② 彼の旧友
たまには貴方の希望する旅に付き合ってあげるわと、京子が提案したので、サン・ジェルマンはいつにも増して上機嫌だった。
早速二人で旅の準備を整えると、ビートルに乗りこんだ。
いつものように彼が座標を入力する。
1905年12月1日14時。北緯40度57分。西経72度52分。
比較的最近ね。場所は…ニューヨーク州かしら?
京子もだんだん緯度経度表示の読み取りに慣れて来た。
「実は今から会いに行く人物は、京子さんに出会う前から、これまでも継続的に、何度か会いに行っているのですよ。」
「あら、かなりのお気に入りなのね。貴方もスミに置けないじゃない?」
「誤解のないように付け加えるなら、相手は男性です。」
「へえ、未来には男性同士の恋愛もあるのでは?」
「やだなあ。私は今や、京子さん一筋ですよ。彼は大切な友人です。」
「…そうだといいんだけどね。」
二人がそんな軽い痴話ゲンカのような会話をしているうちに、クルマは無事に目的地に到着した。
外に出ると、目の前に、高圧電線をつなぐ大きな鉄塔のようなものが真ん中に刺さった、研究所らしき建物があった。
それは何となく、真田雪子の研究所を彷彿とさせたが、京子はすぐその忌々しい連想を打ち消した。何で今あんな女のことを思い出しちゃったのかしら?
「さあ、こちらへどうぞ。」
サン・ジェルマンはそう言うと、それがまるで、勝手知ったる我が家であるかのように、京子を誘ってスタスタと中へ入って行く。
そのまま建物内部の中央ほどの場所まで出ると、大きな円筒形のマシンが鎮座しており、その傍らの椅子に一人の男性が静かに腰かけていた。
※ 例によって、以下の会話は英語でなされているが、物語の進行上、日本語で表記されることをお許し願いたい。
「やあ、久しぶり。また来ましたよ。」と挨拶するサン・ジェルマン。
「ああ、キミかあ。元気にしていたかね?」とその男。
どうやら知り合いというのは、本当らしい。
男の容姿は、ダークスーツを隙無く着こなし、キッチリと整えられた黒髪と口髭を生やした、痩身の体躯の、スタイリッシュなイケメンだった。
あらあら、女性にモテそうなタイプね。何となく京子は思った。
しかし、次の瞬間、もう彼女はハッキリと思い出した。
私はこの人を知っている。
確かに出会ったことはないけど、子どものころからこの人の写真を見て、その伝説に触れて、憧れを募らせていた時代があったのだ。
その人物こそは誰あろう、レオナルド・ダ・ヴィンチに勝るとも劣らない、世紀の天才物理学者で発明家。
ニコラ・テスラその人だったのだ。




