49.大豆生田の策略
「おい、老害対策法特別チームの長……法務大臣を呼べ」
大豆生田は秘書の川田にそう命じていた。先刻に佐宗からの総裁選出馬宣言を受け、自分も策を練らなければと思ったのだ。
二十分ほど待つと、法務大臣である永田が現れた。
「総理、お呼びですか」
「あぁ、お前に頼みがある」
「何なりと」
「そろそろ老害は二十人になるだろう? 二十人目はどんな老害だ?」
「二十人目は……医師ですね。心療内科の医師です」
「そいつが無罪放免になるよう、計らえ」
「何と?」
「そいつが死刑を逃れられるように何とかしろと言っているんだ。そろそろ死刑を逃れる奴が出てこないと、私の支持率が下がりかねん」
「それは問題ないかと。死刑賛成派という若者たちの票が総理にはございますから」
「いや、まだこの国には老人たちが大量にのさばっている。奴らに恐怖を植え付けるだけではなく、恩も売っておかないとな。それに、我が党の中にも私に反対している一派がいるとか……」
「御意。ならば、二十人目の対象者行方眞医師については、死刑を免れる方向に持って行くように関係各所に連絡します」
「頼むぞ、永田。お前は頼りになる。老害審判の管轄を厚労省ではなく法務省にしておいて良かったぞ。お前は話が早くて助かる。佐宗の奴はなんせ石頭でな」
大豆生田の腹積もりとしてはこうだ。
二十人目の死刑者を食い止め、命を救う事で老人たちの恐怖心を少し和らげる。そして、単なるエンタメと化している老害審判に『ただのエンタメではない』という意味を持たせる。また、自分は老害審判の結果にも影響力を及ぼす事が出来る力を持っているのだと、党員たちに分からせてより強固な支持基盤を叩き直す事。
「佐宗、あいつは食えん奴だからな」
大豆生田は佐宗を恐れていた。佐宗は清廉潔白で、非の付け所が無い人格者だ。党内でも人気は高く、一般の国民からの人気も高い。
テレビ番組でコメントを求められれば笑顔でそれに対応するし、今までスキャンダラスな問題の一つも起こしてこなかった人間だ。そして見た目もスマートで女性からの人気も高く、顔だけでなく性格も高尚で人気のある、そんな佐宗を慕う議員も多い。
「中立派にはあれをばらまくか」
老害対策法を通した時も、大豆生田は多数の議員に多額の金を渡していた。今回もそうするつもりだ。要は買収である。大豆生田の実家は代々続く豪商の名家であり、資金は潤沢にあった。
「金に目が無いのもまた、政治家としての資質だからな」
大豆生田はほくそ笑んだ。この戦法は佐宗の様な清廉潔白で、なおかつ庶民の出の彼には使えないと踏んでいるのだ。
大豆生田は裏から手を回す事にかけては天才的な才能を誇っていた。だから、今回も勝機はあると踏んでいた。
真正面から戦を仕掛けて来る佐宗には太刀打ちできないかもしれない巨悪。それが、大豆生田賢治だった。
「ところでな……お前……いいだろう?」
大豆生田の手が永田の胸元を探る。
「おやめください総理。ここは執務室で、今は業務中です」
「何を言うか今更……。お前と俺との事は公然の秘密だ。今ここでナニをしようと誰も何とも思わんよ」
「もう……言っても聞かないんだから……」
「それにしても、お前は本当に洋子に良く似ている。可愛がってやるからな……くくっ……」
そうして、大豆生田は快楽を貪った。




