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21.居酒屋にて

 場末の居酒屋にその男たちはいた。フリーのジャーナリストである内田と、取材を通して彼と知り合ったI市役所の佐伯だった。


「M市役所の担当者が処刑されたらしいんですよ……」

「そうみたいですね。老害対策法に新たに二文が加わった事はこちらマスコミ業界でも大きく扱われていますよ。って言っても、主に関東テレビの五居剣伴さんの番組で報じているくらいですけどね。五居剣さん、『こんなの恐怖で抑圧しているようなもんだ!』で鼻息荒く語ってたっけな。五居剣さんとは実は古い馴染みなんですが、あの人敵を作ることに恐怖とか不安とか無い人だからなぁ……」

「五居剣さんには怖いものはないんですね。記者さんって言うのは本当に人脈も広くて感服します。それと、情報漏洩は絶対にダメだという事は最初から決められていましたので、我々も細心の注意を払っていたのですが、まさか違反したら死刑にまでなるだなんて……」

「大豆生田のやる事は悪魔の所業ですよ。あいつのシッポを絶対に掴んでやっる……」


 ハイボールを煽る内田は、鼻息を荒くして意気込んでいた。


「あれから、末端の国会議員から探りを入れているんですよ。誰も口を割りませんがね。あやふやにしたり狼狽えたりする態度を見せるから、あれは絶対に大豆生田に買収されてると踏んでるんですよ」

「大豆生田総理が証拠を残しますかね?」

「証拠は難しいかもしれないが、複数議員から証言が取れれば確証にもなると思うんだけどなぁ……」


 頭をぼりぼりと掻いて内田は悶絶する。


「あああ、なかなか尻尾を出さないんだよなぁ。議員って生き物はけっこう口が堅いもんだ。けっこう失言なんかも多いからすぐに馬脚を露すと思ってたんだけどなぁ」

「ははは。それこそ酒でも飲ませてみたらどうです?」

「国会議員()が行くような高級クラブの代金なんて払えませんよ。こちとら今の所報酬無しのフリーランスだ」


 佐伯は日本酒をちびちびと舐めながら視線をお猪口に落とす。


「あれから……相川先輩から一通だけメッセージが来たんです。『これから老害対策法に詳しい医者の所に行く』とだけ。それから音信不通で。実家のお母さんから、しばらく入院するとだけ職場に連絡があって。それっきりなんです」

「老害対策法に詳しい医者? 確か老害審判に関わる専属の医者がいたはず……そうそう、道明(どうみょう)病院の橋田保先生だ」

「その人の所に行ったんですよ、きっと。まさか入院だなんて……。面会に行ったら合わせてもらえるかな。病院の場所を調べて行ってみます、僕」

「それが良い。相川さんもきっと喜ぶよ」


 しんみりとしたふたりは、ぽつりぽつりと近況を話しながら酒を酌み交わした。


「今日はあんまり飲み過ぎないで下さいよ、佐伯さん……」

「この間はお見苦しい姿をお見せしてしまって……」

「いや、それはいいんです。ただ、僕はあなたの身体が心配で」

「……深酒しないと眠れないんです。これって、眠ってるというより気絶してるってだけなんですけど、酒の力を借りないと睡眠が上手く行かなくて」

「あなたも専門家の所に行こうとは?」

「思いません。僕は、行政の立場からこの審判の行く末を見守りたい。相川先輩のように入院してしまうわけにはいかないんだ。最前線でこの戦いに参加していたい」

「あなたは責任感の強い人だ」

「というか、バカなんですけどね……。それに、相川先輩の帰ってくる場所を守らないといけませんから」


 佐伯は少し笑ってみせると、またお猪口に視線を落とした。


「こんなんじゃダメだって分かっているんです。あの法律と戦うためにはもっと強靭なメンタルが必要だ。なのに僕は酒に頼ってばかりいる……」

「それほど、メンタルを壊されるほどにあの審判は負担になるんですよね?」

「その通りです。僕は一刻も早くあの法律は無くなるべきだと思っています」

「それは自分も完全に同意です」


 この日、佐伯は内田の前では酒を飲み過ぎなかった。「きっと帰ったらまた飲むのだろうな」と内田は思ったが、今回は佐伯を無理矢理タクシーに乗せるという作業が無いだけ気持ちが楽だった。


「また取材に進展があったら連絡しますよ」

「僕の方でも何かあったら連絡します」

「じゃぁ、また」

「はい。また」


 そう言葉を交わしてふたりは別れた。佐伯は、翌日の休日には必ず相川がいるはずの病院を訪れようと思っていた。

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