17.滝川キヨ65歳④
プロフィールムービーの放送が終わり、滝川キヨの弁明時間がやって来た。
この日の滝川キヨは、メイクをバッチリとして花柄のチュニックに紫のズボンというある意味派手ないで立ちだった。
滝川キヨは、先ほどより少し緊張した面持ちで弁明を始めた。
「……私はね、自分が老害審判に掛けられるだなんて思っていなかったの。だって、私は普通の主婦よ? どこにでも居るパートのおばさんだわ。何で私が老害として告発されるのか、未だに分からないのよ。誰かしらね、私を告発した犯人って……」
滝川キヨは俯いて少し涙を浮かべながら話を続けた。
「大体ね、分かっているの。その犯人が。きっとあの子よ。パート先の若い子。だって、その子くらいしか最近は若い子と交流していないもの。だからね、余計に許せないの。何で人生の先輩を敬えないのかってね?」
滝川キヨは今度は真っ直ぐに正面のカメラを見据えて話す。
「私はね、子供を二人産んでパートをして、家事もして社会に貢献してきたの。今の子は子供も産まないで自分たちの楽しみを優先しているでしょう? それに比べれば、大分この日本に貢献していると思うのよね? 夫は会社でそれなりの地位でお給料もけっこう貰っていて、税金だって沢山納めているわ。数年後には夫は定年退職でしょう? そうしたら年金を貰って二人で旅行でもして暮らそうって話していた矢先にこの審判のお話よ!」
話に熱が帯びて来た滝川キヨの頬が段々と紅潮していく。
「分かっているのよ。私、犯人が誰か……。私が何でこんな審判にかけられなきゃならないのよ。出て来なさいよ! 喜多方美雪! あんたが犯人だって分かってるのよ!」
***
加藤は情事に耽りながらテレビの音声にビクッとした。
「今……きたかたみゆきって言ったか……?」
老害に告発して来た個人の情報は洩れる事は無い。洩れる事があってはならない。加藤はもちろんこの情報は極秘として扱って来た。しかし……今、確かに滝川キヨは喜多方美雪の名前を発した。
「何故、何故バレた……?」
未桜から己を離し、未桜をベッドに投げやると、テレビに釘付けになる。その瞬間、信じられないものが目に入って来た。
──認定八十八パーセント、否十二パーセント。
「認定が一気に跳ね上がっている!? 何があったんだ!? 滝川さん……!?」
加藤は己が見たものが信じられなかった。情事に耽っていて滝川キヨの弁明をまともに聞いていなかった事が仇になった。きっと何か失言をしたに違いない。それで、急激に認定が増えているに違いない。
「ちゃんと見ておくべきだったか……。でも見ていたって何も出来ない。ああ、もっとあのおばさんに弁明の仕方をレクチャーしておくべきだった。大体、人名なんか出したら視聴者の反感を買うって分からないのか?」
加藤は急いでスマホを手に取ると、公式サイトのチャットを開いた。チャットでは、信じられないくらいに今回の弁明が炎上していた。
「な……何だこれは……。まさかこんな事になっているだなんて。ああ、今回の審判はもう終わりだ。まずいぞ。滝川さん、あなたは何て事を弁明で話してくれたんだ。固有名詞を出したばかりでなく、こんな事まで言っていたのか。あぁ、こんなに愚かな人間だったなんて。完全に僕のミスだ……」
加藤はスマホをベッドに落とし、項垂れて拳を強く握りしめた。その様子を、未桜は心配そうに見つめていたが、その目には同時に加藤に対する愛情が浮かんでいた。




