③ テスラとの密約
「サン・ジェルマン君、こちらの方は?」
テスラが彼女を指し示す。
「申し遅れました。はじめまして。私は村田京子です。一応、こちらのサン・ジェルマンのパートナーです。」
京子は慌てて自己紹介をした。
「これはこれは、異国のお方、日本人かな?私はニコラ・テスラです。以後、お見知り置きを。」
「存じております。貴方は科学の歴史上、重要人物ですから。」
「おやおや、キミまでそんな事を言うのかい?さては、キミも未来から来たのだね?」
京子はうっかり口を滑らせたが、彼は既に、サン・ジェルマンからネタバレを食らっていたらしい。
大丈夫なの?という目でサン・ジェルマンを見たが、彼はただニコニコ笑っているばかりである。
そんな彼がテスラに話しかける。
「貴方はこれまで、数々の画期的な発明をされてきました。交流電力システム、無線通信技術、そしてテスラコイル⋯。」
「⋯そう、それこそが私の集大成。」
「貴方は、やはり、やるつもりなのですね。」
「やって見せるとも。電磁波を利用した、無線の全地球送電システム、通称世界システムを!」
「そんな事が実現した日には、有線の送電線が売れなくなるから、またエジソンとその取り巻き達から、横槍が入りそうですねえ。」
「アイツとは、どうにもウマが合わない。直流と交流の論争以来、ずっとそうだ。まあ、もとはと言えば、アイツが雇い主で、私が従業員という立場から、関係がスタートしているから無理も無いが⋯。」
「資金的には、大丈夫なんですか?」
「もちろん。最近、海軍の連中がやって来て、今後の協力次第では、カネをいくらでも出すと⋯。」
「貴方の技術を軍事転用する、レインボープロジェクトですね?」
「⋯キミは何でもお見通しなんだな?」
「なにしろ私どもにとっては、全てが過去の歴史ですので⋯。」
そう言ってサン・ジェルマンはニッコリ笑った。
いや、盛大にネタバレしてるじゃん、と京子はドキドキした。
「大丈夫、この方は我々の事を、高電圧の電磁波が見せる幻影だと思っていますから⋯。ねえ、そうでしょう、テスラさん?」
「ははは。そういうことにしておこうかな。」
この二人、どこまで本気でどこからが冗談か、判別がつかない。まるでキツネとタヌキだ。と、京子は思った。
「貴方は物理的な肉体を持ちながら、アカシックレコードに手が届く、稀有な存在だ。」
「ああ、それもバレているのかい。」
「そうで無くては、そう次々にアイデアが湧いてきませんからね⋯。」
「実は、我々が使っている時を旅する技術も、貴方が提唱した理論に基づいて、開発されたものなのです。」
「ほう、それは誇らしいことだ。」
「有機物と無機物を同時に無事に移動させるために、少しばかり工夫が必要でしたがね。」
「うん、うん、そこが今の悩みどころだ。少しアイデアを出して見せると、すぐに皆が食いついてくる。未熟な技術の性急な利用は、とても危険なのにね?」
「レインボープロジェクトは、やはり続けるのですね?」
「資金のためだ。致し方無い。」
「貴方に命の危険があれば、助けに参りますが?」
「そうだな。本当にそんな事があるなら⋯頼むかもしれないな。」
こんなに公然と、過去をイジる約束をしていいのだろうか?と、二人の話を横で聞いている京子は、ハラハラしたのだった。




