37.襲撃
佐伯と前回会ってからしばらく後、内田は夜の繁華街を歩いていた。度重なる取材に少々の疲れを感じていた彼は、ひとりで赤ちょうちんにでも寄って一杯引っ掛けるつもりでいた。
時刻は二十三時。繁華街とは言え人通りはまばらになってきていた。あるビルは解体工事中でフェンスに囲まれ、あるビルは夜通しやっている居酒屋のネオンが煌々と点き、あるビルはすでに店仕舞いをしてシャッターを下ろしている途中であった。
「あそこの店なら、まだやってるか……」
歩道を左に折れて赤ちょうちんを目指そうとしていたその時、内田の前にサングラスを掛けた派手なスーツを着た三人の男に囲まれた。
「ちょっといいっすかお兄さん」
「は? 君たち誰だ?」
「俺たちが誰だってどうでもいいだろうが! ちょっと面貸してもらおうか?」
「嫌だ……と言ったら?」
内田は持っていた背負っていたリュックで真ん中の男をはたくと、身体を翻して後ろに逃げようとした。
だが、後ろにも仲間がふたり控えていて、内田はあっけなくチンピラ共に捕まり、解体工事中のビルの中に連れ込まれた。
***
「かっ……かはっ……!」
口の中に鉄の味が広がる。蹴られた腹部は猛烈に痛く、顔も、腕も、足も、全ての自由が効かない状況になっていた。
「おらおら! 死ねやおらぁ!」
男五人組によるリンチはまだ執拗に続けられていた。
「簡単に殺してもいいけどよー、弄って殺せってボスからの言いつけでよー」
「わりぃな、兄ちゃん! もうちょっと痛めつけるよー」
殺さず、生かさずと言った微妙な具合のリンチだった。内田は、この苦痛から早く抜け出したいと思いつつ、誰が、こんな事を命じたのかと思案を巡らせていた。
「ぼ……ボスって誰だ……?」
息も絶え絶えになりながらも、内田は男たちに問う。
「誰でもいいじゃねぇか! ボスはボスよ!」
「しっかし兄ちゃん、あんたも怖いお方を怒らせたもんだねぇ」
なおも、腕を捩じ上げられ、腹部を蹴られ、足を踏み潰される。
内田は動かなくなった。
「死んだか?」
「死んだみたいっすねー」
チンピラたちは内田をそこに放置したまま去って行った。
「……」
内田は全く動かなかった。が、その時だった。
「ぶっはぁ!」
内田が血を吐きながら息を吹き返した。
「はぁ……はぁ……死んだ……ふりして……助かっ……た……」
内田は動かなくなったふりをしていた。この窮地を逃れるためには、自分は死んだと思わせるしか術がなかった。
だが、全身が痛くて起き上がる事は出来ない。内田は必死にスマートフォンを探した。
「死ん……で……たま……るかぁ……」
全身が痛い。胃からは血が逆流して来る。内田は瀕死だったが、それでも必死だった。
「あっ……たぁ……」
やっと内田はスマートフォンを探し当てた。スマートフォンは暴行の衝撃で画面は割れていたが、何とか使う事が出来る状態だった。ロックを解除する余裕も無いので緊急通報画面で救急車を呼んだ。
そして、内田は九死に一生を得た。
内田を搬送しに来た救急隊員は、その悲惨な内田の様子を見てこう呟いた。
「良く生きてたなぁ……」
それくらい、内田の負った多くの傷は酷いものだった。




