言の葉(短編小説)「ベンチ」
ベンチ
僕は塾に行く途中、気づいたことがある。
それは、毎月8日に居る、おじいちゃん。
その人は、16:00に街中にあるベンチに座ってて、塾が終わって帰る18:00まで、必ずベンチで本を読んでいる。
18:00になると、街の人混みに消えていく。
でも、どうやら僕にしか見えていないらしい。
誰も気にしていないみたいだから。
その、おじいちゃんは誰か待っているのだろうか?
そのおじいちゃんに気づいたのは、今から半年前の8日。
何となく気になる程度から、いつしか、8日になると、少し嬉しくなっていた。
今日もいるのかな?
おじいちゃんが現れて1年が経つ頃、塾もないのに、そのベンチ近くに僕はいた。
16:00おじいちゃんは来た。ベンチに座り、少し古ぼけた本を取り出す。
穏やかな空気の中、街に溶け込みながら、ほんのページをめくる。
すると、おじいちゃんは初めて顔を上げた。
気品あるおばあちゃんが初めて現れた。
おまたせと、おばあちゃんは言った。
18:00でもないのに、おじいちゃんは席を立つと、おばあちゃんの手を取りどこかへ向かう。
そこは、白い天まで続く階段だった。
何段か上ると、2人は学生服を着た若い2人になった。
あのベンチは、2人の待ち合わせ場所だったんだ……僕は、何だか嬉しい気持ちで家路に向かった。
2人の幸せを願いながら。
了