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41.翌日

 翌日朝七時。佐伯はこれまでに無いくらい満たされた気分で目が覚めた。隣には、裸の相川がまだスヤスヤと寝息を立てていた。


 相川を起こさないように、佐伯はそっとベッドを出る。


「ん……? おはよう……。もう起きたの?」

「あ、ごめん。起こしちゃった?」

「ん。大丈夫。久しぶりにぐっすり寝た感じ。まだ眠いけど。今何時?」

「七時だよ?」

「えっ!? 仕事! 仕事に遅れるじゃない佐伯君!」

「大丈夫だって。今日も有休を取っておいたんだ」

「有休無くなっちゃうよ?」

「いいよ、別に。こうして()()()を奪還できた事の方が大切だし、それについ先日五居剣さんが車に轢かれて亡くなったそうなんだ」

「五居剣さん? って、あのテレビに出ている五居剣伴さん?」

「そう。僕が懇意にしてもらってる記者さんの知り合いらしい」

「そうなの? それじゃ、その記者さんのメンタルも心配ね」

「こんな時でも他人の心配をしてくれるだなんて、あずさはやっぱり優しいな」


 そう言いながら佐伯は相川のおでこにそっと唇を寄せた。


「今日は面会時間になったらその記者……内田さんに会って来るよ」

「うん。それがいいわ」


 そして、ふたりは共に過ごした初めての朝のモーニングコーヒーを楽しんだ。


***


 内田の病室には、言いようのない暗澹とした空気が流れていた。


「伴さんが殺されるだなんてな……」

「やっぱり殺しなんすか?」

「ああ、十中八九大豆生田の差し金だろう」


 内田は己の襲撃事件の事を思い出し、ブルッと身震いをした。


「あいつは、大豆生田は、人の命をなんとも思っていない。とんだ冷血漢だ。あんな野郎にこの国を任せておくわけにはいかねぇ」

「そうは言っても、現状じゃまだ大豆生田の暴走を止められないですよね」


 内田は何とも言えない苦虫を嚙み潰したような表情をした。


「この身体が自由に動けばなー。今すぐ佐宗さんに会いに行くんだが」

「佐宗さんに会うコネクションが出来たんですか!?」

「……。君だよ、君」

「僕ぅ!?」


 佐伯はすっとんきょうな声を出すと大層驚いた顔を見せた。


「君、一昨日佐宗さんから封書が来て、昨日相川さんを奪還しに行ったんだろう?」

「その通りです」

「頼む! 男内田陽介の一世一代の頼みだ! 佐宗さんに一筆俺を紹介する便りを書いてくれ! この通りだ! 頼む!」

「わーわー。やめてくださいよー。あずさの事を佐宗さんに相談するように仕向けてくれたのは内田さんじゃないですか。その御恩は忘れませんよ。僕に出来る事は何でもしますから! だから顔を上げて!」

「助かる。恩に着るよ」


 内田は安堵したかのような表情をして続ける。


「で、相川さんはその後どうしたんだ?」

「昨日は僕の家に泊まってもらったっす。これからも僕の家に住んでもらうつもりっす。僕らはもう恋人同士ですから。同棲してたっておかしくないでしょう?」

「ああ、ついにそういう事に……。おめでとう、佐伯さん」

「てへへ……照れるけど、ありがとう、内田さん。それもこれも内田さんと佐宗さんのおかげですよ」

「ああ、佐宗大臣は本当に国民の事を第一に考えてくれている優れた政治家だな」

「大豆生田は大嫌いだけど、佐宗さんのためなら民慧党に一票入れるっすよ」

「それが大豆生田の狙いなんだと思うんだけどな……」


 ふたりの間に沈黙が流れる。


「俺への襲撃と五居剣さんの殺害。それに加えて議員の買収となったら、五千万円の報酬じゃ安いよな……」

「ごせんまんえん!? 凄いじゃないですか。あんまり欲張りすぎるとまた襲撃されますよ?」

「言うねー君も」

「この短期間に色々あったっすからね。僕も大分図々しくモノを言えるようになったっす」

「それくらいの漢気がないと惚れた女は守れないよな」

「そうっすよ。これからはあずさの事は僕が守るっす!」

「良い心意気だ。若者ふたりに幸あらん事を!」


 ふたりは笑い合った。こういう穏やかな時がいつまでも続けばいいのに、と内田も佐伯も願わずにはいられなかった。

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