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9.週刊誌の記者

「編集長~! だから、老害対策法について張っていれば、何か大スクープが狙える気がするんですよ!」


 週刊ナイススクープ編集部。内田陽介はその週刊誌の中堅記者だった。顔には無精ひげが生え、髪の毛は長く伸ばしてパーマをかけている。服装はカメラベストにチノパンといういかにも週刊誌の記者という風体をしていた。


 内田は老害対策法が制定された裏には何かがあると睨んでいて、その取材にゴーサインを出して欲しいというわけで編集長の山科に直談判をしていた。


「だーかーらー、大豆生田の肝入り政策に難癖なんて付けてみろ。こんなしがない週刊誌すぐに潰されるぞ」

「そこは上手くやりますからってー。絶対裏で何か汚い事してますって! これは俺の勘です。絶対何かありますって!」

「お前その自信はどこから出てきているんだよ?」

「長年の勘ですよ! 大卒から三十八歳の今までスクープを狙い続けて来た勘ですよ!」


 山科は大豆生田という巨大な力を恐れてなかなか首を縦に振らなかったが、内田も自分の勘には自信があって引き下がらない。


「うちの雑誌だけじゃなくて会社そのものが潰されたらお前どうやって責任取るんだ? 取れるのか? 取れないのか?」

「そんなヘマしませんって! 俺を信じて下さいよ編集長ー!」


 しつこい内田に対して山科は少々辟易してきていた。


「じゃぁな、お前は今日でこの会社はクビ! 解雇! その代わり、フリーランスになってこの取材をしろ。そしてスクープが取れたら記事を売れ!」

「そ、そこまでします……? え? フリーランスになるの、俺?」


 内田は若干ひるんだが、老害対策法の裏には何かあるという己の直感を信じて疑わなかった。


「分かりました! 俺は今この場でこの会社を辞める。そしてフリーランスの記者になる。それで、スクープが取れたらいくらで買ってくれるんです?」

「スクープのでかさによるが……そうだなぁ、大豆生田関連でどでかいネタが取れたら五千万円は出すかなぁ」


 山科は五千万円と大見栄を張ったが、その裏には内田はこの取材には成功しないだろうという算段もあった。実際問題、大豆生田に関するどでかいスクープが取れたなら、それは五千万円でも安いと思える代物だった。


「うっひゃぁ! 俺やりますよ! 俺の命を懸けてスクープ取りますよ!」


 そうして、内田は会社を去りフリーランスのジャーナリストになった。


 大豆生田という巨悪を前に、一介の記者が何を出来るというのだろう。山科は内田のやる気は認めていたし、今までのスクープからの手腕も認めていた。しかし、内閣総理大臣を敵に回すという大それた事を会社ぐるみでやるわけにはいかなかった。


 社員たちには、それぞれ家庭がある。子供がいる者。住宅ローンがある者。介護が必要な親族がいる者、それぞれ事情を抱えながら働いている。その社員たちを路頭に迷わせるわけにはいかなかった。だから、内田をフリーランスにする事で社を守ろうとしていた。


 内田は幸い独身で両親も健康的に過ごしているらしい。もしもヘマをしてその立場を失ったとしても、まだダメージは少なくて済むだろう。


「じゃ、荷物をまとめて人事に退職届渡してきますねー」


 呑気なものだ、と山科は溜息を付いた。


「独身ってあんなに気楽なもんかねー?」


 山科はバイトの女子に声を掛ける。


「内田さんってノリが軽いですからねぇ。会社をクビになってフリーランスになったら無収入になるって事、あんまり真剣に考えてないんじゃないんですかー?」

「そんなマヌケにスクープが取れるのかね……」

「でも、内田さんってスクープに関する嗅覚だけは優れてるじゃないですかぁ。今までも女優のOと俳優のVの熱愛を取ってきたり~、どこぞの大企業の汚職事件のスクープ取ってきたりー」

「そうなんだよなぁ。仕事だけは出来るんだよな、あいつ……」

「それに、内田さんなら記者以外の仕事でもなんだか食いつないでいけそうな熱量を感じます」

「君、バイトなのによく社員の事見てるねぇ」

「今、私の事バカにしました?」

「いやいや、社員に推薦しても良いかなって……」

「やったぁ! 内田さんが抜けた穴を私で補充ですか!?」


 ああ、ここはこんなに平和なのにな、と、山科は溜息を付いた。


 内田はこれから大豆生田に関するスクープを狙って奔走するだろう。しかし、その道にはどんな困難が待ち受けるのか考えるだけでも恐ろしかった。大豆生田賢治という男は、それほどまでに強力な力を持つ強大な存在だった。

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