子が下りのボタンを押して呼び出す。
すると、隣のエレベーターが昇って来るのが分かった。
こちらのエレベーターが先にフロアに着いたので、三人は急いで乗り込む。
ほぼ同時に、隣のエレベーターがフロアに到着し、中から黒いスーツを着た男が二人出て来るのが見えた。
こちらのドアが閉まるタイミングで、双方の視線がぶつかる。
エレベーターが降下を始めた。
「たぶん、逃げ切れると思いますが…もしもの時は頼みますよ、雪女の京子さん?」
「いいわよ。任せて。」
エレベーターが一階に着く。
扉が開くと同時に、京子はフロア全体に素早く視線を走らせる。
右のバーに二人。
左のラウンジに四人。
どの人物も、先ほどの二人とお揃いの黒いスーツに黒いネクタイ。
オマケに夜なのに黒いサングラスだ。
サン・ジェルマンがテスラをエスコートして、急ぎ足でエントランスに向かい、京子が目を光らせながらしんがりを務める。
エントランスのドアが開く。
左の黒いスーツたちに気づかれた。
こっちに向かって走って来る。
京子にとっては好都合なことに、折しも外では雪が降り始めていた。
彼女はほぼ一瞬で、隙間から入って来る雪と冷気を使って、ドアを塞ぐ形に氷の壁を作った。これでしばらく誰も出られないはずだ。
ホテルの外に出ると、急いで停めてあったビートルに乗り込む。
まず前席を倒して、後部座席にテスラを。
こんな時、2ドア車はもどかしい。
バリン!
その時突然すごい音がして、ラウンジスペースのガラスが割れた。
なんと体当たりで、そこからバラバラと追手が出て来たのだ。
「しつこい男は嫌われるわよ?」
そう言いながら、京子は瞬時に男たちの手を、持っている拳銃ごと凍らせ、次いで彼らの足元の地面も、ツルツルの氷にしてやった。
「今日が寒い日で助かったわ。じゃあね。」
次々に転んで、うまく身動きができない男どもをしり目に、京子は余裕で助手席に乗り込んだ。
「お見事ですね。」とサン・ジェルマン。
「こんなの朝飯前よ。夜だけど。」と笑顔の京子。
そしてびっくり顔のテスラ。
「今のはいったいどういう…。」
「説明は後でゆっくりと…それより早く出発しましょう。」
サン・ジェルマンはそう言うと、例のアジトの座標を入力して、クルマを垂直上昇させ、すぐに時空ジャンプに入ったのだった。




