19.滝川キヨ65歳⑥
「弁明時間が終わりました! さぁ、いよいよ投票結果の発表です!」
北山アナウンサーが声を高らかにしてそうお茶の間にアピールをする。
滝川キヨの弁明は失敗であったと言うしかない。ネットは炎上し、認定への票がどんどんと積み上げられて行っていた。
「認定九十二パーセント、否八パーセント! 死刑! 死刑です!」
滝川キヨはその場にへたり込んだ。
「嘘よ……! 嘘っっっ! 何で私が死刑にならなければならないのよ!?」
スタジオの隅で様子を伺っていた滝川キヨの家族も声を張り上げる。
「お母さん! 逃げて!」
「キヨ! 今助けるからな!」
滝川キヨに駆け寄ろうとする家族を、国が用意した警備員が羽交い絞めにして動きを拘束する。
「離せ! 妻を守ろうとして何が悪い!」
「お母さん! 逃げてぇぇぇ!」
家族の悲痛な叫びが響き渡る。しかし、それを意にも介さないかのように、死刑執行人三名が滝川キヨの前に立ちふさがった。
「十九時五十分、死刑、執行!」
滝川キヨは涙を流しながら懇願する。
「助けて、助けて下さい! 死にたくない! 私は死にたくないのよ!」
滝川キヨが半狂乱で命乞いをする。だがしかし、その願いも虚しく、弾丸は放たれた。
「キヨーーーーーー!!」
「お母さん!」
「いやぁぁぁ!」
娘二人は、警備員に動きを拘束されたまま気絶をした。夫は今にも死刑執行人を殺しそうな勢いで睨みつけ涙を流している。
滝川キヨは、赤い血をだくだくと流しながら絶命していった。その表情は、恐怖に歪んでいた。
「し……死刑完了です。それではお茶の間の皆様、次回の老害審判でまたお会いしましょう」
北山アナウンサーは目を血走らせながら閉会の宣言をした。
「貴様らぁ、殺してやる!」
滝川キヨの夫は、なおも暴れようとしていた。
「人殺し! 人殺しぃぃぃ!」
警備員は一層力を込めて夫を拘束し、スタジオの外へと引きずり出そうとする。
「大人しくしろ! これは法律で決められた正当な審判だ!」
「何が正当な審判だ! こんなものはただの殺戮ショーだ!」
死刑から戻って来た執行人の一人が滝川キヨの夫に銃口を向ける。
「貴様! 大人しくしないとお前もここで撃つぞ!」
「撃てるものなら撃ってみろ! それこそ罪の無い市民を殺害した罪に問われるぞ! それに俺はキヨと一緒に死ねるなら本望だ!」
その瞬間、夫の背後から来たスーツ姿の男が夫の首筋に注射針を刺した。夫は、すぐに気絶をした。
「やれやれ。手間を取らせるやつだ」
「あ、橋田先生。先生に来て頂いていて良かったです。やはり老害の家族もまた害になるものですね」
政府の役人が呼ぶ橋田先生と呼ぶのは相川の担当医である精神科医の橋田保である。老害やその家族がヒステリーを起こした時に備えて呼ばれていたのだ。
「こんな奴らは眠らせてしまえば良いんですよ。うるさい蠅どもだ」
橋田はスッと注射針を同伴していた看護師に渡すと、溜息をつきながら気絶をしたキヨの夫を見た。
「小物ほど良く吠えるって本当だよな」
こうして、第二回老害審判は終幕を迎えた。今回も世論は老害を死刑にする事を選んだ。そこに、情けや容赦など無いかのように。




