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【SF 空想科学】

あれは人間かい?

作者: 小雨川蛙

 

 ある日、一人の博士がとてつもない機械を発明した。

 その機械は本当に人気があり、年単位の予約が必要だった。

 おまけに値段も随分と張るが、それでも人々は私財を投げ売ってでも機械の予約を取る。

 それほどの価値があると皆、信じ切っているからだ。


「どうぞ。こちらへ」

 博士に促され客は横になる。

「一瞬で終わります。さぁ、目を閉じて」

 客は目を閉じる。

 そして。

「はい。もう終わりです」

 博士の声と共に目を開けた客の顔からは決定的な何かが失われていた。

「気分はいかがですか?」

 すると客は晴々とした笑顔で答える。

「最高の気分です! これが……これが!」

 興奮した表情の客へ博士が微笑んだ。

「はい。これが負の感情のない心というものです」


 そう。

 この機械は人間の心から妬み、嫉み、怒り、憎しみを始めとするあらゆる負の感情を取り除いてしまうのだ。

 負の感情を取り除かれた者の人生は何があろうとも豊かであるのは疑いようもない。

 何せ、どんな相手にも愛情を持って接する事が出来るし、どんな苦難が起きても穏やかにそれを受け入れることが出来るから。


「ふぅ」

 博士がため息をつく。

 今日もまた一日が終わった。

「負の感情がない人間か」

 ぽつりと呟き、コーヒーを一口飲む。

「世界平和のためと思い造った物だが……」

 再びコーヒーを口にして、ため息をつく。

「負の感情や悪意がない人間……」

 実に無責任なことを言うものだと自分でも分かっていたが、それでも博士は疑問に思わずにいられないのだ。

「それって、本当に人間なのか?」


 博士の貯蓄は今日もまた貯まっている。

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― 新着の感想 ―
考えさせられる作品ですね。 悪意のない人たちがはびこる世界は果たして現実の世界と言えるのか。 この機械を使った人たちだらけになると、使っていない人たちも使わないと……と焦ってしまいそう。 最後は博士だ…
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