14.滝川キヨ65歳①
スーパーマーケット。そのバックヤードは主婦のパートで埋め尽くされ、たまに年若いアルバイトも入るが、基本的には中年から老年の女性が活躍する場である。
喜多方美雪は大学三年生の二十一歳だが、家が近いという理由でこのスーパーマーケットのベーカリーでアルバイトをしていた。
正社員の男性陣からはちやほやと優しくされていたが、年が行った女性パートからはいつもきつく当たられていた。
「だから、コーンマヨパンは先に棚に上げなって言ったでしょう!?」
「何もたもたやってるの! 早く袋詰めして店に出してきて!」
もうすぐ就職活動が本格化するから退職するとはいえ、パート主婦たちの当たりの強さは美雪にとってはとても苦痛だった。特に、この道二十年のベテランパート滝川キヨ六十五歳の横暴さは目に余るものがあった。
「あんたは良いわよね。若いってだけで店長に可愛がられて」
「あんたって電動自転車乗ってる? いいわねぇ、実家がお金持ちのお嬢様は。こんなスーパーでアルバイトしなくても大丈夫なんじゃないの?」
「あら? 新しい靴? いいわねぇ、お嬢様は!」
「お嬢様はのんびりねぇ。やっぱりおっとりと育てられているのかしら。私ら庶民とは育ちが違うのねぇ」
連日の嫌み三昧だった。美雪が電動自転車に乗っている理由は、家の周りが坂だらけで普通の自転車では通勤通学が大変だからだし、両親だって会社員の父とパートの母という、いたって中流の一般家庭だ。新しい靴と言っても三千円程度の安い靴だったし、自分がとろいという自覚も無かった。昔から要領は良い方で、決してとろいという部類には入っていると思っていなかった。だから、これらの嫌みは不本意そのものだった。
美雪は日々滝川キヨをはじめとする年の行ったパートたちからのこれらの嫌みに耐えていたが、ある日、その堪忍袋の緒が切れる事件があった。
その事件も、発端は滝川キヨだった。
「喜多方さん、あんた昨日店長と休憩室でふたりでいたけど、随分と仲良さそうだったじゃないの? 店長とあんなに親密に話すだなんて、もしかしてあんたたち出来るの!?」
「なっ……何を言うんですか!」
おばさんたちの根も葉もない噂というものは、恐ろしいスピードで広がっていくものだ。それはインターネットの拡散速度をも凌ぐそれだった。美雪はそれを一番恐れていた。店長は既婚者だ。もしも店長と不倫しているだなんて噂を立てられてはもうこの店でアルバイトをし続けるわけにもいかないし、近所にそんな事が漏れてしまっては自分の生活をも危ぶまれるからだ。
「もう限界だ……老害審判にこのババアの事を告発しよう。それしかない……」
そう、美雪は決心した。
そして、市役所に電話を掛けた。




