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8.首相官邸

 首相官邸では、内閣総理大臣である大豆生田と厚生労働大臣の佐宗が会談をしていた。佐宗は元から老害対策法には否定的で、度々大豆生田には苦言を呈してきた。


「総理、ついに老害対策法の第一の死刑者が出ました……世論は真っ二つに分かれているようですが……」

「今に愚かな国民共にも分かるだろう。この法律がいかに素晴らしく、そしてこの国の利益のためになるかという事が。佐宗、お前は最初からこの法律に懐疑的であったが、どうだ、今は私に賛同するか?」

「……何とも申せません。厚労大臣の命を受けている以上、私は国民の健康と安全を第一に……」

「ふっ。くだらない奴だ。優等生そのものな言い分だな」

「……申し訳ございません」


 根っからのワンマン体質である大豆生田は佐宗の助言など一切聞き入れず、取り巻き達と反対派に多額の金をばらまき、半ば強引にこの法案を通して来た。それが例え法を犯すものであっても、大豆生田は意に介さなかったし、周囲も勢いのある大豆生田に逆らおうとするものはいなかった。


「私は、やはりこの法律には反対なのです……」

「まだそう言うか佐宗」

「こんな事が法治国家である日本で許されて良いのでしょうか?」

「許すも何も、これは法律だ。多数の国会議員が賛成した、立派な法律だ」

「しかし……」


 しかし、「それはあなたが金をばらまいたからだ」とは佐宗には言えなかった。今それを口にすれば、消されるのは自分の方だからだ。それほどまでに、今の大豆生田には力があった。


「私は、国民のメンタルケアのための法律を作りたいのですが……」

「メンタルケアだと? そんなもの要らないだろう。老害対策法にはそれ専用のお抱え精神科医だっているではないか」

「老害審判に関わった一部の人間だけではなく、老害審判を見て何かを感じている一般市民に対しての相談窓口が欲しいのです」

「要らん要らん。そんなものは必要ない! 国民が総力を挙げて老害を告発してくれたら、それだけ老害がこの世から減るのだ。それが最高のメンタルケアではないか?」

「そんな……」


 この男には何を言っても無駄なのだ、と佐宗は悟った。しかし、自分に出来る事は何かあるはずだ。と、考えあぐねてもいた。


「まぁ、まだこの法律も始まったばかりだ。しばし静観しているが良いぞ」

「静観……ですか……」


 要するに、口を出すな、という事かと佐宗は受け取った。実際、大豆生田の意思としてはその通りだった。この法律は自身の肝入りの政策であって、誰にも、人気ナンバーワンの議員である佐宗にも邪魔させないつもりだった。


 首相官邸を出た佐宗は、暮れて来た陽を見上げながらこう呟いた。


「ご老人の命を軽んじた法律……私は今も、そしてこれからも反対なのだがな……」


 だがその想いは大豆生田には届かない。


「隣のぼうずにたい焼きでも買って帰ってやるか……」


 佐宗は哀愁を漂わせた背中で街の中に消えて行った。

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